転生して型月版・沖田総司になったけど、労咳を克服したら明神弥彦の母になっていた件 〜るろ剣世界で最強のママやってます〜   作:だいたい大丈夫

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神谷道場の地下で、だいぶ物騒な会議が開かれます。
各陣営の火種が、少しずつ顔を見せ始める回です。




剣心

【挿絵表示】



神の作戦会議

神谷要塞の地下大会議室って、何度見ても頭がおかしいのよね。

 

壁には詳細な地形図、最新兵器の青写真、港湾の緻密な見取り図――そして何故か、今月の阿片売上推移の折れ線グラフまでが堂々と貼り出されている。どこの軍司令部よ、と毒づきたいところだけれど、残念ながら現在の神谷道場はそれに限りなく近い。しかも、極めて悪い方向で。

 

今日はそこへ、幹部がほぼ全員呼ばれている。

 

薫ちゃん、お彦、剣心、左之助、燕ちゃん、太郎、雷獣太、宇佐美、水野、蒼紫君、恵さん、弥彦、そしてアタシ。これだけの顔ぶれが揃うと、漂う空気はもう円卓会議というより、世界征服を企む秘密結社の密談なのよ。肌を刺すようなプレッシャーで、室内の温度が数度下がったようにすら感じる。門下生たちの間でも「いよいよ政府かどこかと全面戦争では」なんて不穏な噂が囁かれているらしいけれど、この人数が顔を突き合わせていたら、普通はロクでもない血生臭いことしか決まらないわよ。

 

ついでに言えば、この会議室の背筋が凍るようなところは、円卓の席順にまで微妙な上下関係と火力バランスが緻密に反映されているところなのよね。首領たる薫ちゃんの右にお彦、左に剣心、その少し外側に蒼紫君と恵さん。対する正面側には左之助と宇佐美、水野。

 

つまり、「今ここで誰かが発砲しても、三秒以内に最低五通りの殺し方で制圧できる」という死線が、目に見えない糸のように張り巡らされた配置になっている。偶然じゃないわね。絶対に誰かが計算して組んでいる。たぶん蒼紫君かお彦。悪趣味の極みだけれど、実務としては満点だわ。

 

太郎にしたって、最近すっかりこの毒気に当てられた空気に馴染んでいるのが面白いのよ。最初は怯えた仔犬みたいな目をしていたのに。

 

今は会議の前に、微塵も震えない手で人数分の極秘資料を並べているのだから。洗脳というか、もう立派な社風への順応よね。

 

あと弥彦。あの子、こういう重苦しい会議に毎回しれっと座っているけれど、冷静に考えたらまだ十歳なのよ。人材育成の環境としてはたぶん最悪の部類だけれど、精神力だけは鋼のように無駄に育っていくわよね。母親としては、本人に申し訳ない気持ちでいっぱいだけれど。

 

「……忙しいところ集まってもらって悪いわね。何でも、昨日の昼間、お彦さんが『喧嘩』したって話だけど」

 

 いや、軽いわね?アタシは内心で激しく突っ込む。喧嘩って何よ。道場の分厚い壁が物理的に一枚ぶち抜けているのよ?砂場での子どもの取っ組み合いじゃないのよ?

 

「いや違うだろ!喧嘩ってレベルじゃねえ!新選組の生き残り、斎藤が道場の壁をぶち抜いて襲ってきたんだろうが!殺し合いだぞ!」

 

ほんと、それ。

 あの襲撃の報告を聞いた時、アタシも一瞬だけ、指先から煙管を取り落としかけたもの。斎藤さん、とうとう来たかって。あの人らしいわ。真っ直ぐで執念深くて、でも真っ直ぐすぎる顔では決してターゲットに近づかない。昔から本当に面倒臭い男よね。

 

当のお彦は、負傷した肩の包帯を無造作にさすりながら、昼寝から覚めた感想でも述べるような、凪いだ顔で答えた。

 

「喧嘩。それは子供の遊び。あれは正当防衛の殺し合い。……久しぶりに血が沸騰した。最高のセラピー。大丈夫」

 

「どこが大丈夫なのよ」

 

「でも……お彦さんに、一撃とはいえ傷を負わせるなんて……。やっぱり、相当な腕前なのね。毒でも塗っておけばよかったかしら」

 

「医者が最初に出す反省がそこなの、ほんとどうかと思うわよ」

 

 でも恵さんの言いたいことは分かる。お彦が一撃でも手傷を負うなんて、普通の感覚ならあり得ないのよ。あの子、基本的に「先に斬る」か「斬られる前に相手の首を落とす」かの二択だけで血みどろの人生を生きているのだから。

 

剣心が微かに眉間を寄せ、低く息を吐いた。

 

「斎藤は、新選組の中でも一、二を争うほど強かったでござるからな。幾度となく刃を交えたが、結局決着はついておらんでござる」

 

「えーー!ちょっと緋村さん、それはどういうこと!?新選組で『私が最強』だって、前に言ったじゃない!斎藤さんが一、二なら、一番隊組長の私は何なの!?補欠!?」

 

ここは大事よ。ものすごく大事。

 新選組の強さランキングって、当人たちのメンツと面倒くさい感情が全部乗っかっているから、本当に取り扱い注意なのよ。私だってそこだけは絶対に譲れない。いくら今が極道だの十本刀だのと言い張っていても、一番隊組長としての意地があるの。

 

剣心はあからさまに面倒臭そうな顔を浮かべたが、慌てたように言葉を継いだ。

 

「あー、すまないでござる。もちろん琴殿の剣気は凄まじかったでござるよ。でも、永倉殿も近藤殿も土方殿も、それぞれベクトルは違えど本当に強かったでござるからな……」

 

顔にハッキリと書いてあるわね。

「新選組はバケモノの巣窟でござる」って。

 

 ええ、知っているわ。だって私自身がその血塗られた巣の中にいたのだもの。今思い返してみても、あの時代のうちの連中、だいぶ頭のネジも腕の立ちっぷりもおかしい連中ばかりだったわよ。

 

その横で、弥彦が声を潜めて私に身を寄せてくる。

 

「おい、母さん。斎藤の奴が今『警官』やってるってこと、みんなに話してなかったのか?」

 

「いや〜、流石に言う必要ないかなーと。知ってたけど黙ってたの」

 

「馬鹿!」

 

 でも仕方ないじゃない。斎藤さんが警視庁の密偵をやっているなんて、この殺気立った場で最初から共有したら、無駄に空気が悪くなるだけだもの。いや、今も十分に最悪な空気なんだけれど。

 

「ってことは、いよいよ俺達の阿片やら密造武器やらが、警察のトップに嗅ぎつけられたってことじゃねえか!ただの喧嘩じゃないぞ!」

 

「むしろ、ウチは山縣有朋卿とかに直接取り入って献金してるから、組織的な警察のガサ入れはないと思うけど……。多分、斎藤個人の独断か、別の黒幕の差し金ね」

 

「献金って言い方で誤魔化すなよ。どう聞いても賄賂だろ」

 

「言葉は選び方が大事なのよ」

 

 最近この子、十歳のくせに私を見て「大人って最低だな」とでも言いたげな氷のような視線を向けてくるのよね。事実すぎて否定しづらいから、本当にやめてほしい。

 

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

 

そこで蒼紫君が静かに腕を組み、いつもの氷点下のような冷たい声で報告を始めた。

 

「……我々御庭番衆の調べによると、斎藤一は現在『藤田五郎』と言う名前を使い、警視庁の密偵として働いているそうだ。だが……つい先日、渋海という大物政治家が飼っている『裏の暗殺組織』に雇われたとの情報が入った」

 

 つまりこれ、昨日の襲撃は個人的な執念だけじゃないってこと。警察の犬でありながら、別口のどす黒い闇にも噛んでいる。

 

この張り詰めた場で最初に反応したのは、やっぱり燕ちゃんだった。

 手にした二挺拳銃のシリンダーをチャカッと軽快に回し、無邪気な笑顔のままで言う。

 

「なるほど……。では、その『渋海さん』の頭を、私の狙撃で物理的に吹き飛ばせば解決ですね。明日の夜、一人で『リフレッシュ』に行ってきましょうか?」

 

軽い。提案の命の重さが軽すぎる。

 暗殺を午後のお散歩か何かみたいに言うのよね、この子。

 

だが、その提案に慌てて待ったをかけたのは太郎だった。

 

「ま、待ってください!燕師範代!そう単純にはいかないでしょう。暗殺自体は簡単でも、大物政治家を殺せば『裏』が分からなくなります。警察の報復も含め、組織全体のリスクになりますよ!」

 

 この子、完全にこの異常な道場の空気に馴染んでいるようでいて、こういう時だけ妙に真っ当な正論を吐くのよね。

 

最初は他組織からの潜入スパイだなんだって話もあったけれど、今の必死な顔を見る限り、半分以上は本気でうちの組織の将来を心配している。恐ろしい話よ。洗脳って、こうやって無自覚のまま深層心理まで蝕んでいくのかしら。

 

宇佐美が鼻で嘲笑う。

 

「へっ。なんだ新入り、ビビってんのか?俺達のバックには陸軍卿と海軍卿がいるんだぜ?仮に一人の政治家が裏にいようが、殺したところで金でもみ消せる。問題ないだろう?」

 

「その『金でもみ消せるから問題ない』という思考が一番の問題なのよ」

 

「太郎さんが言っているのは……その渋海を背後で操っているのが『政府の人間とは限らない』といったことじゃないかしら。別の裏の巨大組織とか、外国のマフィアとかね」

 

その鋭い指摘に、太郎の顔が一瞬だけ硬直する。

 

 ああ、そういう顔をするのね。なるほど。この子、自分が思っている以上に、うちの首領の器を甘く見積もっていたんだわ。

 

 薫ちゃん、そういう深淵を覗く目は本当に鋭いのよ。たまに私でさえ背筋がぞっとするくらい。

 

「なるほど……。となると、ウチの集英組単体のシノギとしては、少しスケールがデカすぎますね。姐さん」

 

「…………そうね」

 

「焦って殺して、あとから『国』や『未知の巨大組織』と全面戦争……というのも怖いし、コスパが悪いわ。弾薬の無駄遣いよ」

 

「そこ、コスパで判断するんですか」

 

 という呆れた顔を太郎がしている。視線で刺してくる。

 

 ええ、するわよ。戦争っていうのは莫大なお金がかかるんだから。高尚な理念だの正義だのを振りかざしながら、足元の資金繰りで破産するのが一番みっともないの。極道も組織も、結局は財務が命。私はそこだけは誰よりも真面目よ。

 

「とりあえず、蒼紫さんに引き続き情報網を使って調べてもらいましょうよ。手を出さずに監視だけ。必要なら自白剤はいつでも提供するわ」

 

「その『自白剤』って言い方で済ませている代物、たぶん普通に人が死ぬ猛毒よね」

 

 でも方向性としては賛成。今は焦って血を流すより、じっくりと闇を探る方が賢明だわ。

 

「頼むぜ、父さん」

 

弥彦がさらっと口にする。

 

 蒼紫君は、そのたった一言だけで微かに、でも確実に口角を吊り上げた。

 

 ほんと現金な男ね。情緒の構造があまりにも単純なのよ。普段あれだけ絶対零度の氷壁みたいな顔を張り付けているのに、弥彦から「父さん」と呼ばれるだけで露骨に機嫌が良くなるんだもの。

 

「…………よし!任せておけ。……沖田さんからは、何か補足はないのか?」

 

「………はあ。頑張れ、蒼紫君」

 

一切の感情を排した、完全な棒読みで返す。

 でも本人はそれだけで十分に満足そうに頷く。

 

「うむ」

 

嬉しそう。

 安い。ほんとに安いわ。激重な感情を抱えているくせに、食いつく餌が簡単すぎるのよ。

 

「さて。私たちの組織『神』は、順調に拡大と武装化を続けているわ。……でも、国内で私たちの相手になる裏の組織が、現在大きく分けて『あと二つ』あるの」

 

ここからが本題ね。

 

「一つは……『時守』話によると、何でも平安の時代から歴史の闇で暗躍している秘密結社らしいわ。ある程度、現代の政治の中枢にも入り込んでいると思ったほうがいい強敵よ」

 

太郎の喉が、ゴクリと小さく鳴った。

 あら、今の反応、普通のものじゃない。まあこの子、元々いろいろ裏の事情があるんでしょうけど、ここまで分かりやすく動揺されると逆に微笑ましいわね。

 

「『時守』には、時の番人と呼ばれる最高戦力がいる。それぞれが別の武器を極めた、感情を持たない最強の暗殺集団らしい。……十二人全員を肥料にするのは、お彦さんでもちょっと体力使うから大変。残業になる。ブラック企業反対」

 

「そこ、労働環境の問題としてまとめるの!?」

 

 偉い。十歳の子供にここまで場の制御を頑張らせている大人たち、控えめに言ってだいぶ最低ね。

 

 言葉には出していないけれど、「なんでそんな最深部の内部情報まで筒抜けなの」という顔だわ。分かるわよ。蒼紫君の情報網、ほんとどういう仕組みになっているのかしらね。あの男、必要な時だけ底知れず有能すぎるのよ。必要ない時は私の巫女装束姿でも妄想しているくせに。

 

「でも、その『時守』って奴らからはまだ直接の手出しはないんだろ?……もう一つの脅威ってのはなんだ?」

 

弥彦が鋭く訊ねる。

 

「……蒼紫さん、説明を」

 

「ああ。抜刀斎……『志々雄真実』を知っているか?」

 

 もうそこまで尻尾を掴んでいるの。ほんとに優秀ね、蒼紫君。志々雄くん側が、未だにうちの全容と正体を掴みきれていないのって、完全にこの男の防諜手腕の賜物じゃない。ヤバいわね。情報戦の時点で志々雄くん、だいぶ不利な盤面に立たされているわ。

 

「……志々雄……真実。ああ。拙者から『影の人斬り』の役目を引き継いだ男でござるな。たしか、口封じのために同志討ちに遭って全身を焼かれたと聞いたが……生きていたのでござるか」

 

声は地を這うように低い。

 

蒼紫君は表情一つ変えず、淡々と報告を続ける。

 

「その志々雄が、現在京都で暗躍している。裏の商人や過去の暗殺の情報を盾に、それで政府高官を脅して揺さぶりをかけ、最終的には武力による『明治政府の転覆』を狙っているらしい」

 

「転覆とは穏やかではないわね」

 

「……私たちとしては、その志々雄って人が、どんな展望でこの国を治めたいと思っているか次第だけど。理念が合えば傘下に入れてあげてもいいわ」

 

 上から目線が凄まじい。いや実際、今の神谷道場の潤沢な資金力と過剰な兵器量、そして恐るべき情報網を考えれば、そのセリフがもうそこまで間違っていないのが最悪なのよ。うち、たぶん本気で日本の裏ボスみたいな立ち位置まで登り詰めちゃっている。

 

緋村さんは即座に、鋭く首を振った。

 

「志々雄が我々の傘下に入ることは絶対にないでござる。彼は『弱肉強食』を絶対の理とする男。……我々と敵対する可能性は、極めて高いと思うでござる。話に聞く限りでは、相当に好戦的だそうでござるからな」

 

ええ、そうね。

 そこは私も完全に同意する。

 志々雄くん。あの男は、誰かの下につくくらいなら、自ら業火に焼かれながら高笑いするような狂ったタイプだもの。

 

薫ちゃんとまともに同席させたら、絶対どっちかが三秒以内に「じゃあ消すわね」って殺し合いを始めるに決まっている。

 

「すでに末端のシノギでは、志々雄一派との小競り合いが起きている。幸い、上海マフィアとのパイプや武装と組織力で勝るこちらが優勢ではある。だが……敵の幹部、『十本刀』と言うらしい精鋭の遊撃部隊には、こちらの構成員も被害が出ている」

 

「へえ、どんな人たち?」

 

知っているけれど。

 だって、アタシもその十本刀の一人なのだし。

 

 でもこんな場で「いやー、あっちの連中もみんなキャラが濃くて大変なのよ」なんて口が裂けても言えるわけないでしょうが。二重スパイを通り越して、もはや二重所属みたいな狂った状態に陥っている女に、今さら真っ当な倫理なんて求めないでほしい。

 

「そうだな……今、はっきりと姿と能力が確認できているのは二人。一人は『刀狩りの張』珍しい殺人奇剣を大量にコレクションしているらしい。もう一人が、盲目の剣客のようだが『盲剣の宇水』この二人と接敵したウチの構成員は、いずれも凄惨な手口で肉塊にされている。遠くから観察した密偵の報告によると、その実力は……張はそれなりだが、宇水は我々幹部陣に匹敵する化物とのことだ」

 

「へえ……そいつは面白え」

 

左之助が、獰猛な笑みを浮かべて指の関節を鳴らす。

 

「盲目の剣客か。そいつは俺が、この斬馬刀の錆にしてやらあ。正面から跡形もなく叩き潰してやるよ」

 

「あんたほんと、戦闘狂としては一切ブレないわね」

 

 私は内心で呆れるけれど、同時に少しだけ安堵の息を吐く。左之助がこういうピリついた時に前のめりでいてくれると、場の空気が陰惨に沈み切らないのよ。まあ、暗くならない代わりに物理的に物騒になるんだけれど。

 

「左之助、早まらないで。そのままなし崩しに『志々雄一派』との全面抗争になっても、ビジネス的に困るわ。戦争は莫大な金がかかるのよ。蒼紫さん、とりあえず、トップ同士で『話し合い』ができないかだけは探ってちょうだい」

 

「了解した。……しかし、首領。志々雄真実という男は、話し合いで何とかなるような玉か?」

 

「私たちは『活人剣』よ」

 

「……話し合いで利害が一致し、ウチの軍門に降るなら、それに越したことはないわ。でも、もし出来なければ……綺麗に消すだけのこと。そのための『戦艦』と『最新兵器』よ。武力行使の準備は、決して怠らないように」

 

戦艦。

 改めてその単語を口に出されると、頭痛がひどくなる。

 

 あれ、どう考えてもやりすぎなのよ。海軍でも独立して作る気かと思ったら、本気で建造する気だったし。しかも「抑止力」という魔法の言葉一つで全部の予算を通そうとしているのだから、だいぶ正気を失っている。

 

「薫……マジで、お前もう完全に極悪マフィアの『ドン』だな……。昔の木刀振り回してたお前はどこに行ったんだよ」

 

「どこにも行ってないわよ」

 

「あんた達が、私の生ぬるい綺麗事の目を覚まさせてくれたの。感謝しているわ。私はもう、誰も犠牲にしない絶対的な『力』を手に入れたんだから」

 

いや、その括弧の中の前提を省略するのはやめなさいよ。

 

「敵は抵抗する前に圧倒的武力で皆殺しにする」という血塗られた思想を、『誰も犠牲にしない』という綺麗な包装紙で包むの、かなり悪質でサイコパスじみているわよ?

 

「この国を獲るのに、流血を伴うクーデターなんて非効率な手段はとらないわ。敵の力もできる限り経済力で絡めめとるのが肝要よ。この国を裏から制するのは私達『神』よ」

 

……ダメだ。

 完全にウチの組織、明治政府も志々雄くんもまとめて武力と金で蹂躙できる「ラスボス」に仕上がってしまっている。

 

 しかも、薫ちゃん本人がその恐るべき力に無自覚ではなく、明確な自覚と支配欲を持っている。まずい。すごくまずい。

 

 志々雄くん。あの男は確かに怪物だし、人を惹きつける狂ったカリスマもある。でも、いま現在の『神』と真正面から噛み合ったら、悲惨なくらい不利だわ。情報網で出し抜かれ、資金力で圧倒され、最新兵器の物量で押し潰され、挙げ句の果てには制海権まで取られている。いくら宗次郎くんや宇水、張といった手駒が揃っていても、そもそも戦う土俵のスケールが違いすぎる。

 

私は、煙管を弄る指先の動きを止めない。

 顔の筋肉にも一切の動揺を出さない。

 でも、決断を下しかけている。

 

……もしも、志々雄くんと本気で敵対して、血で血を洗う戦争になるようなら……。

 

 ごめんね、弥彦。

 私は、志々雄くんにつくわ。

 それが、私の意地よ。

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

「……というわけで、時守は継続監視。渋海も泳がせる。志々雄一派は、まず交渉の余地を探る。でも、武装の増強は決して止めない。皆、それでいいわね?」

 

誰も異論を挟まない。

 口答えなど許される空気じゃないもの。

 

「じゃあ閉会。各自、持ち場へ戻ってちょうだい」

 

「……母さん。なんか、嫌な感じしかしねえんだけど」

 

「奇遇ね。アタシもよ」

 

「お前が言うと、余計に怖えよ」

 

「安心しなさい」

 

 私は彼に向けて、優しく、けれど冷たく笑いかける。

 

「一番最悪な時は、ちゃんと逃げ道を作るのが大人の仕事よ」

 

「その言い方、絶対まともじゃねえな……」

 

まともじゃないわよ。

 でも、まともじゃない狂った世界で生き延びるって、そういうことでしょう?

 

……志々雄くん。

 お願いだから、ウチと全面戦争だけはしないでね。

 今の薫ちゃん、たぶん、本当にあなたに勝つわよ。




だいぶ不穏な方向へ話が転がり始めました。
誰の発言や立ち位置が印象に残ったか、よければ聞かせてください。

琴(沖田さん)の新選組時代の話

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