転生して型月版・沖田総司になったけど、労咳を克服したら明神弥彦の母になっていた件 〜るろ剣世界で最強のママやってます〜   作:だいたい大丈夫

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神谷道場に、ひとりの女が連れてこられた。

その名は高荷恵。
観柳の屋敷から逃げ出してきた、阿片精製の技術を持つ女だった。

極道、人斬り、喧嘩屋、そして剣客。

とんでもない顔ぶれに囲まれた道場で、
恵の運命は大きく動き始める。

そして――

この騒動に、
あのメイドが黙っているはずもなかった。


任侠の矜持

「……剣心たち、遅いわねえ」

 

薫が、ため息混じりにポツリとこぼす。

 

「もう日が暮れちゃうわよ。お昼ご飯の時にちょっと出かけただけなのに、一体どこで道草食ってるのかしら」

 

「心配すんなよ」

 

「どうせ今日は、集英組(ウチ)の直営賭場が一番賑わう日だからな。左之助のバカが、剣心をダシにして、賭場で相当大勝ちして木札の山を抱えてるか、それとも調子に乗りすぎて逆にスッテンテンに身ぐるみ剥がされてるかのどっちかだろ。あのコンビなら死ぬこたぁねえよ」

 

「でも……」

 

「神谷活心流という、人を活かす剣術を教える道場に、賭博の上がりみたいな汚いお金を持ち込むなんて……教育上、全然よろしくないわよ。弥彦だって、そんな大人たちの真似しちゃダメだからね」

 

「はんっ」

 

「何言ってんだよ、お前。世間知らずのお嬢様かよ。ウチの集英組が仕切ってる賭場はな、シノギ(経済活動)の中でも一番真っ当でクリーンな部類の事業だぜ?強制じゃないし、客が自分の意志で金落としてるだけだ。殺しも強請りもねえ、ただの娯楽と確率の提供なんだから。……あんまり極道に、素人がケチなこと言うなよな、薫」

 

「…………」

 

(なんか、そんな理屈に納得しそうになってる自分がいる……。私も、少しずつ極道の価値観に毒されてきてるわ。お琴さんの英才教育、本当に恐ろしい……。このままじゃ、道場がヤクザのフロント企業にされちゃう……)

 

薫が、神谷道場の未来と自分自身の倫理観の崩壊に絶望しかけていた、その時だった。

 

「ただ今戻ったでござるよ」

 

「あ、剣心!」

 

「おかえりなさ……って」

 

薫の言葉が、途中でピシャリと止まる。

 

「……誰よ、そのやけに色気のある綺麗な人は!?」

 

「……ふーん」

 

「随分と寂れたところね。ここが、あんたたちが『安全な場所』って言ってた剣術道場?思ってたよりずっとボロくて、期待外れだわ。本当にこんなところで、観柳の私兵団から私を守りきれるの?」

 

「な、失礼ね!ボロくて悪かったわね!!」

 

「あ、いや……薫殿、落ち着くでござる」

 

剣心が、慌てて二人の間に入って仲裁する。

 

「このお方は高荷恵殿。実は今日、賭場でちょっとした悶着がありまして、色々と込み入った事情があって、ひとまずこの道場へ避難してお連れしたわけでござるよ……」

 

「そうそう、そういうことだ」

 

「相手が、賭場の借金を払わねえって踏み倒そうとしたからよ、その借金の代わりに、この女を『カタ』として貰ってきたんだ。これで集英組の赤字も帳消しってな!」

 

「はあ!?」

 

「へえ……」

 

しかし、その嘘を真っ向から信じ込んだのが、縁側から顔を出した弥彦だった。

 

「なるほどな。借金のカタに女を連れ帰るなんて、いかにもヤクザの取り立てらしい手口じゃねえか。……なかなか上玉だし、吉原にでも沈めりゃあ、それなりの金額になりそうだな。やるな、左之助」

 

十歳の子供の口から出る言葉とは到底思えない。

 

「…………坊っちゃん、発言が完全に極道の跡取りのそれになってますぜ」

 

「俺たちとしては、将来が末恐ろしくて楽しみでなりませんがね」

 

「み、水野さん、宇佐美さん……!!」

 

「そ、それ本当!?借金のカタに人間を連れてきたって……!! 剣心、あなたもそれを黙って見てたの!?そんな、人買いみたいな酷い真似するなんて、見損なったわ!!」

 

「お、おろろ!!違うでござる!!左之助のただの冗談でござるよ!!」

 

「薫ちゃん。怒らなくていい。大丈夫だよ」

 

「ひゃあ!?」

 

薫が、突然横に現れたお彦さんに驚いて、小さく飛び上がる。

 

「な、なに!? っていうか、なんでそんな変な格好してるの!?」

 

「恵は、すごく役に立つ。だから大丈夫」

 

「何が大丈夫なのよ!役に立つって、どういう意味!?無理やり借金のカタに連れてくるなんて、立派な犯罪じゃない!」

 

正義感から食ってかかる。

 

「……恵は」

 

「恵は、阿片の精製技術を持ってる。つまり、ただの女じゃなくて、歩く金づる。ウチの組の地下工場で働かせれば、莫大な利益になる。だから、カタとして連れてきたのは大正解」

 

「阿片密造!!?」

 

「そ、それこそ即座に死刑案件じゃない!!ヤクザのシノギどころの話じゃないわよ!!お琴さんが帰ってきてそんなこと知ったら、絶対に黙ってないわよ!!!」

 

「…………薫ちゃん」

 

「薫ちゃんは、弥彦ちゃんの未来のお嫁さん候補。ヤクザの家族になる人間が、何を今更、世間の常識みたいな綺麗事を言ってるの?」

 

「よ、嫁じゃないわよ!!誰が弥彦の嫁になんか!!」

 

顔を真っ赤にして否定するが、お彦さんは止まらない。

 

「薫ちゃん、知らない?」

 

「この神谷道場が、いつも綺麗に保たれている修理代も、弥彦ちゃんが払っている高い月謝も、それから、毎晩のように薫ちゃんたちが赤べこで食べてる牛鍋の代金も……」

 

「……全部、お義母さん(琴)や極道たちが、外で『悪いこと』をして稼いだ汚いお金。一旦この道場を経由させる。お金綺麗になる。知らなかった?」

 

「そう。薫ちゃん、悪いお金の恩恵を受けて生きてる、立派な共犯者。もし捕まったら、薫ちゃんも死刑になる。私と同じ。……だから、大丈夫」

 

「……全然、大丈夫じゃなーーーーい!!!」

 

「わ、私……!!私、いつの間にか、道場をヤクザの資金洗浄の隠れ蓑にされて、国際的犯罪の片棒を担がされてたの!?死刑!?私、死刑なの!?」

 

「私は、弥彦ちゃんの専属メイドだから、弥彦ちゃんのお手付きになったら側室、死刑にはならないかもしれない」

 

「薫ちゃんも、死刑になりたくなかったら、抜刀斎のお手付きになる?守ってもらう? 抜刀斎の『種』が欲しい?子供の作り方、あとで教える。だから大丈夫」

 

「その『大丈夫』は、もういいから!!」

 

「剣心!!助けて!!このメイド、見た目は可愛いのに言ってること全部サイコパスで怖すぎる!!私の精神が崩壊する!!」

 

「おろろろ……お彦殿、あまり薫殿をからかわないでほしいでござる……」

 

「からかってない。全部事実に基づくシミュレーション。メイドは嘘つかない」

 

「……あんたたち、本当にバカね」

 

玄関の端っこで静かに見ていた恵が、呆れたように小さな笑いをこぼした。

 

「ヤクザと人斬りが同居してるって聞いて、どんな恐ろしい魔窟かと思ったら……ただの、口の減らないバカの集まりじゃないの。少しだけ、気が抜けたわ」

 

「おろ。そうでござるよ。ここは、皆が笑顔でいられる、ただの少し騒がしいだけの場所でござる。だから恵殿も、もう観柳の影に怯える必要はないでござるよ」

 

恵は少しだけ顔を赤らめ、スッと視線を逸らす。

 

「……ふん。せいぜい、私を利用して、観柳からたんまりお金をふんだくってちょうだいね」

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

 

「……薫。もう諦めろ」

 

「あのな、お前もさっきから聞いてて薄々気づいてるだろ。お彦に、世間一般の常識とか、法律とか、倫理観みたいな綺麗事を分からせるのは、不可能なんだよ。犬に算数を教えるより難しいぞ。こいつの頭の中の辞書には『暗殺』と『食べ物』しか載ってねえんだから、まともに会話して説得しようとするだけ、お前の精神力が削られて無駄になるだけだ」

 

薫は白目を剥きかけたまま、魂の抜けた声で「うう……私の道場が……ヤクザのフロント企業に……」とブツブツとうわ言を繰り返している。もはや現実逃避の段階に入っているようだ。

 

「……で?そこのキツネ女」

 

「さっき、このサイコメイドが『阿片を作れる』って言ってたが……あんた、それが本当ならタダじゃ済まねえぞ。ウチのシマでそんなヤバいもん作れる人間がウロウロしてるってのは、色々と問題がある」

 

「……私は……」

 

「……望んで、作っていたわけじゃないわ。でも……あの悪魔に騙されて、監禁されて……無理やり、生きるためにあんなものを作らされていたのよ……!」

 

被害者であることを強調し、同情を引こうとする女の生存本能の表れである。

 

「なんだよ」

 

「なんだ、それが嫌で屋敷からコソコソ逃げ出してきたって口かよ。自分の意志で悪党やってるわけでもねえ、ただ流されてるだけの女か。……それじゃあ、金づるとしても、ウチの組の裏稼業の戦力としても、全く使えねえな」

 

「……だがな」

 

「……水野。宇佐美。よく聞け」

 

「へいっ!」

 

若頭候補である弥彦の声に、二人の構成員が即座に姿勢を正して応じる。

 

「こいつ……この狐女は、どんな手を使ってでも徹底的に守ってやれ。指一本触れさせるな」

 

「え……?」

 

さっきまで「使えない」と見下していたはずなのに、なぜ突然保護を命じるのか、理解が追いつかないのだ。

 

「母さんが……、今留守にしていないからな」

 

「いねえ間は、この集英組の跡取りである俺が、しっかりとシマの面子を保たねえといけねえんだよ。……いいか?ウチの賭場に泣きついて頼ってきた女を、相手が金持ちの軍隊だからってビビって、みすみす敵に引き渡したとあっちゃあ……関東集英組の看板に泥を塗るどころか、任侠者としての最大の恥だろうが!!」

 

それは、弱きを助け強きを挫く、極道としての矜持。母親である明神琴から骨の髄まで叩き込まれた、ヤクザとしての絶対に譲れない一本の筋だ。

 

「お!!」

 

「言うねえ、弥彦!!その意気だぜ!!流石は琴の姐さんが手塩にかけて育てた息子だぜ!惚れ惚れするような立派なタンカじゃねえか!そうだ、泣きついてきた女を見捨てるようなダサい真似は、俺たち東京の男が許さねえ!!」

 

「痛ててて!やめろ左之助! 髪が乱れるだろうが!」

 

「……しかし、本当に良いのでござるか? 弥彦」

 

「阿片は……、左之助の友人である……あの宵太殿の命を、奪い去った毒薬でござるよ。その毒薬の製造者を、ウチのシマで匿うということは……ある意味で、宵太殿の死を容認し、さらなる被害を広げる手助けになりかねないのではないでござるか?」

 

「剣心……お前、相変わらず頭が固てえな」

 

「なに……?」

 

「いいか、剣心」

 

「お前は、街を歩いていてどっかの馬鹿な敵が木刀や石ころで殴りかかってきた時、その敵が持っていた木刀や石ころそのものを『悪い奴だ』って憎んだりするか?」

 

「……いや、道具を憎むような馬鹿な真似はしないでござるが」

 

「だろ?」

 

「阿片だって同じだ。悪いのは、ただの粉である薬そのものじゃねえ。……そして、その薬を無理やり作らされているだけの、このひ弱な女でもねえんだよ」

 

左之助の言葉に、恵がハッと顔を上げる。

 

「悪いのは、その薬を使って、弱い人間を依存させて殺し、自分の懐を肥やして金を儲けている、観柳とかいう腐れ外道の野郎だ。……宵太を殺したのは、この女でも阿片でもねえ。観柳だ。俺は、本当の悪党だけを斬馬刀でぶっ飛ばせば、それで気が済むんだよ」

 

「左之助……」

 

「ふふっ……あんたたち、本当に変わった人たちね。ヤクザと人斬りと喧嘩屋が、揃いも揃ってこんなお人好しだなんて」

 

恵が、左之助の言葉に救われたように、少しだけ目に涙を浮かべながら、狐のような妖艶な笑みをこぼす。

 

普通なら、ここで物語は美しい絆の確認と共に、打倒・観柳に向けて綺麗にまとまるはずである。

 

しかし。

 

ここは、あの明神琴が支配する関東集英組の息がかかった神谷道場である。

感動的なシーンが、そのまま綺麗な空気で終わるはずがないのだ。

 

「大丈夫。恵」

 

「ひゃあ!!?」

 

耳元で突然囁かれた感情のない平坦な声に、心臓が止まりそうになるほど驚いて悲鳴を上げる。

 

「ええ……?彦斎さん……?いつからそこに……」

 

「今は、お彦。メイドのお彦さん」

 

「恵は、私に負けないくらい、すごく美人で色気がある。胸も大きい。……だから、絶対大丈夫」

 

「……え?なにが大丈夫なの……?」

 

不気味な視線に、背筋に強烈な悪寒を走らせて後ずさる。

 

「集英組のシマで、勝手に阿片をバラ撒いて、死人まで出してる。それはヤクザのルールでは絶対に許されないこと」

 

「如何なる悲しい事情や理由があろうとも、結果的に毒を製造していた恵は、普通なら見つけ次第、首を斬るのがスジ。弁解の余地はないの」

 

「ヒィッ……!!」

 

「でも」

 

「ウチの地下工場で死ぬまで阿片を作る。莫大な金を組に回す。それが命を助けてもらうための最低限の礼儀。……でも、作らないなら、仕方ない。別の方法で稼いでもらうしかない」

 

「べ、別の方法……?」

 

「うん」

 

「阿片が作れなくても、恵にはその顔と体がある。それを使えば、馬鹿な男をいくらでも引っ掛けて、骨の髄まで金を毟(むし)り取れる。……これも立派なシノギ」

 

「集英組の伝を使って、お金をたくさん持ってるカモを、毎日たくさん斡旋してあげる。恵なら、吉原の太夫よりずっと稼げると思う。ノルマは一日十人ね」

 

「な……!!」

 

「……で?」

 

お彦さんは、さらに一歩恵に近づき、真顔で、とんでもないセクハラ質問をぶち込む。

 

「恵は、今まで男の経験は何人くらいある?テクニックは自信ある?もし自信がないなら、私が手取り足取り、寝技から教える。夜の奉仕は体力が大事だから」

 

「やめなさい!!!」

 

「あんた、初対面の恵さんに一体なんてこと言うのよ!! この変態サイコメイド!!恵さんにそんな薄汚い夜の変なこと教えないで!!この道場は神聖な場所なのよ!!」

 

「え?」

 

「なに? 薫ちゃんも、夜の技術、知らない?」

 

「し、知るわけないでしょ!!私は純真無垢な乙女よ!!」

 

「そうなんだ。じゃあ、薫ちゃんにも、恵のついでに一緒に教えてる」

 

「……ベッドの上で男を完全に身動き取れなくする秘術、『夜の心の一方』それから、相手の急所を三連続で的確に責め立てる、『夜の三段突き』これさえマスターすれば、抜刀斎もいちころだよ。私に任せて。だから大丈夫」

 

「……だから、その『大丈夫』の使い方が根本的に間違ってるのよぉぉぉぉぉ!!!」

 

「全然大丈夫じゃなーーーーーい!!!なんで私が、こんなサイコパスおばさんから、夜の三段突きなんていう恐ろしい名前のテクニックを教わらなきゃいけないのよ!!お嫁に行けなくなるわ!!剣心、左之助、弥彦!!誰かこのメイドをつまみ出してぇぇぇぇ!!!」

 

武田観柳の脅威など、この道場のカオスな日常の前では、もはやただのスパイスに過ぎないのかもしれない。




もしよければ

・彦斎の暴走
・薫の崩壊
・弥彦の覚悟

など、感想をいただけると嬉しいです。

第一回キャラクター人気投票(コメントもぜひ感想欄に)

  • 明神琴(沖田総司)
  • 河上彦斎(お彦)
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  • 緋村剣心
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  • 宇佐美
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