転生して型月版・沖田総司になったけど、労咳を克服したら明神弥彦の母になっていた件 〜るろ剣世界で最強のママやってます〜   作:だいたい大丈夫

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京都へ辿り着いた剣心たちは、葵屋へ向かう前に芹の案内で一軒の料理屋へ立ち寄る。
だがそこは、ただの高級料亭ではなかった。
時守の情報網、十本刀の動き、そしてお彦生存の報せが、静かな座敷に波紋を広げる。


根元みどり

【挿絵表示】



琴基準の男

【京都】

 

あたしたちはついに花の都・京都へと足を踏み入れた。

 

賑やかな喧騒。あたし、巻町操にとってここは完全に自分の庭だ。

 

とはいえ。

あたしの背中をぞろぞろとついてくる大人たちの放つ気配が、控えめに言って異常事態だ。

 

まず、我らが御庭番衆の頭、四乃森蒼紫様。

新月村で沖田……あの妖怪じみた女から受けた傷が、どう考えても完治しているわけがない。常識的に考えれば布団に縛り付けておくべき重傷患者なのに、矜持のせいなのか、それとも痛覚機能が狂いを起こしたのか、平然と二本足で歩いている。

 

姿勢は真っ直ぐ。歩行の軌道にも一切のブレがない。

 

すれ違う町娘たちが頬を染めて振り返る顔の良さは健在だけれど、あの外套の下が包帯ぐるぐる巻きであることを、あたしは知っている。絶対に痛い。見ているこっちが痛い。

 

「じゃあ、葵屋まではあたしがしっかり案内するね!裏道も抜け道も全部頭に入ってるから、任せて!」

 

「そうね。でもその前に、腹ごしらえをしていきましょう?良いお店があるのよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

芹さんの先導でたどり着いたのは、大通りの喧騒を完全に遮断した細い路地裏。

そこにひっそりと佇む古料理屋は、打ち水された石畳と年季の入った渋い暖簾の組み合わせだ。

 

「あ!ここ、すごく高いところだ。地元の人ほど、一見じゃ入りづらくて絶対に行かないのよね。っていうか、あたしも前を通ったことしかないし!」

 

「いかにも、一見さんお断りの風情でござるな。拙者には、少しばかり敷居が高すぎるようでござる」

 

わかる。あたしたちにこの高級感は身の丈に合わない。

さあ、覚悟を決めて暖簾をくぐろう。

 

「……俺は、幕末にここへ来たことがある……」

 

「そうなのでござるか?」

 

緋村。あんたは本当に学習能力がないのか。

ここで生真面目に相槌を打つことがどれほど危険な兆候か、常識人枠のあんたなら察知してほしかった。

 

「…………ああ。沖田さんに、連れてきてもらった。………あの夜の、沖田さん……」

 

来た。

まただ。

 

蒼紫様の周囲半径二間だけ、局地的に梅雨が停滞している。

瞳孔は完全に開ききり、意識は明治十一年から幕末の思い出へと華麗に時間遡行を果たしている。

 

その夜の沖田さんと何があったのかは知りたくないけれど、今の蒼紫様の顔つきは完全に拗らせすぎだ。

 

「……相変わらず、胸焼けするほど重い男だな」

 

少し離れた位置にいた斎藤が、汚物を視界に入れてしまったという顔で踵を返した。

 

「じゃあ、俺はここで失礼する」

 

「あらー!いいじゃない、一緒にお食事くらい。せっかくのご縁だし」

 

芹さんの引き留めも、斎藤の歩行速度を瞬き一つ分すら遅らせない。

 

「敵ではないが、味方とも言えん奴らと料理屋で談笑する悪趣味は持ち合わせていないんでな。行くぞ、時尾」

 

「待って、あなた。私もご一緒しますわ。……あの男の重い情念、当てられそうでお肌に悪いですもの」

 

時尾さんまで、蒼紫様を一瞥してあからさまに顔をしかめた。

そそくさと人混みへ消えていく二人。置いていかないでほしい。

 

「……あー……疲れたぜ。とりあえず入ろうや」

 

黒鉄さんが、この異常空間の中で信じられないほど呑気に口を大きく開け、ずかずかと暖簾をくぐっていく。

あたしもこの重圧から逃れるべく、緋村の背中を盾にしながら店内へと避難を完了した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ようやく一息つけるな。女将!!」

 

「い、いきなりこんな高級店で……!控えめに頼むでござるよ!」

 

「あらあら、芹様。お久しゅうおす。守人さんと仁さんも……ほんに、ようお越しやす」

 

完璧な着物姿。隙のない身のこなし。恐ろしいほど整った容姿でありながら、柔らかい微笑みで全てを包み込む。高級料亭における女将という概念を具現化したような女性がそこにいた。

 

「あら。操ちゃんも、よう来とくれやすした。べっぴんさんになられて」

 

頭の処理が追いつかない。

こんな高級店に足を踏み入れた記憶もなければ、こんな絶世の美女と知り合いだった過去もない。

 

「ふふふ。葵屋の翁さんとは、これでもお付き合いがおますさかいに。操ちゃんがお小さい頃、何度かお見かけしたことありますえ」

 

なるほど。爺やの繋がりか。

 

「……操」

 

「あ、あはは。あたし、昔から京都中を走り回ってたから……顔が広いっていうか、なんというか!」

 

「で、志々雄の動きについてはどうだ?」

 

ぴりっ。

場の性質が、明確に反転した。

 

「え?どういうこと??なになに、この急な深刻な事態!?」

 

「ここも、政府の裏組織『時守』の拠点であるということでござるよ。この女将も、ただの料理屋の主ではないということでござる」

 

彼女はふわりと優雅に微笑み、三指をついて深く頭を下げた。

 

「御名答どす。時の番人・七番、根元みどりと申します。以後、お見知りおきを」

 

世の中の異常が多すぎて、あたしの理解力は限界に近い。

 

「……あー、とにかく腹が減ったぜ。みどりさん、良いもん入ってないかい?」

 

黒鉄さん。あんたはこの緊迫感の中でよく帳場にどかっと座れるね。

 

「仁さんも相変わらずだらしないお人やなぁ。今、よろしゅう拵えますさかい、お待ちやす」

 

「あ、あんな上品で綺麗な人が、暗殺者なの……?全然そんな風に見えないんだけど……」

 

あたしの漏らした本音に、部瀬さんがにやにやと近づいてくる。

 

「女将は強いぞ。時の番人に相応しい実力者だ。そして何より……俺の求める究極の理想の形をしている。あの圧倒的な存在感……一度、存分に堪能してみたいねぇ」

 

最低だ。日本の未来は暗黒そのものだ。

 

「部瀬〜。私のを試してみる?その直後、その首を胴体から綺麗にさよならさせてあげるけれど。うふふ」

 

瞳が完全に光を失っている。絶対に冗談ではない。

 

「ん〜。筆頭のは、俺の美学からすると少々物足りないな。俺は圧倒的な大きさを至上としているんだよ」

 

命の危機より己の理想。ある意味、芯が通っていると言えなくもない。

 

「ど、どうも暗殺者らしくないというか……緊張感が皆無でござるな……。拙者、少し頭が痛くなってきたでござる……」

 

激しく同意する。この人たちの日常、完全に頭のねじが吹き飛んでいる。

 

「守人さん。またそないにだらしない顔してたら、蓮にどやされますえ?」

 

「……蓮?」

 

蒼紫様が反応を示す。

 

「守人さんの、婚約者どす。時の番人の、第五位の」

 

「おいおい女将!そんな大事なこと、部外者の前でばらすなよ!俺の純情な印象が崩れるだろうが!」

 

「いややわぁ。うちは安うおへん。蓮ならなんぼでも許してくれはりますやろ」

 

「ん〜、蓮はいくらでも許してくれるからなぁ。なんというか、いつでも触れられるとなると、俺を満たす達成感というものがだな、こう、少し物足りないというか――」

 

直後。

みどりさんの着物の裾が舞い上がり、そこから恐るべき速度と破壊力を伴った鉄の蹴りが、部瀬さんの鼻先へ向けて跳ね上がったのだ。

 

殺気はない。感情の昂りすらない。

ただ純粋に、生物としての本能が『防がなければ顔面が消滅する』と警鐘を鳴らすほどの、純度百パーセントの暴力だ。

 

部瀬さんは、本当に間一髪のところで、いつの間にか手にしていた漆黒の長槍の柄を差し込み、その一撃を防いでいた。彼の腕が軋みを上げている。

 

……うそ。今の、完全に殺しにきてた……!!

 

「操ちゃん。みどりの武器は、あの鉄靴よ。近接格闘において、時守の中で彼女に敵う者はいないわ。綺麗な薔薇には棘があるってやつね」

 

「いややわぁ。芹様、そないにおだてんといておくれやす。うちなんか、まだまだ未熟者どすえ」

 

みどりさんは何事もなかったかのように着物の裾を直し、すっと足を下ろす。そして、何食わぬ顔でお茶の支度を再開した。

この切り替えの早さ。間違いなく本職の暗殺者だ。

 

「そうそう、志々雄のことやったわね。志々雄直轄の部隊……十本刀やけど、さっそく一人捕まったみたいどすえ」

 

女将の口から、世間話の延長のような軽さで特大の情報が落とされた。

 

「おお!すごいじゃない!いったい誰が捕まえたの!?」

 

十本刀といえば志々雄の主戦力。それがすでに一人削られたなんて、戦局を左右する大事件だ。

 

「緋村さんとこの、お彦さんどす」

 

「お、お彦殿が……戻ったでござるか……!!」

 

「そうか。良かった……!これで、弥彦も安心しているでござろう。無事だったのだな。本当に、良かったでござる……!」

 

緋村の目元が僅かに潤んでいるように見える。その事実を心から喜ぶ、真っ当極まりない反応だ。

 

だが、問題はその隣。

あたしの頭、蒼紫様だ。

 

「……良かった。お彦が生きていたのなら、これで、沖田さんが背負う罪が一つ減る。沖田さんは、これ以上地獄へ堕ちなくて済む。ああ……沖田さん……」

 

ひえっ。

 

「…………蒼紫。お主……もう、琴殿以外は何も見えていないのでござるな……」

 

歪みきっている。

蒼紫様の愛の解釈は、もはや正常な人間の思考には存在しない。お彦という人物の生存すらも、蒼紫様にとっては『琴の罪の増減』を計測するための、ただの分銅でしかないのだ。

 

この男の思考回路は、すべてが『琴基準』で稼働している。異常な純愛ここに極まれり、だ。

 

誰か、気付け薬を頂戴。できれば一番効くやつを。




ここまで読んでくださりありがとうございます。
今回は京都到着後の一幕と、時の番人七番・根元みどりの登場を描きました。
操視点でのツッコミや、蒼紫の反応について感想をいただけると嬉しいです。

第ニ回キャラクター人気投票(コメントもぜひ感想欄に)

  • 明神琴(沖田総司)
  • 明神弥彦
  • 緋村剣心
  • 神谷薫
  • 相楽左之助
  • 河上彦斎(お彦)
  • 三条燕
  • 高荷恵
  • 四乃森蒼紫
  • 心網列(太郎)
  • 志々雄真実
  • 瀬田宗次郎
  • 武田観柳
  • 宇佐美新平
  • 水野和親
  • 巻町操
  • 斎藤一
  • 斎藤時尾
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