転生して型月版・沖田総司になったけど、労咳を克服したら明神弥彦の母になっていた件 〜るろ剣世界で最強のママやってます〜 作:だいたい大丈夫
神谷要塞らしく、今回もだいぶ物騒です。
【神谷要塞 地下大会議室】
国家の未来を左右する会談の余韻はとうに薄れ、眼前に横たわるのは「結局誰が殺し合いに出るのか」という酷薄な現実のみ。
円卓の上には、空の茶碗、散乱した資料、分解途中のリボルバー、そして薄白い薬包紙が無造作に転がっている。軍産複合体『神』の中枢とは思えぬその雑然とした風景から、戦艦五隻と国家を天秤にかける密約が交わされたとは到底信じ難い。
薫は灰皿の脇に肘を突き、僅かに眉根を寄せていた。
ここからが、首領としての真の責務。
七日後。国家権力、秘密結社、そして警察の猛者どもを相手取り、神谷要塞の真価を問う団体戦が幕を開ける。
勝利すれば治外法権と政府公認の特権を得るが、敗れれば単なる危険分子として駆逐される。その落差はあまりにも凄惨だった。
左之助が長大な斬馬刀の石突きを床に打ち据え、獰猛な笑みを浮かべる。
「で、一週間後の団体戦とやら……誰が出るんだ?剣心が頭として出るのはいいとしてもよ。相手は警察のトップに、化け物揃いの秘密結社だ。半端な実力じゃ話にならねえぞ」
「いやいやいや、なんでそんな自然に殺し合い前提で話が進んでんだよ。普通はもっとこう……選考会とか、作戦とか、そういう順番があるだろ」
「あるじゃねえか」
「今がそれだ」
「雑すぎるだろ」
雷十太が重々しく頷いた。
「いや……戦場ではそのくらいの早さが必要かもしれん」
「アンタまで納得すんなよ」
その時、かすかな衣擦れの音が響いた。
元・時守No.13。
元・特務暗殺者。
現・神谷要塞の幹部補佐。
列が静かに立ち上がる。その所作には一切の無駄がなく、呼吸の律動だけで、彼が死線を潜り抜けてきた事実を雄弁に物語っていた。
「俺は……出ます。いや、出させてください。時守のやり口を底の底まで知っている俺が、必ず役に立ちます」
薫は双眸で、その覚悟を真っ向から受け止めた。
「……太郎さん。わかりました。貴方を代表メンバーの一人に任命します」
「はい」
「かつての仲間に銃を向けることになるけれど……よろしくお願いします。……信じていますからね」
列の表情が一変する。
瞳は潤み、胸中には抑えきれない熱情が渦巻いている。
「……はい。必ずや、ドンと『神』の期待に応えてみせます。俺の命はすでに神谷のものです」
「いや、重っ。返事が重いって。しかもなんでそんな就職したての若手社員みたいな熱量になってんだよ」
恵が唇の端を吊り上げる。
「信じています、は効くのよ。人は簡単に依存するから」
「お前が言うと怖えんだよ」
弥彦の言葉は列の耳には届いていない。彼の内心は薫への絶対的な忠誠心で満たされていた。
「でもよ、太郎。その『時の番人』って奴らは、実際どれくらい強いんだ?お彦が強すぎて基準がバグるんだよ」
「そうですね……。先ほどの筆頭、阿久津芹は、まず間違いなくお彦師範や、琴師範と同格か、それ以上の化け物です」
水野の喉から低い唸り声が漏れ、剣心は考え込むように顎へ手を添えた。
蒼紫は沈黙のまま、双眸を細める。
「あの人は、純粋な強さと狂気の次元が違う。剣の速さや技術だけの話じゃない。殺すための判断が、呼吸の速度と同じくらい早いんです。……そして他の番人たちも、一騎当千の精鋭揃いです。最低でも、俺と同じくらいには強いと思ってください」
「へえ……」
宇佐美が背もたれに身を預けたまま、低い声を落とす。射撃師範としての矜持を刺激されたのか、その響きには微かな棘が混じっていた。
「随分と自信家じゃねえか、新入り。お前、自分が基準になるくらいそんなに強いのか?地下で数週間、的当てしたくらいで、ウチの幹部と肩を並べたつもりか?」
列の眼差しが宇佐美を射抜く。
「……申し訳ありませんが、今の宇佐美師範には、負ける気はしませんね」
「あなたの跳弾も、軌道が見えれば落とせます」
宇佐美の視線が鋭利な刃と化す。
水野が面白そうに身を乗り出し、左之助が好戦的な笑みを深めた。
「また始まるのかよ……。なんでこの組織、三分に一回は身内で物騒な空気になるんだよ」
薫は指先で葉巻を転がしながら、静かに制した。
「宇佐美さん」
「……なんです、ドン」
「今は揉めるのは後にしなさい。強い味方同士がいがみ合うのは、経営的に損よ」
宇佐美は鼻を鳴らし、それ以上の言葉を呑み込んだ。不満はあれど、首領の意志は絶対である。
突如、二つの硬質な金属音が室内に反響した。
撃鉄が起きるその音色は、いかなる雄弁よりも真意を伝えていた。
視線の先には、燕が立っている。
両手には特注のリボルバー。その瞳からは、理性の光が綺麗に消え失せていた。
「……ははっ。それは楽しそう」
「入っちまったよ……」
「なんでよりによって今なんだよ」
燕は熱を帯びた銃身に、陶酔したように頬を擦り寄せる。
「私より速く抜ける『番人』さんがいるんですか?……撃ちたい。その人たちの脳天を、私の弾丸でクチャクチャの蜂の巣にしてみたいです。……私も出たいです、ドン。出させてください」
この異常空間に慣れきった者たちは、もはやその狂気を日常として受け入れていた。
「え、ええ……。頼もしいわね、燕ちゃん。許可します。存分にリフレッシュしてきなさい」
「ありがとうございます、ドン」
燕の声色はひどく無邪気で、その純粋さがかえって凄惨な未来を予感させた。
「いやもう、団体戦じゃなくて処刑ショーになる未来しか見えねえんだけど」
恵は手元の紙片にペンを走らせる。
「ふむ……燕ちゃんの精神状態の切り替わりを見てると、銃そのものがトリガーというより、殺傷の予感に反応してるのかもしれないわね」
「分析してる場合か」
水野がぽつりとこぼす。
「でも、使える駒は多い方がいい」
「その言い方もやめろ」
重苦しい空気の中、蒼紫が静かに立ち上がった。
「俺が出よう」
誰も驚きはしない。
「蒼紫殿……」
蒼紫は小太刀の柄に指を滑らせ、地を這うような声で告げた。
「沖田さんを連れ戻すための、前哨戦だ。ここで時守や政府ごときに後れを取るようでは、京都の志々雄の首など獲れん。……俺の小太刀二刀流で、敵の番人とやらを血祭りに上げる。そして、彼女をこの手に取り戻す」
「重いんだよなあ……」
「何から何まで湿気が高え」
弥彦も真顔で同意した。
「こいつ一人だけ空気が梅雨なんだよ」
周囲の雑音は、蒼紫の耳には届いていない。彼の脳裏を占めているのは、京都に囚われた琴の姿、その細い首筋、揺れる髪、そして浅葱色の羽織だけだった。
「へっ。じゃあ、残りの一枠は俺だな」
斬馬刀の柄を叩く音が、重く室内に響く。
「この斬馬刀で、小賢しい暗殺者共をまとめて叩き潰してやらあ。正面突破だ」
「待て待て待て」
弥彦が制止に入る。
「なんでそんな自然に決まってくんだよ。まだ全員分の枠とか、役割とか、相性とかあるだろ」
「剣心。列。燕。蒼紫。左之助。……よし。代表はこの五人にお願いするわ」
弥彦は額に手を当てた。
「十歳の女と、元・敵対組織の暗殺者と、居候の営業マンと、失恋こじらせた父さん(仮)と、特攻隊長。……人選が狂ってる」
「最適よ」
薫に迷いはない。
「私たち『神』の圧倒的な武力、国家と歴史の影に嫌というほど見せつけてやりなさい」
「おおっ」
呼応したのは左之助と燕のみ。
列は無言で頷き、蒼紫はさらなる殺意をその身に宿す。剣心だけが、どこか遠くを見つめていた。
「団体戦というより、もう営業資料の提出でござるな……」
「剣心、その例え合ってるようで全然合ってねえからな」
◇◇
【神谷要塞・地下大会議室】
人選が決まり、室内の緊張が僅かに緩む。
だが、薫にとっての戦いは終わっていない。
琴の奪還。志々雄一派の解体。団体戦の勝利。そして、政府と時守の徹底的な利用。
背負うべき重圧は計り知れない。
薫は部屋の隅、暗がりに気配を同化させている般若へと視線を向けた。
「般若さん」
「はい、首領」
般若は音もなく歩み出で、静かに片膝を突く。
「一週間後の御前試合に向けた準備と並行して、志々雄一派の情報を徹底的に調べてちょうだい。京都の方までくまなくよ。……琴さんを引き入れた志々雄の真の狙い、そして十本刀の全容。丸裸にしなさい」
「承知いたしました」
その声に淀みはない。一切の感情を交えずに任務として遂行する。冷徹な忠誠心が見て取れた。
般若はそのまま、蒼紫へと顔を向ける。
「……蒼紫様。京都の調査網を広げるのであれば、現地にいる翁様に連絡を入れるべきかと具申いたしますが……」
「……そうだな」
蒼紫の脳内で、幾つもの情報が瞬時に連結していく。
「翁の情報網は京都で随一だ。連絡を急げ。任せる」
「はっ」
般若は言葉を継いだ。
「……それと、操様にも、蒼紫様からの近況をお伝えするお手紙は……」
「いらん」
間髪を容れぬ拒絶。
弥彦の意識が瞬時にそちらへ向いた。
「……操?」
弥彦は胡散臭げな目を蒼紫へ向けた。
「おい父さん(仮)、今の誰だよ。女の名前だよな?」
「……操は、御庭番衆の先代御頭の孫娘だ。今は京都の翁のところに身を寄せている、ただの身内にすぎん」
「本当か〜?」
「昔の馴染みとかなんとか言って、怪しいんじゃねえの〜?男なんてそんなもんだろ」
「そういう偏見は良くない」
剣心が宥める。
「でも、確かに蒼紫殿の場合は湿度が高いから疑われやすいでござる」
「抜刀斎まで何を言う」
蒼紫は弥彦に向き直ると、その両肩を力強く掴んだ。
「うおっ、近い近い」
蒼紫の眼差しには、狂信的なまでの真摯さが宿っていた。
「……心配するな、弥彦。俺は浮気など絶対にせん」
「お、おう……」
「俺の心は、身体は、魂は……すでに沖田さんに捧げている」
弥彦が身を引き、左之助すらも半歩後ずさる。
「……俺は、沖田さん以外の女と肌を重ねる気は、この先の生涯において一切ない。あの桜のような人を、必ずこの手で志々雄から奪い返し、俺の部屋の奥深くに閉じ込めてでも愛し抜く。……それだけだ」
燕がぽつりと呟く。
「監禁宣言では?」
「愛の定義が怖いんだよ」
蒼紫はさらに距離を詰めた。
「理解したか、弥彦。俺の純愛は一途だ」
「純愛って言葉の使い方がおかしい」
「おかしくない」
「おかしいって。閉じ込めるって言っただろ今」
「外は危険だ」
「だからって監禁が正解になるわけねえだろ」
左之助は深い息を吐き出した。
「うわぁ……普段クールな奴が本気になると、こうなるのかよ。湿度が高えとかそういうレベルじゃねえぞ。部屋に水滴つきそうだ」
宇佐美も静かに同調する。
「銃の火薬がしけりそうですね」
「お前まで言うな」
蒼紫の意志は岩のごとく揺るがない。
「操は、子供だ」
「そこは分かったよ」
「だから手は出さん」
「当たり前だ」
「俺が抱く女は一人でいい」
「…………重い……。マジで愛が重すぎるぜ、父さん……。母さんがちょっと可哀想になってきた……」
「可哀想ではない。幸福だ」
「その自信どこから来るんだよ」
般若が淡々と事実を述べる。
「蒼紫様の中では、すでに結納も済んでおりますので」
「済んでねえよ」
「御庭番衆側の認識どうなってんだよ」
「我々としては、奥方奪還戦のつもりで準備を進めておりますが」
「やめろ。母さん本人の意思どこ行った」
薫は腕を組み、面白そうに唇を綻ばせた。
「でも、湿度は高いけど忠誠心としては悪くないわね。絶対に浮気しない諜報担当って、組織運営上はかなり優秀よ」
「組織運営の観点で父親(仮)を見るな」
「冷静に資質を評価してるだけよ」
「家庭崩壊の評価軸じゃねえんだよ」
恵が艶やかに微笑む。
「いいじゃない、弥彦君。愛が重い男は薬の飲ませ甲斐があるわよ」
「そんな方向に使うな」
列が真剣な面持ちで口を開いた。
「……俺としては、蒼紫師範のその重さは、敵に向けると非常に頼もしいと思います」
「味方に向けると?」
「……かなり怖いですね」
「だろうな」
「まあでも、浮気の心配はなさそうでいいじゃねえか」
「いや重すぎて別の心配が増えてるんだよ」
由太郎がそっと弥彦に囁く。
「これ……君の家では普通なの?」
「普通だったら俺はもっと早く壊れてる」
弥彦は、今日もまた、誰よりもヒロインらしい受難を乗り越えていくのであった。
今回は会談の続きとして、神谷要塞側の人選と空気感を描いてみました。
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弥彦の父親は誰だと思いますか?
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明神弥太郎
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四乃森蒼紫
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志々雄真実