転生して型月版・沖田総司になったけど、労咳を克服したら明神弥彦の母になっていた件 〜るろ剣世界で最強のママやってます〜 作:だいたい大丈夫
そんな面倒な話を、神谷道場の住人たちは放っておけない。
重い過去と軽すぎるツッコミでお届けする、少しやさしい居場所の話です。
土気色だった弥彦ちゃんの頬に、微かに赤みが差している。
死の淵から生還した証に、胸のつかえが少し下りる。
さっきまでの、死体に片足を突っ込んだような白さは、見ていて心臓に悪かった。
子どもの寝顔はいい。
静かで、反論もしないし、何より眉間に皺が寄っていない。
大人はだめだ。
すぐに騒ぐし、怒鳴るし、勝手な思い込みで話を進める。
特に左之助はうるさい。
抜刀斎も静かな顔をして、中身はだいぶおかしい。
薫ちゃんはまともなふりをしているが、たまに勢いだけで全てを押し切る。
恵はまだ常識がある方だが、常識がある人間はこの道場だと、逆に疲弊する。
だから、今この部屋で最も健康に見えるのは、毒針で倒れて寝込んでいる弥彦ちゃんだ。
世の中の基準というのは、どうにもおかしい。
町医者の玄斎先生が、弥彦ちゃんの手首に指を当て、うんうんと深く頷いている。
その拍子に、蓄えられた白髭が揺れた。
いかにも「近所の頼れるお医者さん」という風貌で、得も言われぬ安心感がある。
あと、名前がいい。玄斎。
私の彦斎に、似ている。
それだけで、親近感が跳ね上がる。
「うむ……脈は正常に戻った。これで安心じゃな」
その確かな見立てに安堵し、私は先生の古びた羽織の肩を、親愛を込めて軽く叩いた。
「お医者さん、私と同じ名前。玄斎と彦斎。だから弥彦ちゃんは大丈夫」
左之助が即座に振り返る。
「それは全く関係ねえよ!どこの言霊信仰だ!全然大丈夫じゃねえだろ!」
「でも、ほら。韻を踏んでいる。めでたい」
「ラップみてえに言うな!」
玄斎先生ははっはっはと笑声を上げた。器が大きい。
年寄りはこのくらいゆるい方が、会話の効率がいい。
「まあまあ、元気があるのはよいことじゃ。あとは三日、四日もすれば完全に回復するじゃろう。……それにしても、この手当ての指示を書き残した処方箋の主には、よく礼を言っておくことじゃな。これは間違いなく、西洋医学の薬剤に長じた達人の処置じゃよ」
「えっへん」
「お前は『毒なら知ってるけど解毒は知らねえ』って丸投げしただろうが!その手柄を横取りすんな!あのキツネ女、やっぱタダモンじゃねえな」
「私は人材の適性配置が上手い。できる人にやらせるのも指揮官の仕事」
「急に管理職みてえな顔すんな!」
「左之助は殴る係。私は考える係。恵は薬の係。適材適所」
「お前が一番ろくでもねえ位置にいるわ!」
甘んじてその評価を受け入れる。事実だからだ。
毒と暗殺と掃除を同列に語れる人材など、そうはいない。
しかも、メイド服がこれほど似合う。市場価値は、極めて高いと自負している。
玄斎先生は処方箋を手に取り、紙を少し離して見ていたが、ふいに目を見開いた。
「……もしや、この字は……高荷恵君か!?」
「おや。先生、あの女を知ってるんですかい?」
「高荷恵……三年前に殺された、ある医者の助手をしていた娘じゃよ」
三年前に、殺された、助手。
ふと、室内の人影が足りないことに気づく。
「あれ。そういえば恵いない。……当番の時間を過ぎているのに」
「恵さんにそんな当番は割り振ってないわよ!?」
「心のどこかで、彼女の自発的な潔癖さに賭けていたの」
「最悪の期待の仕方しないで!」
「ったく、あの女、面倒起こしそうな顔してたもんな」
「左之助もだいたい同じ顔」
「俺を一緒にすんな!」
「でも左之助は、いつも面倒を起こしている」
「否定しづれえ!」
掃除を軽んじる者は、人生の何処かで必ず綻びを生む。
埃も、血痕も、そして感情も、放置すれば固着し、取り返しがつかなくなる。
これは経験則だ。
だから、私は様子を見ることにする。
あくまで掃除責任者として、彼女の「自主性」を確認するために。
決して、野次馬根性ではない。本当に。
◇◇
「……どこへ行くでござるか?」
「びくぅッ!!?」
抜刀斎は門柱の影からすっと現れており、やはり気配がない。
猫より、気配がない。
「こ、この人……本当に心臓に悪いわ……。弥彦君についてなくて良いの?容体急変したらどうするのよ」
「大丈夫。弥彦はあれでなかなか根強い男でござるよ。玄斎先生の太鼓判も出た。……的確な手当ての指示、ありがとうでござるよ。弥彦に代わって、礼を言うでござる」
「……礼を言われるほどのものじゃないわよ。御庭番衆のべしみは、元々私を狙ってたんだしね。巻き込んだのは私だわ」
抜刀斎は責めない。
責めないが、逃がす気も毛頭ない声だ。
優しい網みたいで、厄介だと思う。柔らかいのに、決して破れない。
「で、どこへ行くつもりでござる?」
「……とりあえず、ここは御暇して、東京から出るわ。今なら観柳の追手も混乱してるでしょ。邪魔者が早々に消えれば、あんたたちも安心だし」
ああ、だめだ。この人も、ちゃんと常識人だ。
常識人は、すぐに自分を邪魔者扱いする。悪い癖だ。自己評価が、著しく低い。
もっと図太く、厚顔無恥に生きればいいのに。
私はそう思う。図太い方が、死ににくい。死ななければ、掃除もできる。
「……ふるさとの『会津』には、帰りを待つ人はおらぬのでござるか?」
こういうのを、空気が変わるというのだと思う。
皮膚感覚で理解できる、便利な言葉だ。
「……っ!」
「生まれ育った土地の言葉の訛りは、いくら蓮っ葉な言葉遣いで隠そうとしても、到底消し去れるものではござらんよ。……拙者は昔、京都で幾度も『会津武士』と死闘を繰り広げたことがある故、ピンと来たでござるよ。……そろそろ、本当のことを聞かせてはくれぬでござるか?恵殿」
少しだけ、感心する。
剣心はたまに、急に昔の男に戻る。
普段は穏やかで、薫殿に殴られたり、左之助に巻き込まれたりしているのに、こういう時だけ過去の修羅が顔を出す。
恵はしばらく、何も言わない。
言わないが、逃げようともしない。そこがもう、答えのようなものだ。
私は少し離れた木の陰に立つ。
隠れているつもりはないが、いると話しづらいかと思い、少しだけ気を遣う。
私は優しい。たまに。
◇◇
「会津藩の『高荷』といえば、我々医者の間では有名な一族じゃったよ。何代も続く名医の家系でな。身分差別の激しかった江戸時代、御典医という高い位にありながら、病人と見れば身分に関わらず全身全霊で看病する……。我々医者にとっては、まさに理想そのものじゃった」
「……私の父、高荷隆生は、その極みだったわ」
「でも、ようやく会津に帰れたと思ったら、すぐに戊辰戦争……会津戦争が始まった。父も母も、兄二人も……医者の使命を果たすため、絶望的な戦場へ赴いたの。幼い私だけを、安全な場所に残してね」
こういう時、余計な慰めを入れないのは、上手い。
たぶん、本当に知っているからだ。戦争の話は、知っている人間ほど、軽く励ませない。
「結果……父は戦死した。母と兄二人は行方不明になった。私は、いつか家族に再会できると信じて上京して、ある医者の助手になった。……でも、その医者が裏で武田観柳と組んで、阿片の密造に手を染めていたのよ」
左之助が、いつの間にか来ている。しかも、木の上だ。器用だな、と思う。
人の重い話を木の上から聞くのはどうかと思うが、左之助なのでそういうものだろう。
「その医者というのが、三年前に殺されてしまって、恵さんも行方知れずになったんじゃ……」
「観柳が殺したのよ」
「医者が作り出したのは、通称『蜘蛛の巣』。従来の二分の一の原料で作れて、依存性は従来の二倍……五年で東京中を阿片漬けにできる悪魔の薬よ」
原料半分、依存性倍。効率はいい。
悪事としては非常に優秀だ。優秀だから、最悪だ。
効率がいい悪事は流行る。流行るとたくさん死ぬ。つまりだめ。そこはわかる。
私だって一応、人を殺すより便利に生かす方が、社会通念上は望ましいことくらいは知っている。
「観柳が医者を殺して……唯一製造方法を知ってしまった私が、無理やり監禁されて作らされる羽目になったの」
「三年もか」
左之助の声が、木の上から落ちてくる。
いつもの雑さが少ない。こういう時だけ普通の男前みたいな声になるのは、ずるいと思う。普段からやればいいのに。
「人を救う薬じゃなくて、人を廃人にして殺す毒薬だと聞かされた時は……何度も死のうかと思ったわ。でも……生きて、医学に携わっていれば……いつかどこかで、家族に再会できるかもしれない。……そう思って、人を死に追いやる薬を、三年間も……!」
そこまで言って、とうとう恵が顔を覆う。
肩が震える。泣いている。かなり、ちゃんと泣いている。
少し、困る。
泣いている女の人に、どう対応するのが正解なのか、私はあまり知らない。
斬るのは簡単だが、慰めるのは難しい。整理されていない。
人間は感情の棚卸しをもっとこまめにした方がいいと思う。
薫ちゃんが物陰から出てくる。
やっぱり聞いていたらしい。みんな聞いている。
この道場、障子と木の陰と屋根の上に、人が多すぎる。
「……いいわよ。ひとりぼっちの辛さは、私も知ってるし」
こういうところは、本当にまっすぐだ。
重い過去の話になると、変に強がらないで自分の傷を出してくる。
そのやり方は、たぶん正しい。私はあまりやらないが、正しいのはわかる。
「……もう三年間も苦しみ続けたのなら、そろそろ許されて、自由になってもいい頃でござるよ。連中がそう簡単に手を引くわけはござらん。もうしばらく、ここにいた方がいいでござる」
いいことを言う。静かで、重くて、ちゃんと救いがある。完璧だ。
完璧すぎる。完璧な空気は、よくない。私はそう思う。
「うん。恵、大丈夫。きっと見つかる。お母さん、お兄さん」
「……あ、ありがとう。お彦さん……」
「だから、ここで恵は阿片をたくさん作る。そして、東京中に売る。世界平和を成し遂げる」
みんなの目が私に集まる。注目されるのは好きだ。
「ダメじゃねえか!!!どこが平和だ!!」
説明は最後まで聞いてもらわないと困る。
「そうしたら、恵は警察に捕まって、新聞にでかでかと顔が載る。……それを見れば、お母さんとお兄さんも恵がどこにいるかわかる。そして、家族だから一緒に連座で捕まって、牢屋の中で感動の再会ができる。大丈夫」
「どこがだよ!!一家揃って死刑囚になっちまうだろうが!!」
「抜刀斎が長州のコネを使って、政府高官に裏から手を回す。山縣有朋とか。恵たち、もみ消されて釈放される。解決」
「拙者の権力の使い方が、完全に腐敗した汚職官僚のそれでござる!!絶対にやらんでござるよ!!不殺の誓いが別の意味で揺らぐでござる!!」
「でもコネはある」
「否定はせんが使わんでござる!」
「世の中はコネ。剣心もたまには社会性を発揮するべき」
「その社会性は腐ってるでござる!」
「そもそも阿片吸って廃人になった奴らは、山ほど死ぬだろうが!?」
少し、考える。そこは確かに問題だ。だが、問題は分解できる。
「……人間は、みんないつか死ぬ。阿片はそのきっかけがちょっと早くなるだけにすぎない。死生観の問題。だから大丈夫」
「大丈夫じゃねえよ!!きっかけを作るな!!」
「でも戦争よりは静か」
「比較対象がでかすぎんだよ!」
恵の涙が引っ込んでいる。
よかった。泣き止ませることには成功している。
「それができないから麻薬がダメなのよ!!!医者の倫理を舐めないで!」
「……いい!?もし、弥彦君がその阿片を吸って廃人になってたらどうするのよ!」
即答する。思考の余地などない。
「……私も吸う」
「ぐっ……!?そっちに行っちゃうの!?殉愛!?方向性が重いのよ!」
「夫婦は一蓮托生」
「まだ夫婦でも何でもないでしょ!」
「予定は未定だが希望は自由」
「語感で押し切るな!」
好きな人が阿片でだめになるなら、一緒にだめになるのも選択肢としては自然だと思う。独りだけ正気で残るのはつらい。つらいのは嫌だ。だったら寄せる。
「じゃあ、弥彦君が阿片のせいで若くして死んだら、あんたは悲しくないの!?」
「……ん?」
少し、考える。年齢の話かな、と思う。
「弥彦ちゃんが死ぬ頃には、多分私はもうとっくに死んでる。私四十四歳だから、順番的にそうなる」
「だーかーら!!そういう年齢の話をしてるんじゃないの!!」
元気だ。やはり怒りは健康にいい。
「弥彦君が、あんたより先に死ぬのは悲しくないのかって聞いてるの!!」
ああ、そういう意味か。
「……え?」
その想定は、よくない。非常によくない。
「まさか恵……」
「弥彦ちゃんに阿片飲ませて、殺すつもり?」
「なんでそうなるのよ!!!」
顔色がまた悪くなる。忙しい人だな、と思う。
「例え話よ、例え話!!あんたのたとえが最悪だから、こっちも最悪の例を出してるだけで、私はそんなことしないわよ!!」
「……ほんとに?」
「ほんとに!!そんなことするわけないでしょ!!」
今の恵は本気で怒っている。つまり、本気でそんなことはしない。よかった。
「うん、恵が悪い。わかってくれてよかった」
「そこ私が悪いことになるの!?」
「例え話が高度すぎた」
「それさっき私が言おうとしたやつ!!」
「お彦殿、今の流れで抜刀術に入るのはやめてほしいでござる……。恵殿の寿命が縮むでござるよ」
「でも弥彦ちゃんが死ぬ話はだめ」
「そこは同意するけど、その反応速度が怖いでござる!」
「というか、今ので恵さんがもう逃げるどころじゃなくなってるじゃない」
それはある。恵はもう風呂敷包みを抱えていない。いつの間にか脇に落としている。
人はより大きい危機に直面すると、前の危機を一時的に忘れる。便利だ。
「だから、阿片を作るにしても、医療用に無毒化すればいい。集英組のシノギにするの」
「だから、その設備がないのよ……!」
「ないなら作る。投資は大事」
「どうやって!?」
「観柳から奪う」
「お、それはちょっとわかりやすいな」
「左之助は設備の意味わかってないでしょ!」
「わかるわ!なんかこう……薬を煮る鍋とかだろ!」
「雑すぎるわよ!」
「鍋もいる」
「お彦さん……あなた、さっきからすごく自然に『売る』『軍拡』『シノギ』って言うけど、どこでその価値観を育てたのよ……」
「京都」
「雑な一言で済ませないで!」
「あと幕末」
「余計ひどいわ!」
たしかに、幕末はよくない。
人がたくさん死ぬし、偉い人はすぐ方針を変えるし、昨日まで敵だった人が今日から味方みたいな顔をしてくる。
今の私の思考が少しバグっているとしても、だいたい時代のせいだと思う。個人の責任にすると、大変だ。
「こほん。とりあえずじゃな、恵さん。君は悪いことをさせられておった。じゃが、それを悔やむ心が残っておるうちは、医者としてまだ死んではおらんよ」
いいことを言う。かなりいいことだ。
「……でも、私は作ったのよ。たくさん。何人もだめにする毒を」
「作らされたんでござろう」
「観柳に囚われ、逃げ場もなく、希望だけを頼りに生き延びてきた。……それは罪ではない、とまでは言わぬ。じゃが、それを背負ってなお誰かを助ける手を止めなかった。そのことまで否定する必要はないでござる」
「弥彦の命も助けたしな」
「それに、ここにいる人たち、わりと前科者みたいなものばっかりだから、今さら一つや二つ、重い事情があっても驚かないわよ」
「薫殿、それはひどいでござる」
「否定しにくいでしょ?」
「……まあ」
たしかにこの道場は変だ。
変だが、変な人間を受け入れる器だけは大きい。だから厄介だ。
居心地がいいと、人は出ていきにくくなる。
「……何よ、それ」
「つまり」
まとめる。
「恵はまだ帰らなくていい。逃げなくていい。便所掃除も今夜は免除」
「最後だけ急に現実的ね……」
「でも明日からはやる」
「そこはやるのね!?」
「共同生活には役割分担が必要」
「急に寮母みたいなこと言い出したわね……」
「あと恵は台所に強い。薬もわかる。食事当番にも向いている」
「薬と食事を同列に置かないでちょうだい!」
「火加減はだいたい同じ」
「絶対違う!」
「はは、たしかに観柳んとこで阿片煮てたんなら、煮物もうまそうだな」
「あんたまで何言ってんのよ!」
「いや、ちょっと思っただけだ」
「思うな!」
「よし。決まりね。恵さんはしばらくここにいる。観柳から逃げるためにも、その方が安全だし。お彦さん、変な事業計画は却下。剣心、裏から政府に口利きとかも却下。左之助、煮物の感想は早い」
「俺だけ被害軽くねえ?」
「それが一番軽いもの」
剣心が穏やかに笑う。
「異議なしでござる」
私の事業計画は、そこまで悪くない。少なくとも利益率は高い。数字は正直だ。
「……ほんと、変な人たちね」
私はすぐ答える。
「うん。だから大丈夫」
「その理屈、まだよくわからないけど……」
「わからなくていい。住んでると慣れる」
「慣れたくない部分が多すぎるのよ」
「まずは便所掃除から」
「結局そこに戻るの!?」
共同生活の土台は清潔だ。清潔は正義。
「まあ、泣く元気も怒る元気も出たようじゃし、今夜はそれでよしとするかの」
「先生、診断が雑になってない?」
「心にも脈というものがあるんじゃよ」
「今ちょっとだけ名医っぽいこと言ったわね……」
「ちょっとだけとはなんじゃ」
左之助が門にもたれかかる。
「で、どうすんだよ。観柳はまだ恵を諦めねえだろ」
抜刀斎の顔が、静かに締まる。
「……来るでござるよ。必ず」
「だよな」
「だから、守る。ここで」
「活人剣なんだから、困ってる人を見捨てたりしないわ」
人を活かす。私はまだ、そこがよくわからない。
斬るのはわかる。殺すのもわかる。守るのも、たぶん理屈ではわかる。
だが、活かすは難しい。手間がかかる。時間もかかる。相手の都合もある。
だが、みんなはそれをやる。面倒なのに、やる。
「……もし、ここにいたせいで、みんなが危ない目に遭ったら」
「その時は斬る」
「誰をよ!?」
「観柳とか、そのへん」
「そのへんでまとめるな!」
「あと必要なら施設ごと買い取る」
「何で発想が極道なのよ!」
「交渉は大事」
抜刀斎がこめかみを押さえる。
「お彦殿の解決策は、だいたい物理か賄賂か権力でござるな……」
「だって早い」
「正しくないでござる!」
「正しさは遅い」
「名言みたいに言うな!」
左之助が腹を抱えて笑う。
「くくっ、でもまあ、たしかにお彦がいると、妙に『なんとかなるか』って気にもなるな」
「ならない方向にも全力で行くけどね」
「振れ幅がでけえんだよ」
「……もう、何なのよ、この人たち」
さっき裏門から消えようとしていた時の、あの全部を諦めた顔ではない。
怒って、泣いて、突っ込んで、少し笑っている。
十分だと思う。今夜の仕事としては上出来だ。
「とりあえず」
「逃げるのは明日以降に再検討。今日はもう遅い。夜道は危ない。人斬り抜刀斎が気配を消して立っているし」
「危ない理由が独特すぎるわよ」
「あと弥彦ちゃんが起きた時、恵がいないと面倒。きっと騒ぐ」
「……あの子、そんなに私を頼るかしら」
「助けてもらった相手には、わりと素直だぜ、あいつ」
「口は悪いけどね」
「それは誰に似たんでござるかな」
「さあ?少なくとも剣心ではないわね」
「拙者も口は悪くないでござる」
「たまにすごく冷たいこと言うけどね」
「否定できんでござる……」
「……わかったわよ。今夜は、いる」
「うん」
「でも勘違いしないで。別にあんたたちを信用したとか、そういうんじゃないんだから」
すぐに頷く。
「大丈夫。ツンデレの初期段階」
「ツンデレ?」
「恵」
やっぱりこの道場は変だ。
重い話をしても、最後は誰かが笑う。
笑わせようとしているのか、勝手に壊れてそうなるのかはよくわからない。
だが結果として、少しだけ生きやすくなっているなら、それでいいのかもしれない。
「じゃあ戻る」
私は踵を返す。
「弥彦ちゃんが起きる前に、お粥の準備も考えないといけない。病み上がりに阿片はだめだが、お粥はいい」
「比べる対象がおかしいのよ!」
「梅干しは入れる?」
「刺激が強いから、最初はやめた方がいいわ」
「じゃあ塩は薄め」
「そうね。消化のいいものを少しずつ」
私は頷く。
「やっぱり恵、いると便利」
「便利って言い方やめてくれる!?」
「重要人材」
「急に待遇が上がったわね……」
「逃がさないための評価」
「それ人事のやり口として最低よ!」
それなら十分だと思う。
たぶん、きっと。
だから大丈夫。
神谷道場は、たぶんまともな人ほど疲れる場所なんだと思います。
でも、それでもここにいると少しだけ生きやすくなる。今回はそんな回でした。
お彦さんの「だから大丈夫」に納得できたかどうか、ぜひ聞かせてください。
第一回キャラクター人気投票(コメントもぜひ感想欄に)
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