転生して型月版・沖田総司になったけど、労咳を克服したら明神弥彦の母になっていた件 〜るろ剣世界で最強のママやってます〜   作:だいたい大丈夫

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幕末の人斬り、メイドになる

翌朝。関東集英組の本部。

 

昨夜の血みどろの死闘と誘拐騒ぎが嘘のように、平和で明るい朝の光が、中庭に面した障子越しに差し込んでいる。スズメの鳴き声がチュンチュンと聞こえてきて、なんとも清々しい日本の朝だ。

 

そんな中。

弥彦の部屋から、低くくぐもったうめき声が漏れ聞こえてくる。

 

「う、うーん……」

 

「いってぇ……顔中が痛え。目を開けるのも辛いぞ。薫のやつ、自分の命の恩人を容赦なく顔面フルボッコにしやがって。女のくせにあの威力はおかしいだろ……マジで顔面陥没するかと思ったぞ……。やっぱりあいつは小町なんかじゃなくて、ただのゴリラだ……」

 

まあ、自業自得なんだけどね。いくら緊急事態とはいえ、年頃の女の子の胸を直接力一杯に揉みしだいたんだから、殺されなかっただけマシと思いなさい。

 

「うん」

 

その時。

弥彦のすぐ耳元で、感情の全くこもっていない、平坦な女の声がポツリと響いた。

 

「弥彦ちゃんに胸を揉まれるのは良いこと。なぜなら、私は弥彦ちゃんの味方だから。でも、薫ちゃんは弥彦ちゃんの味方じゃないから、怒って顔を殴るのも仕方ないと思う」

 

「……ん?」

 

「なんで俺の部屋にお前が……」

 

そこには枕元のギリギリの位置に、姿勢良く正座してジッと弥彦を見つめている女の姿があった。

 

黒髪に白髪が混ざった長髪。感情のない無表情な顔立ち。

間違いなく、昨夜の誘拐犯であり、幕末の四大人斬りが一人、河上彦斎だ。

 

しかし、弥彦の度肝を抜いたのは、彼女の存在そのものではない。

その『格好』だ。

 

「な、なにーーーーーッ!!!?」

 

「て、てめえ!なんで俺の布団の真横にいるんだよ!!っていうか、なんだその格好は!!!いつからそんなものを着てやがる!!!」

 

彦斎の着ている服は、昨夜の着物姿から一変していた。

黒を基調としたシックなワンピースドレス。その上に、真っ白でフリフリのレースがあしらわれたエプロン。頭には白いフリルのついたヘッドドレス。

 

どこからどう見ても、横浜の外国人居留地でしかお目にかかれないような、完全なメイド姿だったのだ。

 

しかも、その可愛らしいメイド服の背中には、相変わらず長太刀が、不気味なコントラストを描いて無造作に提げられている。

 

「え?」

 

「なぜこの服を着ているのかって?うん、そうね……。今はもう明治の世の中で、昔みたいに人斬りだけで食べていく時代ではなさそうだし、何か新しい手に職をつけた方がいいかと思って」

 

「……昨日の夜、お義母さんに『落とし前をつけてもらう』と厳しく言われたから。だから、私は真面目に反省して、今日からこの組でメイドとして働きながら、身体で払うことにしたの」

 

「言い方ァ!!!」

 

「『身体で払う』とか言うな!!お前がいちいち発言すると、変な意味に聞こえて教育上よろしくないんだよ!!その歳で変な言葉使うな!!」

 

「うん」

 

「弥彦ちゃん。……私は準備できてる。いつでも良いよ」

 

「なにが!?なにが良いんだよ!!」

 

「朝っぱらから俺に変な気を起こさせるな!!だいたいな、こんな純和風のヤクザの極道の家に、西洋のメイドがいる時点で世界観がぶっ壊れてんだよ!!どう見ても浮いてるだろうが!!お前、その服どこで手に入れたんだよ!!」

 

「これは、私が……」

 

ガラッ。

 

「はあ………」

 

「ちょっと、あんた。あんた、朝の四時から起きて、一体何やってんのよ。……屋敷の表門の前の玉砂利のお掃除は、ウチの組の若い衆に根性を叩き直すための、大事な教育の一環なんだから。あんたが終わらせなくていいわよ!!」

 

「あんなに塵一つなく、ピカピカに掃き清められたら、あとで掃除しに来る若い衆らが、かわいそうでしょうが!!彼らの自己肯定感を奪う気!?」

 

「わかった」

 

「ごめんなさい、お義母さん。私の配慮が足りなかった。……じゃあ、明日からは別の仕事を探す。母屋の屋根裏のネズミの掃除から始めるね。見つけ次第、綺麗に三枚おろしにするから任せて」

 

「……………」

 

「頑張って。でも、ネズミを斬るついでに、ウチの屋敷の柱や天井をぶった斬って、家は壊さないでね。修理代はあんたの給料から引くからね」

 

「うん。気をつける」

 

真面目にコクリと頷く。

 

「……あ、そうだった」

 

「弥彦ちゃん。もうすぐ学校の時間。ご飯食べて、早く準備しないと遅刻するよ」

 

「えーーー!!!」

 

「行きたくねえ!!どうせ学校終わったら、またあのゴリラ女(薫)の道場に無理やり連れて行かれて、竹刀でボコボコにされるんだから!今日は顔が痛いって理由で、学校なんかサボって……」

 

「ダメ」

 

「私が今日からメイドとして、弥彦ちゃんの後ろからぴったりとついていくから、大丈夫。サボらないように、通学路の隅から見張ってるから安心して」

 

「ついてくるな!!!」

 

「お前みたいな、得体の知れない女が後ろを歩いてたら、俺が学校の友達や近所のおばちゃんたちからどんな目で見られると思ってんだよ!!完全に変質者扱いだろうが!!行くから!一人でちゃんと学校に行くから!!お前は組の留守番してろ!!」

 

私も、あんな目立つ格好の人間がウチの組から出入りしていると思われたら、近所の風紀を乱すとして警察の署長さんに怒られそうだ。

 

「………あら?」

 

「これは意外と使えるかもしれないわね。……いいこと」

 

「あんた、もし弥彦が少しでも寄り道したり、学校に遅れそうになったら、ちょっと『手伝って』あげなさい。弥彦の学業のためよ」

 

「首根っこを掴んで学校の校庭のど真ん中に放り投げるなり、刀の峰で背中を叩いて走らせるなり、何なりして、絶対に時間通りに学校の門をくぐらせなさい。ヤクザの息子だからって、勉強をサボることは私が許さないわよ」

 

「うん、わかった。お義母さん。教育は大事」

 

「鬼か!!」

 

「てめえら、俺の基本的人権はどうなってんだよ!!誘拐犯を護衛兼監視役にする親がどこにいるんだよ!!警察呼ぶぞ!!」

 

「呼べるもんなら呼んでみなさいな。昨日の誘拐騒ぎの事情聴取で、あんたが薫ちゃんの胸を揉んだ行為も全部署長さんに調書に取ってもらうわよ?」

 

「ぐっ……!!それは……」

 

「ほら、さっさと着替えて朝ごはん食べなさい!今日は赤べこ特製の、栄養満点のレバー炒めよ!血の気を補給しなさい!」

 

パンパンと手を叩いて、弥彦を急かす。

 

「それと」

 

「あんた、その河上彦斎っていう名を、外でうっかり名乗ったらダメよ。幕末のテロリストとして、すぐに警察を呼ばれるからね。これからは、ウチの組のメイドの『川上 彦(かわかみ ひこ)』って名乗るのよ。わかったわね?」

 

「うん」

 

「わかった。今日から、私は『お彦さん』だよ。……弥彦ちゃん」

 

「お彦さんって……」

 

「…………」

 

お彦さんは、無言のまま弥彦を見つめ続け、そして。

 

「……可愛い?」

 

全く感情のこもっていない、しかしどこか答えを期待しているような声で、真顔で尋ねてきた。

 

「可愛い………じゃねえよ!!!」

 

「お前は今年四十四歳なんだろ!!その歳で自分のこと『お彦さん』とか言って犯罪級に痛いんだよ!!少しは年相応の落ち着きを持て!!母さんを見習え!!」

 

「うん、事実は四十四歳」

 

「でも、私の見た目はどう見ても十八歳だから、このフリフリのメイド服も似合うし、可愛い。それは客観的な事実。だから大丈夫」

 

「全く会話が成立しねえ!!」

 

「さあ、弥彦ちゃん。私がご飯よそってあげる」

 

弥彦の背中にピタリと張り付くようにして、後をついていく。

 

「くっつくな!!俺は一人で食える!!」

 

「ダメ。私はメイド、弥彦ちゃんのお世話をする。あーんってする」

 

「ふざけんな!!毒でも入ってそうだろうが!!」

 

まあ、退屈しないから、よしとしましょうか。

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

お昼時の牛鍋屋「赤べこ」

 

私は赤べこの看板娘として常連客の注文を捌きながら、奥の特等席でくつろいでいる左之助と宗次郎君のお昼ご飯に付き合っていた。

 

「で?」

 

「結局、あの刃衛の雇い主だった黒幕……『渋なんたら』って元老院のおっさんは、どうしたんだ?さすがに野放しってわけじゃねえだろ?」

 

「姐さんや剣心のことだから、夜のうちにサクッとそのおっさんの屋敷に乗り込んで、寝込みを襲って首でもすげ替えて、極道の落とし前をつけてきたのかと思ったんだが。今朝の新聞には何も載ってなかったぜ」

 

「そうねぇ……」

 

「確かにそいつの首を落としてやりたいところだったんだけどね。でも、ちょっと冷静になって考え直したのよ。証拠が刃衛の死体と、『渋だっけ?』っていう曖昧な証言しかないじゃない。そんな不確かな状況証拠だけで、現役の元老院議官の屋敷にカチコミかけたら、警察も黙ってないし、ウチの集英組自体が新政府軍に完全に潰されちゃうわ」

 

「……それに、私も忙しいのよ。小物の政治家を、わざわざタダ働きで暗殺しにいくほど、私の時間は安くないのよ。どうせあんな小悪党、放っておいてもそのうち他の政敵に足元すくわれて自滅するわよ」

 

「あ、じゃあ」

 

「僕が代わりに、その渋海さんの屋敷に行って、サクッと首を取ってきましょうか?ついでですし。僕なら、警備が何人いようと、気づかれる前に五分くらいで終わりますよ。もちろん、証拠も残しませんし」

 

「やめい!!」

 

お玉で、宗次郎君の頭をペチン!と小気味良い音を立てて叩く。

 

「あだっ」

 

「あんたが政府の高官を暗殺なんかしたら、東京中がパニックになって大騒ぎになるわ!!あんたはこれ以上表舞台に、暗殺者として余計なちょっかいを出さないの!ただでさえ、昨日は刃衛の死体処理で署長さんに無理言ったんだから!」

 

「あはは、ごめんなさい。琴さんの手を煩わせるのも悪いかと思って」

 

「……おい」

 

「お前、さっきから聞いてりゃ……本当に何もんだ?人の命を五分で刈り取ってくるとか、そんなニコニコ笑顔で言うセリフじゃねえぞ。いくらなんでも冗談が過ぎるぜ。ただの『剣の修行をしている弟弟子』ってレベルじゃねえだろ」

 

「え〜?」

 

「僕はただの、ちょっと足が速いだけの、どこにでもいる普通の男の子ですよ?琴さんには剣術で全然敵わないし、左之助さんみたいに力も強くないですから」

 

「…………」

 

『絶対に嘘だろ、こいつ。抜刀斎や琴の姐さんと同じ、裏社会の匂いがプンプンしやがる』

 

「さて……と」

 

宗次郎君は、左之助の疑惑の視線を綺麗に受け流し、お茶を飲み干して立ち上がる。

 

「牛鍋、本当にごちそうさまでした。それじゃあ、僕はそろそろ京都へ帰ります。これ以上東京で長居して道草を食ってると、志々雄さんに『遊びに行かせたわけじゃないぞ』って怒られちゃいますし」

 

「あ、そうだったわね」

 

服の乱れを母親のように軽く直してあげる。

 

「気をつけて帰るのよ。京都に戻ったら、志々雄くんによろしく伝えておいて」

 

「あはは、わかりました。伝えておきますね」

 

「左之助さんも、お元気で。またいつか、機会があったらお手合わせ願いますね」

 

「お、おう……。お前も気をつけてな」

 

得体の知れない相手への警戒心と、昨夜から少し芽生えた奇妙な友情の間で揺れ動きながら、少しだけぎこちなく返事をする。

 

「はい。琴さんも、お元気で。またいつか、東京に遊びに来ます」

 

そして、そのまま振り返ると、まるで風のように、足音一つ立てずに昼時の賑わう雑踏の中へと、あっという間にその姿を溶け込ませて消えていった。

 

「……行っちまったな」

 

「なあ、姐さん……」

 

「さっきから、あいつや姐さんの口から何度も出てる『志々雄』って名前……一体誰なんだ?チビの親玉か何かか??」

 

少しだけ考える。

 

ここで、「志々雄真実は、明治政府の転覆を企む巨大な裏組織のボスで、宗次郎君はその最側近の暗殺者よ」なんて馬鹿正直に答えたら、ただでさえ喧嘩っ早い左之助のことだ、「なんだと!そんな面白そうな悪党がいるなら俺がぶっ飛ばしてやる!」と、単身京都に乗り込みかねない。

 

それは非常に面倒くさい。

だから、私は……嘘はつかない範囲で、最大限に言葉を濁すことにした。

 

「え?あ……ああ。うん、そうそう!」

 

「志々雄くんはね、宗次郎君の……そうね、『お父さん代わり』みたいな人よ。ちょっと教育方針がスパルタで、見た目がいかつい人なんだけどね」

 

「お父さん?」

 

「ええ。彼はね、ほら……」

 

「戊辰戦争のゴタゴタの中で両親を亡くして、身寄りがない可哀想な子供だったのよ。親戚からも酷い扱いを受けていてね。そこを、志々雄くんが可哀想に思って引き取って、自分の手元で、あんなに礼儀正しくて、剣の腕も立つ立派な子に育て上げたのよ」

 

※確かに志々雄に拾われたのは完全な事実だが、愛情を持って育てたわけではなく、最強の冷酷な暗殺マシーンに育て上げたのが真実である

 

「そうか……」

 

「あいつ……感情が読めない不気味なガキだと思ってたが……あんなに明るく無邪気に振る舞ってる割に、裏じゃあ、子供のくせに相当過酷な苦労をして生きてきたんだなぁ……」

 

「俺も、さっきからあいつのこと『チビ』だの『バケモノ』だの、少し言い過ぎちまったかもしれねえな。悪いことしたぜ。今度会ったら、俺の奢りで腹いっぱい牛鍋食わせてやるか」

 

『左之助、あんた本当にチョロいわね!単純で熱血漢のバカだから、こういうお涙頂戴の苦労話にはめっぽう弱いのよね!まあ、宗次郎君の過去がハードモードなのは紛れもない事実だから、私は一切嘘はついてないわよ!』

 

「お邪魔するでござる」

 

暖簾をくぐって、見慣れた二つの影が入ってきた。

 

「琴さん、こんにちは!!左之助もいたのね!」

 

その後ろから、昨日誘拐されて死にかけたとは思えないほど、元気いっぱいの笑顔を浮かべた薫ちゃんが、ひょっこりと顔を出す。

 

「あ、いらっしゃーい!!」

 

「二人とも、よく眠れた?無事でよかったわ!昨日は本当に災難だったわね。さあさあ、座って座って!何にします?……って、聞くまでもないわね。うちの極上のお肉で精をつけなさい!」

 

厨房へ向かって、威勢よく大声を張り上げる。

 

「牛鍋二人前、お肉大盛りで追加一丁!!」

 

「おう!!」

 

厨房の奥から、威勢のいい返事が返ってくる。

 

「かたじけないでござる。薫殿がどうしても琴殿のお肉が食べたいと……」

 

「ちょっと剣心!私が食い意地張ってるみたいに言わないでよ!」

 

「あはは、嬢ちゃん、お前も弥彦に負けず劣らずよく食うからな!」

 

「左之助!あんたも人のこと言えないでしょ!!」

 

店内に、いつもの騒がしくて、遠慮のない、温かい笑い声が響き渡る。

 

平和な昼下がり。

 

バタと騒がしくも、少しずつ絆が深まっていく。

 

そんな、かけがえのない私たちの日常が、今日からまた、新しく始まっていた――。




今回は刃衛編の後の日常回でした。

・メイド彦斎
・弥彦の地獄の朝

と、かなりカオスな回になりました。

個人的には
「身体で払う」発言を書いているときが一番楽しかったです。

感想をいただけると嬉しいです。

第一回キャラクター人気投票(コメントもぜひ感想欄に)

  • 明神琴(沖田総司)
  • 河上彦斎(お彦)
  • 明神弥彦
  • 緋村剣心
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  • 神谷薫
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  • 瀬田宗次郎
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  • 宇佐美
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