転生して型月版・沖田総司になったけど、労咳を克服したら明神弥彦の母になっていた件 〜るろ剣世界で最強のママやってます〜 作:だいたい大丈夫
だからこそ、神谷道場という異常な砦を目の当たりにした瞬間、彼の胸は久方ぶりに高鳴った。
ただし、その高鳴りの九割は、盛大な勘違いによって支えられています。
今回は、雷十太が神谷道場を理想の実戦組織として誤読していく回です。
東京の町を、吾輩は好かぬ。
行き交う人々の足音、喧噪。そして何より、真の剣を知らぬ平穏に濁った瞳の群れ。
竹刀を振り回し、汗を流しただけで武の道を修めたと錯覚する甘慢な空気が、路地の隅々にまでこびりついている。真古流の復興を志してよりこっち、斯様な光景を目の当たりにするたび、腹の底で黒い炎がじりじりと燻り続けていた。
ゆえに、今この胸を衝く激しい高鳴りは、久方ぶりに味わう生の疼きであった。
「先生、見えてきました!」
隣を歩く由太郎の震える指の先。下町の風景を無残に切り裂くように、異様な威圧感を放つ黒塀が天を突いて聳え立っている。
編笠のつばを静かに押し上げ、眼前へ広がる威容を網膜へ焼き付ける。市井の『町道場』という生温い単語から導き出される姿形では到底ない。視界を遮る堅牢な高塀、威圧的な重厚さを誇る大門。周囲の民家は恐れをなして退いたかのように不自然な空き地を形成し、その敷地面積を異常なまでに際立たせている。平穏な町並みへ突如として打ち込まれた、血生臭い砦そのものの威容。
「……ここが神谷活心流か」
「噂には聞いていたが、途方もなく大きいな。まさかこれほどの規模の拠点を持っているとは」
由太郎も引き攣った喉で、ごくりと重い唾を呑み込んだ。
「本当ですね、先生。普通の町道場の三つ分……いや、それ以上の敷地面積はありますよ。完全に要塞です」
要塞。
左様、由太郎の言う通りである。
ただ看板を掲げて子供相手に木刀を振らせるだけの、軟弱な剣術遊びの場ではない。前川道場の門下生を、病と薬と恐怖で骨抜きにし、自らの陣へ取り込む。その上、地下からは銃声と爆音が絶え間なく響くという。これを要塞と呼ばずして何と呼ぼうか。
しかも、門の両脇を固める番兵の腰には、木刀ではなく鈍く光る警棒とドスが下がっている。その面構えも良い。町のごろつきをいくらか漂白した程度の、粗暴な空気を纏った男たち。剣の素養は知らずとも、怯えや手心とは無縁の泥沼で飯を食い繋いできた、正真正銘の猟犬の目をしている。
「先生……そこにある木箱、弾薬とかでしょうか」
「そう見えるな」
「しかも、あっちの井戸の横で、妙な草を乾かしてませんか」
視線を向ければ、庭のさらに奥、麻袋の上に乾燥葉の類が敷き詰められている。風の悪戯か、鼻腔をくすぐるわずかに甘ったるい匂い。医術や薬学の知識は持ち合わせておらぬが、前川道場の門下生を蕩けさせた『診療所』の噂と結びつければ、あれが喉越しの良い茶葉などではないことくらい容易に推測がつく。
「ほう……」
「剣のみならず、物資の保管と薬の製造まで敷地内で完結させているか。後方支援もまた実戦の要。徹底している」
「そこを褒めるんですか先生!?」
「褒めるとも。嫌いだが、褒めるに値する」
紛れもない本音である。試合や礼法という耳障りの良い言葉に逃げ込み、いざ生き死にの局面では何の役にも立たぬ術を誇る者どもは、武芸者の皮を被った遊戯者に過ぎぬ。
だが、この神谷活心流は違う。吐き気がするほどに現実的だ。現実を煮詰めた末に狂気を帯びている。だからこそ、敵として刃を交える絶対の価値があるのだ。
「おう。お前ら、ウチに入門希望者ですか?今なら阿片の売人の研修コースか、ガトリングの組み立てラインが空いてるぜ」
「…………」
己の耳を疑うとはこのことか。
阿片の売人。ガトリングの組み立て。おおよそ武門の入り口で交わされるべき語彙ではない。凡庸な人間であればここで踵を返すのだろうが、吾輩の胸の奥ではむしろ業火が燃え上がった。
彼らは、隠し立てすらしない。
虚飾を捨て去り、純度百パーセントの実戦性を門前で誇示している。竹刀遊びの連中には、逆立ちしても出せぬ血の匂いだ。
「いや、吾輩は『道場破り』に参った者。この竹刀遊びに堕落した剣術界に、真の殺人剣を知らしめるためにな。当主を出せ」
門番は小指で耳をほじりながら、酷く不思議そうな顔で首を傾げた。
「へえ……道場破りねえ。なるほど……で?どちらの方に?」
「……は?」
「いや、だから。この道場には、部門ごとに師範が複数おりますんでね。誰に挑戦したいのか聞いてるんですよ。予約はしてます?」
吾輩は無言で隣を見下ろす。
由太郎もまた、目を丸くしてこちらを見上げていた。
深く、ゆっくりと頷きを返す。
「……聞いたか由太郎」
「は、はい……!」
「思った通りだ。剣術にとどまらず、総合的な実戦技術を部門ごとに教え込む、恐るべき流派だぞ。近代軍隊の組織図そのものではないか」
「こ、これは……先生でも、一筋縄ではいかないかもしれませんね……!」
重要なのは、神谷活心流がもはや単一の流派などではなく、近代戦術を貪欲に吸収した巨大な複合戦闘集団であるという事実。剣、銃、薬、恫喝、引き抜き。勝利という結果のためなら手段を問わぬその姿勢は、軟弱な剣術とは対極にあり、武芸者として戦慄すら覚える。
「まあいいや、とりあえず中へどうぞ。死んでも文句言わない、あと死体は阿片畑の肥料にするって同意書に一筆書いてもらいますけどね」
「……死体を肥料に?」
「循環型社会ってやつですよ」
「あんた今、たぶん意味わかんねえまま横文字使ってるだろ」
相方の門番が小声で突っ込むのを背に、胸の奥の鼓動が限界まで跳ね上がるのを感じていた。
肥料。死体。阿片畑。
ここまで濃厚な死の匂いを漂わせる場所が、この東京のど真ん中に存在しようとは。吾輩は今、とてつもない魔境へと足を踏み入れている。
門をくぐった刹那、空気が爆ぜた。
ドカン!!バンバンバンバン!!!
鼓膜を直接殴りつけるような爆音。思わず足の裏が地面に縫い付けられる。視線を向けた庭先で、さらに呼吸が止まった。
硝煙が渦巻く中、両手にリボルバーを構えた年端もゆかぬ少女が、金切り声を上げていたのだ。
「甘いです!!コンバットは機動力!!近接戦闘ではハンドガンを惜しみなく使え!!弾の消費を恐れるな、撃ちまくれぇぇ!!」
その脇で、屈強な男が追従して怒鳴る。
「燕師範代の言う通りだ!!実戦で立ち止まってジックリ狙う時間が取れると思うな!!走りながら狙え!弾幕を張って敵を蜂の巣にしろ!!」
地に這い、転がりながらも、若い衆が絶叫と共に発砲を繰り返す。
「はい!!!!燕姐さん!!宇佐美の兄貴!!」
「………………」
呆然と立ち尽くすほかない。
剣術道場の前庭とは到底思えぬ、戦場の最前線そのものを切り取ったかのような惨状。そして何より、その地獄の指揮を執っているのが一人の少女であるという事実。
射撃訓練の光景は、観察すればするほど異常を極めていた。
燕と呼ばれた少女は、単に銃火器の扱いを教えているのではない。足運び、伏撃姿勢、退避行動の機微に至るまで、その指示は過酷なまでに具体的だ。
「遮蔽物から顔だけ出すな!!額ごと撃ち抜かれたいんですか!!腰から下だけずらして、撃って、沈めて、もう一回です!!」
「はいっ!!」
「次!!左腕を撃たれた想定で片手射撃!!指が飛んでも口で装填する気概を持ちなさい!!」
「気概でどうにかならねえこともあります姐さん!!」
「弱音禁止!!」
齢十歳にも満たぬであろう少女が、純然たる殺し合いの理屈で大人たちを支配している。武術の師というより、小隊長の顔だ。
由太郎が背後で小さく震えるのも無理はない。だが、吾輩の眼には、そこに一種の清々しさすら映っていた。勝つために不可欠な技術を、年齢や体格という壁を越えて徹底的に叩き込む。その非情なる合理性は、真古流の理念と決して遠くない。
「先生……」
「神谷活心流って、ひょっとして剣術道場のふりをした軍事教練所なんじゃ……」
「ふり、ではあるまい」
「剣術を核としながらも、この明治という時代を生き抜くために必要な死の技を増築し続けた結果が、あの姿なのだ。古流が時代へ食らいつくとは、斯くも凄まじいことかもしれん」
「先生、急に評価が高くなってません?」
「高い。大いに高い」
肯定に一切の躊躇はない。
「だからこそ、我が真古流の牙を突き立てる意味があるのだ。相手が弱小であれば踏み躙る価値もない。道を踏み外すほどに実戦へと傾倒した流派だからこそ、真古流の絶対的な正しさを示す生贄に相応しい」
その宣告に、由太郎の強張った表情がわずかに緩む。吾輩が敵を高く評価した時ほど、勝負の熱が真を帯びることを、この弟子は肌で理解しているのだ。
「……あの娘は一体……?」
「ああ。ウチの銃撃部門の師範代、『三条燕』様です。可愛い顔して、両手撃ちの悪魔ですよ」
「まだ年端もいかない少女のように見えるが……」
「御年十でございます。いや〜、ホントに見事なお方だ。的のド真ん中しか撃ち抜かねえし、最近じゃ動く的も百発百中だ」
由太郎の顔から血の気が引いていく。
「先生……じゅ、十歳で師範代……!?」
「落ち着け」
弟子を制しながらも、吾輩自身の内腑も激しく波打っていた。
十歳の小娘に銃器部門の全権を委ねる。その発想自体が正気の沙汰ではない。だが裏を返せば、それほどの天賦の才を見抜き、実戦の要として磨き上げたということ。神谷活心流、底が見えぬ。
「流石は、ウチの次期組長の『嫁候補の三人目』ってところですな!」
「………三人目?嫁候補って、三人いるんですか?」
「ええ。序列がありましてね」
若い衆は手馴れた様子で指を折り始める。
「一人目は、神谷活心流の総師範にして、この麻薬シンジケートの首領である『神谷薫』様。二人目は、ウチの剣術師範にして冷酷無比の暗殺メイド『河上彦斎』様。そして三人目が、あの天才ガンマンの燕様です。まあ、弥彦の坊っちゃんは『俺はヒロインになる』とか最近よく分からないこと言ってますけどね」
「……………」
吾輩の思考が、一時的に白紙となる。
致死量の情報が雪崩れ込んできた。麻薬シンジケートの首領。暗殺メイド。嫁候補の三人目。ヒロイン。
どこから解きほぐせばよいのか皆目見当がつかぬ。だが、その狂気の羅列の中に、ただ一つ、魂を激しく揺さぶる名があった。
「ま、待て。今、一人聞き捨てならない名前が聞こえたような気がしたが……」
「剣術師範の『河上彦斎』様でしょうか?」
「ええ、本物の人斬りですよ。地面を這うような低空からの抜刀術には、琴の姐さんの三段突き以外、勝てるものはいませんね」
全身の毛穴が粟立ち、武者震いが駆け巡る。
河上彦斎。
幕末四大人斬りの一角。もしそれが世迷い言でなく真実であるならば、真古流の威光を天下に知らしめるに、これほど極上の首はあるまい。
「う……うむ!」
抑えきれぬ闘気と共に、自然と足が一歩前へ出る。
「案内せい。吾輩はまず、その河上彦斎とやらを討ち果たす。幕末の亡霊を斬り伏せれば、我が真古流の絶対的な強さを天下へ轟かせることができる!」
先ほどまで飄々としていた案内役の顔から、すっと表情が消え失せた。
「……………アンタ、本気で言ってます?」
「当然だ」
「首が胴体に繋がっていたいのであれば、絶対にお勧めしませんよ」
「何?」
「あのメイド、機嫌が悪いと普通に三秒で三枚おろしにしてきますからね……。この間もチンピラが肥料にされたばっかりだし」
「せ、先生……ここは一度様子を……」
「何を言う!!」
裂帛の気合いと共に一喝する。
「真古流の使い手たるもの、恐れてどうする!吾輩は強いぞ!!我が秘剣・飛飯綱の切れ味を見せてやろうか!!」
案内役は、ひどく重い溜息を吐き出した。もはや死人にかける言葉はないとでも言いたげな、底冷えのする態度だ。
「………はあ………どうぞ、勝手に死んでください。止める義理もねえや。すいませーん!緋村先生!お彦様はいらっしゃいますか??」
「おろ?」
庭の奥、縁側に腰掛けながらのんきに大根の皮を剥いていた優男が、間の抜けた声を上げる。
燃えるような赤い髪。左頬に刻まれた十字傷。整った顔立ち。だが、その手にあるのは凄惨な刀剣ではなく、日用品の包丁と瑞々しい大根である。
「お彦殿なら、今は弥彦の学習院の『お迎え』で留守でござるよ」
「実は、このデカい方が道場破りをしたいそうで……よりによって、お彦様に挑むと息巻いてるんですよ」
その言葉を聞いた瞬間、緋村と呼ばれた男の手から包丁が滑り落ちそうになり、目を大きく見開いてこちらを凝視した。
「なんと……!ま、まさか命知らずな!」
「そこの御仁、悪いことは言わないでござる。絶対にやめておくでござるよ!お彦殿は今、弥彦の過密スケジュールのせいで『手首が風邪を引いている』のでござる!機嫌が悪い時のあの人は、問答無用で相手を『ケシの花の肥料』にするでござるよ!!」
「何を言うか、軟弱者が!!」
鼻先で一蹴する。
「道場破りに来て、刃も交えず帰れと申すか!!吾輩の殺人剣を舐めるな!!」
やはりこの男、ただの居候ではない。なるほど。剣の心得はあるようだが、その精神は致命的なまでに甘い。真古流が駆逐すべき、軟弱なる偽善の体現者だ。
「……仕方ない。拙者が相手をするでござる。お引き取り願おう」
「ひ、緋村先生!よろしいのですか?先生はウチの軍需産業のトップ営業マンなのに……こんな道場破りにかまけて怪我でもしたら、琴の姐さんに『明日の海軍省への接待どうすんのよ!』って怒られますよ!」
「接待」
思わず口の中で反芻する。
海軍省。兵器横流し。接待。
もはや確定だ。ここは単なる道場ではなく、軍需、諜報、暴力が完璧な調和を見せる異常組織。その中で、この男は営業を担いながら高官とのパイプを持ち、いざとなれば剣も振るう。役割分担の徹底ぶりが恐ろしい。
「構わぬ。これも、目の前の命を救うための『不殺』でござる」
「何だと!?吾輩を哀れむというのか!」
流石に看過できぬ侮辱だ。この男、本気で吾輩の命を保護対象と見なしている。真古流の刃を前にして、なんという思い上がりか。
「吾輩は『人斬り彦斎』とやれると聞いて参ったのだぞ!お前のような、縁側で大根の皮を剥いているどこの馬の骨とも知らぬ優男に用は……」
言い終えるより早く、緋村の視線がこちらを射抜いた。
その刹那、世界が凍りついた。
ただの居候ではない。
温厚な優男の仮面が剥がれ落ち、底なしの暗闇から冷酷な気配が這い出してくる。
「申し遅れた」
緋村の低い声が、静まり返った庭に響く。
「拙者……元・長州派維新志士。……『緋村抜刀斎』でござる」
「おおおお!!!」
歓喜の咆哮が喉を突き破る。
血湧き肉躍るとはこのことか。かの伝説、人斬り抜刀斎。幕末の動乱において、その名を知らぬ者はいない。血に染まった赤髪、左頬の十字傷。目の前の男の姿と、伝説の描写が寸分違わず重なり合う。
「確かに……その赤い髪、左頬に刻まれた十字傷!!まさか斯様な魔窟で出会えるとはな!!」
由太郎も興奮を隠しきれずにいる。当然だ。河上彦斎に届かずとも、あの緋村抜刀斎と刃を交えることができるのだ。武に生きる者として、血が滾らぬ道理がない。
「フハハハ!!河上彦斎が留守なら丁度いい!相手にとって不足なし!!我が『真古流』の殺人剣の錆にしてくれるわ!!!」
由太郎の顔がパッと輝く。
「先生!これは僥倖ですね!!」
「うむ!!」
高笑いが止まらない。先ほどまでの大根剥きが嘘のような、研ぎ澄まされた刃の気迫。極上だ。甘さは鼻につくが、名を上げるための贄としては申し分ない。
対する緋村の顔は、なぜか複雑に曇っていた。
「おろ……。思った以上に喜ばれているでござるな……」
案内役が呆れ果てた声で呟く。
「命を救うために出てきたのに、本人は完全にラッキーイベント扱いしてますからね」
「本当に、人助けは難しいでござる……」
彼らのやり取りの真意を、吾輩は正しく咀嚼できていなかった。だが、どうやらこの抜刀斎、本気で吾輩の命を案じて剣を抜いたらしい。滑稽の極みだ。人斬りが命を救うなどという矛盾。その欺瞞に満ちた甘さこそ、真古流の刃で完膚なきまでに叩き斬るべき標的である。
太刀の柄を確と握りしめる。
「よい。ならば、河上彦斎の代わりに、まずは貴様から真古流の恐ろしさを骨の髄まで教えてやろう」
「……大人しく負けて帰ってくれれば助かるのでござるが」
「何を寝言を言うか」
「寝言ではないでござる。これは本当に『命を救うための戦い』なのでござるよ」
「意味が分からぬわ!!」
全くもって理解不能だ。
だが、一つだけ確かなことがある。目の前の男は本物だ。そして、この異常な空間は、吾輩の想像を絶する深淵にして魅惑の魔境であるということ。
銃火器。麻薬。暗殺メイド。幕末の人斬り。天才少女ガンマン。海軍省との黒い癒着。
剣という一つの物差しで測るには、明治という時代はあまりにも巨大に過ぎる。その巨大な混沌を、この道場は無節操に、しかし極めて合理的に呑み込んでいる。吾輩はその狂気めいた姿勢に、奇妙なシンパシーすら抱き始めていた。だからこそ、その真価を確かめるためにも、まずはこの抜刀斎を仕留めねばならない。
「先生……!僕、見届けます!真古流と抜刀斎の勝負を!」
「うむ、瞬きせずに見ておけ」
自信に満ちた声で応じる。
「これが、真の殺人剣だ」
その直後、庭の奥から再び激しい銃声が轟いた。
「遅いです!!その隙で三回死ねますよ!!」
「はい!!燕姐さん!!」
熱気と狂気が入り混じる異様な空間。
吾輩の口元に、獰猛な笑みが張り付く。
この道場、やはり極上に面白い。
そして緋村抜刀斎は、斯様な狂気の中心にありながら、なぜか吾輩の命を守ろうと立ち塞がっている。どうしようもなく滑稽で、しかし斬り甲斐のある男だ。
ゆっくりと足を開き、重心を落とす。
由太郎が固唾を呑む音が聞こえた。
大人しく「剣の勝負」で終わるような軟弱な場所ではない。門をくぐった時点で、そんなことは百も承知だ。だからこそ、吾輩は心の底から笑い飛ばす。
「来い、抜刀斎」
「できれば静かに終わらせたいでござる」
「無理を申すな」
ただ、眼前にある強き刃を叩き折る。それだけで至上の喜びなのだ。
もっとも、この命懸けの戦いすらもが、ただ吾輩を阿片畑の肥料にさせまいとするための「保護活動」であったことなど、この時の吾輩は微塵も理解していなかったのである。
ここまで読んでくださってありがとうございます。
今回は雷十太視点で、神谷道場の狂気を盛大に誤読してもらう回でした。
好きだった勘違いポイントや、笑った場面、今後の邂逅で見たい展開などがあればぜひ教えてください。
神谷道場はどちらにつく?
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志々雄一派
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明治政府
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第三勢力
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独自路線