転生して型月版・沖田総司になったけど、労咳を克服したら明神弥彦の母になっていた件 〜るろ剣世界で最強のママやってます〜 作:だいたい大丈夫
集英組の戦闘員たちは想像以上に強く、剣心は想像以上に出番がない。
そして弥彦が毒に倒れた時、一番冷静だったのは――メイド服の殺し屋でした。
神谷道場は本来、人を活かす剣術を学ぶ場所らしい。
でも今の私から見ると、かなり散らかった戦場。門の横の土壁は吹き飛んでいるし、庭の砂利はあちこち抉れているし、草木まで踏み荒らされている。
あとで掃除する人のことを誰も考えていない。良くない。
袖口を汚さないように、ほんの少しだけ両手を浮かせて立つ。
メイド服は戦闘服ではないけど、似合っているから問題ない。可愛い服で血を見るのは、なんだかバランスが悪くて面白い。
お義母さんに買ってもらった制服だし、できれば返り血は避けたい。避けられないなら諦めるけど、避けられるなら避ける。それが一流のメイドであり暗殺者の仕事だと思う。
抜刀斎は刀に手をかけているのに、今日は少しだけ引いている。多分、戦っているのが集英組の人間だから、客人として一歩譲っているんだと思う。
でも、そういう遠慮は、強い人間がやると少し損をする。
私は幕末の頃から何度も見てきた。遠慮して出遅れた人間は、あとでだいたい主人公の座を失う。
水野と宇佐美は、お義母さんに鍛えられた犬だ。比喩じゃなくて、本当に噛みつく時の目をしている。
命令を理解して、相手の喉笛に迷わず飛びかかれる人間は強い。私はそういう人間が好き。会話が通じなくても、動きが通じるから。
我介も嫌いじゃないけど、あの人は少し情が深い。あと、たまに運が悪い。弥彦ちゃん誘拐の時も油断してた。
でも今日ここにいる二人は、純粋に戦闘員として質が高い。
庭の一角で、宇佐美が癋見とかいう小さい暗器使いとやり合っている。
木の上、石灯籠の陰、庭石の裏、柱の脇。位置が数秒ごとに変わる。
常人なら目で追うだけで疲れると思う。でも私は平気。目で追えないなら、呼吸と気配で見ればいい。
しかも、あの程度の速度なら、お義母さんの縮地よりはずっと遅い。比較対象が悪いだけだけど。
「チッ……!銃なんかに負けるかよ!!いかに弾が速かろうが、射線が通らなければ当たりはしねえ!!」
宇佐美は地面を滑るみたいに移動しながら、涼しい顔でリボルバーを構える。
「それはお前も同じだろうが!!俺の動体視力から逃げ切れると思うな!」
そういう言い合いは大事。
強い人間は、戦う前に相手の心を削る。暗殺でも同じ。心がぶれると手元もぶれる。手元がぶれると首の切れ味が落ちる。私はそれが嫌い。
癋見の指先から螺旋鋲が飛ぶ。
小さいし見えにくい。普通なら避けるだけで精一杯。でも宇佐美は、振り向きざまにあっさり引き金を引く。
パンッ。
火花が散る。
空中で弾丸とぶつかって、螺旋鋲が砕ける。
「へっ……止まって見えるぜ。あんなもん、夏の蚊が止まるレベルの遅さだ!!」
癋見の顔色が一気に悪くなる。いい顔。自分より強いものを見た時の顔は、見ていて飽きない。
「はぁ……はぁ……!アレが、マジでただのヤクザなのかよ……!まともな密偵や暗殺者より、よっぽど強えじゃねえか!!」
「知らなかったか?アイツらは、ウチの組でも戦闘員としては最強の一角だぜ。……まあ、我介も油断さえしなければ強いんだけどな」
「…………驚いた。あの二人、すごく強い。我介よりも強い」
弥彦ちゃんが少し得意そうな顔をする。
かわいい。
自分の仲間を褒められると嬉しいらしい。年相応で良い。
だから、私はさらに正直に言う。
「確かに……弥彦ちゃんを攫った時、あの二人は道場にいなかった。いたら、少し面倒だったかも」
「だろ?」
すぐ乗る。やっぱりかわいい。
その間に、石塀の陰へ消えた癋見に向けて、宇佐美が銃口を持ち上げる。
でも狙う先は相手のいるはずの場所じゃない。庭に置かれた大きな庭石の、丸く磨かれた表面。
パンッ。
一発だけ。
「はっ!どこに撃ってやがる!!ビビって手元が狂った……がっ!!?」
次の瞬間、石塀の裏に隠れていたはずの男の脇腹が深く抉れて、血が飛ぶ。
庭石で一度、柱でさらに一度、角度を変えた弾丸が、綺麗に死角から刺さったのだ。
「……あ」
これはかなりすごい。
隠れた相手を殺せる人間は強い。ものすごく強い。しかも銃でやるのは面白い。
「琴の姐さんが言ってたぜ。『真っ直ぐしか飛ばない弾を、あえて跳ね返って当てられるようになったら、お前は最強だ』ってな。……コンセントレーション・ワンって奴だ。俺に撃ち抜けないものは……ない!」
コンセントレーション・ワン。
お義母さんは、たまに意味の分からない横文字を使う。でもだいたい強い。
意味より結果が大事。実際、今の一撃はかなりかっこいい。
「…………いい。すごく効率的」
宇佐美は一瞬だけこっちを見て、ちょっと嬉しそうに片眉を上げる。
褒められるのは好きらしい。いいこと。
◇◇
庭の反対側では、左之助が般若と向き合っている。
こっちも面白い。
般若は腕が伸びるし、骨も硬い。気配の使い方も悪くない。お面も不気味で、それなりに雰囲気がある。
でも左之助は左之助で、純粋に体が強い。あと技が素直。素直な技は読まれやすいけど、力で押し通す人間が使うと凶悪になる。
「ほう……。その超重武器で、大上段からの刺突か……。非常識な構えだな」
「へっ!死んじまったら、恨むなよ!おらあッ!!」
無明三段の壱の突き。
私は前にも見た。お義母さんが左之助に教えた、無茶苦茶で、でも理屈が通っている技。
般若はまともに受けない。
両腕の縞模様をちらつかせて錯覚を混ぜながら、拳の側面を当てて紙一重で流す。
判断は正しい。あれを真正面から受けたら腕の骨が終わる。
でも左之助は、そこで終わらない。
「おらあッ!!」
突き抜けた勢いを、無理やり腕力で殺して横薙ぎに変える。
「ふっ!!ここだ!」
反撃に移る気配。
「まだ終わってねえよ!!」
打ち下ろし。
私は思う。やっぱりこの技、好き。全然上品じゃないし、暗殺向きでもない。でも真正面から相手を潰すという一点ではすごく気持ちがいい。
般若が両腕を交差させて受ける。
けれど、お義母さんに研がれた斬馬刀は、変なところで妙に信頼性が高い。防具ごと肉まで裂いて、血が落ちる。
「ぐううっ!!!」
般若が後ろへ飛び退く。
左之助は追わずに、斬馬刀を構え直す。少しだけ成長している。昔ならそのまま突っ込んでいたと思う。
教育は大事。
「……切れ味まで異常か。本当に頭のおかしい刃だな」
「だろ?ウチの姐さんは研ぐ時も加減を知らねえんだよ。おかげで布も鎧も気分で切れやがる」
その時、庭の端で血を吐いた癋見が、ぐちゃっとした声を出す。
「ゼェ……ハァ……!このままおめおめと御頭の元へ帰れるか……!せめて、高荷恵!お前だけは死ね!!!」
よくない。
恵は今、この場で一番弱い。私はそういうの、幕末から何度も見ている。弱いところを狙うのは暗殺の基本。
だから対処も早くしないといけない。
狙いは恵の眉間。
でも、その前に弥彦ちゃんが飛び出す。
「!危ねえ!!」
ブッ、という嫌な感触の音。
螺旋鋲が弥彦ちゃんの前腕に深く刺さる。
これは痛い。かなり痛い。子供の腕に刺していい深さじゃない。
自分の腕からそれを指で抉り出して、そのまま地面に捨てる。
根性がすごい。本当にお義母さんの息子。
「……女を狙うなんて、卑怯な真似しやがって……あ?」
「毒か!!弥彦!!」
「弥彦!!」
「今が好機!退くぞ!!!」
濃い煙。
火薬の匂い。
視界が白く埋まる。
判断は正しい。でも、お掃除の途中で帰るのは感じが悪い。あと門も壊したまま。悪質。
「弥彦!!弥彦!!剣心!!どうしたら!?」
「銃創や刀傷なら経験はあるが、解毒となると……!まずは、傷口から直接毒を吸い出して……!」
私はその瞬間に、だめ、と思う。
だめなものはだめ。
だから薫ちゃんの口に指を突っ込む。
「はにふんのほ!!?」
「だめ」
「傷口から直接口で毒を吸い出すのは、吸い出す側の口の中に小さな傷があった場合、そこから毒が回るから危険。血液を介した感染の危険もある。ダメ」
「お、おろ……左様でござるか」
多分、自分の口に指を突っ込まれなくて安心したんだと思う。人は正直。
「まずは、これ以上毒が回らないように、傷口の根元(心臓に近い方)をきつく縛る。そして、血はなるべく絞り出す」
「雑に抜いたのは正解。でもまだ残ってる可能性がある」
左之助が駆け寄って、自分の着物の裾を裂こうとする。
すぐ止める。
「そっちじゃない。もっと細長く裂く。太いと止血帯にならない」
「細けりゃいいのか!?」
「うん。あと、ちゃんと締める。遠慮しない」
左之助は珍しく素直に従う。こういう時の脳筋は便利。
今この場で一番必要な人間は、このキツネ女。
患者を見る目を持っている。ずっとそう思っていた。
「……そして、一番大事なのは、医者に見せること。……恵」
「私にはわかる。あんたは医者……それか、少なくとも医者の卵。弥彦ちゃんを助けて。もし助からなかったら……」
「…………!!」
「恵を斬って、弥彦ちゃんに謝るために私も腹を切って死ぬ」
これは脅しじゃなくて、かなり本気。
私の中で一飯の恩は重いし、弥彦ちゃんは今、私の味方。
味方を守れないなら、自分ごと切るしかない。
理屈としては綺麗。
「ひいぃぃっ!!こ、怖い!!わ、わかったわよ!!大丈夫、私に任せて!!」
こういう顔は好き。
「弥彦ちゃんの今の状態……微熱に昏睡、浅い呼吸に瞳孔散大。……多分、『チョウセンアサガオ』華岡青洲が作った麻酔薬『通仙散(麻沸散)』の原料。私は殺し屋だから毒を使うのは知ってるけど、解毒方法は知らない。恵、知ってる?」
「……ええ!今から必要な生薬と道具を書くから!!左之助君は、大量の湯を沸かして!それと手ぬぐいと置き薬の箱を用意してちょうだい!水野さんと宇佐美さんは、氷をありったけ買ってきて!!急いで!!」
すごくいい。
こういう時に迷わず人を動かせるのは強い。剣より強いこともある。
「おう!!!」
「坊っちゃん!!気を確かに!!すぐに氷持ってきまさぁ!!」
「火は俺が見ます!手ぬぐいも全部持ってきやす!」
「弥彦!死ぬなよ!!湯なんかすぐ沸かしてやるからな!!」
薫ちゃんは半泣きで弥彦ちゃんの頭を膝に乗せている。
「弥彦、聞こえる?しっかりして、お願い……!」
弥彦ちゃんは返事をしない。
でも、まだ死んでいない。だから大丈夫かは分からないけど、まだ終わっていない。
抜刀斎は少し立ち尽くしている。
別にサボっているわけじゃないと思う。でも、今日のこの一件に限って言えば、本当に何もしていない。
気づいたことは言うべきだと思う。メイドは正直じゃないといけない。
だから、私はそっと抜刀斎の袖を引く。
「…………ねえ、抜刀斎」
「何でござるか?お彦殿」
「お前、今回……本当に何もしてない。一回も戦ってないし、弥彦ちゃんが毒を受けた時も見てただけ。……ただの役立たず」
グサァッ!!!!
って本当に顔に書いてある。
そのまま膝をつく。
「い、いや……!拙者だって出番があれば……!み、皆が強すぎるのでござるよ!!」
「主人公の座は譲ってもらう。次回から、この物語のタイトルは『メイド抜刀お彦さん』になる。よろしく」
「乗っ取られたぁぁぁ!!!?」
「こんな時に何言ってるのよあんたたち!!」
「剣さんは落ち込んでないで、灯りをもっとこっちへ!!あと、舌を噛まないように布を!早く!!」
「は、はいでござる!」
役立たずと言われた後の男は扱いやすい。覚えた。
「今日は、弥彦ちゃんを助けるために、私が医者を起動した。抜刀斎は見てた。だから、主役交代は自然」
「自然ではないでござる!!その理屈だと拙者のこれまでの積み重ねが全部消えるでござる!!」
「積み重ねても、今日は何もしてない」
「ひどい!!」
正直に言っただけなのに、抜刀斎はすごく傷つく。繊細。
「おしゃべりしてる暇があるなら手を動かして!!」
「うん。今の主役は恵。私は次回から」
「勝手に次回予告しないで!!」
薫ちゃんが即座に突っ込む。元気があっていい。
「持ってきたぞ!!次は!?」
「腕を固定して!冷やす用の布を替え続けて!あと、傷口の色と呼吸を見て報告して!」
庭はまだ散らかっている。
土壁も門も壊れてるし、竹刀も一本ダメにした。
私の竹刀は、般若の腕を受けた時に先が少し割れた。備品を壊したのは良くない。あとでお義母さんに正直に報告するべきか、黙って別の竹刀とすり替えるべきか、少し迷う。
「氷、ありったけ買ってきやした!!」
「これとこれで足りやすか!?」
「いいわ、そのまま!薫さん、汗を拭いて!剣さん、その灯りもっと下!」
「お、おろ!こうでござるか!?」
「近い!少し離して!」
「おろろ!」
抜刀斎は本当に助手としてよく働く。向いているのかもしれない。今後は道場の救護係でもいいと思う。
「……でも、次回、ちゃんと戦えたら、タイトルの一部くらいは貸してあげる」
「ほ、本当でござるか!?」
「うん。『メイド抜刀お彦さんと、たまに剣心』くらいなら考える」
「たまにぃぃぃ!!!」
空気は少しだけ軽くなる。
こういうのは大事。張り詰めたままだと、人は折れる。
今回は戦闘描写多め+後半は応急処置と主役乗っ取りギャグ回でした。
宇佐美の跳弾、左之助の無明三段、お彦さんの「今回は剣心何もしてない」あたり、どこが一番好きだったか教えていただけると嬉しいです。
あと、本当にタイトルを乗っ取ってよさそうかもぜひ。
第一回キャラクター人気投票(コメントもぜひ感想欄に)
-
明神琴(沖田総司)
-
河上彦斎(お彦)
-
明神弥彦
-
緋村剣心
-
相楽左之助
-
神谷薫
-
高荷恵
-
四乃森蒼紫
-
志々雄真実
-
瀬田宗次郎
-
鵜堂刃衛
-
宇佐美
-
水野
-
我介