転生して型月版・沖田総司になったけど、労咳を克服したら明神弥彦の母になっていた件 〜るろ剣世界で最強のママやってます〜 作:だいたい大丈夫
自分が暴かれました。
ピースサインは、
明治剣客浪漫には通じません。
夜。ガス灯の明かりが薄暗く道を照らす中、私たちは神谷道場へと続く道を歩いている。
先頭を歩くのは、白いダボシャツの背中に「惡」の文字を背負い、そしてグルグルと分厚い布で厳重に包んだ巨大な斬馬刀を背負った相楽左之助。その後ろを、私と弥彦がぞろぞろとついて歩いている。
「……で?」
左之助が突然ピタリと立ち止まり、面倒くさそうに振り返る。
「なんであんたら親子が、揃いも揃ってぞろぞろとついてくるんだよ。お散歩のつもりか? 俺の真剣勝負……緋村との大事な喧嘩の邪魔をする気か? 姐さんが相手でも、今回は手加減しねえぞ」
「あらやだ」
「そこはそれ。あんたが一人前の喧嘩屋になれるか、お母さん心配だからね。これは立派な保護者参観よ。ほら、運動会で我が子が走るのをビデオカメラ……じゃなくて、この目に焼き付けて応援するのと同じよ。フレ〜フレ〜、左之助〜!」
「……俺は姐さんの子供じゃねえって何回言えばわかるんだよ。それに保護者参観ってなんだよ。喧嘩に親連れてくる奴がいるか」
心底呆れたようにため息をつく。
「弥彦、お前もなんでついてきた。道場なら昼間散々しごかれたばかりだろうが。ガキはもう寝る時間だぞ」
「うるせえ!」
「俺は、あの剣心が、お前なんかのデカいだけの剣に負けるわけはねえと思うけど。万が一、母さんが研ぎ澄ましすぎた、あの『ヤバすぎる斬馬刀』で万が一のことがあって、道場が血まみれになったら、明日の稽古が休みになっちまうからな。念のため、見届けに来てやったんだよ。感謝しろ」
「へいへい。ありがてえこって。……邪魔だけはすんなよ。俺の喧嘩に手ェ出したら、いくら姐さんでも怒るからな」
左之助は鼻で笑い、再びドスドスと足音を立てて神谷道場へ向けて歩き出す。
『ヤバい、ヤバいわ!本当にヤバいわ!』
『私が「つい癖で」極限まで研ぎすぎたせいで、あの斬馬刀、触れるだけで何でも両断する、完全に伝説の聖剣「エクスカリバー」みたいになっちゃってるのよ! 布で巻いてるけど、ちょっとでも強く握ったら布ごとスッパリ切れちゃうレベルなんだから! 万が一のときには……私が間に入って止めるしかないわね……!』
◇◇
静まり返った神谷道場。
月明かりが、前庭の砂利を白く照らしている。
「……」
ふと、緋村さんが持っていた湯呑みを縁側に置き、顔を上げる。
そして、普段の気の抜けた表情から一転、鋭い、それこそ人を射抜くような鋭利な視線を、閉ざされた門の方へと向ける。
「剣心……?どうしたの?」
薫ちゃんが、緋村さんの急な変化に驚き、不思議そうに顔を覗き込む。
「急に怖い顔をして……。まさか、菱卍愚連隊の残党が仕返しに来たの?」
「……いや、違うでござる」
腰に差した逆刃刀の柄に静かに手をかけ、ゆっくりと、音もなく立ち上がる。
「気を感じたでござる。全く隠そうともしない……馬鹿正直なまでの、真っ直ぐで強烈な闘気……!」
ギィィィ……。
そう言った瞬間、道場の重い木製の門が、ゆっくりと音を立てて開く。
月明かりを背に受けて、長い影を引きながら、左之助がゆっくりと姿を現す。
その手には、すでに布を解き放ち、ギラギラと妖しい光を放つ、私が研ぎ上げた異常な切れ味の斬馬刀が握られている。
その後ろから、私と弥彦が、門の陰からひょっこりと顔を出した。
「……」
「……喧嘩……しにきたぜ。昼間の続きだ」
その声にはただ純粋な戦意だけが漲っている。
「……やはりお主か」
緋村さんは、左之助の姿と、その手にある巨大な武器を見て、静かにため息をつく。
「昼間、路地裏で喧嘩は遠慮すると言ったはずでござるが。拙者は争い事を好まぬゆえ、お引き取り願いたい」
「そうはいかねえんだよ」
「あんたがただの流浪人なら、俺もこんな夜更けにわざわざ押し入りはしねえ。だが……相手が維新志士、人斬り『緋村抜刀斎』なら尚更、退けねえんだよ。俺の過去が、俺の背中の『惡』の字が、あんたを倒せと叫んでるんだ」
その「緋村抜刀斎」という言葉に、緋村さんの眉がピクリと大きく動く。
「!!」
緋村さんの鋭い視線が、左之助を通り越し、真っ直ぐにその後ろ……隠れきれていない私の顔面に突き刺さる。
『あっ!』
『緋村さんがこっち見てる……!ものすごい目で睨んでる!「お前がバラしたんだろう」って顔に書いてある!あーはいはい、そうですよ。左之助に緋村さんの正体をバラしたのは私ですよ!だってそうしないと、このバカが喧嘩売る理由がなくなっちゃうんだもの!原作の歴史を守るための、苦肉の策だったんです!』
睨みつけてくる緋村さんに向かって、満面の笑みを作り、両手で目の横にピースサインを作ってみせる。
「ブイッ!!」
『テヘペロ!』という効果音がつきそうな、最高にキュートでポップなピースサインである。
「…………」
緋村さんは、何も言わずに、ただ深く、本当に深く、地の底から響くような深いため息をついた。
『……スベった!?』
『幕末のロマンチストには、この明治の最先端を行く私のキュートなピースサインは通じなかった!?これだから頭の固い元維新志士は!近藤さんなら絶対に「ガハハ!総司は今日も元気だな!」って笑ってくれたのに!』
◇◇
「あんたが活動したのは十四歳から十九歳の五年間。前半の数年は、文字通り幕府の要人を暗殺する『闇の人斬り』として暗躍。そして後半は、新選組や見廻組といった幕府側の凄腕剣客たちから、長州の仲間を守る『遊撃剣士』として活動した。本来、決して日の目を見ないはずの影の暗殺者であるあんたが、維新志士の中でこれほどまでに有名で恐れられているのは、こっちの表の働きのせいだな」
「……よく調べたでござるな」
その表情からは、動揺は読み取れない。
「そして天下分け目の戊辰戦争。鳥羽伏見の戦いで新政府軍として勝利した後、突如としてあんたは行方をくらまし、人斬りとしての歴史から姿を消して、今に至る流浪人ってわけだ」
そこで言葉を区切り、チラリと後ろにいる私の方へ視線を向ける。
「……まあ、ほとんどはそこの口うるさい『姐さん』からの受け売りだがな。俺なりに京都まで行って、当時を知る連中から裏を取ったんだ。間違いはねえだろ?」
「本当の喧嘩ってのはな、ただ闇雲に殴りかかるもんじゃねえ。相手を骨の髄まで知ることから始まるんだ。相手を知って、それから一番確実な戦い方を決めるんだよ」
「……それで」
「戦い方は決まったのでござるか?」
「ああ、決まったぜ。結論」
左之助が、斬馬刀の柄を両手でガッチリと握りしめる。
「今の俺なら……不殺なんて甘い誓いを立てて『腕の鈍った』あんたになら、勝てる、だ!」
おいおい、ちょっと待て。嫌な予感がする。
「飛天御剣流。現在、十三代目の比古清十郎って化け物じみた男が継承者として存在している。あんたが『十四代目』を名乗っていないってことは、まだ皆伝じゃねえって事だ。途中で修行を投げ出したんだろ?」
『えっ……ちょ、左之助!?なんでそこまで……!』
「飛天御剣流は『時代時代の苦難から弱き人々を守る』ことを絶対の理としているが、その使い手は一人で戦局を覆す、『陸(おか)の黒船』と呼ばれるほどの絶大な破壊力を有する。歴史の表舞台に出ることはなかったはずだ。……あんたは、その掟を破って新時代のために剣を振るった、ただの半人前だろ?」
「…………」
緋村さんは、逆刃刀を構えたまま完全にフリーズしている。
そして、驚きのあまり、目玉が飛び出んばかりに丸くして、スローモーションのように首をギギギと私の方へ向ける。
「琴殿……」
「そこまで、なんで知っているのでござるか!?拙者が人斬りだったことや、遊撃剣士だったことは百歩譲って良いとしても……飛天御剣流の理や、ましてや師匠の比古清十郎の名など、ごくごく限られた身内の者しか絶対に知らぬはず……!桂さんでさえ、師匠の名までは知らなかったはずでござるよ!?」
緋村さんの目には、完全に警戒と恐怖が入り混じっている。
そりゃそうだ。自分の隠しておきたい流派の秘密から師匠の名前までペラペラと語られたら、ホラー以外の何物でもない。
『ヤバいヤバいヤバい!!』
「い、いや〜!ほら、あれですよ!幕末の頃って、いつ誰と殺し合いをするかもしれない、まさに一寸先は闇の時代だったじゃないですか!?だから、ちょっとでも名の知れた相手のことは、裏を使って徹底的に調べるでしょう!?情報戦ですよ、情報戦!それに私、暗殺組織『闇乃武』あたりにも、ちょっと知り合いはいたしさ!そっちから情報が漏れたんじゃないかなーって!」
「でもでも、緋村さん!鳥羽伏見の戦いのあと、パッタリと表舞台から出てこなくなったじゃないですか!私も……その、ちょっと『妊娠・つわり』で、戊辰戦争は最前線で戦えなかったから、結局あのリサーチ結果が無駄になっちゃったのよね〜!もったいない!アハハハハ!」
アハハと高笑いをして誤魔化そうとする。
「おい……?」
その時、ずっと私をドヤ顔のネタ元にしていた左之助が、信じられないものを見るような、完全にドン引きした目で私を振り返る。
「ちょっと待て姐さん。あんた、さっきからサラッと言ってるけど……抜刀斎と『殺し合い』してたのかよ!?昼間は『昔の知り合い』って誤魔化されたけど、あんた、ただのヤクザの姐さんでも、昔の夜鷹(娼婦)でもねえのか!?維新志士と殺し合いって、幕府側の人間ってことか!?」
「い……いや〜!?」
「夜鷹じゃないわよ!?何度も言わせないで!私はただの、ちょっと剣の立つ、可憐で可愛い牛鍋屋の給仕のお姉さんですよ!?殺し合いなんて物騒なこと、この細腕でできるわけないじゃないですか〜!」
無理やり話題を変えようと、緋村さんの腰にある刀を指差す。
「あ、あと緋村さんのその『逆刃刀』!それ打ったの、あの有名な刀匠の新井赤空さんでしょ!?峰と刃が逆なんて、なかなか良い趣味してるわよねー!平和の象徴って感じで、私はすごく好きよ!」
「!!」
緋村さんが、雷に打たれたようにビクッ!!と体を震わせる。
「な、なぜそれを……!!拙者が赤空殿からこの逆刃刀を託されたのは、鳥羽伏見の戦いが終わった直後……貴殿が歴史の表舞台から完全に姿を消した、後のことでござるが!?まさか、ずっと拙者を監視していたのでござるか!?」
完全に、私がストーカーか、あるいは未来を見通す妖怪か何かだと思われている。
『あ』
私は、完全に自分の失言に気づく。
そうだった。逆刃刀のくだりは、沖田総司としては絶対に知るはずのない、原作の知識(神の視点)だ。
「えーと、あれ??」
顔の筋肉がピクピクと引きつるのを必死に抑えながら、自分の頭をコツンと軽く叩き、テヘッと舌を出す。
「お琴さん、ちょっとよくわかんなーい☆夢で見たのかな?ほら、女の勘ってやつよ!」
「なんだよそれ!!はっきり言えよ!!」
黙って聞いていた弥彦が、ついに堪忍袋の緒が切れたように怒鳴り出す。
「完全に怪しいじゃねえか!!飛天御剣流の師匠の名前だの、抜刀斎の刀を作った奴の名前だの、普通の女が知ってるわけねえだろ!!母さん、お前一体何者なんだよ!!」
「お琴さん、美人!!だから細かいことは許して!!美人は三日で飽きないの!!」
両手で自分の顔を包み込み、精一杯のぶりっ子ポーズをとる。
「誤魔化し方が下手すぎるだろ!!限界突破してんぞ!!吐き気がするわ!!」
『ヤバいヤバいヤバい!本当にヤバい!原作知識でペラペラと得意げに左之助にカンペを出しすぎた!!緋村さんに完全に怪しまれてる!!』
「はぁ……」
緋村さんは呆れ果てたように逆刃刀の柄から手を離した。そして、構えを解き、真っ直ぐに立って、左之助と弥彦に向かって、静かに、しかし決定的な一言を放った。
「……左之助。そして弥彦」
「その女の言うことは、どういうわけか、恐ろしいほどに正確な事実でござる。拙者にも、なぜそこまで知っているのかは全く理解できぬがな。……しかし、『明神琴』というのは、仮の姿、偽名でござるよ」
「えっ」
「その女は」
鋭い、それこそ私を切り裂くような瞳で、私を真っ直ぐに見据える。
「幕末の京都で、拙者と最も激しく、そして何度も剣を交えた、壬生の狼。新選組一番隊組長……天才剣士、『沖田総司』その人でござる」
シーン……。
言葉の意味を理解するのに、数秒の時間がかかった。
「………………………………は?」
左之助と弥彦が。
全く同じタイミングで。全く同じように、ポカーンと口を限界まで開けて、アホ面を晒す。
「ええええええええ!!!!!??」
「なんで!!なんでサラッとバラすのよ!!弥彦には、この子が大人になるまでずっと内緒にしておこうって決めてたのに!!『お母さんはただのちょっと強いお姉さんだよ』っていう、私の可憐で純真なイメージが完全に崩れるじゃない!!!鬼!悪魔!人斬り抜刀斎!!」
「フッ……」
緋村さんが、意地悪な笑みを浮かべる。
「他人の大事な秘密を、勝手にペラペラと弟子に喋って得意げになっていたことへの、ささやかな仕返しでござるよ。これで、お互い様でござるな。……さあ、左之助。拙者の秘密は全てバレたでござるが、それで、やるのでござるか?」
「このっ……!根に持つタイプね、人斬り抜刀斎!!腹黒い!!」
悔しさにギリギリと歯ぎしりをしていると。
「えっ……」
「あの、お菓子をくれて、いつもニコニコしてる琴さんが……沖田総司……? 幕末最強の、あの人斬り集団の……?」
薫ちゃんは、完全に限界を超えたショックで白目を剥き、その場に力なくへたり込んでしまったのだった。
正体バレ、早すぎましたか?
それともここが最適でしょうか?
さて、正体が割れた今、
喧嘩はどうなるでしょうか。
第一回キャラクター人気投票(コメントもぜひ感想欄に)
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明神琴(沖田総司)
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河上彦斎(お彦)
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明神弥彦
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緋村剣心
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相楽左之助
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神谷薫
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高荷恵
-
四乃森蒼紫
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志々雄真実
-
瀬田宗次郎
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鵜堂刃衛
-
宇佐美
-
水野
-
我介