転生して型月版・沖田総司になったけど、労咳を克服したら明神弥彦の母になっていた件 〜るろ剣世界で最強のママやってます〜   作:だいたい大丈夫

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沖田離脱の報せに揺れる神谷要塞。
そんな中、今度は国家の中枢そのものが道場へ乗り込んできます。
今回は、血の匂いがする会談回です。


神谷要塞会談

【神谷要塞地下大会議室】

 

沖田が消えた。

ただの家出じゃない。御庭番衆からの報告書はどれも血生臭い。京都。志々雄真実。十本刀。本格合流。全部私たちの喉元に突きつけられた事実。

 

石造りの地下大会議室。空気が鬱陶しい。

 

今日の私はメイド服を着てない。幕末の京都で着流してた人斬りの装束。白と黒の死装束。

 

隣の弥彦ちゃんから十歳に合わない張り詰めた気配がする。爪が食い込むくらい強く拳を握ってる。母親に置き去りにされた喪失感を握らされてるみたいで胸が軋む。

 

「母さん……」

 

低い音が耳を打つ。たまらず手を伸ばして柔らかい髪を撫でた。私の体温で少しでも不安が溶ければいい。

 

「……沖田は弥彦ちゃんを捨ててはいない。ただ『選んだ』だけ。自分の過去の決着をつける場所を」

 

向かいの席から過去の亡霊を視るような暗い気配が立ち上る。

 

「お彦殿……そのような言い方は今の弥彦には酷でござるよ」

 

抜刀斎の言葉をバッサリ切り捨てる。

 

「……私はこれからは『河上彦斎』。お彦さんとはもう呼ばないで抜刀斎」

 

隣の左之助から荒い気配が伝わる。平時の粗野な態度は消え失せてる。

 

「お前……まさか本気で姐さんを連れ戻す気に……」

 

「私が沖田総司を連れ戻すまでは。だからメイドの仕事はそれまでお休み。可愛いエプロンは封印」

 

「そこをそんなサラッと休業宣言すんな。メイドって有給とかあんのか?」

 

「ある。心に」

 

「ふわっとしてんな……」

 

声の直後隣の幼い気配が上を向く。可愛い。でも今は愛でるだけで済ませたくない。

 

「え……?お彦……」

 

「弥彦ちゃん。私が必ずあの馬鹿を連れ戻す。あの人はタチの悪い男に引っかかってるだけ。……だから泣かないで。大丈夫」

 

今の『大丈夫』に根拠はない。でも今言い切らなきゃいけないから言葉にした。

 

「……久しぶりにまともな『大丈夫』ね」

 

円卓の最奥から水気の混じった声。首領のくせに涙腺が柔らかい。人間臭くていいけど闇のドンとしては脆すぎないか心配になる。

 

「お彦さん……じゃなくて彦斎。弥彦私も同意見よ。これより私たちは志々雄真実との『交渉』に臨みましょう。困難かもしれないけど相手の組織を経済的にも物理的にも屈服させてでも連れ戻す。……それも私たちの活人剣よ」

 

活人剣の矛盾を指摘する気はない。首領には勢いが必要だから。

蒼紫から冷たく湿った熱が放たれる。血を吸わせるのを心待ちにしてる気配。気持ち悪い。

 

「ふう……沖田さんのためなら骨も折れるか。世話の焼ける人だ。情報戦は任せておけ」

 

水野の骨の軋む鈍い音が室内を叩く。

 

「姐さんには恩がある!必ず目を覚まさせてウチの組に連れ戻してやるぜ!!」

 

宇佐美から感情のない冷気みたいな声が落ちる。

 

「射撃部門全面協力します。必要なら京都の地図全部に弾痕をつけてでもルートを作ります」

 

「地図に穴を開けたら読めないでござる」

 

抜刀斎のツッコミはスルーされた。甘ったるい薬品の匂いが鼻をかすめる。恵だ。

 

「敵方の食事に睡眠薬を混ぜるのが一番早いかしら。いや志々雄本人には効きが鈍いかも。じゃあ自白剤?それとも発情剤を……」

 

「やめなさい」

 

薫の声が倫理の底が抜けかけた空気を切り裂く。

 

「目的は奪還であって夜の内紛誘発じゃないわ」

 

「でも効率は良いわよ?」

 

「それはそうだけど今は保留!」

 

野太い気配が立ち上がる。

 

「……吾輩としては敵地への正面突破よりもまず戦力比を算出してから――――」

 

「雷十太お前は警備主任。算出より先に門番の配置見直して」

 

「なぜいつも吾輩だけ実務なのだ!?」

 

「むさいおっさんだから」

 

「理不尽!!」

 

狂気と日常の輪郭が混ざりかけた瞬間。

乱れた呼吸音と極度の恐怖が扉の向こうから雪崩れ込んでくる。

 

「幹部の皆様!!お表に……その……!!そそそのぉぉ!!」

 

机から苛立ちを含んだ破壊音。

 

「何だ!!落ち着け!はっきり言え!!また警察のガサ入れか!?」

 

恐怖で裏返った声が鼓膜を劈く。

 

「明治政府の内務卿大久保利通!!さらには陸軍卿山縣有朋に海軍卿川村純義まで来られています!!国家のトップが勢揃いです!!」

 

薫の中で緊張の糸が弾け飛ぶのが分かった。ドンの気配は霧散してただの十七歳の怯えが空間を満たす。

 

「えええええええっ!!!!なんで!!?いきなり国家のトップが全員集合!?税金のごまかし!?阿片!?戦艦の無許可購入!?やだ私死刑になっちゃう!!ギロチン嫌ぁぁ!!」

 

「日本にギロチンはないでござる」

 

「じゃあ斬首!?もっと嫌!!」

 

「落ち着け。山縣と川村は我々の兵器のお得意様だったな。抜刀斎お前が営業をかけて賄賂……いや献金を回していたはずだ」

 

抜刀斎から嫌な汗の匂いが漂ってくる。

 

「うむ……しかし大久保さんまで自ら足を運ぶとは想定外……」

 

「おい……大丈夫なのかよこれ」

 

「大丈夫。多分今すぐ皆殺しにはならない。大久保がいるから」

 

薫の水気を帯びた視線が突き刺さる。

 

「今の『多分』は信用したくないわね……」

 

「信用しなくても現実は来る。……首領らしい顔して」

 

「む無茶言わないでよ!!相手国のトップよ!!」

 

「戦艦五隻買った時点で今更」

 

「その事実を改めて言わないで!!」

 

 

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

 

 

【神谷要塞応接室】

 

相手は国家の心臓そのもの。最低限の虚勢は張らなきゃいけない。

私は薫の斜め後ろ。護衛の定位置。一歩踏み込めば相手の首を落とせる絶対領域。

 

室内の空気が重く押し退けられる。

想像以上に疲弊した大久保利通の姿。国を支える重圧で瞳の奥が沈み込んでる。微かな同情が胸をよぎった。

 

背後の山縣と川村は対極。権力にまみれた顔。嫌悪感が胃から這い上がる。

さらに安物の煙草の匂いと苛立ち。斎藤一の気配。

 

そして最後。死の気配が薄いのに底が見えない女。危険すぎる。隅の太郎の空気が劇的に凍りついた。

 

「……久しぶりだな。緋村」

 

「随分とやつれましたね……大久保さん」

 

「古い時代を壊すより新しい時代を『作る』方がはるかに難しい……と言うことだ」

 

乾いた自嘲の響き。

 

「血の滲むような思いで国を引っ張っているが前途は多難だ」

 

「………そうですね。その通りでござる」

 

この二人の間には血の雨を潜り抜けた者同士の波長がある。少し羨ましい。

 

「しかし嬉しいぞ緋村!民間からとは言えこれほどの軍事的協力!お前たちが裏で兵器を開発・横流ししてくれるおかげで我が陸軍の近代化は盤石だ!」

 

歓喜の声が響き渡る。

 

「全くだ!我々海軍も『神』の方々が味方になり例の最新鋭戦艦を安く融通してくれるとなればこれほど心強いことはない!アジアの海は我々のものだ!」

 

前に座る薫からさっきのパニックは感じられない。無慈悲なドンとしての壁ができてる。偉い。

 

「……油断されてはいけませんよ閣下」

 

深海の底みたいな冷たい声が鼓膜を凍らせた。同時に太郎の指先から殺意の痙攣が伝わる。

 

「『神』の方々は表向きは活人剣を謳いながらその実圧倒的な武力と麻薬による国家支配を掲げる極めて危険な方々ですから。首輪はきつく締めておきませんと」

 

瞬時に太郎の殺意が女の眉間に収束した。異常な速さ。私が刀に指を掛けるより早い。

 

「!!!!芹……!!」

 

「あら久しぶりですね。『十三番』。……いえ神谷の犬に成り下がった今は本名で呼ぶべきかしら?『心網列』」

 

背後から極限まで張り詰めた小さな息遣いが伝わる。

 

「おい太郎……知り合いか?」

 

「全員気を抜かないでください……!この人は秘密結社『時守』の特務部隊『時の番人』の一番……筆頭を務める女阿久津芹。……俺の元上司です」

 

上司。嘘だ。声の響きに隠しきれない熱と色が混じってる。恋慕と殺意は匂いが似てるからすぐ分かる。

 

床を滑って芹の背後を取る。刃の腹を白い首筋に添えた。手首を返せば頸動脈が裂ける距離。なのに彼女の気配は揺らがない。肝の据わった良い女。だから嫌い。

 

「……上司とは悲しいわね」

 

「わたしと貴方あんなに深い仲だったのに裏切られるなんて。……悲しすぎてそこの偉そうな女八つ裂きに斬っちゃおうかしら」

 

太郎…いや列が瞬時に動いて薫の盾になる。迷いのない忠誠。

 

「取り消せ……!俺たちの首領に手を出せば俺が君の頭を撃ち抜く!!」

 

空気が一変する。政府の連中から血の気が引くのが分かる。薫も致死性を理解して硬直してる。いつもの光景。

 

刃を当てたまま芹の耳元へ囁く。

 

「……次首領を侮辱したら首を落とす」

 

「あら怖い」

 

脈拍に乱れはない。

 

「……冗談ですよ。国のトップをお連れしている場で野蛮な真似はしません」

 

「『今は』と言わないの偉い」

 

「褒められると照れます」

 

見え透いた嘘。

薫が強引にドンの顔を張り直す。

 

「……大久保卿の護衛に警察だけでなく『時守』のトップまでついているなんてね。やはりあなた達は政治の中枢に完全に食い込んでいたのね」

 

刃を突きつけられたまま芹から挑発的な余裕が放たれる。

 

「無論。我々『時守』は平安の昔からこの国の血肉としてどこにでもいます。あなた方『神』のような昨日今日できた武力任せの新参者は……我々のような本物に追いつくためにもう少し歴史を積み重ねるまで待つことですね」

 

不愉快。感じが悪い。

 

「……まあその前に我々が潰すかもしれませんが」

 

手首に力を込め刃を数ミリ押し込む。白い肌に赤い血の筋が浮かぶ感覚。ここでようやく彼女が私を人間として認識したのが分かった。面白い。

 

「太郎さん」

 

薫の声が低く響く。

 

「撃たないで。まだ」

 

「しかしドン……!」

 

「まだよ。ここは会談の場」

 

「……はい」

 

列からの心からの了承。元暗殺者が素直になるなんて。要塞の居場所の力は絶大。

鉛みたいな疲労を引きずった声が場を制する。

 

「……どうやら思っていた以上に厄介な者たちが集まっているな」

 

「恐れ入ります」

 

薫に営業用の笑みが張り付く。

 

「こちらとしてはできるだけ穏便な関係を望んでおります。最新兵器の供給も海運の手配も引き続き柔軟に――――」

 

「柔軟にじゃないだろ」

 

壁際から冷たい殺気。

 

「阿片の流通まで柔軟にやってるくせによ」

 

「おい斎藤。そういう話は今……」

 

「今だから言ってんだよ。こっちは豚の宴会に付き合いに来たんじゃない」

 

「貴様上官に向かって……」

 

「上官?」

 

斎藤の気配が狼に変貌する。

 

「金で兵器を買ってその兵器を流してる連中の本拠地で鼻の下伸ばしてる奴らが?」

 

気まずい。でも正論すぎて居心地が悪い。

袖口に再び微かな引力が生じる。

 

「……これもはや会談じゃなくて喧嘩じゃねえか?」

 

「最初からそう」

 

「だよな……」

 

芹の余裕ぶった呼気が神経を逆撫でする。

 

「藤田さんは相変わらずですね。正しすぎて少し使いづらい」

 

「うるせえ」

 

「でも嫌いじゃないです」

 

列から嫌悪感が発散される。面倒な関係性。つまり面白い。

刃は引かない。この手の女は余裕ぶってても平然と殺しにくる。

 

「阿久津芹」

 

静かにその名を呼ぶ。

 

「首領に近づかないで」

 

「へえ」

 

芹から楽しげな波動が伝わる。

 

「あなた本当に神谷の犬ですね」

 

「違う。家族の護衛」

 

「同じようなものでしょう?」

 

「違う。かなり違う」

 

「そうですか?」

 

「そう」

 

短い応酬。でも互いの底を測るには十分。

薫が深く息を吸い込む気配。そこにいるのは闇の支配者。

 

「一つ確認したいわ」

 

「どうぞ」

 

大久保から放たれる決して引かないって意志。

 

「今日ここに来られたのは何のため?兵器供給の継続確認?それとも私たち『神』に対する牽制?あるいは完全な取り込み?」

 

政府の連中が動揺する中、大久保だけは迷いなく答えた。

 

「全部だ」

 

その率直さ嫌いじゃない。

 

「我々はお前たちの力を利用したい。だがお前たちが力を持ちすぎることも警戒している。牽制も必要だし可能なら制御したい」

 

「制御ですか」

 

薫から放たれる薄く刃みたいな冷気。

 

「それは難しそうね」

 

「だから首輪と申し上げたんですよ」

 

芹の声が空気を切り裂く。

 

「その首輪噛み切る?」

 

手元の刃に意識を集中させながら問う。

 

「やってみます?」

 

芹も引かない。列の殺意が再び研ぎ澄まされる。忙しない。

重い頭痛に耐えるような大久保の気配。

 

「……頼むからそういうのは国がもう少し安定してからにしてくれ」

 

「今は不安定なんですか?」

 

薫が無垢な少女を装う気配。

 

「見て分からないか」

 

「分かるわ。だから私たちが必要とされてるんでしょう?」

 

わざとらしい咳払い。

 

「ままあそういう側面もある。兵器供給については今後も――――」

 

「お断りしたら?」

 

薫から満面の笑みが放たれる。政府の連中の呼吸が止まった。背後に控える戦艦五隻とガトリング砲と阿片の山の影が見えたんだろう。

 

「……話が変わってくる」

 

「そうでしょうね」

 

「だから私は『穏便』と言ってるのよ。お互いに壊し合わないために」

 

完璧なドン。もう剣術小町の無垢な少女はいない。少し寂しいけど今の彼女は圧倒的に強い。少女としての人生はとうに終わっちゃってるけど。

大久保の意識が抜刀斎へ向く。

 

「緋村お前は今もこの場所にいるのか」

 

「ええ。営業と抑え役でござる」

 

「抑えられているのか?」

 

「正直に申し上げるとかなり怪しいでござる」

 

「そうか……」

 

大久保から微かな人間味が漏れた。重圧の中の一瞬の笑い。

 

「お前も難儀だな」

 

「はい非常に」

 

殺気が僅かに緩む。その隙に隅から不穏な薬品の気配が動いたから視線で押し留める。今それ出すな。どう見ても毒薬でしょ。

 

「その……来賓には茶菓子などを出した方が武家の礼にかなうのではないか」

 

室内の意識が一斉に雷十太へと集中する。

 

「あ」

 

「あ」

 

弥彦ちゃんの呆けた声に内心で同意する。確かに。国家のトップを招いておいて茶の一杯も出してない。家として致命的な欠陥。よろしくない。

 

「燕」

 

薫の声が極めて低く響く。

 

「はいドン」

 

「菓子持ってきて」

 

「はい。撃ちますか?」

 

「撃たない。持ってくるだけ」

 

「了解です」

 

燕が小走りで遠ざかる。危なかった。最近のあの子は動詞の選択が狂い始めてる。

会談は続く。政府と番人と新興の覇王。普通なら誰かの首が飛んでる状況なのに血は流れてない。

 

薫がドンの仮面を被り切ってて列が忠実な犬だから。この均衡が少し愉快。

ここにお義母さんはいない。でも弥彦ちゃんも薫もみんなこの要塞に根を下ろしてる。だから私はここに立っていられる。守るべき対象は明確。それが唯一の大義。

 

刃の感触を残したまま僅かに距離を取る。動けば即座に首を裂ける間合いで。

芹からまた余裕の気配。

 

「ずいぶんと丸くなったんですね河上彦斎」

 

「逆。やっとちゃんと尖った」

 

「素敵」

 

「口説かないで。列が怒る」

 

「もう怒ってますよ」

 

「そう見える」

 

列から伝わるのは心底嫌そうな気配。

会談の行方はまだ誰にも分からない。でも一つだけ確かなことがある。今日の私はただのメイドじゃない。人斬り彦斎だ。だから――――今度の『大丈夫』は少しだけ本気を乗せて言える。

 

大丈夫。この場所で少なくとも今日この瞬間に限っては誰の好き勝手にもさせない。私自身の刃にかけて。




ここまで読んでくださってありがとうございました。
今回は会談中心でしたが、緊張感や各キャラの空気を楽しんでいただけたら嬉しいです。
よければ感想を聞かせてください。

弥彦の父親は誰だと思いますか?

  • 明神弥太郎
  • 四乃森蒼紫
  • 志々雄真実
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