転生して型月版・沖田総司になったけど、労咳を克服したら明神弥彦の母になっていた件 〜るろ剣世界で最強のママやってます〜 作:だいたい大丈夫
刃物は研ぎすぎ注意。
原作を守るはずが、
また壊しました。
「カキン、カキン……!シュッ、シュッ……!」
火花を散らしながら巨大な鉄塊を砥石で研ぐ音が響き渡っている。
私は着物の袖をたすき掛けにして腕まくりをし、額に浮かんだ汗を手の甲で拭いながら、目の前に横たわる非常識なほど巨大な「斬馬刀」の手入れを全力で行っている。
『うん、前回は完全に失敗したわ』
『私としたことが、赤べこでの食い逃げに腹を立てて左之助を組に連行しちゃったせいで、緋村さんと左之助の熱いバトルフラグを真っ向から叩き折ってしまうなんて……。原作知識を持つ転生者として、あるまじき失態よ。ちなみに、弥彦がヤクザにそそのかされてスリをするっていう出会いのフラグも、私が集英組を真っ当な任侠組織に作り変えちゃったせいで、とっくの昔に叩き折っているのよね。これじゃあ、緋村さんの仲間が集まらないじゃない!』
左之助は今、借金返済のためにウチの組で若い衆のパシリ……じゃなかった、立派な見習いとして毎日庭の掃除やら買い出しやらをやらされている。緋村さんに喧嘩を売るどころか、毎日「姐さん、今日のまかないは何ですか」なんて聞いてくる始末だ。すっかり餌付けされてしまっている。
『それにしても、この後どうリカバリーするか……。私が無理やり「道場に殴り込め!」って命令したところで、理由もなく襲い掛かるただの辻斬りになっちゃうし。でもでも、やっぱり男同士は、拳と剣で本気でぶつかり合わないと真の友情が芽生えないわよね。うん、間違いないわ。だって、近藤さんがそう言ってたから!』
(※テロップ:誤解です。近藤さんは稽古の延長で本気の流血沙汰の喧嘩をしていた血気盛んな隊士たちを、適当になだめてその場を収めるために「男は拳で語り合えばいいんだ、ガハハ!」とバナナを食べながら適当に言っただけです。真理ではありません)
『近藤さんの教えは絶対よ。だから、左之助には最高のコンディションで緋村さんに挑んでもらわないといけないの』
「よし!斬馬刀の手入れはこれで完璧でしょう!」
うむ、美しい。元の持ち主がどれだけ雑に扱っていたのか、最初は刃こぼれだらけのただの鈍器みたいだったけれど、天才剣士であるこの私の手にかかれば、どんな鉄塊も芸術品のような名刀に生まれ変わるのだ。
「……左之助!終わったわよ!あんまり雑に扱って、また刃こぼれさせるんじゃないわよ!」
庭の隅で木刀の素振りをさせられていた左之助を大声で呼ぶ。
「お、おう……」
「姐さん、手入れまでしてくれてありがてえけどよ……。なんかこれ、異常に切れ味鋭くなってねえか……?触っただけで指がスッパリいきそうだぞ。光の反射が怖いくらいなんだけど」
刃文がギラギラと妖しく輝き、空を飛んでいたコバエが刃に触れた瞬間、真っ二つに分かれて落ちていくのが見える。
「そりゃあ『刀』なんだから切れて当然でしょ?ちゃんと特注のデカい鞘も作ってあげたんだから、うっかり自分を真っ二つに斬らないように気をつけるのよ。歩く時は周りに人がいないか確認してね」
「いや、これ刀ってレベルじゃねえだろ……。大根切る包丁でもここまで鋭くしねえよ。俺、これ背負って歩くのちょっと怖くなってきたぜ……」
『原作を読んだ時は漫画の誇張表現だと思ってたけど、こうして実物を見ると本当にデカいのよね、この斬馬刀。馬ごと人を斬るための武器っていうのも納得の質量よ。とりあえず左之助にはウチの若い衆と一緒に天然理心流の基礎稽古をつけてあげてるから、体力と筋力はさらに上がってるはずだけど……あの神速で動く緋村さんには、まだ勝てないかしらね。でも、これで良い勝負ができるはず……』
私が一人でウンウンと頷きながら、これからの熱い展開に思いを馳せていた、その時である。
『………………はっ!!!』
私の脳内に、強烈な閃きというか、最悪の記憶がフラッシュバックする。
急激に顔面から血の気が引き、私は両手で頭を抱え込む。
「おい、姐さん?どうした?急に顔色悪くなったぞ。腹痛か?」
左之助が不思議そうに顔を覗き込んでくるが、私の耳には全く入らない。
『ちょっと待って!?私、つい刀を見ると極限まで研ぎ澄ましてしまう癖で、斬馬刀の刃を、産毛も切れるレベルのバリバリの業物に研ぎ上げちゃったわ!刃だけじゃなくて、平(横の面)の鎬(しのぎ)の部分までツルツルに磨き上げちゃった!』
左之助の背中にある斬馬刀を見る。
『原作の緋村さん、たしか左之助との戦いの時、【斬馬刀の平(横の面)に刀を突き立てて着地する】っていう、重力を無視した超絶アクロバティックな回避技をしてたはず!斬馬刀の重さを利用して、刃を躱す見事な技よ!だけど……だけど!今のこの異常な切れ味で、しかも表面摩擦係数ゼロみたいなツルツルに磨き上げた状態の斬馬刀に緋村さんが飛び乗ったらどうなる!?』
『緋村さんがジャンプする!斬馬刀の側面に足を乗せる!ツルッ!と滑る!そのままあの鋭利すぎる刃にズバァァァン!!と足から巻き込まれる!!緋村さんの足の指から腕の骨まで、まるでミキサーにかけられたみたいに丸ごと消し飛ぶわよね!?絶対無理だわ!!怪我どころの騒ぎじゃない、即死よ即死!!日本の夜明けが終わっちゃう!!』
「いやあああ!!」
「うおっ!?なんだよいきなり!!ビックリするだろうが!!」
「私、またしてもやっちまった!!緋村さんを殺す気満々の凶器を作っちゃったわ!! 左之助!!あんたそれ、絶対緋村さんに向けて振っちゃダメよ!!峰打ちもダメ!!風圧で切れるかもしれないから!!」
「はああ!?あんたが『緋村に喧嘩売りに行け』って言ったんだろうが!!意味わかんねえよ!!」
◇◇
「……それにしても母さん」
弥彦が何かを疑うような低い声で口を開く。
「なんだい弥彦?今お母さん、日本の歴史とるろ剣の存亡に関わる超絶重要なことで頭がいっぱいなんだけど」
「いや、前からずっと思ってたんだけどよ。お前、左之助にだけ、なんかすげえ過保護じゃねえか??」
「……え?」
「過保護?私が?左之助に?いやいや、そんなことない気がするけど……ただのパシリとして適度にこき使ってるだけじゃない」
「いーや、絶対そうだ!!」
「誤魔化しても無駄だぜ!わざわざこいつの実家を探し出して親御さんに頭下げに行ったり、季節の変わり目に新しい着物やダボシャツを買ってやったり、今みたいにアホみたいにバカでかい武器を何時間もかけて手入れしてやったり!極めつけは手作りの飯を、こいつが来るたびにウキウキで食わせてやったりしてるじゃねえか!!」
言われてみれば、確かにそうかもしれない。
原田さんへの思い入れがあったせいか、つい世話を焼いてしまうのだ。原田さんも大食漢だったから、ご飯をいっぱい食べるのを見るのがなんだか嬉しくて。
「えー?そんなの、あんたにも普通にやってるじゃない。弥彦だって、毎日お母さんの美味しい手作りご飯食べてるでしょ?道場のお弁当だって豪華にしてるし」
「俺は実の息子だから当然だろ!!息子と同列に扱うなって言ってんだよ!!」
「嫌だぜ、俺!!母親の年齢はさておき、俺と年が十も離れてないような、こんなガサツで背中に『惡』なんて書いてる常識知らずの男の、新しい父親ができるなんて!!絶対に認めねえからな!!」
「ぶふぉっ!!?」
横で縁側にお茶をすすっていた左之助が、盛大に、それこそ霧吹きのようにブーッとお茶を吹き出す。
幸い、庭の方に向かって吹いたのでセーフだったが、もし私にかかっていたら、今すぐ縮地からの三段突きで左之助の顔面の形を変えていたところだ。
「い、いい!!ゲホッ、ゴホッ!誰がこんな妖怪の旦那になるか!!」
「ちょっと、妖怪って何よ、妖怪って!私は永遠の十七歳、ピチピチの美魔女よ!ていうか、何言ってるのよ弥彦。変な勘違いしないでよね」
「大丈夫よ弥彦。左之助は新しい旦那っていうより、手のかかる手下のチンピラ……じゃなくて、少し手のかかる可愛い息子みたいなもんよ。長男みたいな感じ?ほら、昔はよく一緒にお風呂入ったり背中流し合ったりもしてたじゃない。だから完全に家族枠よ、家族枠」
「それが一番問題だって言ってんだよ!!!」
「あんた、危機感とか羞恥心ってものがないのか!?いくらガキとはいえ、男と一緒の風呂に入る母親がどこにいるんだよ!!」
「えー?だって、当時の左之助、まだ十三、四歳くらいの本当にヒョロヒョロのクソガキだったし、垢まみれで汚かったから、私が直々にゴシゴシ洗ってあげただけじゃない。別に減るもんじゃあるまいし」
弥彦は頭を抱えて「もうダメだこの親……」と天を仰ぐ。
「むうう……」
「そうねえ。確かに左之助ももう十九歳、立派な年頃の男の子だしね。……左之助?」
「な、なんだよ」
「あんた、そろそろ女は知った?弥彦を安心させるためにも、そしてあんたが変な道に逸れないためにも、今日あたり私が手取り足取り、大人の階段の登り方を相手してやろうか??」
慈愛に満ちた(つもりの)笑顔で提案すると。
「更にそっち方向に話を進めるな!!!」
「意味がわからねえ!!なんで俺が姐さんに筆下ろしされなきゃならねえんだよ!!どんな罰ゲームだ!!殺されるわ!!」
「えー?罰ゲームだなんて失礼ね!いや、こういう『体の関係』を一度持っちゃえば、逆にお互いにスッキリして、結婚とか父親になるとか、そういう面倒な空気にはならないかなーと。ただの処理相手としてね、割り切った関係になれば。弥彦を安心させてあげたくて……っていう、私なりの親心のつもりだったんだけど」
「まったく安心しねえよ!!!」
「むしろ悪化してるわ!!母親が目の前で十以上年下のガキを喰おうとしてるんだぞ!!教育に悪すぎるだろうが!!」
「ええ〜??なんでよ。過保護すぎるわよ弥彦」
「昔はねえ、戦場に行く前の、明日死ぬかもしれない若い隊士の子たちに、私が童貞の相手をしてあげたら、そりゃあもう泣いて喜んでたんだけどなぁ……。『これで心置きなく死ねます!』って」
「……は??」
「なんだそれ。あんた、昔は夜鷹(娼婦)か何かだったのか??それともそういう慰安の仕事でもしてたのかよ」
「誰が夜鷹よ!失礼ね!!私はれっきとした武士よ!!相手してあげたのは部下よ、部下!!血気盛んで可愛い部下たち!!」
私が胸を張って答えると、左之助と弥彦の顔がさらに引きつる。
「……部下を食ってたのかよ。職権乱用もいいとこじゃねえか。……で、そいつらは今どうしてんだよ」
「そうね……」
当時の血生臭い、しかし青春の輝きに満ちていた幕末の京都の日々を思い出す。
「蟻通(ありどおし)君と池田君は見事な名誉の討死を遂げたわ!立派な最期だったらしいわ!あ、浅野君はビビって逃げようとしたから、私が背後から容赦なく斬り捨てたし……。うん!まあ、見事にほとんど全員死んだわね!!幕末って過酷だから!」
「縁起でもねえ!!!!!」
「死神かあんたは!!!関わった奴みんな死んでんじゃねえか!!絶対嫌だ!!俺は長生きしたいんだよ!!」
「人聞きの悪いこと言わないでよね!死神じゃないわよ!むしろ幸運の女神よ!」
「でもでも!明治の平和な世の中になってから相手してあげた人は、だいたいみんな生きてるわよ!ほら、若頭の我介や、今ウチにいる若い衆の半分くらいは、私が責任持って筆下ろししてあげたんだから!今も元気に集英組のために働いてるでしょ?ね、すごく健康的でしょ?組織の士気も上がるし、一石二鳥なのよ!」
「……母さん」
弥彦が頭を抱えて縁側にしゃがみ込む。
「お願いだから、もう少し、せめて俺の目の前だけでも、死んだ父さんに操を立ててくれよ……。俺、情けなくて泣きそうだよ……。なんで俺の母親は、こんなぶっ飛んだ妖怪なんだよ……」
「ええっ!?ビッチだなんて、人聞きの悪い!弥彦、お母さん傷つくわ!」
胸を押さえる。
「なんでよ!私、こう見えてまだ三十二歳の、最高に脂の乗った女盛りなのよ!?少しは潤いが……コラーゲンが……心のふれあいが必要なの!旦那が死んでから十年間、ずっと再婚しないで耐えてきたんだから、これくらいの役得は許されてもいいはずよ!」
「あーーーー!!!」
「もううるせえ!!聞きたくねえ!!なんでこんな常識も貞操観念もぶっ飛んだ女が、東京最大の武闘派ヤクザ、集英組の姐さんなんかやってんだ!!頭がおかしくなる!!俺の純情を返せ!!」
「ふふっ」
少しだけ声を甘くして、からかうように言葉を投げる。
「なーに?顔真っ赤にして、そんなに大声出して。ひょっとして左之助……私みたいな大人の色香に当てられて、ドキッとしちゃった?まさかの初恋!?可愛いところあるじゃないの〜」
「…………ッ!!!」
図星を突かれたのか、あるいは純粋な怒りか、顔をプイッと背けて完全に沈黙してしまう。
その耳まで真っ赤に染まっているのが、夕暮れの光の中でよく見える。
「……で?」
「結局、あんたはどうしたいの。緋村さんと、本気でやりたいの?」
「……」
左之助は、背を向けたまま、斬馬刀の柄を握る拳をギリッと強く握りしめる。
「……ああ!」
「伝説の人斬り……『緋村抜刀斎』!維新の志士の最強の男、新時代を切り開いた立役者の一人!……そんな猛者を、喧嘩屋斬左はずっと待っていたのよ!!あの男をぶっ倒して、俺の喧嘩屋としての名声と……そして、俺自身の過去のケリをつける!!」
その言葉には、ただの喧嘩好きのチンピラとは違う、重く、そして暗い情念がこもっていた。
『……なるほどね』
『赤報隊のこと……相楽さんのこと。やっぱりこの子は、維新政府への恨み、そして「偽官軍」の汚名を着せられたことへの消えない怒りを、ずっと一人で引きずっているのね』
それなら、私がこれ以上口出しする問題ではない。
彼が過去を清算し、前を向いて生きていくためには、あの緋村剣心という男と真っ向からぶつかるのは、避けて通れない道なのだ。
『……せいぜい』
『私が研ぎすぎたあの斬馬刀で、緋村さんがうっかりスライスされて死なないように祈るしかないわね。もし緋村さんがバラバラになったら……歴史が変わって、私が日本を滅ぼすことになっちゃう!神様、どうか緋村さんの回避能力が原作以上のチートでありますように!』
夕暮れの空には、一番星がピカリと光っていた。
総司の過保護、やりすぎでしょうか?
それとも当然でしょうか?
物理演算を考えると、
るろ剣はだいぶ無茶です。
第一回キャラクター人気投票(コメントもぜひ感想欄に)
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明神琴(沖田総司)
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河上彦斎(お彦)
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明神弥彦
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緋村剣心
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相楽左之助
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神谷薫
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高荷恵
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四乃森蒼紫
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志々雄真実
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瀬田宗次郎
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鵜堂刃衛
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宇佐美
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水野
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我介