転生して型月版・沖田総司になったけど、労咳を克服したら明神弥彦の母になっていた件 〜るろ剣世界で最強のママやってます〜 作:だいたい大丈夫
十一番・加里が手傷を負ったという報せに、芹は志々雄陣営の強敵の存在を感じ取る。
だが、集まってくる番人たちは、揃いも揃って一筋縄ではいかない者たちだった。
こんにちは!みんな!!
私こそ、泣く子も黙る秘密結社『時守』のトップ、時の番人・一番である阿久津芹よ。今日も私は美しい。
今は番人が集まるのを待つ優雅な時間だったはずなんだけど…。
「え? 十一番の加里がやられた!?」
私の口から飛び出すのは、驚きと、そして隠しきれない歓喜が入り混じった弾むような声だ。湯呑みを口元から離し、少しだけ前のめりになる。
「はい。敵に、相当な手練れがいたとのことどす。明日にはここへ到着しはりますけど、おそらくしばらく戦闘は厳しいかと」
いやいや、ちょっと待ってちょうだい。あの二重人格で、それでいて変態的なまでにしなやかな鞭使いの加里よ? あの子の鞭の軌道はまるで意思を持った生き物のように不規則で、並の剣客なら間合いに入る前に挽肉にされるのがオチなのよ。
そんな加里の防御網を掻い潜り、手傷を負わせるなんて。どんだけかしら。
「なかなかね……」
志々雄の陣営にも、どうやら本物がいるということね。
ただの烏合の衆ではない、本物の修羅の道を歩んできた殺し屋か、あるいは異常な動体視力を持つ剣の達人がいる。
ふふ、血が疼くわね。軍人としても、暗殺者としても。
「他の番人はどう? 召集はかけてあるけれど」
「そろそろ……ああ、噂をすればなんとやらどす」
みどりがそう言い終わるか終わらないか、いや、完全に言い終わるより早く、それは起こる。
ドガァァァン!!!!
大音響とともに、障子が、文字通り木っ端微塵に吹き飛ぶ。まるで大砲の直撃でも受けたかのように木枠はへし折れ、上質な和紙は吹雪のように宙を舞っている。
いや、普通に危ないわよ。
宙を舞う木屑の向こうから現れるのは、身の丈ほどもある超巨大な金槌を肩に担いだ、筋骨隆々の白髪の老人だ。時の番人・第八番、神原彦左衛門その人である。
「たのもー!!!! みどり! 今着いたぞい!」
「…………神原の爺様……。戸から入りなはれ」
彼女の顔を見ると、美しい額には青筋がくっきりと浮かび上がり、目は完全に笑っていない。
しかもこの障子、つい先日張り替えたばかりの特注品だったはずよ。一枚いくらすると思っているのかしら。みどりの心中を察すると同情を禁じ得ないが。
「おお! ここにおったか。芹も大きくなったのう!」
大きくなったって、私もう何年も身長は止まっているのだけれど。この爺様の中では、私はまだ十代の小娘のままらしいわね。
この男は、御年八十五歳にしてこの規格外のパワーとエネルギーを保っている。一体何を食べて生きていればこんなバケモノみたいな爺様が完成するのかしら。
「普通は、味方の拠点に破壊侵入はせんもんどす……。この障子の修理代、あとでキッチリ請求させてもらいますさかいに。京都の建具屋の仕事は高いえ?」
「暗殺者に何を言うておるか! カカカ!」
いや、暗殺者だからこそ隠密に行動して静かに戸を開けるべきだと思うのだけれど。そんな正論はこの爺様には通用しない。自分の身体よりでかい金槌をドスンドスンと畳に打ち付けながら笑うその姿は、愉快を通り越して一種の歩く災害だわ。
「す、すいません〜……普通に入りましょうと言ったのですが……」
申し訳なさそうに眉を下げる彼女は、時の番人・第十番の矢田櫂だ。
「櫂! よく来たわね。で、渋海の始末はついたの?」
「ええ、始末してきました。ですが報告したように、『神』の構成員とやり合いまして……」
「やはり危険ね。『神』は。般若の面を被った男だったと?」
「はい。あの般若の面、不気味な動きで……」
「……ところで筆頭四番の朗人は帝都に残しておいて良かったのですか?彼は大久保卿暗殺の件も我々より早く独自に掴んでいた様子もあります危険では…」
「ん〜、朗人くんは多分大丈夫だと思うわよ?」
「帝都に六番の緑郎一人だと大変だろうし。それに朗人くんは、『神』の跡取りの弥彦と随分仲良くしていると聞いているわ」
そう、朗人くんの態度は、こういう盤面を引っ掻き回すのにはちょうどいい。敵の中枢に近いところにいる人間と懇意になっているという情報は、こちらにとって最高のカードになる。
「では……?」
「ええ。ここに呼ぶのはまだ早いわ。彼らには、次の『布石』になってもらうの」
盤上の駒は、自分の意志で動いていると思わせながら、私の意図した場所へ配置していくのが一番。
彼らが帝都でどんな踊りを見せてくれるのか。
「……承知いたしました」
「で、あんたのお父さんの九郎と、蓮は? 一緒に来たんじゃないの?」
私がそう尋ねると、櫂はキョトンとした顔になる。
「え?? さっきまでそこに……?」
◇◇
「こぉぉらぁぁ守人ぉぉぉ!! ウチの店に来る言うてたやないか!!」
我らが時の番人・第五番の猶井蓮。
彼女は部瀬の婚約者であり、親指大の鉄球をなんと百個も操るという、物理法則も常識もすべて置き去りにしたトンデモない爆乳の持ち主である。
「部瀬!!! そうだ! そうだ!! 早く蓮と結婚しやがれ!!! 俺の愛娘に手を出すな!!」
そして、蓮のすぐ隣で、さらにドスの効いた野太い怒声を張り上げているのは、九番の矢田九郎ね。十番の櫂の、実の父親である。
彼の得物は巨大な鋼鉄の錨という、これまた常軌を逸した代物よ。
彼は、愛娘である櫂の貞操を守るというただ一つの目的のために、部瀬を蓮と結婚させようと必死になっている、完全なる親バカである。
それにしても、自分の娘が気になっている男に対して「他の女と早く結婚しろ」と物理的な暴力で迫る父親って、控えめに言って頭のネジが数本、いや数十本はぶっ飛んでいるわね。普通は娘をたぶらかす男を直接海に沈めるものじゃないかしら。
「ぐわあああ!!! 勘弁してくれ蓮!! 九郎さん! なんでアンタがここに!?」
二人の猛烈なプレッシャーから逃げ惑うように、廊下をボロ雑巾のように転がりながら部屋に飛び込んでくるのは、我らが時の番人・第二番の部瀬守人よ。
槍の達人にして、巨乳至上主義という確固たる信念を持つ、立派で救いようのない変態である。普段は頼りになる男なのだけれど、今ばかりは顔面を蒼白にしながら涙目で情けない悲鳴を上げているわ。
彼の戦闘力は間違いなく超一流なのだけれど、相手が自分の婚約者と、味方の過保護な親バカとなると、さすがに逃げるしかないらしい。哀れな男。でも、彼の普段の言動を思い返せば、同情の余地なんてミジンコの足の爪の先ほども存在しないわ。
「俺の娘に手を出す前に、とっとと蓮に貰われちまえ!!」
少しでも避けるのが遅れれば、間違いなく頭蓋骨が粉砕されてミンチになってしまうような一撃。それを紙一重の体捌きで避ける部瀬の身体能力も大したものだけれど、味方同士の痴話喧嘩で使うような武器じゃないわよね、それ。
「理不尽!!!!」
うんうん、確かに彼の言う通り、これはあまりにも理不尽な暴力ね。でも、自業自得という言葉がこれほど似合う男も日本中探したってそうそういないわ。
「アハハハ! 部瀬! アンタもいい加減、覚悟を決めなさい〜。私だって一児の母なんだから、結婚なんて勢いよ!」
そう、結婚なんて細かいことを気にしてたら一生できないわ。
人生何事も勢いとタイミング。あんなに一途に追いかけてくれる婚約者がいるんだから、さっさと年貢を納めればいいのよ。それが男の甲斐性というものでしょう。
「それとこれとは話が別だ! 俺はまだ自由に、ありとあらゆる乳を……!」
どうしようもないクズだわ。命の危機に瀕しているというのに、まだそんな世迷い言をほざいているのだから、ある意味でそのブレない姿勢は尊敬に値するわ。
彼にとって世界中のあらゆる大きさ、あらゆる形の胸を愛でることは、人間が呼吸をするのと同じくらい重要らしい。
「何を言いよる!! ウチと結婚する気がないのか!?」
さすがに結婚そのものを真っ向から否定されたら傷つくわよね。
「いや! いや!!! あるから!!!」
彼も蓮のことを愛していないわけではないのよね。ただ、彼の『巨乳至上主義』というあまりにも広大すぎる守備範囲が、一人の女性に縛られることを本能レベルで拒絶しているだけなのだ。本当に、男って生き物はどうしてこうもバカなのかしら。
「そうかそうか……よし!! ウチの胸が足りないんだな!! ほれ! 今すぐここで揉んでいいよ!?」
部瀬の必死の弁明を聞いた蓮は、どういう思考回路を経由したのか、常人には到底理解できない斜め上すぎる結論に到達する。なんと彼女はと勢いよく着物の胸元を豪快にはだけさせてみせたのだ。
その瞬間、そこには収まりきらない規格外の爆弾のような双丘が凄まじい弾力と効果音を伴って弾け出る。
布という僅かな拘束から解き放たれたそれは、もはや地球の重力を完全に無視しているかのような圧倒的な質量と存在感を放っているわ。同じ女の私から見ても、ちょっと引くくらい立派な代物よ。
「…………ゴクリ……改めて見ると、規格外の爆弾だ……」
さっきまで「自由にありとあらゆる乳を」などと豪語していたのに、爆乳の前に、完全に語彙力を喪失している。
なんだかんだ言って、彼もこの圧倒的な質量には抗えないのよね。男の悲しい性というやつかしら。
そんな部瀬の情けない姿を、部屋の壊れた障子の物陰から、じっと見つめる青い影があることに私は気づく。
「……守人さん…………」
「ん? 櫂! なんだいきなり、そんな暗い顔して……!」
この男、本当に空気を読むという機能が脳にインストールされていないのね。
「私は守人さんの女ですよなんでここでその乳魔人の胸を揉もうとしているんですか私の胸がぺったんこなのがいけないんですかこんなに愛しているのに私のことは遊びだったんですかあの夜私に声をかけてくれましたよね『夜道は気をつけて帰れよ』ってあの言葉は私への熱烈なプロポーズだったんじゃないんですかあの後私お弁当作ったんです卵焼きは甘めがいいか少ししょっぱい方がいいか悩んで徹夜してだし巻き卵を百個くらい焼いて一番形が綺麗なものをお弁当箱に詰めたのに渡せなくて結局私が全部食べました涙で少ししょっぱかったですよやっぱりこの女が憎い憎い憎い無駄にでかい脂肪の塊をぶら下げて守人さんを誘惑するなんて絶対に許せないいっそそのお肉を全部削ぎ落として私の胸に移植すれば守人さんは私だけを見てくれるんですかでもそんな不純物が混ざった私を守人さんは愛してくれますか私は純粋な私として守人さんに愛されたいのにこの女が邪魔をするから私の純愛が穢れそうになるんです守人さんのその槍で私の心はもうとっくに貫かれているのにどうして守人さんは私の体を抱きしめてくれないんですか加里みたいに素直になれない私が悪いんですかいや悪いのは全部この乳魔人ですこの女がいなければ守人さんは私と毎日一緒にお味噌汁を飲んでくれるはずなんです私の作った少ししょっぱいお味噌汁を美味しいって言ってくれるはずなんですだからやっぱりこの女はここで私が排除して守人さんを誰の目にも触れない地下の冷たい部屋に閉じ込めて私だけのものにして永遠に私の名前だけを呼ばせる機械にしてあげるのが一番の愛の形ですよね私がその冷たい地下室で毎日口移しでご飯を食べさせてあげますからねブツブツブツブツ……」
……あまりの情念の重さと妄想の飛躍に、ただの殺意や嫉妬を通り越して、すでに特級の呪いの領域に達しているわね。しかも息継ぎを全くしていないから、酸欠で顔が少し青白くなっているじゃない。それでも呪詛を吐き続ける彼女の底なしの執念には、ただただ感心するばかりよ。
「おお櫂!! 久しぶりやな!! 守人も一緒に、飯でも行こか!!」
蓮はこの重苦しい呪いのオーラに全く、ミリ単位も気づいていないどころか、豪快に笑いながら櫂の肩をバンバンと叩いている。ヤンデレの純度百パーセントの殺意を、真っ向から物理的な陽気さと圧倒的な鈍感力で跳ね返しているのだ。さすがは部瀬の婚約者に収まるだけのことはあるわ。繊細さなどという言葉は彼女の辞書には存在しないのね。
「か、櫂はなんでこんなに小さい声なんだ……? 加里と同じで恥ずかしがり屋か……?」
そして部瀬も部瀬よ。櫂があんなにもドロドロとした怨念をブツブツと呟き続けているというのに、それを「恥ずかしがり屋」だなんて、どう脳内変換したらそんなハッピーな解釈ができるのかしら。
何も分かっていないにも程があるわ。この男、頭の中身の半分は槍のことで、もう半分はおっぱいのことで埋まっているから、女心なんて理解できないのね。
「櫂……、我が娘ながら哀れな……」
「ふふふ。ウチの皆は、本当に愉快ね〜!」
曲者揃いで、誰も彼もがぶっ壊れているけれど、だからこそ愛おしくて愉快なのだ。志々雄真実の陣営がどれだけ強大であろうと、このイカれた連中が負けるビジョンなんて全く想像できないわね。
「みどり! また白べこへ行きましょう! 白べこ!! 牛鍋よ!!」
「……へえへえ。筆頭の奢りどすえ」
ここまで読んでくださりありがとうございます。
今回は時の番人たちの集合回でした。
神原、蓮、九郎、櫂の印象や、部瀬を巡る騒動について感想をいただけると嬉しいです。
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