転生して型月版・沖田総司になったけど、労咳を克服したら明神弥彦の母になっていた件 〜るろ剣世界で最強のママやってます〜   作:だいたい大丈夫

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忘れていたのではない。
できることなら、思い出したくなかった。
剣心が巻き込まれている今だからこそ向き合わざるを得ない、幕末の総司と蒼紫の因縁。その始まりです。


忘れたかった冬

「おい母さん!あんた、マジで本当に覚えてないのか!?蒼紫って奴、冗談じゃなく本気で剣心を殺そうとしてるぞ!かなりヤベーぞ!!」

 

「ちょっと待って、今こっちも必死に考えてるから」

 

繰り広げられる理不尽な死合い。交差する刃が鋭い金属音を響かせるたび、私の頭痛は増していく。剣心が逆刃刀で小太刀二刀を捌く旋律は、皮肉なほどに美しい。しかし、事態は最悪の一途を辿っていた。何しろ、この血みどろの諍いの火種はどうやら私にあるらしく、あろうことか私自身がその原因を綺麗さっぱり忘却しているのだから。

 

「ゲホッ!だから違うでござる!拙者は琴殿の男ではないでござる!!」

 

「黙れ」

 

「説明くらい聞いてほしいでござる!」

 

低く地を這うような蒼紫くんの声音に、思わず背筋が凍る。

 

「うーん……幕末の京都で、御庭番衆……四乃森蒼紫……蒼紫……」

 

ズキズキと痛む額を押さえ、記憶の暗がりをまさぐる。微かに鼻腔をくすぐる鉄の匂い。肌を刺すような冬の夜気。そして、不気味なほど澄んだ瞳をした生意気な少年の面影。同時に、当時の私が手のつけられないほど荒みきっていた事実だけが、理屈よりも先に蘇ってくる。その時点で、嫌な予感しかしない。

 

「蒼紫……蒼紫……あ!」

 

お彦が目を輝かせ、ぬっと顔を寄せてくる。

 

「思い出した?お義母さん、昔の男のこと。夜の相棒のこと」

 

「私は清純派の幕末アイドルだったの!!」

 

「その自己評価、かなり勇気ある」

 

「うるさい!」

 

呆れたようなツッコミを受けながらも、私の脳内で途切れていた記憶の糸が確実に繋がっていく。思い出した。いや、本音を言えば思い出したくなかった。今日この日まで忘却の彼方に封印しておけて、本当に幸運だったとすら思う。

 

凄惨な剣戟の残響を耳にしながら、私は深く、重い溜息を吐き出した。

 

「あれは……慶応三年、冬。油小路のすぐ後よ」

 

言葉にした瞬間、自分を包む空気が冷たく変質していくのがわかる。今の私は神谷道場で騒々しい日常を送る極道の姐さんだが、過去の私は全く違う。もっと若くどうしようもなく尖りきっていて、人間としての欠陥を無数に抱えていた。

 

「私たちが油小路で、伊東先生や……平助を斬った、すぐ後のこと」

 

弥彦が息を呑む気配がする。お彦も珍しく口を閉ざした。剣心だけは、蒼紫の猛攻を凌ぎながら「今その昔話を始めるのでござるか!?」と恨めしそうな視線を送ってくる。悪いとは思う。けれど、この狂気を鎮めるには、私自身が過去と向き合うしかなかった。

 

静かに目を閉じる。すると、神谷道場の穏やかな木の香りが薄れ、代わりに京の凍てつく夜風と、西本願寺の血生臭い板廊下の記憶が、鮮烈な色彩を伴って蘇ってきた。

 

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

 

当時の京都は、狂気そのものだった。

 

街全体が、いつ弾けてもおかしくない火薬庫のような熱を帯びていた。白昼は人々が笑顔で行き交っていても、帳が下りれば至る所で刃が閃く。

 

勤王だの佐幕だの、崇高な大義名分を掲げてはいても、行き着く先は殺すか殺されるかの二択しかない。その凄惨な境界線に立たされた者たちは、例外なく精神をすり減らし、少しずつ壊れていく。

 

そして、私もまた、とうの昔に壊れ果てていた。

 

引き金となったのは油小路だ。伊東先生を討ち、平助も散った。裏切りへの制裁、組織を保つための不可抗力、正当化する理屈はいくらでも並べ立てられる。

 

だが、漆黒の夜に漂う濃密な血の匂いを前にすれば、どんな大義も虚しく。理屈で安眠は買えないし、同胞を斬り裂いた両手の震えは、決して止まらない。

 

だからこそ、あの頃の私は常に薄ら笑いを浮かべ、正気の沙汰とは思えない日々を送っていた。

 

江戸城の御庭番衆が京へ下向してきたという報せを耳にしたのは、その直後のことだ。

 

探索方に配属されている翁さんの引き継ぎか視察の名目で、先代御頭と一番弟子が上洛してくるらしい。私にとって、それは路傍の石ほどにも興味のない話だった。土方さんが事前に根回しをしておけば、夜の巡回中に誤って斬り捨てる手間が省ける。その程度の認識でしかなかった。

 

ただ、運命の巡り合わせが悪かった。

 

彼らにとっても、私にとっても。

 

西本願寺の一室で土方さんが応対している最中、私は無遠慮に襖を引き開けた。つい先刻、不逞浪士を血祭りにあげたばかりで、顔にも羽織にも生々しい返り血がこびりついている。

 

刀の血脂すら拭っていなかった。客人を迎える態度としては言語道断だが、極限状態にあった私に、礼儀作法を弁える余裕など微塵も残されていなかった。

 

襖が開いた瞬間の、室内の張り詰めた空気は今でも忘れられない。

 

土方さんの顔には「最悪のタイミングで現れやがって」という露骨な苛立ちが浮かび、同時に近藤さんが不在であったことへの安堵が漂っていた。翁さんは渋い顔で頭を抱え、先代御頭は京の殺伐とした空気に戦慄している。そして、その傍らに控えていたのが、彼だった。

 

四乃森蒼紫。

 

まだ少年の未熟さを残している。しかし、その双眸だけは異様なほどに凪いでおり、底知れぬ凄みを湛えていた。静かに座しているだけにもかかわらず、付け入る隙が一切ない。所作は洗練され、呼吸の乱れ一つない。

 

何より、人間を観察する眼差しに確かな生気が宿っていた。剣の道を歩む者であれば、一目でその底知れぬ才能を見抜ける、そんな特異な存在感を放っていた。

 

だが、その見事な原石を前にして、私の胸には黒い苛立ちだけが込み上げてきた。

 

その真っ直ぐな瞳が、どうしても平助の面影と重なって見えたからだ。

 

「おい総司!!」

 

静寂を切り裂くように、土方さんの鋭い声が響いた。

 

「……すいません、御頭。こいつ、ついさっき不逞浪士を斬った後で、ちょいと気が立ってまして」

 

ちょいと、で済む次元ではないと今の私なら断言できる。

 

だが、血の海を渡り歩く当時の土方さんにとっては、あれでも些細な昂ぶりの範疇だったのだろう。

 

私は血塗れの菊一文字を無造作に床へ投げ出し、室内の面々をねめ回した。

 

「土方さん……あまり余計な口出しは無用に願いますよ。で?この客人たちは?」

 

「江戸城御庭番衆の御頭と、その弟子だ。洛中の探索方についてる情報網の確認だとよ。夜の巡回で出くわしても見逃してやれ」

 

「……へえ。御庭番衆ねえ」

 

そこで私は、初めてまじまじと少年を見据えた。

 

蒼紫もまた、怯むことなく私を射抜くように見つめ返してくる。

 

恐怖よりも先に、私の力量を冷徹に値踏みする目をしていた。この少年が、温室育ちの単なるお坊ちゃんではないことは、火を見るより明らかだった。

 

「……坊や?今の京都は、お伽話の忍者ごっこみたいな『遊び』じゃ、あっという間に死ぬわよ?」

 

今なら周囲から総スカンを食らうだろう。だが、当時の私には他者を慈しむ余裕など一滴も残されていなかった。血の匂いが鼻腔にこびりついている時の私は、自分でも制御できないほどに残酷になれた。

 

しかし、蒼紫は一歩も引かなかった。

 

「……お言葉ですが、遊びではありません。私はすでに実戦経験もあります。江戸に潜入した他藩の密偵を、この手で始末したこともあります」

 

その静かな反論が、苛立つほどに澄み切っていた。

 

虚勢ではない。彼の手は既に血に染まっている。それも、一度や二度の経験ではない深い業を背負った目だった。

江戸城の強固な庇護の下で磨き上げられた、鋭く美しい刃。血の穢れを知りながらも、決して濁ってはいない。

 

「ふふっ……いい目ね」

 

その直後、廊下から永倉さんの太い声が割り込んできた。

 

「おい総司。あまり他所の小僧をいじめるもんでもねえぞ。その殺気じゃ、普通の子供なら小便チビっちまう」

 

「永倉さん。……ちびるくらいで済めば御の字ですがねえ。ふふふ……」

 

「笑いながら言うなよ、おっかねえな」

 

その背後を、斎藤さんが足音もなく通り過ぎる。相変わらずの氷のような声音だ。

 

「……くだらん。次は六番隊の巡回だろう?井上さん」

 

井上さんが、困り果てたような苦笑いを浮かべていた。

 

「そうでしたな。では土方さん、お客人、失礼します」

 

立ち去る彼らの背中へ、思い出したように言葉を投げる。

 

「源さん、夜道は気をつけて。最近は腕のいい人斬りが洛中に多いですからね。長州の……緋村抜刀斎とか。あいつ、ホントにうざいから見つけたらすぐ報せなさいよ」

 

その名を聞いた瞬間、蒼紫の眉が微かに動いた。

 

「……緋村……?抜刀斎?」

 

「坊やは知らないの?強いわよ〜。もし出くわしたら、死体を綺麗に残してもらうようにお願いしなさいね。あいつ、首とかスパスパ飛ばすから」

 

子供に聞かせる話ではない。だが、幕末の京では、そんな血生臭い冗談が日常の挨拶のように飛び交っていた。それこそが、この街が孕む真の地獄だ。

 

御頭が蒼紫を庇うように手を差し出し、困惑の色を濃くして私を見る。

 

「……沖田殿。あまり蒼紫をいじめないでくだされ。これでも次期御頭の重責を背負う身ゆえ」

 

「はいはい」

 

適当な相槌を打ったのは、半分は本当にどうでもよかったからであり、残りの半分は、少年のその強烈な眼差しがどうにも気に食わなかったからだ。

 

折れを知らない鋼のような意志。それを見るたび、失われた平助の笑顔が脳裏を掠める。

 

平助は太陽のように明るく、蒼紫のような冷ややかな静けさとは無縁だった。だが、どれほど強大な敵を前にしても決して怯まず、己の刃を信じ抜く無鉄砲な危うさは、二人に共通していた。

 

似ている、そう直感した瞬間、私の内側で何かが決定的に狂い始めた。

 

「で、御頭。京都にはいつまで滞在の予定で?」

 

「引き継ぎもありますので、一月にはなるかと」

 

『一月』という単語の響きが、私の頭に恐ろしく歪んだ閃きをもたらした。

 

一月。それは、一人の人間を全く別の生き物へと創り変えるには十分な時間だ。

 

育てる、などという耳障りの良いものではない。京という本物の地獄の空気を一月間肺の奥まで吸い込ませた時、この美しい刃はどのように変貌を遂げるのか。

 

忍びの小手先の技や、江戸の洗練された暗殺術が、骨肉削り合うこの戦場でどこまで通用するのか。それを見極めたくなった。

 

同時に、平助の面影を宿すこの少年を、つまらない油断で犬死にさせたくなかった。

 

相反する感情の同居。だが、当時の私は頭の先から爪先まで矛盾の塊だった。

 

「……面白いわね。御頭さん、この坊や、私に貸してくださらない?」

 

「もちろん、空いてる時間にね。……私が直々に、京都の『実戦』と『稽古』をつけてあげるわ。忍びの技がどれだけ通用するか、試してみなさいよ」

 

御頭の顔色があからさまに青ざめる。

 

「い、いえ……流石にそこまではご迷惑を……」

 

だが、その制止の声を遮ったのは、他でもない蒼紫自身だった。

 

「……御頭、私は良いです」

 

「少し、この血生臭い女の鼻を明かしてやりたい」

 

生意気で、傲慢で、私を前にしても牙を剥く。ああ、本当に平助の生き写しだ。愛嬌のなさは雲泥の差だが、格上に喧嘩を売る時の不敵な面構えは瓜二つだった。

 

だから、私の腹は決まった。

 

「決まりね。明日の夜、私の隊の巡回についてきなさい。地獄を見せてあげる」

 

そこからの記憶は、濃霧がかかったように不鮮明だ。

 

毎晩のように返り血を浴び、死臭にまみれる生活の中では、日常の境界線など容易に融解してしまう。

 

だが、翌夜の出来事だけは、網膜に焼き付いたように鮮明に覚えている。蒼紫を引き連れ、洛中に潜伏する不逞浪士のアジトを強襲した夜のことだ。

 

 

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

 

深夜は、肉体だけでなく精神の芯までを確実に冷やしていく。追い詰められた浪士たちは、死に物狂いで斬りかかってくる。

 

だからこそ、真っ先に戸を蹴破る一番槍は、最も死に近い場所だった。新選組ではそれを『死番』と呼び、金三両という血塗られた特別手当を支給する。非情な掟だが、狂気を統制するには必要なシステムだった。

 

息を潜めて旅籠を包囲する中、私は背後の少年に向かって微かな声で囁いた。

 

「最初に屋内に踏み込む人は『死番』って言ってね、一番死ぬ確率が高いから、特別にお給金がつくのよ」

 

蒼紫が、地の底から響くような声で問う。

 

「……誰が入る」

 

「吉村さん」

 

「吉村さんは、家族への仕送りのためにお金が必要だから、いつもそう」

 

あまりにも救いのない現実。だが、それが新選組という組織の真実だった。

 

当の吉村さんは、温厚な笑みを崩さないまま抜刀し、消え入りそうな声で盛岡弁をこぼしていた。

 

「お静かにしてください、組長。聞こえます」

 

「ごめんごめん」

 

「ほんに、組長は口が軽いんで……」

 

そんな人の良さそうな口ぶりとは裏腹に、吉村さんの動きには一寸の迷いもなかった。先陣を切って戸口を突破し、暗闇から躍り出てきた浪士を袈裟懸けに一刀両断する。美しかった。

 

研鑽を積んだ技術などという次元を遥かに超えた、凄絶な覚悟が宿る太刀筋だった。

 

蒼紫はその光景を目の当たりにし、一瞬だけ驚愕に目を見開いた。

 

だが、少年の足は止まらなかった。そこは素直に称賛に値する。吉村さんに遅れをとることなく屋内に飛び込み、死角から迫る浪士の刃を小太刀で弾き飛ばし、的確に反撃を叩き込む。僅かな躊躇はあったものの、その動きは淀みなく洗練されていた。

 

「全員召し捕れ!抵抗するなら斬れ!!」

 

そして、視線の端で蒼紫の戦いぶりを観察した。

 

やはり、その動きはどこまでも美しかった。だが、裏を返せば圧倒的に甘い。

 

相手の命を断ち切る最後の瞬間に、刃の軌道が僅かに鈍る悪癖がある。江戸の裏社会ではそれで通用したのかもしれない。しかし、一瞬の情けが己の首をはねるこの京では、その甘さは致命傷になる。

 

「蒼紫くん!そんな甘い太刀筋で、命のやり取りに踏み込めなければ……京都では一晩で死ぬわよ!!殺す気で振れ!!」

 

生温かい血飛沫が宙を舞う。赤い斑点が、蒼紫の端正な頬を容赦なく汚した。幼い顔に、他者の命を奪った生々しい証が刻まれる。

 

普通の少年なら、その瞬間に精神が崩壊してもおかしくない。だが、彼は表情一つ変えることなく、奥歯を強く噛み締めて応じた。

 

「…………ッ!!承知!!」

 

その夜、蒼紫は命を落とさなかった。

 

それが、私が彼に課した最初の試練の答えだった。

 

屯所へ帰還したのは、東の空が白み始める頃だった。人間の精神が最も摩耗し、張り詰めた糸が切れやすくなる逢魔が時。

 

土方さんと肩を並べて歩きながら、私の頭の奥はまだ熱に浮かされたように脈打っていた。血を浴びることで不思議と心が鎮まる感覚と、さらに多くの血を求めて暴れ狂いたくなる衝動。あの頃の私は、常に後者の狂気に支配されていた。

 

土方さんが紫煙を夜空に吐き出しながら、低く尋ねる。

 

「どうだ総司。あの御庭番の小僧は。使い物になりそうか?」

 

「才能はありますね。あれは化けます。……ただ、いかんせん実戦の『狂気』の経験が足りない。綺麗すぎるんですよ、あの子の剣は」

 

そこでふと口籠もったのは、またしても平助の顔が過ったからだ。

 

生意気で格上の相手にも食らいついていく強さを持った子。

 

そういう危うい存在を前にすると、どうしても干渉せずにはいられない。死なせたくないという強迫観念に駆られる。

 

あの時の私は、蒼紫を単なる『鍛錬の対象』ではなく、自分の手で『無駄死にさせないための保護対象』へとすり替えていたのだろう。

 

「……一月くらい、責任を持って預かりますよ」

 

土方さんは、鋭い流し目で私を捉えた。

 

『……平助のこと、まだ引きずってやがるな』

 

「……そうか。分かった。御頭には俺から上手く言っておく。近藤さんには、お前から直接言えよ」

 

「ええ。……ああいう威勢のいい子は、無駄死にしないようにしてあげたいですから」

 

今振り返れば、反吐が出るほど傲慢で身勝手な言い草だ。だが、当時の私は本気で彼を救うつもりでいたのだ。

 

薄暗い広間を抜けると、冷え切った縁側に蒼紫が直立していた。死闘の疲労で立っているのもやっとのはずなのに、その背筋は鋼のように真っ直ぐに伸びている。瞳の奥の光も、全く失われていない。むしろ、私を射貫こうとするその闘志は、先刻よりも強さを増していた。極上の目だった。

 

「……待たせたわね。あんた、このあとは寝る時間じゃないわよ。刀を持ちなさい。私がいまから、たっぷり稽古をつけて鍛えてあげる。……吐くまで終わらないわよ」

 

「……望むところだ。その剣、この四乃森蒼紫がすべて見切ってみせる」

 

ああ、本当に生意気だ。

 

けれど、どうしようもなく好きだった。そういう不器用な強さを持つ子が。

 

そこからの2週間は、文字通り地獄のような日々の連続だった。私は彼を夜の巡回に引き摺り回し、血まみれで帰還しては息つく暇もなく刀を振らせた。彼が倒れ伏せば蹴り起こし、立ち上がるまで打ち据えた。忍び特有の変幻自在な足捌きは実戦でも十分に通用したため、その長所は生かさせつつ、死地において一瞬の迷いも生じさせない冷徹な踏み込みを、徹底的に身体へ叩き込んだ。

 

小太刀二刀という変則的な戦法をわずかな間に習得し、後半には私の剣撃にすら食らいつくほどの執念を見せた。十四歳という年齢を考慮すれば、背筋が凍るほどの進化だった。

 

だが、剣の腕以上に私の頭を悩ませたのは、彼が持ち合わせている異常なまでの生真面目さだった。

 

ある夜、彼の打ち込みが私の袖口を僅かに掠めた時のことだ。彼は木刀を下ろし、恐ろしく真剣な表情で問いかけてきた。

 

「……今のは、入ったか?」

 

呆れて鼻で笑う。

 

「何が?」

 

「致命傷になる位置だったかと聞いている」

 

「ふふっ、可愛い質問ね。今ので私を殺したいなら、あと二寸深いわ」

 

「……次は殺す」

 

「いいわよ。やってみなさい」

 

またある時は、死闘の連続で泥のように疲弊しきっているにもかかわらず、縁側で直立不動のまま私を待ち構え、平然と言い放つ。

 

「まだ終わりではないだろう」

 

「何が?」

 

「稽古だ」

 

「……あんた、ほんとに真面目ねえ」

 

「貴様が吐くまで終わらないと言った」

 

「言ったけど」

 

「なら、俺も吐くまでやる」

 




ここまで読んでくださってありがとうございます。
今回は一転して、琴と蒼紫の過去編に入りました。
油小路後の総司の壊れ方、蒼紫に平助を重ねてしまう歪んだ感情、新選組の現場の空気など、どこが印象に残ったか感想をいただけると嬉しいです。

第一回キャラクター人気投票(コメントもぜひ感想欄に)

  • 明神琴(沖田総司)
  • 河上彦斎(お彦)
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