転生して型月版・沖田総司になったけど、労咳を克服したら明神弥彦の母になっていた件 〜るろ剣世界で最強のママやってます〜 作:だいたい大丈夫
一方、お彦は新井青空から逆刃刀・真打を受け取り、不殺の道へ踏み出す。
だがその前に、赤空の最後の一振りを狙う十本刀・張が現れる。
【志々雄のアジト大広間】
「あーあ、花の京都だと言うのに、またこの穴蔵生活かぁ」
不満げに唇を尖らせる由美に対し、志々雄は余裕の笑みを向ける。
「そう言うな。中はちゃんと作ってあるだろ」
「あと二、三ヶ月の辛抱でしょ?我慢しましょ、由美さん」
琴は、髪を揺らしながら由美を宥めた。彼女は現在、志々雄の傍で十本刀『閃剣』として振る舞っているが、その胸中には罪悪感がどろどろと渦巻いている。
精神状態は常に限界ギリギリの綱渡りなのだが、それを必死に隠すように飄々とした態度を崩さない。
……無理をして明るく振る舞っているが、端から見れば痛々しいことこの上ないのだ。かわいそうに。
広間に入ると、武装した兵士たちが左右に分かれ、一糸乱れぬ動きで深々と頭を下げる。
そこへ、舞台役者のような大袈裟な足取りで、方治が出迎えに来たのだ。
「お帰りなさいませ、志々雄様」
「留守中、任せた仕事は済ませてあるか?」
「はい。予定しておりました西洋の火器は全て調達済みです。そういえば、宗次郎は?」
「あいつには東日本の十本刀の繋ぎを任せた。あっちは安慈のように所在の掴みづらいのが多いからな。西日本の方は俺直々に檄文を送りつけといた」
「では!」
「ああ。十本刀が集結し次第、国盗り開始だ」
志々雄のその一言が、兵士たちの導火線に火をつけた。広間に熱狂が一気に爆発する。
「志々雄様ー!志々雄様ーーー!!!」
地鳴りのような歓声が響き渡る中、熱狂する兵士たちに向けて方治が両手を大きく広げた。
「聞いたか同胞よ!ついに一斉蜂起の時が来る!各々、決起の準備を怠るな!!」
バタン、と扉が閉まる。そして琴は視線を方治に向けた。一般兵に随分と熱いセリフだ。
「……『聞いたか同胞よ』か。ちょっと演出過剰ね、佐渡島さん。舞台演劇の幕開けじゃないんだから」
身も蓋もない正論である。方治は少しむっとしたように答える。これだからこの女は苦手なのだ。
「組織の補佐役とは、これくらいでちょうどいいんだよ。兵は熱で動くものですからな」
「で?『神』と『時守』の動向は?」
その問いに、方治の顔が険しいものに変わった。あまり良い知らせではないらしい。
「『時守』は各地の『時の番人』が京都に集結しつつあるとの報せが入っております。帝都に残っているのは四番と六番のみ。問題は、軍需複合体『神』ですが……」
「佐渡島さん?勿体ぶらないでよ」
じれったそうに急かす琴に対し、方治は重々しく口を開く。
「……河上彦斎が、生きていたようです。既に京都に入っており、刀匠・新井青空の所にいるとの情報が」
そう、そうか。
「………そう。お彦が……生きていたの……」
この手で右腕と胸と背中を貫いたのに。ああ、良かった。生きていて良かった。けれど、私は。もう、神谷要塞には戻れない。
「………嬉しいか?」
嬉しいわよ。でも。
「………いいえ。次は殺す。それだけよ」
「……………あまり無理をするな」
「いいえ、いいえ。無理なんて……全然、してないわ」
……自分の嘘があまりにも下手くそすぎて、吐き気がこみ上げてきているのである。正直に生きればいいのに、人間とはつくづく難儀な生き物なのだ。
しかし志々雄は、そんな琴の精神的な危うさを全て正確に理解した上で、咎めることなくただ静かに見下ろしている。
「そうやそうや。あまり姐さんを甘く見たらアカンですわ、志々雄様」
突如、場違いに陽気な声が響いた。現れたのは、逆立つ金髪と箒のような奇抜な頭をした男。十本刀『刀狩』の張である。
「張か……早いな」
「そらもう、大坂住まいやさかいに。自慢の愛刀をひけらかしたい思いましてな」
……あれ?緋村さんの逆刃刀、新月村で折れてないわよね?なんでお彦が青空のところにいるの?フラグ管理どうなってんのよ。原作ブレイクもいいところじゃない。なら‥‥。
「張くん、新井赤空の最後の一振りがあるらしいわ。行く?」
「おいおい。あまり事を荒立てるなよ?」
「大丈夫ですわ。ほな、探してきます。姐さんも行きますか?」
「うん。行くわ。私もお彦の息の根を――」
今度こそ自らの手で決着をつけようと一歩踏み出した琴の腕を、志々雄が力強く掴んだ。
「ダメだ。沖田は俺のそばにいろ」
「え?なんで?私が今度こそ……」
「俺が、そばにいてほしいと言っている。……それ以上の理由がいるか?」
あ、ダメ。本当に卑怯。敗者の意地も罪悪感も、全部丸ごと抱え込んでくれるなんて……チョロいってわかってるけど、これは抗えないわ。
顔を真っ赤にして黙り込む琴を見て、志々雄は満足そうに鼻で笑った。
「礼を言われる筋合いはねえな」
「ほな、行ってきますわー」
呑気に手を振る張の背中に、琴は慌てて声を張り上げる。
「張くん、お彦とはやり合うんじゃないわよ。死ぬわよ」
「はいはい、わかってますて」
◇◇
【新井青空の家】
場面は変わり、青空から場所を聞き出し、河上彦斎――お彦――は白山神社から一本の白鞘の刀を持ち帰ってきた。普段の狂気がすっかり抜け落ち、まるで聖母のような穏やかな表情を浮かべているお彦は、静かに鞘を払う。
現れたのは、刀身の峰側に刃がついた、逆刃刀。お彦は茎に刻まれた銘を、愛おしむように指でなぞりながら静かに読み上げた。
『我を斬り 刃鍛えて幾星霜 子に恨まれんとも 孫の世の為』
「赤空さんは、途中から分かっていたのね。刀が時代を作るなんて、驕りだってことを」
「………そうだったんですね。父は……」
「幕末は、本当にどうにもならない狂った時代だった。私もその血に飲まれていたわ。だけど……」
あの時は、それでも。
『抜刀斎に逆刃刀を渡した。なぜ?』
『見ていたのかよ、人斬り彦斎。気持ち悪いな』
『ただの出歯亀、大丈夫』
『何が『大丈夫』なんだか……。甘い戯言をほざく馬鹿に、餞別をやっただけだ』
『甘い戯言……。信じてみたかった。……大丈夫……』
赤空さん、やっぱり大丈夫だったかしら?でもこの刀は…私に頂戴。
「そうね……。私もようやく、甘い戯言を信じてゆくことができる」
その姿はまさに慈愛に満ちた聖母。青空は、狂気の刀匠と呼ばれた父の本当の気持ちを理解してくれたお彦に対し、深い敬意と信頼を抱いた。
「受け取ってください、お彦さん。父の本当の気持ちを教えてくれた貴女になら……この『真打』を託せます」
「…………ありがとう、青空さん」
トントン
「ん?お客さんかな?」
首を傾げる青空を手で制し、お彦の纏う空気が一変する。剣気か。
「待って……」
そばにいた弥彦が、お彦の顔を見てギョッとする。
「お彦?どうした、怖い顔して」
……先程までの聖母の面影はどこへやら、そこには『神』の極道剣術師範として真剣な表情へと変貌している。女の変わり身の早さには驚かされるばかりである。青空はあまりの温度差とオーラに完全に怯えきっているのだ。
おかしいわね。原作のタイムラインなら、緋村さんの刀が折れていない以上、ここに『刀狩』が来る理由はないはずだけど……。フラグが勝手に生えたのかしら?
「私が出るわ」
◇
「スンマセンな。つかぬことを聞くんやが……赤空の最後の一振り、ある?」
……あまりにもフランクすぎる唐突な質問である。
「あら、ちょうどよかったわ。私の背中にあるのが、そうよ」
事も無げに答えるお彦の言葉に、張の顔から余裕が消え失せた。彼は目の前に立つ小柄な少女の背中にある白鞘に視線を走らせ、同時に本能的な危機感を爆発させた。
「…………アンタ何者や?」
お彦は、極上の獲物を前にした肉食獣のような底冷えのする笑みを浮かべて、ゆっくりと宣言した。
「私?私は河上お彦。この国を盗る軍産複合体『神』・剣術師範よ。ようこそ、十本刀『刀狩』の張さん」
朗々と響き渡る自己紹介である。自分の所属する組織名と役職をきっちり名乗るあたり、妙に社会人としてのマナーがしっかりしているところが逆にサイコパスみを感じさせて恐ろしいのだ。
「…………ヒッ」
「ここで、お縄についてもらうわ。弥彦ちゃんの前だから、なるべく血は出さないようにしてあげる。……『大丈夫』よ」
全然大丈夫ではない。なるべく血は出さない、つまり血が出ない程度の骨折や内臓破裂は免れないという、優しさに包まれた残虐宣言である。背後にいる弥彦への教育的配慮を見せつつも、やる気は完全に満々なのだ。
「…………えらい大物に当たってしもうたか……!!」
ここまで読んでくださりありがとうございます。
今回は志々雄陣営の動きと、お彦の逆刃刀・真打継承を描きました。
琴の揺れや、お彦と張の対面について感想をいただけると嬉しいです。
第ニ回キャラクター人気投票(コメントもぜひ感想欄に)
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明神琴(沖田総司)
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明神弥彦
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緋村剣心
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神谷薫
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相楽左之助
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河上彦斎(お彦)
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三条燕
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高荷恵
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四乃森蒼紫
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心網列(太郎)
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志々雄真実
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瀬田宗次郎
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武田観柳
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宇佐美新平
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水野和親
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巻町操
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斎藤一
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斎藤時尾