転生して型月版・沖田総司になったけど、労咳を克服したら明神弥彦の母になっていた件 〜るろ剣世界で最強のママやってます〜 作:だいたい大丈夫
赤空の殺人奇剣を操る男を相手に、お彦は新たな誓いを胸に刀を抜く。
これは、沖田総司を殺さず止めるための初陣である。
【京都 新井家】
私の剣気に当てられ、十本刀『刀狩』の張は顔面に幾筋もの冷や汗を浮かべている。
「あー……志々雄様からは『事を荒立てるな』と言われてるさかい、ここはお互い見逃しては……」
容赦なく首を横に振った。当たり前である。
せっかくフラグをへし折ってまでわざわざ向こうから出向いてきてくれたのだから、ここで手ぶらで帰すわけにはいかない。
「ダメね。ここで敵の幹部を逃したとあっちゃ、ドンに殺されちゃうわ」
「あはは……難儀やなあ、アンタの組織も」
「お彦さん。私が出ますか?まず両足を撃ち抜いて捕らえましょう。大丈夫ですよ、痛いのは最初だけですから。私たちの味方になるって誓えば、ちゃんと治療してあげますし」
キュートな笑顔でエグい提案をしているのは、我らが誇るマスコットキャラクターであり極道予備軍、燕ちゃんである。
「……ッ!?な、なんやこの嬢ちゃん!?えげつないこと笑顔で言いよるで!?」
普通に考えてサイコパスの思考回路である。
でもね、私はそんな燕ちゃんが愛おしくてたまらない。
ええ、本当に良い子に育っているわ。
情操教育の方向性が完全にマフィアのそれだけど、生き抜くにはこれくらいでちょうどいいのよ。
むしろこれくらい逞しくないと、これからのインフレバトルにはついていけないわ。
「燕ちゃん。良いわ、下がって。……ここは私がやるわ」
これは私の戦い。
お義母さんを止めるための、新しい剣の初陣なのだから。
ここで感覚を掴んでおかないと、妖怪には立ち向かえない。
「…………仕方ないか……。正々堂々と、勝負や!!」
「ええ、じゃあどうぞ」
軽く手を広げて誘うと同時に、空気が弾ける。
「あまり舐めんなや!!」
気迫と共に親指が鍔を弾いた。
鞘が私の両目――目潰しを狙って一直線に飛来してくる。
――遅い。
異能なんて大層なものは必要ない。
私自身の筋肉と骨が、死地で培った最適解を弾き出していく。
いちいち思考を挟むまでもない、純粋な反射と経験の結晶なのだ。
逆刃刀・真打を静かに抜き放ち、眼前に迫る鞘を打ち払う。抜刀の感覚はやはり別物だ。
なるほど、刃が逆についているというだけで、振った時の重心から空気抵抗まで全く違う。
これは慣れるまで少し時間がかかりそうね。
「おいお彦!!お前、右腕もう大丈夫なのか!?」
それにしても、戦闘中に自分の味方のダメージ状況を大声で敵にバラすなんて、相変わらず素直すぎるわね。
「うん、だいたい九割といったところね。大丈夫よ」
「九割!?人体の神秘をガン無視するんじゃねえ!!」
ほんと、元気な子。
大怪我をしてからまだ全然日数が経っていないのにピンピンしているのは、間違いなくこの世界の回復システムがガバガバなおかげね。
「隙ありや、もろた!!」
鋭い踏み込みの音が空気を裂く。
私の会話への意識の逸れという死角を突いて、刺突が心臓目掛けて真っ直ぐに迫り来る。
うん、見事な突きだわ。
体重も乗っているし、殺意も十分。
初撃のフェイントから本命への繋ぎもスムーズに機能している。
だけど。
「私を突き殺したいなら……お義母さんの『無明三段突き』を超える技を出してからになさいな」
「なッ――!?」
すれ違いざま、私は彼の背中へ向けて、抜刀術の三連撃を叩き込む。
――ドゴォォォンッ!
それは肉を斬る音ではない。
逆刃の峰に込められた莫大な運動エネルギーによる、純粋な破壊の音だ。
斬れない刀の何が恐ろしいって、斬撃のエネルギーが逃げずに全て打撃として対象に叩き込まれることなのよね。
つまり、ただのめちゃくちゃ痛い鈍器である。
「ガァッ!?」
あ、背中に背負われていた二振りの刀が、鞘ごと粉々に砕け散って宙を舞ってる。業物かな?
「…………『薙』」
これで背骨が折れていないんだから、張もなかなかのバグ耐久力を持っているわ。
「立ちなさい。これが赤空殿の最後の一振り……『逆刃刀・真打』あなた、まだまだ味わい足りないでしょう?」
◇◇
地面を派手にバウンドしながら転がっていった張が、歯を食いしばりながら、ゆっくりと立ち上がる。
背骨から音が聞こえなかったから不思議に思っていたけれど、やっぱりこの世界の住人は耐久値の計算式が根本から間違っているわね。
普通ならあの一撃で完全に全身の骨が砕け散って、最低でも全治半年は確定のコースのはず。
それなのに、まだ闘志を燃やして私を睨みつけてくるんだから、十本刀という肩書きは伊達じゃないというわけね。
「お彦さんやっぱり私が後ろから膝の関節を狙って撃ち抜きましょうか?今なら絶対に外しませんよ」
うん、燕ちゃんは本当に頼もしいわね。
でも大丈夫よ、このお兄さんは私がちゃんと無力化してあげるから。
「………そうやな……。姐さんの言う通り、アンタとはやり合うべきではなかったかもしれん。……だが!!」
その気迫と共に、男の腕が腰へ伸びる。
彼の着物の帯のようになっている部分から、奇妙な金属の帯が引き抜かれていく。
いや、ちょっと待って。
それ、刃物よね。
鞘にも入れずに直接腰に巻いていたというの。
服とか切れないのかしら。
トイレに行く時とか、しゃがんだ瞬間に自分の太ももを切っちゃったりしないの。
労災は降りるのかしら。
新井赤空さん、いくら殺人奇剣とはいえ、使用者への配慮が欠けすぎじゃないかしら。
私の頬を撫でるように数本の髪の毛がふわりと切り裂かれ、宙を舞う。
なるほど、ペラペラの薄い鋼を鍛え上げて作った、しなる剣というわけね。
初見殺しにも程があるわ。
でも残念ながら、私は初見じゃないのよ。
「なるほど。新井赤空作の後期型殺人奇剣……『薄刃乃太刀』ね」
「なぜ知っとる!?ワイの切り札やぞ!!」
でも、ここで原作コミックスを読んだからよなんて正直に答えるわけにはいかないわ。
「さあ?歴史の特異点のお告げかしら」
うん、歴史の特異点って響き、かっこいいわよね。
まあただの未来知識のバグよ。ごめんなさいね。
フラグ管理がガバガバなせいであなたの切り札のネタバレを全部知っているの。
張も、もう後には引けないと悟ったのか、その薄刃乃太刀を頭上で激しく振り回し始める。
ムチのようにうねる刃が四方八方から私に向かって襲いかかってくる。
右から来るかと思えば急に軌道を変えて左から、上から来るかと思えば地面を這うように下から。
普通の人間の動体視力なら見失って、あっという間に細切れにされてしまうでしょう。
でもね、軌道が分かっていれば恐るるに足らないのよ。
それに、私は幕末で、これよりもずっと理不尽で意味不明な剣術使いや暗殺者たちと毎日死闘を繰り広げてきたの。
あの頃の京都は、それこそ毎日が異能バトルみたいな魔境だったんだから。
それに比べれば、物理法則に則ってしなるだけの鉄のムチなんて、お行儀が良い方よ。
極限まで研ぎ澄まされた純粋な剣だけで、この変則的な攻撃を完全にシャットアウトするのだ。
「な、なんやねんお前!?ワイの太刀筋が全部見えとるんか!?」
さらに速度を上げた斬撃の雨が降ってくる。無駄よ。
大振りの攻撃になればなるほど、次の動作への隙が大きくなる。
「逆刃刀……応えて……。私の赤心に……!」
この刀は赤空さんが平和な時代を願って打ったものなのだから、私のこの決意と同調してくれるはず。
飛来する薄刃乃太刀を大きく弾き返すと同時に、慣れた抜刀術の構えを、深く、それこそ地面に這いつくばるような低い姿勢へと沈み込む。
「この!!!逃がさんでえ!!」
気迫と共に、最大級のしなりを効かせた一撃が上段から振り下ろされる。
でも‥‥もう遅い。
何の音も立てず、私の姿が張の視界から完全に消滅する。
彼の懐、その真下に――限界まで深く沈み込み、全身のバネを圧縮しきった私が、すでに居る。
目が合う。体はすでに、圧縮したエネルギーを解放する動作に入っている。
「抜刀……『神威』」
「あ――」
気の抜けたような吐息が漏れる。
痛みはないはずよ。
なぜなら、顎への打撃は脳の髄を直接揺らし、痛覚が脳に伝わる前に全身の神経を完全にショートさせるから。
彼の意識はすでに深い闇の中へと落ちており、空中に投げ出されたその身体は、指一本動かすこともできない完全な制御不能状態に陥っているのだ。
重い音を立てて、男が地面に墜落する。
白目を剥き、口から泡を吹きかけながら、ピククッと痙攣している。
うん、見事なまでの脳震盪ね。
しばらくは起き上がれないはずよ。
大きく息を吐き出すと、ゆっくりと逆刃刀・真打を鞘に納める。
「殺さず、ただ止める。……私の勝ちね」
これで、お義母さんを止めるための武器と技は整った。
次は負けない。そのために、今、ここにいる。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
今回はお彦VS張、そして逆刃刀・真打の初陣を描きました。
お彦の不殺への変化や、張との戦闘について感想をいただけると嬉しいです。
第ニ回キャラクター人気投票(コメントもぜひ感想欄に)
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明神琴(沖田総司)
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明神弥彦
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緋村剣心
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神谷薫
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高荷恵
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四乃森蒼紫
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斎藤時尾