転生して型月版・沖田総司になったけど、労咳を克服したら明神弥彦の母になっていた件 〜るろ剣世界で最強のママやってます〜   作:だいたい大丈夫

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幕末の四大人斬りの一人――河上彦斎。

だが問題は、その正体よりもむしろ。

その常識外れの思考回路だった。

暗殺を仕事とする女と、
元・人斬り抜刀斎、
そして喧嘩屋・斬左。

とんでもない顔ぶれが揃った一行は、
高荷恵を連れて神谷道場へ向かうことになるのだが――

その道中は、平穏とは程遠いものになりそうだった。


メイドの暗殺プロデュース

床にこぼれ落ちた真っ白な粉末――『新型阿片』の包みを見つめながら、それを指先で舐め裏社会の相場と純度を語るメイド服の女。

お彦さんこと、幕末の四大人斬りが一人、河上彦斎。

 

「えっ!?」

 

「か、河上彦斎……!」

 

「幕末、希代の大学者・佐久間象山を白昼堂々、一刀のもとに斬り殺したっていう……あの血も涙もない本物の人斬り!?嘘でしょ!?なんでそんな歴史上の大罪人が、こんなところでフリフリのメイド服着てるのよ!!」

 

佐久間象山の暗殺は、幕末の歴史を大きく揺るがした大事件であり、実行犯である河上彦斎の名前は、その残忍さと共に天下に轟いていたのだ。

 

「……」

 

しかし、当の本人であるお彦さんは、恵のその激しい非難を浴びても全く悪びれる様子を見せない。

 

「……あれは、失敗」

 

「佐久間先生は、後でよくよく調べたら、すごく国の未来を考えている立派な人だった。……私が振るうべきでない剣だったし、斬る相手を間違えたと反省してる。だから、あの暗殺は全然自慢できない。むしろ私の黒歴史」

 

「え……」

 

「でも」

 

お彦さんが、急にパァッと顔を輝かせ、フリフリのレースがあしらわれたエプロンの胸を、誇らしげにピンと張った。

 

「横井小楠とかの暗殺なら、大声で自慢できるよ」

 

「あの時の暗殺の太刀筋は、私の人生の中でも三本の指に入るくらい、すごく綺麗にスパーンと決まった。血も全然服に飛ばなかったし、護衛も一瞬で斬れた。あれは我ながら完璧な仕事だったと思う。えっへん」

 

(※史実では、明治維新の十傑の一人である横井小楠の暗殺は、別の不平士族の刺客が実行犯として処罰されているが、その背後には河上彦斎の関与も強く噂されていたという、歴史の闇に隠された設定である)

 

「なっ……!!」

 

「お、おろっ!?」

 

「よ、横井小楠殿の暗殺は、別の刺客の犯行のはずでござる!!まさか、あの明治新政府を震撼させた大暗殺事件の真の実行犯も、お主がやったのでござるか……!?」

 

剣心の言葉に、賭場にいる集英組の若い衆たちも「マジかよ……」「このメイド、ガチの国事犯じゃねえか……」と青ざめて後ずさりする。

 

「うん」

 

「そうだよ。人斬りは、人を斬るのがお仕事。依頼主からお金をもらって『この人を斬って』って頼まれたら、綺麗に斬る。……え?」

 

「抜刀斎は違った? 幕末の頃、あんなにたくさん人を斬り殺してたのに、仕事じゃなくて……趣味で斬ってた? サイコパス?」

 

「ぐふっ……!!」

 

「い、いや……それは、そうでござるが……拙者も仕事(命令)として斬っていたわけでござるが……趣味で斬っていたわけでは断じてないでござる!!ただ、新しい時代を創るための大義が……!!」

 

お彦さんは「ふうん」と全く興味がなさそうに聞き流している。

 

「ば……」

 

「抜刀斎!?あんた、今『抜刀斎』って呼ばれたわよね!?もしかして……あの伝説の人斬り抜刀斎なの!?嘘でしょ、こんな、どこからどう見てもただの気の抜けた優男が……!冗談でしょ!?」

 

「へへっ、そうだぜ狐女!」

 

その恵の驚きっぷりを見て、左之助がニヤリと得意げに笑い、剣心の前にズンッと大きく一歩踏み出した。

 

「驚いたか!こっちで『おろおろ』言ってるこの赤毛の優男が、泣く子も黙る、いや、幕府の要人たちを震え上がらせた本物の維新志士・緋村抜刀斎だ!そして……!!」

 

「俺が!!この花の東京で名ぃ轟かす、悪党どもをぶっ飛ばす正義の不良!『喧嘩屋・斬左』こと、相楽左之助だ!!どうだ、参ったか!!」

 

『伝説の人斬り抜刀斎』

 

『幕末の四大人斬り・河上彦斎』

 

そして、『東京最強の喧嘩屋・斬左』

 

さあ、この豪華絢爛な顔ぶれに、怯えるがいい、ひれ伏すがいい。

左之助は、恵のさらなる驚愕の悲鳴を期待して、ニヤニヤと笑いながら待ち構えていた。

 

……。

…………。

 

「………………知らないわ」

 

「……え?」

 

「だから」

 

「知らないわ。斬左なんて名前、一度も聞いたこともない。抜刀斎や河上彦斎みたいな、歴史書に載る伝説のバケモノたちと並べて、さも同格みたいに堂々と名乗られても、正直、全然ピンとこないわね」

 

「ただのその辺のチンピラかゴロツキでしょ?ヤクザの用心棒気取りの。一緒に並ぶのはちょっとおこがましいんじゃないかしら」

 

「ぐふっ……!!」

 

「は、はっきりと……面と向かって『知らない』って言われた……!しかも『チンピラ』扱い……!!東京最大の武闘派組織、この関東集英組に用心棒として出入りしてる、この俺様を……!!!」

 

「大丈夫」

 

「左之助。そんなことで泣かないで。男の子でしょ」

 

お彦さんは、全く悪気のない、純粋な励ましの言葉を口にする。

 

「左之助も、まだ無名なだけ。偉い人を斬れば、すぐに日本中で有名になれる。私が保証する」

 

「お彦……」

 

このサイコメイドも、たまにはいいことを言うじゃないか、と少しだけ感動しかけた、その時だった。

 

「今なら……そうね」

 

左之助の知名度を上げるための具体的な『プロデュース計画』を、真剣な顔で考え始める。

 

「大隈重信とか、大久保利通とか……伊藤博文あたりをサクッと暗殺して首を京の都に晒せば、明日には『斬左』の名前が日本中の新聞の号外で出るよ。一躍、時の人になれる。歴史に名前が残るよ。やったね」

 

「なっ……!?」

 

「あ、でも」

 

一人でウンウンと頷きながら、さらに計画を練り込む。

 

「抜刀斎は元・長州派閥の維新志士だから、同郷の長州出身である伊藤博文を殺すと、身内贔屓で怒るかもしれない。無駄な喧嘩は避けるべきだから、ここは抜刀斎の顔を立てて、配慮が必要ね。……よし」

 

「じゃあ、薩摩閥の黒田清隆でいこう。あいつなら酒乱だし、政府内でも敵が多いから、暗殺しても世間の風当たりはそこまで強くないはず。うん、決まり。左之助、今夜決行ね。私が案内してあげる」

 

「決めるな!!!!」

 

「俺はただの喧嘩屋であって、暗殺者じゃねえよ!!なんで俺が有名になる手段が、『明治新政府のトップ要人の暗殺』一択なんだよ!!そんなことしたら、有名になる前に逆賊として即座に打ち首獄門だろうが!!歴史に汚名が残るだけだ!!」

 

「うーん……」

 

「わがままだなあ、左之助は。自分で『有名になりたい』って言ってたのに。有名になるには、一番有名な奴の首を獲るのが、一番手っ取り早くて効率がいいのに。宮部先生も、昔よくそう言ってたよ。『下っ端を百人斬るより、大将の首を一つ取れ』って」

 

お彦さんの暗殺理論は、恐ろしいほどに筋が通っているが、完全に時代錯誤のテロリストの思考回路だ。

 

「お彦殿!!」

 

これ以上話を進めさせると、本当にこの天然メイドが左之助をそそのかしてテロを実行しかねないと感じた剣心が、慌てて二人の間に割って入り、お彦さんを全力で制止する。

 

「日本が、明治政府が物理的にひっくり返るから、絶対にやめるでござるよ!!冗談でも、現役の政府高官の名前をポンポンと出さないでほしいでござる!!ここは賭場だ、誰が聞いているかわからんのでござるぞ!!」

 

「うん、わかった」

 

素直に頷く。

 

「抜刀斎がそこまで言うなら、政府の要人を暗殺するのはやめておく。ごめんなさい」

 

「……わかれば良いのでござる」

 

「じゃあ」

 

新たな代替案を嬉しそうに提示した。

 

「今、野に下って政府に反旗を翻している、板垣退助にしよう」

 

「なっ……!?」

 

「えっ!?」

 

「彼なら、今殺しても今の政府的には敵対勢力だから割と問題ないし、自由民権運動のトップだから、知名度は抜群。暗殺すればすごく有名になれる。しかも護衛も政府高官よりは薄いはずだから、左之助でもいける。完璧なプランだね」

 

(※史実において、板垣退助が暴漢に襲撃される「板垣死すとも自由は死せず」の事件は、この少し後の明治15年(1882年)の出来事である。お彦さんは、その襲撃のアイデアを先取りしてしまった形となる)

 

「だから!!暗殺から離れろって言ってんだよ!!!」

 

「なんでどうしても誰かの命を奪おうとするんだよ!!俺を歴史に残る極悪テロリストに仕立て上げる気か、このサイコメイド!!俺はカタギに手は出さねえ主義なんだよ!!」

 

「はあ……」

 

「左之助は、本当にダメな男の子だね。口では『有名になりたい』って偉そうに言うくせに、いざチャンスをあげても、言い訳ばかりして行動に移さない。これじゃ一生チンピラのままだよ。努力(暗殺)が圧倒的に足りない」

 

お彦さんは、左之助を完全に「やる気のないダメ人間」として見下している。

 

「理不尽すぎるだろ!!!」

 

「俺の努力の方向性はおかしいのか!?平和な明治の世で、有名になるための努力イコール暗殺って思考回路がもう狂ってんだよ!!姐さーーん!!早く帰ってきて、このバケモノメイドをなんとかしてくれーーー!!」

 

「……と、とりあえず!」

 

これ以上この場にいて、お彦さんと会話を続けると、本当に左之助が暗殺計画の実行犯に仕立て上げられかねない、そして自分も同罪に問われかねないと強烈な危機感を感じた剣心が、強引に話を打ち切る。

 

「今日はもう、これくらいにして帰るでござる!!落ち着いて話もできん!!」

 

「恵殿も、あの観柳とやらの手先に狙われていることでござるし、いつまた襲撃があるかわからん。ひとまず、安全な神谷道場へ連れて行くでござるよ!詳しい事情は、そこでゆっくりと聞かせてもらうでござる!」

 

「おい待て剣心!俺も行くぜ! ここにこのサイコメイドと二人きりで残されたら、いつ板垣退助のところへ連行されるかわかったもんじゃねえ!!」

 

左之助も、お彦さんから逃げるようにして、剣心たちの後を慌てて追いかけていく。

 

「あ、行っちゃった」

 

お彦さんは、一人賭場に取り残され、ポツンと立ち尽くす。

 

「……お掃除の続き、しよっと」

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

 

「はあ、はあ……っ」

 

「とりあえず、表に出れば追ってはこないわよね……?」

 

「おろ。安心するでござるよ、恵殿」

 

「ここは関東最大の武闘派組織、集英組のシマのど真ん中でござる。いかに御庭番衆とはいえ、真っ昼間から表通りで堂々と襲撃を仕掛けてくるほど愚かではないはずでござる。それに、あの癋見という男は水野殿の一撃で完全に伸びていたでござるからな」

 

「へっ、そうさ」

 

「ウチの姐さんに鍛え抜かれた若い衆にかかれば一発KOだ。あのまま賭場の裏口のゴミ捨て場にでも放り出されて、野良犬に顔でも舐められてる頃だろうぜ。いい気味だ」

 

左之助は、自分は一切手を下していないにも関わらず、なぜか完全に勝者の顔をしている。

 

「……あんた、さっき『知らない』って言われて膝から崩れ落ちて大泣きしてたチンピラよね。なんでそんなに偉そうなの?」

 

「大泣きはしてねえ!!男のプライドが少し傷ついただけだ!!そして俺はチンピラじゃなくて喧嘩屋・斬左だ!!何度言わせるんだこの狐女!!」

 

「はいはい、喧嘩屋ね。で?これからどうするの?私は観柳の私兵団と御庭番衆の両方から狙われているのよ。あんたたち、私を安全な場所に連れて行ってくれるって約束したわよね?」

 

「お、おろろ……も、もちろんでござる。約束は違えないでござるよ」

 

「ひとまず、薫殿のいる神谷道場へ向かうでござる。あそこなら、街の中心からも少し離れているし、拙者もいるから一番安全でござるよ。詳しい事情は、そこでゆっくりと聞かせてもらうでござる」

 

「神谷道場ね。わかったわ。伝説の人斬りが護衛についてくれるなら、少しは安心できそうね」

 

恵が、剣心にさらにすり寄る。

 

「おいおい、狐女。剣心ばっかり頼りにしてんじゃねえぞ。俺の斬馬刀の威力も……」

 

「緋村さん。左之助さん。お待ちくだせえ」

 

「おろ?水野殿に宇佐美殿。どうしたでござるか?賭場の見回りは良いのでござるか?」

 

「緋村さん。あんたたちが、観柳と本格的にことを構えるってんなら、流石に俺たちも心配でさあ」

 

水野が、布巻きの大鎌を肩に担ぎ、真剣な顔で語る。

 

「心配……でござるか?」

 

「ええ」

 

「いや、決して緋村さんの腕や、左之助さんの度胸を疑ってるわけじゃねえですよ。お二人が強いのは、このシマの人間なら誰でも知ってまさぁ。でもね……」

 

「あっちは、ただのヤクザの抗争や、剣客同士の果し合いのレベルじゃねえんです。さっきも言いましたが、あの観柳って野郎は、裏で稼いだ莫大な金に物を言わせて、海外から最新式のライフル銃だの、とんでもねえ連射力を持つガトリング砲だのって、戦争で使うような物騒なオモチャを屋敷の武器庫に大量に溜め込んでるんですよ。文字通り、小さな軍隊です」

 

「ガトリング砲か……。噂には聞いたことがあるぜ。ハンドルを回すだけで、一分間に何百発も鉛の弾をバラ撒くっていう、西洋の悪魔の兵器だろ?そいつを個人で所有してるってのは、確かに尋常じゃねえな」

 

「ええ。いくら緋村さんが神速の剣を持っていようと、いくら左之助さんが斬馬刀で大勢をなぎ払えようと、相手が遠距離から雨霰のように銃弾を撃ち込んできたら、流石に分が悪いでしょう。人間、弾に当たれば死にやすからね」

 

「だからこそ」

 

宇佐美が、懐の拳銃の上から着物を叩き、ニヤリと好戦的な笑みを浮かべる。

 

「俺たちが同行するんでさあ。相手が近代兵器を出してくるなら、こっちもそれなりの火力を準備する必要があるでしょう。幸い、ウチの組も姐さんのコネで、それなりにいい道具(チャカ)は揃ってますからね」

 

「宇佐美殿……」

 

「しかし、それでは集英組に迷惑をかけることになってしまうでござる。これは拙者と恵殿の問題……」

 

「水臭いこと言わねえでくだせえ、緋村さん」

 

「今、姐さんが大事にしているシマで、しかもウチの賭場の真ん中で、ウチの大事な客人である緋村さんや左之助さんに手出しされたとあっちゃあ……関東集英組のメンツが完全に丸潰れになりまさぁ」

 

「姐さんが帰ってきた時に、『客人一人守れずに観柳の私兵に好き勝手やられました』なんて報告したら、俺たち若い衆は全員、木刀で素振りの刑一万回、もしくは東京湾の底でコンクリ詰めの刑にされちまいます」

 

「……命が惜しい理由が、観柳の私兵じゃなくて琴殿の折檻の方なのでござるな……」

 

「当たり前でしょう!ガトリング砲より姐さんの『三段突き』の方が百倍怖いですよ!弾は躱せても、姐さんの突きは絶対に躱せませんからね!」

 

ヤクザの構成員にここまで言わせる琴の日常的なシゴキの恐ろしさが、容易に想像できる。

 

「そういうわけですから」

 

「俺と宇佐美が、とりあえず護衛として神谷道場まで同行しますぜ。道中、また御庭番衆や、観柳の私兵が待ち伏せしているかもしれません。弾除けくらいにはなりまさぁ」

 

「おろ……」

 

「……集英組の皆がそこまで言って同行してくれるというのなら、これほど心強いことはないでござる。拙者一人では、恵殿を守りきれない場面もあるかもしれん。……かたじけないでござる、水野殿、宇佐美殿。よろしく頼むでござるよ」

 

素直な感謝の言葉に、水野と宇佐美は「へいっ! 任せてくだせえ!」と嬉しそうに胸を張る。

 

「おいおいおい」

 

「なんだよこの構図。伝説の維新志士・緋村抜刀斎が、大鎌と拳銃を持ったバリバリの武闘派ヤクザ二人を引き連れて白昼堂々、東京の表通りを練り歩くのか? 警察が見たら一発で職務質問もんの、とんでもねえ絵面だぞ。これじゃあどっちが悪の組織だかわからねえじゃねえか」

 

「細かいことは気にすんな、左之助さん。これも極道の人助けってやつですよ」

 

「お前らが言うと全く人助けに聞こえねえんだよ。完全にカチコミに行く前の顔してんじゃねえか」

 

「……お掃除終わった。ゴミは裏の路地に捨てておいた」

 

お彦さんは、血の付いたハタキを腰のエプロンの帯に無造作にスッと差し込みながら、剣心たちの集団に合流する。

 

「お、おい!お前なんで出てきたんだよ!」

 

「ネズミはもう全部三枚おろしにして、裏の野良猫にあげた」

 

「仕事が早すぎるだろ!!どんだけ神速でネズミ狩りしてんだよ!!」

 

「私も行く」

 

「な、なんでお主までついてくるのでござるか!?」

 

「お主は集英組のメイドとして雇われたのでござろう?琴殿が留守の間に、勝手に屋敷を空けてウロウロしていては、後でまた琴殿に怒られるでござるよ!指を詰める騒ぎになるでござる!」

 

「大丈夫」

 

「お義母さんには、『弥彦ちゃんが学校をサボらないように、後ろからぴったりとついて見張ってなさい』って命令されてる。これはメイドとしての立派な重要任務。職務放棄じゃない」

 

「だから?」

 

「弥彦は今、学校に行ってる最中だろ。俺たちが今から向かうのは神谷道場だ。弥彦の監視なら、学校の校門の前で待ち伏せでもしてろよ。なんで俺たちについてくるんだよ」

 

「左之助は頭が悪いね」

 

「弥彦ちゃんは、学校が終わったらすぐに、あのゴリラ……じゃなくて、薫ちゃんのいる神谷道場に直行するって言ってた。だから、私が今から神谷道場に行って先回りして待っていれば、弥彦ちゃんがちゃんと学校から道場に来るか、途中で寄り道してサボらないか、確実に監視できる。極めて合理的で効率的な動線計画。完璧」

 

「合理的じゃねえよ!!」

 

「ただお前が神谷道場に行きたいだけだろ!!っていうか、お前がメイド服とバカ長い刀で道場でウロウロしてたら、近所の住人が不審者として通報するぞ!!弥彦も迷惑だろうが!!」

 

「うん、だから通報される前に、通報しそうな人を峰打ちで切っておく。そうすれば誰も警察を呼べない。完璧な隠密行動」

 

「それが隠密行動じゃねえって言ってんだよ!!完全に通り魔だろうが!!お前の頭の辞書には『平和的解決』って言葉は存在しねえのか!!」

 

「……」

 

「……ねえ」

 

「このメイドの女……『河上彦斎』って冗談じゃないのよね……?」

 

「おろ……残念ながら、事実でござるよ」

 

「見た目はあの通り、ちょっと……いや、かなり頭のネジが飛んでいるように見えるでござるが、その剣の腕は本物。幕末の京都で、拙者と並んで恐れられた、正真正銘のバケモノでござる」

 

「東京ってどうなってんの!!私、こんなイカれた連中に命を預けて本当に大丈夫なの!?」

 

「はぁ……」

 

左之助が、額に手を当てて、これから一緒に歩くことになる一行の顔ぶれを、改めて端から端まで見渡す。

 

「伝説の人斬り抜刀斎に……」

 

左之助の視線が、赤い着物の剣心に向かう。

 

「幕末の四大人斬りにして、頭のネジが完全に吹き飛んでいる狂人の天然サイコパス・人斬りメイドに……」

 

視線が、ハタキを持って無表情で立っているお彦さんに移る。

 

「さらに、琴の姐さんにしごき抜かれて感覚が麻痺してる、大鎌と拳銃を持った集英組の武闘派ヤクザの凶犬コンビか……」

 

「……ずいぶんと賑やかで、そしてとんでもなく物騒な一行になったな。これ、普通に歩いてるだけでパレードか暴動と勘違いされるレベルだぞ」

 

自分自身も巨大な斬馬刀を背負った喧嘩屋であることを棚に上げて、盛大に呆れる。

 

「……ねえ」

 

「本当に、本当にあんたたちで大丈夫なの?私、観柳の私兵団に殺される前に、あんたたちの常識外れのドタバタに巻き込まれて、かえってストレスで寿命が縮みそうなんだけど…………」

 

「おろろ、そんなこと言わずに信じてほしいでござるよ、恵殿!」

 

「道中、何があっても拙者が、必ず恵殿をお守りするでござる!さあ、善は急げでござる。薫殿たちが待つ、神谷道場へ出発するでござるよ!」

 

「おう!出発だ!」

 

「へいっ!前後の警戒は俺たちに任せてくだせえ!」

 

「うん。弥彦ちゃんの監視、頑張る」

 

まるで何かの仮装行列のような一団は、一路安全地帯であるはずの神谷道場へと向けて、白昼の東京の街を練り歩き始めるのだった。

道行く人々が、大鎌やメイド服や斬馬刀を見て、慌てて道を譲っていくのは言うまでもない。




もしよければ

・彦斎のキャラ
・左之助の扱い
・恵のツッコミ

など、感想をいただけると嬉しいです。

第一回キャラクター人気投票(コメントもぜひ感想欄に)

  • 明神琴(沖田総司)
  • 河上彦斎(お彦)
  • 明神弥彦
  • 緋村剣心
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