転生して型月版・沖田総司になったけど、労咳を克服したら明神弥彦の母になっていた件 〜るろ剣世界で最強のママやってます〜   作:だいたい大丈夫

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弥彦に友達を作らせたい。
その願い自体は、たしかに親として真っ当だった。
ただし、その友達の実家が資産家で、師匠が有望な戦力で、ついでに学習院の推薦枠まで絡むとなれば、話は少しだけ黒くなる。
今回はそんな塚山家訪問編です。


お友達作りと、塚山家営業戦略

塚山家は広かった。

 

途方もなく巨大で、果てしなく広い。

門構えに滲み出る圧倒的な資本の匂い。

手入れの行き届いた庭木や、無駄に上質な玄関先の石畳すらも、この家が抱える『懐の深さ』を雄弁に物語っている。

 

懐の深い家は、総じてこちらの提案に耳を傾け、うまくいけば継続的な資金援助まで約束してくれるものだ。

友情と資本は決して対立しない。

この世は、無垢な綺麗事だけでは回らないのだから。

 

「へえー、ここが雷十太さんのお家なの?すっごく大きいわねー。庭に阿片の栽培プラントが三つは建てられそう!」

 

最近の薫ちゃんは、裏社会のドンとしての風格がすっかり板についてきた。

この成長ぶりを素直に称賛すべきか、それとも倫理的な危機感を抱くべきか、私の心境は複雑だ。

 

「いいえ、ここは彼に同行していた由太郎くんの生家よ。大層な資産家と見受けられるわ。新たな資金源として、ぜひともウチの陣営に引き込みたいものね」

 

「俺の『同年代の友達作り』が目的じゃなかったのかよ?なんで初手からシノギの臭いしかしないんだよ」

 

「失礼ね。あなたの交友関係構築も本命の目的なのよ?ただ、そのご友人のお父様が莫大な資産を擁し、学習院への憧憬を抱いており、さらには私たちに恩義を感じてくださる状況があるのなら、その全てを有効活用しない手はないでしょう」

 

「有効活用って言い方が、もう底知れず黒いんだよ」

 

「弥彦ちゃん、学校で同年代の友達いない。いつも孤立してる。大丈夫?」

 

その所作自体は我が子を案じる慈愛に満ちた母親のようだが、放たれた言葉は少年の急所を容赦なくえぐっていた。

 

「お前らが毎日毎日、物騒な黒塗りの馬車と屈強なヤクザの護衛付きで学習院に送り迎えしてるせいだよ!!誰も近づいてこねえよ!!」

 

「でも安全でしょう?」

 

「安全すぎて逆に危険なんだよ!!」

 

私は「はいはい」と軽やかに受け流し、重厚な門を叩いた。

 

本日は観柳から拝借した特注の豪華な馬車を乗り付けている。

資産家を相手にする際、見栄とハッタリは最強の武器となる。

こちらにも相応の格と背景があることを、視覚から刻み込まなければならないのだ。

 

「ごめんくださーい!」

 

応対に現れた使用人は、初めこそ怪訝な表情を浮かべていたものの、私たちの背後に控える豪奢な馬車と、弥彦が身に纏う学習院の制服を視認した瞬間、明らかに目の色を変えた。

欲望と畏怖が入り混じったその反応は、痛いほどわかりやすくて助かる。

 

「はい?どちら様で……?」

 

「私、明神琴と申します。本日は、坊ちゃんの由太郎さんに、ぜひウチの息子の学友になっていただきたく、ご挨拶に伺いましたの」

 

淑女の微笑みこそが、堅気の警戒心を解く最良の鍵なのだ。

 

「はあ……。学友と言われましても、急にそのような……」

 

「先日、ウチの子も通っている道場に石動先生が腕試しに見えましてね、そこで思いがけずご縁ができたのです。……実はウチの息子、『学習院』に通っておりまして。できれば由太郎君とも、良きお付き合いができればと……」

 

「え?が、学習院……!?」

 

狙い通り、見事に食いついた。

士族という家柄に僅かな引け目を抱える新興の資産家ほど、学習院という権威の響きに脆い。

 

身分制度の残滓が色濃く残るこの時代特有の弱点だ。

そこに『内務卿のコネ』という極上の餌をちらつかせれば、交渉は瞬く間にこちらのペースへと引きずり込める。

 

使用人は血相を変えて奥へと駆け込み、ほどなくして恰幅の良い当主を伴って戻ってきた。

塚山由左衛門。

人の良さそうな顔つきの奥に、野心と俗物的な欲望が透けて見える。

 

客間へと案内される短い道すがら、薫ちゃんが声を潜めて囁きかけてきた。

 

「ねえ琴さん、このお屋敷の裏手、倉庫まで込みでかなり広そうね。兵器の一時保管庫としても十分に活用できそう」

 

「今はまだ、その話題は胸の内に秘めておきなさい」

 

「はい」

 

素直な返事だけは、本当に愛らしい子なのだが。

 

重厚な扉を抜けて客間へ足を踏み入れると、由左衛門さんはすでに期待で身を乗り出していた。

 

「なんと!由太郎に学習院へ通うような立派なお友達ができていたとは!全く存じ上げませんでした!」

 

「そうなんですよ。ウチはしがない士族の出なもので、学習院という華やかな場では少しばかり肩身が狭い思いをしておりまして……。ですから、ぜひ由太郎君にも学友としてお力添えいただければ、これほど心強いことはないかと……」

 

ここで『こちらから助けを乞う』という構図を演出することが、交渉を円滑に進める秘訣だ。

恩を売る際は、まずこちらが適度な弱みを曝け出すことで、相手の自尊心を満たし、警戒を解かせることができる。

 

完全に上段から手を差し伸べるよりも、「助けてやる」という優越感を抱かせた方が、人は容易に動くものだ。

 

「それは我が家にとっても大変喜ばしいお話……ですが……。ウチのような家柄で、果たして入る隙がありましょうか?財力にはいささかの自信がございますが、士族とはいえ家格の面ではそれほど……」

 

機は熟した。

 

「いえいえ、そのようなご懸念は無用ですわ。大久保卿の周辺に『強力なツテ』がございますので、お一人くらいでしたら、特別推薦枠としてねじ込むことも十分に可能ですのよ?」

 

「な、なんと!あの内務卿であられる大久保利通公に!!?それはぜひ、ぜひともよしなに!!」

 

勝負は決した。

息子の学友作りという無害な名目で懐に入り込み、特別推薦という抗いがたい恩を売りつけ、莫大な資産家との強固なパイプを築き上げる。

 

我ながら惚れ惚れするほど完璧な手腕だ。

極道の姐さんに真に必要なスキルとは、血塗られた刀を振り回すことではなく、こうした人心を掌握する洗練された会話術なのだから。

 

「……で、標的はどこにいる?」

 

その不用意な発言は、築き上げた交渉を一瞬で水泡に帰す危険がある。

 

「ああ、今はちょうど石動先生が道場で稽古をつけておりまして……ご案内いたしましょう」

 

幸いにも、由左衛門さんは今の不穏な呟きを聞き逃してくれたようだ。

 

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

塚山邸の道場は、ため息が出るほど立派な造りだった。

 

その中央に立つ雷十太さんは、以前我が家に乗り込んできた時とは、纏う空気が少し違って見えた。

 

あの時は、虚栄心で塗り固められた殺人剣の威圧感が鼻をついたが、今はしっかりと由太郎くんの動きを見据えている。

構えも、かける言葉も、武芸の師として真っ当なものだ。

 

「はっ!はっ!!」

 

由太郎くんが、小さな体で懸命に木刀を振るう。

額に玉の汗を浮かべながらも、その表情は充実感に満ちて明るい。

褒められることが何よりの喜びとなる年頃なのだろう。

 

「よし!今日はここまで!!!腕の振りが格段に良くなったぞ!」

 

しっかりと師匠の顔になっているではないか。

しかも、その眼差しには妙に深い感慨が宿っている。

 

おそらくこの一週間、彼は本気でこの少年と向き合ってきたのだろう。

私たちの道場に触れたことで、彼の歪んだ価値観が破壊されたのか、あるいは根本から再構築されたのか。

 

「ありがとうございます!!先生!!」

 

「へえー、なかなかいい筋してるわね!由太郎君」

 

場の空気を和ませるための社交辞令のつもりだったが、お彦が横から氷のように冷たい言葉を投下する。

 

「うん。才能ある。弥彦ちゃんと同じくらい。殺し甲斐がある」

 

「なんだと!?俺と同じくらい!?いや、後半の物騒すぎる言葉を今すぐ取り消せ!!」

 

弥彦の切実なツッコミは、この場において最も正しい反応だ。

だが、お彦は決して言葉を撤回しない。彼女の口から出る言葉は、いつだって純度百パーセントの本音なのだから。

 

「お…お前たちは、この間の神谷道場の……?」

 

「ヒッ……!!??な、なぜお前たちのような悪の権化がここに!!?……ゆ、由太郎!下がれ!おのれ殺人集団め!この塚山家には指一本触れさせんぞ!!」

 

かつての傲慢で尊大な道場破りの面影はどこへやら、雷十太さんは恐怖に膝を震わせながらも、弟子を庇うように由太郎くんの前に立ちはだかった。

 

私は少しばかり感心してしまった。

恐怖のあまり逃げ出すかと思いきや、己の身を挺して弟子を守ろうとするその姿勢。

そういう泥臭い気骨は、決して嫌いではない。

 

「……抜いた。斬る?こいつ、強いの?」

 

「ちょっと待って、お彦」

 

ここで刃傷沙汰を起こせば、せっかく築き上げた資産家との蜜月関係が血の海に沈んでしまう。

何より由太郎くんが悲しむだろうし、交渉の後味が最悪なものになってしまう。

 

「剣心がこの間手合わせしたみたいだけど、『当たらなければどうということはない』って言ってたわ」

 

「剣心、そんなこと一言も言ってないわよ」

 

「そうだったかしら?」

 

「ニュアンスとしては遠からずだけど、モビルスーツ乗りみたいな言い回しはしてなかったわ」

 

「ふん!当たればどうとでもなるということだ!!飯綱の恐ろしさ、その身に刻み込んでやる!!」

 

飯綱。前回、剣心を相手に披露した真空の斬撃。

剣の理から一歩外れたようなその異端の技は、生き残るという一点のみに執着した泥臭さがあり、私は密かに評価していたのだ。

 

「ちょっと待って、お彦。私が彼の腕前を直々に査定してあげるわ!ほら、大男くん。遠慮なくかかってきなさい!」

 

「おい母さん!」

 

「その『大男くん』って呼び方、絶対相手の逆鱗に触れるやつだろ!」

 

「怒りで我を忘れた相手の方が、隠された本性が見えて面白いのよ」

 

雷十太さんの顔が、怒りと羞恥、そして極度の警戒で赤黒く染まる。

幕末の京都にはああいう顔をして斬りかかってくる浪士がごまんといたが、平穏なこの時代ではすっかり珍しくなってしまった。

 

「おのれ、女だてらに舐めおって!!くらえ!!纏飯綱!!!」

 

豪腕から放たれた刀身の周囲で、空気が陽炎のように不気味に歪む。

刃そのものではなく、周囲に発生させた真空の波紋で斬り裂く技。

間合いの常識を根底から覆す、実に厄介で面白い技術だ。

 

縮地に近い歩法で、ひょいっと身を躱す。

 

「おっと!これは直撃したら、流石の私も真っ二つかしら?まあ、当たらないのだけれど」

 

「ならば!飛飯綱!!!」

 

不可視の真空の刃が、連続して宙を裂いて飛来する。

私は研ぎ澄まされた動体視力で軌道を読み切り、紙一重の距離でずらし続ける。

 

見えない斬撃とはいえ、戦場で飛び交った銃弾の雨に比べれば、放つ者の意志と殺気が乗っている分、はるかに素直で避けやすい。

 

「なるほど……『纏』は剣に真空の刃を纏わせ、『飛』は間合いの外から致命傷を狙う……だが!振りが大きすぎて隙だらけよ!!」

 

私は一瞬の隙を突き、一気に彼の懐へと潜り込む。

手にした刀の切っ先を、喉元すれすれにピタリと突きつけた。

 

常の剣客であれば、「しまった」と死を覚悟する絶対の距離。

だが、この男はそこで終わらなかった。

 

「ふん!当たらないなら!!これならどうだ!!」

 

「そんなもので!!」

 

彼の下半身が躍動する。蹴りだ。

単なる物理的な蹴りであれば、私は容易に受け流せる。新選組が繰り広げてきた死合の数々を甘く見ないでいただきたい。

……そう確信した、次の瞬間。

 

「甘いわ!!」

 

バシュッ!!!

 

繰り出された足の先端から、鋭利な真空の刃が放たれた。

刀だけでなく、足の振りにも『纏』の原理を応用してきたのだ。

剣客という生き物は、往々にして「刀で決着をつける」という矜持に縛られがちだ。

 

だがこの男は、そのちっぽけなプライドを投げ捨て、生き残るために必死で頭を使い、蹴りへと昇華させた。

 

私は咄嗟に身を捻り、直撃を避ける。

しかし完全には躱しきれず、着物の脇腹が浅く裂け、一筋の紅い血が滲み出した。

 

「くっ!」

 

皮膚を焼くような鋭い痛み。傷は浅い。だが、彼の執念は確かに私に届いたのだ。

私は裂けた着物と滲む血を認めた後、驚きを通り越して自然と笑みをこぼしていた。

 

「……ふふっ。まさか足先から真空を飛ばしてくるとはね。生き残るための必死さに溢れていて……うん、本当に素晴らしいわ。合格よ」

 

「……何だと?合格、だと?」

 

雷十太さんは、予想外の反応に本気で戸惑い、刀を下ろした。

相手を力でねじ伏せるだけでなく、何としてでも一矢報いてやるという執念。

綺麗事では済まされない実戦において、その泥臭さこそが最も頼りになる生存本能なのだ。

 

「ええ。とても気に入ったわ。飛飯綱も纏飯綱も悪くないけれど、最後に足で足掻いてみせたその意地汚さが特にね」

 

「い、意地が悪いとは何だ!」

 

「最高の賛辞のつもりよ」

 

「褒め方に悪意しか感じん!!」

 

「悪意じゃないわ、深い愛よ」

 

「そっちの方が何倍も恐ろしい!!」

 

私たちの気の抜けたやり取りを見て、由太郎くんが強張らせていた肩の力を抜き、微かに笑みをこぼした。

 

最初に会った時の生意気な態度は影を潜め、年相応の柔らかな表情になっている。

これなら、弥彦ともそれなりに上手くやっていけそうだ。

 

「石動さん……。私たちは今、真の活人剣を目指し、同志を集めています。あなたのその確かな実力と、身を挺して弟子を守ろうとする気高い心意気……私たちの組織に、その力を貸していただけませんか??」

 

「ふざけるな!!」

 

「我が真古流は実戦を本位とする至高の剣!!それに、裏で阿片を売り捌き、最新兵器を密造するお前たちのような殺人集団が、一殺多生の活人剣などと口にするだけで片腹痛いわ!!」

 

掲げる理想は崇高でも、実際に行っている事業は完全に悪の巨大シンジケートのそれなのだから。

だが、その矛盾をどう美しく包装して相手に飲み込ませるかこそが、組織のトップたる彼女の腕の見せ所だ。

 

「いいえ。私たちが目指すのは、一部の犠牲の上に他を生かすような、安っぽい『一殺多生』ではありません」

 

「何だと!?」

 

「私たちが至高とするのは、誰一人として殺さずに全てを無効化する絶対的な力。阿片がもたらす深い多幸感で戦意を根こそぎ奪い、圧倒的な重火器の弾幕で戦争の火種すら起こさせない。たとえ敵が何度立ち塞がろうとも、完全に制圧し、支配下に置く」

 

彼女の声は、どこまでも澄み切っている。

 

「相手の命を奪うことなく、己の守るべきものを全て守り抜き、自身も決して死なない……それこそが究極の強さ。名付けるなら、『不殺全生』の剣です」

 

言葉の表面だけを掬い取れば、これほど美しく崇高な理想はない。

清楚な剣術小町の声色が、その歪んだ倫理観を見事に隠蔽し、謎の説得力を生み出しているのだ。

 

「言ってることは無茶苦茶立派に聞こえるけど、やってる手段が極悪非道すぎるだろ!!麻薬で廃人にするのを『殺してないからセーフ』って独自の理論で正当化してるだけじゃねえか!!」

 

「弥彦、しーっ」

 

「今、大事な交渉の真っ最中なんだから」

 

「交渉中だからこそ、誰かがストップをかけなきゃいけないんだよ!!」

 

だが、雷十太さんの強固な意志は、薫ちゃんの紡ぐ甘美な言葉の毒に少しずつ蝕まれ始めていた。

「守るための力」「死なないための力」「相手を制して生かす力」

 

弟子を守りたいと願う今の彼にとって、その言葉は彼自身の理想の形と奇妙に符合してしまったのだ。

 

「決してどうしようもない巨悪を誅することはあるかもしれませんが、私たちは必ずや、その誰も死なせない高みへと至る覚悟です。……貴方が求め続けた真の強さを、どうか私たちの目指す未来に賭けてみませんか??」

 

実に見事な手腕だ。

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

やがて、雷十太さんは絞り出すように低く息を吐いた。

 

「………………わかった。お前たちの掲げるその『不殺全生』とやら、吾輩も真古流の果てとして、その顛末を見届けさせてもらおう」

 

お彦が刀からゆっくりと手を離し、感情のない手つきで拍手を送る。

 

「おお。良かった。交渉成立。首を斬らずに済んだ。これで兵器工廠の警備主任が一人増えた。……安全第一」

 

「警備主任!?」

 

「吾輩はまだ、そこまでの了承はしていないぞ!!」

 

「口には出さずとも、すでにそういう運命」

 

「どんな恐ろしい運命だ!!」

 

薫ちゃんは、太陽のように眩しい笑顔で手を差し出した。

 

「ありがとうございます、石動先生。……私たちと共に、この国の平和を盤石なものにしましょう!」

 

『という名の下の、完全なる市場独占ね』

 

雷十太さんはその白魚のような手をじっと見つめ、次に由太郎くんの安堵した顔を見て、最終的に力強くその手を握り返した。

 

「ただし!吾輩は由太郎の師である以上、この由太郎の身の安全と教育環境の確保が最優先条件だ。良いな!」

 

「ええ、もちろんですわ!」

 

塚山家が誇る莫大な資産規模。

学習院への強力なコネクション構築。

雷十太さんという特級戦力の獲得。

そして由太郎くんという、将来有望なカード。

これら全てが、完璧な形で我が陣営に転がり込んできたのだ。

 

「……俺のささやかな『お友達作り』って、どうして毎回こう、大人のどす黒い謀略に飲み込まれていくんだろうな……」

 

「だって弥彦ちゃん、普通に友達作るの絶望的に下手」

 

「お前らの異常な環境のせいだろうが!!」

 

由太郎くんはまだ状況を完全には飲み込めていないようだが、それでも嬉しそうに目を輝かせている。

学習院という未知の学び舎への切符を手にし、大好きな師匠の居場所まで確約されたのだ。

彼にとっては、夢が無限に広がっていく希望の瞬間に他ならない。

 

その後、騒ぎを聞きつけて道場へ顔を出した塚山由左衛門さんが、息子の師匠がいつの間にか神谷道場の警備主任として取り込まれようとしている事態に青ざめたのも、また一興だった。

 

「え、ええと……石動先生?これは一体どういう……」

 

「ご心配には及びませんわ」

 

「お父様には、学習院の件も含めまして、今後とも末永く、そして『深い』お付き合いをお願いしたいと考えているだけですから」

 

「それは、つまり……?」

 

「つまり、公私共に、今後ともどうぞよろしくお願いいたします、ということですわ」

 

私は、浅く裂けた脇腹の傷をそっと指先でなぞる。

ひりつくような痛みが走るが、決して不快ではない。

 

生き残るために手段を選ばない、足の飯綱。

あのような意表を突く技を本気で叩き込んでくる相手は、この時代においては極めて貴重だ。

彼を取り込めたことは、今回の最も大きな収穫だったかもしれない。

 

「弥彦」

 

私は息子へ向き直り、優しく促した。

 

「ほら、ちゃんと由太郎君にご挨拶なさい。これからお友達になるのでしょう?」

 

「なるけど……」

 

弥彦は渋い顔をしたまま、由太郎くんへ向き合う。

 

「……明神弥彦だ。よろしくな」

 

「塚山由太郎だ!よ、よろしく!」

 

「うんうん、なんとも初々しくて微笑ましいわねえ」

 

「母さん、その目がもう『将来、この家からどれだけ出資させようか』って値踏みする目になってるんだよ」

 

「人聞きの悪いこと言わないで。ちゃんと『弥彦に初めてまともな友達ができそうで良かった』という純粋な親心も、三割くらいは残っているわよ」

 

「残り七割の黒い野望が怖えんだよ!!」

 

「でも本当に素晴らしい結果じゃない、弥彦。素敵なお友達もできて、しかもその師匠まで私たちの貴重な戦力に加わってくれるかもしれないなんて」

 

「だから、その二つを平然と同じ天秤にかけるな!!」

 

「弥彦ちゃん、友達できる。組織の資金も潤沢になる。防衛力も飛躍的に向上する。まさに三方よし」

 

「悪徳商人みたいな締めくくり方をするな!!」




ここまでお読みいただき、ありがとうございました。
今回は「弥彦の友達作り」という建前を使って、神谷道場側が塚山家をどう取り込むか、かなり黒い方向で書いてみました。
個人的には、薫の「不殺全生」と、雷十太がちゃんと使える武人として評価される流れが気に入っています。
好きな場面や台詞、特に「ここが笑えた」「ここは妙に格好よかった」などありましたら、ぜひ感想をいただけると嬉しいです。

琴(沖田さん)の新選組時代の話

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