転生して型月版・沖田総司になったけど、労咳を克服したら明神弥彦の母になっていた件 〜るろ剣世界で最強のママやってます〜 作:だいたい大丈夫
関東集英組の賭場では、左之助と剣心が好き放題に荒稼ぎをしていた。
だがその平穏は、ある一人の女の登場によって崩れる。
彼女の名は――高荷恵。
観柳という男から逃げてきたというその女は、
この東京で密かに広がり始めていた「阿片」の闇と深く関わっていた。
そしてその背後には、
御庭番衆と呼ばれる恐るべき忍びの影があった。
恵登場
東京府の一角、関東集英組が公然の秘密として取り仕切る、活気に満ちた賭場。
昼間だというのに、窓は板で塞がれており、薄暗い室内は煙草の煙と男たちの熱気、そして金に対する欲望で充満している。
その喧騒の中心とも言える一番大きな盆(賭博台)の一角で、左之助が壺振りを前にして下品な笑みを浮かべていた。
そして、そのすぐ隣には、剣心が、いつもの顔を少しだけ引き締め、目を閉じて全神経を耳に集中させている。
「さ、左之助さん……ちょっと勘弁してくださいよ……!」
集英組の若い衆であり、今日はこの盆の進行役である水野が、顔面を真っ青にしながら、汗を袖で必死に拭っている。
「これじゃ、今日のウチの上がりがすっからかんですぜ!姐さんに殺されちまいますよ!」
「へへへ……悪りぃな、水野!」
うず高く山のように積まれた、金に換算できる大量の木札を両腕で抱え込み、機嫌の良い声で答える。
「先週、スッテンテンに剥がされた負け分と、赤べこでのこれまでのツケ、今日こそはウチの『最強の用心棒』の力を借りて、きっちり耳を揃えて取り返してやるぜえ。……おい剣心、次の目はどうだ?丁か、半か?」
「……4と5で、合計9。間違いなく『半』でござるな」
「よし!!来たぜ!!」
抱え込んでいた大量の木札の半分以上を、ドカンと『半』のマスに叩きつけるようにベットする。
「さあ、開けろ水野!!勝負だ!!」
「ヒィィィ……!!」
水野は、震える手でゆっくりと壺を持ち上げる。
その下から現れた二つのサイコロの目は、見事に剣心の予言通り、4と5を上に向けていた。
「……で、出ました!4・5で半!!!」
水野が、絶望に満ちた声で判定を下す。
「やりぃ!!!!大当たりだぜ!!」
「またあの赤髪の兄さんが当てたぞ!!」
「すげえ!百発百中だ!!」
「あーーっ、もう!勘弁してくだせえ!!」
「姐さんが数日留守にするからって、ウチのシマで勝手な荒稼ぎ職人みたいな真似しないで下さいよぉ!緋村さんも、いくら左之助さんに泣きつかれたからって、そんな神業みたいな聴力をバクチのイカサマに使わないでくださいよ!!」
「おろ?イカサマではないでござるよ。ただ耳が良いだけでござる」
全く悪びれる様子もなく、お茶請けのお煎餅をパリッと齧る。
「そういえば、琴殿はどうしたのでござるか?今朝から神谷道場にも顔を出さぬし、組の屋敷でも姿が見えぬが」
「ああ、姐さんか」
「なんかよ、関東一円の極道のデカい親分衆が集まる、大層な会合が箱根であるとかでさ。姐さん、ウチのオヤジ(多西組長)の代わりに、集英組の代表として仕切りに行ったんだとよ」
「なるほど」
「数日は絶対帰ってこねえらしい。つまり、暫くはこの賭場も組も、俺たちの自由ってこった!姐さんの小言も鉄拳制裁も飛んでこねえ!今日のうちにガッツリ稼いで、吉原にでも豪遊しに行くぜ!!」
「なるほど。まさに『鬼の居ぬ間に洗濯』……いや、『鬼の居ぬ間に荒稼ぎ』でござるな」
「緋村さーん!!」
その時、隣の卓で別の壺振りを担当していた集英組の宇佐美が、涙目でこちらに向かって叫んだ。
「緋村さんの耳が良すぎるんですよ!左之助さん以外の客まで緋村さんの張る目に便乗し始めて、こっちの卓まで大赤字ですよ!!勘弁してくださいよぉ……!姐さんが帰ってきたら、俺たち若い衆は全員、逆さ吊りで滝行の刑にされちまいます!!」
「へっ、ヤクザがカタギの客に向かって泣き言言ってんじゃねえよ。賭場を開いてる以上、負けるリスクも背負いな」
「……それより水野。最近、飴売りの宵太の姿を見ねえな?」
賭場の入り口の方をチラリと見る。
「金もないくせに根っからの博打好きで、毎日この賭場に顔を出してはスッテンテンになってたじゃねえか。それがここ数日、顔すら出さねえってのは珍しいぜ。どこかで寝込んでんのか?」
質問に、水野と宇佐美の顔から、スッと血の気が引いた。
「……知らないんですか?左之助さん」
水野が、声を落とし、周囲の客に聞こえないように身を乗り出してくる。
「宵太……少し前に、裏の長屋で冷たくなって死んでるのが見つかりましたよ」
「何っ!!?」
「死んだ!?病気か!!?それとも、どっかのチンピラに絡まれて事故にでも遭ったのか!!?」
「違います」
水野が、さらに声を潜め、首を横に振る。
「……阿片です」
「阿片……!?」
左之助の顔が、驚愕に歪む。
「ええ。長屋の連中の話じゃ……間違って、純度の高すぎる阿片を大量に吸っちまって、そのまま心臓が止まったらしいです。幸せそうな顔で死んでたって話ですがね」
「馬鹿野郎……!」
拳をギリッと握り締め、怒りに震える。
「宵太の奴……阿片なんぞに手え出しやがって……。せっかく俺がたまに小遣い恵んでやってたのに、何に使ってんだよ……」
「……おかしいでござるな」
「阿片は、かなり高価な禁制品のはず。よほどの金持ちでなければ手を出せる代物ではない。ただの飴売りが、致死量に至るほど大量の阿片を買えるだけの金を持っていたとは思えぬが……」
「確かに……。俺たちも、そこが引っかかってるんです。最近、この界隈で、やけに質のいい阿片が出回ってるって噂がありまして。姐さんも出かける前に『シマの中で阿片の売人がいたら、見つけ次第ミンチにして東京湾に沈めなさい』って言ってましたし」
その時である。
賭場の入り口の暖簾が跳ね除けられた。
「はぁ、はぁっ……!!」
そこから一人の美しい女性が息を切らして駆け込んできた。
年齢は二十代前半くらいだろうか。狐のような、切れ長で色気のある美しい瞳と、艶やかな黒髪。着物は少し乱れ、明らかに何者かから必死に逃げてきた様子だった。
彼女は一番奥の盆にいる、赤い着物で目立ち、なおかつ一番強そう(かつ、なんだか優しくて頼りになりそう)な剣心の姿を認めると。
タタタタッ!と、一直線に剣心のもとへ駆け寄り。
「た、助けてください!!」
ガシッ!!
と、剣心の胸にギュッと抱きついたのだ。
「おろろろろ!?」
「な、な、なんでござるか、突然!!拙者、こういうのには免疫が……!!」
「お願いです!悪い奴らに追われてるんです!助けて!!」
恵が、剣心の胸に顔を埋めたまま、涙声で必死に訴えかける。
「おいおい、なんだよ急に。良いご身分じゃねえか、剣心の野郎」
「待て!!逃げられると思うなよ!!」
恵を追うようにして、いかにもガラの悪い男たちが二人、押し入ってきた。
「おい恵!ここから逃げられると思ってんのか!大人しくこっちへ来い!観柳様がお怒りだぞ!」
「……てめえら」
その瞬間。
宇佐美が、スッと立ち上がる。
「ここが、あの明神琴姐さんの仕切る、関東集英組のシマだと知っての狼藉か!カタギの客が大勢いる賭場に、土足で上がり込んで銃を抜くとは、いい度胸してんじゃねえか!」
宇佐美が、ドス黒い殺気を放ちながら男たちの前に立ち塞がる。
「関係ねえ!!」
もう一人の男が、宇佐美に向かって唾を吐き捨てる。
「ヤクザのシマだろうがなんだろうが知ったことか!その女を大人しくこっちに渡せ!さもねーと、てめえらヤクザごと痛い目見んぞ!!ぐへらっ!!」
イキった言葉が最後まで終わる前に。
強烈な右の裏拳が、私兵Bの顔面に炸裂した。
「がはっ!!」
私兵Bは、自分の歯を何本か空中に撒き散らしながら、一直線に吹っ飛び、賭場の壁に激突した。
「な、なんだと!?」
私兵Aが、一瞬にして相棒が沈められたのを見て、驚愕に目を見開く。
銃を持っているとはいえ、相手との間合いはすでに詰められている。
「……き、貴様ら、ただのチンピラヤクザのくせに、俺たちが誰だか分かってんのか!!」
「俺たちは、あの『武田観柳』さんの私兵団員だぜ!俺たちに手を出すってことは、観柳様の組織全体を敵に回すってことだぞ!!」
「……関係ねえな」
ドゴォッ!!
水野が手に持っていた、長い「棒」のようなもので、私兵Aの鳩尾を容赦なく打ち据えた。
「ごふっ……!!」
「ったく……」
水野は、棒を肩に担ぎ直し、忌々しそうに倒れた男たちを見下ろす。
「次から次へと、土足でウチのシマを踏み荒らしやがって。最近、こういう礼儀のなってないゴロツキが増えて困るぜ。……左之助さん、緋村さん。すいやせん。お見苦しいところをお見せしやした。入り口の警備が甘かった、俺たちの手落ちでさあ」
「いや、それは良いのでござるが……」
「その男たちが名乗っていた『観柳』とは、一体何者でござる?警察よりもヤクザよりも恐ろしいような口ぶりであったが」
「武田観柳ですか」
「街外れにバカでかい豪邸を構えてる、青年実業家ですよ。……まあ、表向きは、ですがね」
「奴は、裏で何をどうやって稼いだのかは知りませんが、ここ数年で急激に莫大な財力を強めてます。今じゃ自分の身を守り、さらに勢力を拡大するために、最新式のライフル銃やら何やらで完全武装した『一大私兵団』を築いてるんです。完全に軍隊ですよ」
「軍隊……」
剣心が、眉をひそめる。
「ええ。相当胡散くせえ奴です。この町の者は、そこら辺のヤクザの組から、警察の署長、果ては政治家まで、奴のバラ撒く金の力と暴力に恐れをなして、あいつとの直接の争いを避けてます」
「だが」
「関東集英組は関係ねえ。多西の親分もそうですが、何より琴の姐さんからの教えで、『売られた喧嘩は、倍にして全部買う。それが極道の、そして関東集英組のモットーだ』って骨の髄まで叩き込まれてるんでね!相手が観柳だろうが軍隊だろうが、ウチのシマでデカい顔はさせませんよ!」
「良いねえ!!威勢がいい!!」
「流石は姐さんが、毎日手塩にかけてしごき抜いた奴らだ。根性が座ってやがる。俺も喧嘩屋の血が騒ぐぜ!」
左之助は、満足そうに頷いた後、剣心の背中に隠れるようにしている恵の方へ向き直る。
「……で?そこの、やけに色気のある狐みたいな女」
「こいつらが観柳の私兵ってことは、お前さん、その観柳ってヤバい金持ちの野郎の情婦(愛人)か何かか??」
「違います!!」
「愛人なんかじゃありません!それに、私は本当に何も知らないんです。観柳とか言うその人のことも……今日初めて聞きました!街を歩いていたら、突然あの男たちに追われて……!」
◇◇
「ククク……嘘はいけねえな、高荷恵」
突如、天井の太い梁の上から男の笑い声が降ってきた。
「なんだ!?」
左之助が即座に上空を睨みつける。
剣心も、いつの間にか逆刃刀の柄にそっと手を添えている。
江戸城で暗躍していた隠密御庭番衆。その一員であり、暗器使いの達人――『癋見(べしみ)』だった。
「観柳の屋敷から逃げ出す時に、監視役が二人だけだと思って安心したようだが……」
「……お前は常に、御頭の配下に見張られているんだよ。寝間でも、風呂に入っている時でも、用便の時でもな。お前の行動の全ては、筒抜けだったってわけさ。哀れだねえ」
「ふんっ!」
「だから何よ!でも、私が観柳の情婦でないのは本当だよ!あの男に無理やり囲われてただけ!帰って観柳に伝えな!私はこのヤクザの用心棒さんたちの後ろ盾を得て、絶対にあんたたちの魔の手から逃げ切ってみせるってね!」
恵は、ちゃっかりと集英組と剣心を自分の逃亡の盾に利用する宣言をぶち上げる。
「おいおい、勝手にウチの組を巻き込むなよ」
「ククク……可愛いねぇ」
「ヤクザのチンピラ用心棒ごときに守られて、この御庭番衆の追撃から逃げ切れると本気で思っているところなんか、特に世間知らずで。ヤクザなんて、俺の暗器の前じゃただの肉の的だぜ」
癋見の言葉と同時に、指先から殺気を帯びた小さな黒い影が弾き出された。
シュパッ!!
空気との摩擦で特殊な音を立てながら飛来する、独特の螺旋形状をした手裏剣――『螺旋鋲(らせんびょう)』
常人の目には見切れないスピードで放たれた、猛毒を塗った必殺の暗器が、恵の足元、そして彼女を庇うように立っていた水野と宇佐美の急所へ向かって、扇状に広がって飛来する。
「危ないでござる!!」
剣心が、腰を落として逆刃刀の柄を握り込む。
しかし。
カキンッ!! カキンッ!!
ガンッ!!!
空中で、乾いた金属が激しくぶつかり合う音が三度響き、火花が散った。
癋見の放った絶対確殺の螺旋鋲は、恵の足元に到達する前に、見事に空中で弾き落とされた。
「……てめえ」
水野が、低い声で天井の癋見を睨みつける。
「ただのゴロツキやチンピラじゃねえな。その身のこなし、そして暗器。完全にカタギじゃねえ」
水野が構えていたのは、ただの「布巻きの長い棒」ではなかった。
布がパラリと解け落ち、現れたのは、極道にはおよそ似つかわしくない、刃渡りが一メートルはあろうかという、巨大で禍々しい漆黒の『大鎌』だった。
「なっ!?」
「俺の螺旋鋲を……あんな取り回しの悪い大鎌で、弾き落としただと!?ただのヤクザが、どうして!?」
「驚くのは早いぜ、ネズミ野郎」
「……だが、飛び道具の数なら、間違いなくこっちの土俵だ!まぐれで一つ二つ弾いたくらいで調子に乗るな!ハチの巣にしてやる!死ねい!!」
激怒して懐から大量の螺旋鋲を両手で掴み出し、上空から恵と集英組の男たちに向かって、雨霰のように連続で放つ。
しかし。
バンッ! バンッ! バンッ!!
癋見が放った数十発もの螺旋鋲は、空中で次々と何かに弾き飛ばされ、すべて壁や天井へと突き刺さっていった。
「なんだと……!?」
煙を上げる銃口の先。
宇佐美が、いつの間にか懐から抜いた、最新式の回転式拳銃(リボルバー)を片手で構えていた。
「ぐうっ!?」
「なんだこいつらは……!!小さな弾幕を、弾丸で一つ残らず撃ち落とすだと!?ただのヤクザじゃねえ!!まるでバケモノの集団じゃねえか!!」
「ふう」
「言っただろう?『殺しの集英』を、なめるなよってな」
宇佐美は、銃をクルクルと指で回し、見事な手さばきで懐のホルスターに納める。
「俺たちの反射神経はな、毎日毎日、琴の姐さんが遊び半分で放ってくる、神速の『三段突き』を至近距離で躱す訓練をさせられて鍛え上げられてんだよ。その程度なんて、姐さんの突きに比べたら、止まってるハエみたいなもんだ」
「水野!!行け!!」
「おう!!」
水野が、大鎌を握り直し、膝を深く曲げて、爆発的な踏み込みで大きく跳躍した。
天井に張り付く癋見めがけて、巨大な鎌の刃が容赦なく迫る。
「水野殿!!」
殺気を感じ取り、剣心が慌てて声を上げる。
「待つでござる、相手はただの使い走りかもしれん!殺してはならん!!」
「わかってまさぁ!!」
「姐さんにも、毎日耳にタコができるくらい『ウチのシマで無駄な殺しは絶対にやめなさい』って、キツく言われてますからね!!俺たちも伊達に極道やってませんよ!!だから!!」
水野は、空中で体を捻り、大鎌の鋭い刃の向きを反転させる。
「峰打ちだァァァ!!!」
「なっ……!大鎌に峰打ちなんてあるかァァァ!!」
水野が振り抜いた大鎌の分厚い『峰(背の部分)』が、天井に張り付いていた癋見を、凄まじい破壊力をもって強打した。
ゴスッ!!!!
「ぐえええええええええ!!!!!」
床に激突し、ピクピクと痙攣した後、完全に気を失って動かなくなった。
「ふう。一丁上がりでさあ」
「……お見事な連携でござる」
「お前ら、姐さんにしごかれすぎて、ただのチンピラから立派な戦闘民族に進化してんな……」
「ふーん……」
「強いわね、あんたたち」
恵は、宇佐美と水野、そして左之助を値踏みするように見回す。
「普通のヤクザの用心棒レベルじゃないわ。一瞬でノックアウトするなんて。……特に、そっちの赤い着物の剣客さん(剣心)の方」
恵は、色目を使うように、剣心にスリ寄る。
「あなたは、さっきから刀に手をかけてるだけで、まだ全然本気出してないみたいだし。あの人たちから一目置かれてるってことは、相当な手練れなんでしょ?なんだか、無敵そうね」
「おろ?いや、拙者はただの流浪人でござるよ……」
「……どう?そこの坊やたち」
「私を観柳の手から守って、どこか遠くへ逃がしてくれない?この東京から出る手筈を整えてほしいの。もちろん、タダとは言わないわ。報酬は十二分にたっぷりと払うからさ」
完全に、色気と金で男をコントロールしようとする、したたかな女の交渉術だ。
「おい」
「まずはきっちり状況の説明が先だろ?隠し事はなしだ」
「お前、さっきは『観柳なんて知らない』って言ってたが、完全に嘘だな。観柳の私兵だけじゃなく、あんな暗殺者にまで追われるなんて、ただの愛人じゃねえ。……一体、あの屋敷で何を抱え込んで逃げてきたんだ?」
「そ、それは……」
「私は……ただ……」
恵が、焦って身振り手振りで弁明しようと両手を激しく動かした、その拍子だった。
彼女の着物の乱れた袂の中から。
四角く折りたたまれた、小さな和紙の紙包みがポロリとこぼれ落ち、床に転がった。
「あっ……!」
恵が、血相を変えて床に手を伸ばそうとする。
しかし紙包みの口が少し開き、中から真っ白な粉末が床にこぼれ出た。
「……ん?」
「なんだこりゃ。小麦粉か?いや、女が持ち歩くってことは白粉か、それとも何か病気の薬か?」
「騒がしいね」
その時。
賭場の奥にある、従業員用の控え室の襖が、スッと静かに開いた。
「……お掃除しないと、お義母さんに怒られちゃう。ヤクザの家は清潔が第一だって言ってた」
パタパタパタ……。
軽い足音と共に、無表情の女――『お彦さん』こと河上彦斎が、ちりとりとホウキを持って、ひょっこりと現れた。
「ん?なんだ、お前。組の留守番してたんじゃねえのか」
「うん。でも、表が騒がしいから、ゴミが出たかと思って掃除に来た」
お彦さんは、気絶している癋見や私兵たちを完全に無視して、トコトコと左之助たちの足元へと歩み寄る。
そして。
床にこぼれ落ちた、恵のあの『白い粉』を見ると。
お彦さんは、なんの躊躇いもなく、白い粉をすくい取り、自分の舌先で舐めたのだ。
「おいバカ!何の薬かわからねえのに勝手に舐めるな!!毒だったらどうすんだ!!」
「……で?」
「あんたの言う『たっぷりと払う報酬』っていうのは……この『阿片』を売ったお金のこと?」
「えっ!?」
「ふうん」
「これ、すごくいい薬だね。精製率が異様に高い。幕末の頃に清国から流れてきてた粗悪品とは比べ物にならない純度。……これなら、末端価格で、通常の相場の五倍……いや、今の品薄状態なら十倍の値段で高く売り捌ける。とても儲かる」
「……えっ?ええっ!?」
「おい、ちょっと待て!!」
「お前……なんでそんなヤバい禁制薬の相場に、ヤクザの俺たち以上に詳しいんだよ!!メイドだろお前は!!掃除と洗濯だけしてろ!!」
「え?」
「だって私、河上彦斎。暗殺だけじゃなくて、色んな裏の仕事をしてきた」
「幕末の頃、裏金作り。阿片の横流しの護衛。暗殺ついでに証拠品の阿片の処分と転売とか、色々やってた。大丈夫」
「あ、でも、このことはお母さん(琴)には内緒」
「……お主は!!!」
「自分の過去を、初対面の相手の前でベラベラと喋るんじゃないでござるよ!!!お主の口の軽さはどうなっているのだ!!秘密保持という概念がないのか!!!」
「聞かれたから……。私、メイドだから嘘はつかない」
今回は観柳編の導入回でした。
もしよければ
・集英組の戦闘力
・恵のキャラクター
・彦斎の空気破壊
など、感想をいただけると嬉しいです。
第一回キャラクター人気投票(コメントもぜひ感想欄に)
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明神琴(沖田総司)
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河上彦斎(お彦)
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明神弥彦
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緋村剣心
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相楽左之助
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神谷薫
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高荷恵
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四乃森蒼紫
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志々雄真実
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瀬田宗次郎
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鵜堂刃衛
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宇佐美
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水野
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我介