転生して型月版・沖田総司になったけど、労咳を克服したら明神弥彦の母になっていた件 〜るろ剣世界で最強のママやってます〜 作:だいたい大丈夫
志々雄一派との決戦を前に、お彦は自らの役割を宣言し、剣心にある事実を突きつける。
家族を取り戻すため、それぞれが決戦へ向けて動き出す。
【京都・葵屋】
東海道を駆け抜けてきた剣心、蒼紫、操が到着し、翁をはじめとする隠密御庭番衆からの歓迎を受けている。海路を利用して先着していたお彦たちや、中山道で遭難しかけていた先遣隊も合流を果たした。これにより、関東の裏社会を牛耳る最強最悪の狂気集団『神』の主戦力が、ここ京都に一堂に会した。完全なる武力集団の完成である。
「あと、恵さんがいれば完璧だったんだけど……」
彼女の網膜には、この異常な戦闘集団が和やかなピクニックの集まりとして映っているようだ。
「帝都を留守にはできねえだろ。阿片の商売は止められねえし、あっちで指揮を執る奴が必要だからな」
左之助が言う通りではある。資金源である阿片密売ルートを止めるわけにはいかないのだ。
そんな会話が飛び交う中、剣心はふと、お彦の姿に目を留める。彼女の胸元と右腕には、包帯が痛々しく自己主張をしている。
「それにしても、お彦殿は大丈夫でござるか?かなりの深手でござったが……」
「ふふ。弥彦ちゃんへの愛があれば、こんな傷はノープロブレムよ……と言いたいところだけど、はっきり言ってやせ我慢ね。動きは九割方戻っているけど、普通に痛いわ」
彼女の顔色は恐ろしいほどに蒼白だ。致命傷を負っているはずの肉体を、弥彦への執着のみで無理矢理稼働させているらしい。
「お彦!!ならやっぱり無理するなよ!」
「うん、そうね。無理はしないわ。……薫ちゃん。抜刀斎…………いいえ、剣心」
お彦は優しく頷くと、視線を薫、そして剣心へと移す。
『おお……!お彦殿が、ようやく拙者のことを名前で呼んでくれたでござる……!』
歓喜が、胸の奥底から込み上げてくる。「抜刀斎」という通り名でしか呼ばれてこなかった彼にとって、これは革命的な出来事だった。
「私はこの後、お義母さんとの戦い以外は一切戦わないわ」
「え?」
「ちょっと待ってください。じゃあ、他の連中との戦いは、全部私たちがやれってことですか?」
燕は思わず不満を露わにしてしまった。最強の戦力であるお彦が働かないとなれば、皺寄せが来るのは明白だ。
「そういうことになるわね。……別に、意地悪で言っているんじゃないわ。左之助、あなたお義母さんに勝てる?」
「おうよ!……と言いてえところだが、無理だな。あの三段突きの速さは異常だ」
「太郎は?」
「戦えば、勝てるとは思います。……でも、手足の一、二本は差し出す覚悟をしないといけないでしょうね」
「剣心は?」
「太郎殿と同意見でござるな。あの速さと剣気……戦えば、後に余力など残るまい」
「そういうことよ。お義母さんと戦う前に怪我をしていたら勝てないし、戦えば勝った後に何もできなくなる。だから、私がその役をやるの。……蒼紫さん。悪いけど、これは嫁と姑の話よ。そういうことにしたわ。だから、私に譲って」
これは琴を自分の手で救い出したいという、一人の女としての我儘だ。だからこそ、筋を通し、礼儀を尽くす必要があると理解していた。
「………お前が負けたら、死ぬ前に俺と交代しろ。それが条件だ」
琴への未練と、隠密御庭番衆御頭としての矜持の間で揺れ動く感情が、空間に張り詰めた緊張感を生み出している。
「………ごめんね、お父さん」
「俺からも頼むよ……父さん」
弥彦もまた、真っ直ぐな瞳で蒼紫を見つめる。
「………………。わかった」
急速な決壊だった。部屋に充満していた刺すような殺気や重苦しい感情が、たった二回の呼称によって霧散していく。
「ありがとう。お義母さんとやり合えば、私も間違いなく動けなくなる。だから……他の戦いはお願いします」
「大将があんたがそう言うんなら、そうなんだろうな」
水野が肩をすくめる。
「きっちり仕事はやらせてもらうぜ。先遣隊で道に迷って遅れた分は、これで帳消しにしてくれよ?」
宇佐美もまた指の関節を鳴らしながらアピールする。
「残りの十本刀は、琴の姐さんを除けば八人だな。こっちの戦力は……?」
「そうね。一人一殺でいきましょうか。剣心、左之助、蒼紫さん、燕ちゃん、太郎さん、水野さんに宇佐美さん。これで七人……」
「はいはーい!あたしは?多分、みんなと比べてもそんなに弱くないよ?」
「操はだめじゃ!!」
翁の手刀が容赦なく操の頭に振り下ろされる。
「どうしてよ!?爺や!いいじゃない!」
「操は、秘薬の飲み過ぎじゃ。少しここで休んで、治療薬を飲みなさい」
操は事あるごとに極限まで能力を引き出す秘薬を乱用しているのだ。
「うげええ………あれは苦いのよね……。間に合えば、戦います」
「『時守』の連中はどうします?あの人たちも、志々雄一派と戦うために京都へ来てるんですよね?」
謎の秘密結社『時守』。彼らもまた、京都のパワーバランスを揺るがす不確定要素だ。
「あと、斎藤も参戦するつもりであろうな」
志々雄陣営、神谷陣営、時守、そして警察勢力という四つ巴の様相を呈している。
しかし、薫は首を横に振る。
「……………いえ。今回は、私達だけでやるようにしましょう」
「その心は?」
弥彦が問う。あえて火中の栗を拾う理由はなにか?
「この戦いに勝った後のことよ。『時守』の連中が前に出てきているってことは……」
薫の言葉を太郎が引き取る。
「間違いなく、漁夫の利を得ようとしているはずです。番人たちが揃うなら、両陣営が弱ったところを横から突く……これが、秘密結社『時守』のやり方です」
「では、手出しを早めるのは愚策ではござらんか?」
「いえ。……第一に、琴さんを連れ戻すには邪魔が入ったら困るわ。時守に横槍を入れられて、二人とも死体になっちゃったら目も当てられないわ。…それと」
「……なるほど!例の話ですね」
燕は思い至ったらしい。
「そう。志々雄一派の戦力と人員は、私たちにとっても有用よ。剣心の言う通り、相手が『弱肉強食』の理屈で動いているなら、私たちが勝つんだから、当然私たちに従ってくれるんじゃないかしら?」
いわば吸収合併計画というところか。彼女はふんわりとした口調で、敵対するテロリスト集団を自陣営の駒として再利用する構想を語っているのだ。
「たた、戦ってもいないうちから勝つ前提なんて……随分と強気ですね、薫さん」
操が引きつった笑いを浮かべている。志々雄真実という怪物が率いる軍団を相手に、戦う前から吸収する発想は誇大妄想にしか聞こえない。
しかし、薫は全くわけがわからないというように操を見つめ返す。その瞳には、疑いや不安といった感情が微塵も存在していない。そう、そのようなものは存在しないのだ。
「操ちゃん。私達は『正義』なんだから、必ず勝つのよ?」
「え?勝てば官軍ってことですか?」
「いえ?私達は正しい道を歩んでいる。だから勝つの。だって、正義は必ず勝つんだから、私達以外が勝つわけがないでしょう?」
その言葉に操の思考が恐怖で白く染まる。自分が絶対の正義であることを微塵も疑っていない、その精神性。
これこそが、圧倒的武力と麻薬で他者を支配する女帝の真の恐ろしさである。
操は、自分がとんでもない連中と関わってしまった事実をいまさらながら思い知り、微かな震えを抑えきれずにいた。
「薫ちゃん。あまり操ちゃんを怖がらせないで。……で、剣心」
お彦が呆れたように息をつき、恐怖に顔を引きつらせている操を庇うように会話を断ち切る。これ以上は益がないと判断したのだろう。
「あなた……弱いわね」
「いきなり何を言い出すでござるか!!?」
「言い直しましょうか。あなた、飛天御剣流の奥義をまだ覚えていないわね?」
実力、呼吸、筋肉の張り、そして剣客としての格が丸裸にされている感覚に陥る。
「!!なぜ、そのようなことを!!」
図星を突かれた剣心は、狼狽のあまり一歩後ずさる。奥義を継承していないことは、彼にとって最大の弱点のはずなのだ。
「理由はもはやどうでも良いわ。単なる歴史の特異点よ」
「…………」
「志々雄一派と十本刀が集結するまでは、まだ僅かに時間がある。それまでに、比古清十郎のところへ行って、奥義を伝授してもらいなさい」
「しかし……。拙者は今、身体の感覚をかつての状態へ戻しているでござる。幕末の頃と比べても、決して引けを取るものではない。これならば……」
彼なりに努力をして感覚を取り戻してきた自負が、素直に受け入れることを拒絶している。無論師匠に会うのが後ろめたいことも手伝っているのであろう。
「……じゃあ、表に出なさい。教えてあげる」
◇◇
剣心は沈痛な面持ちで、お彦と数メートルの距離を空けて対峙する。剣心には自信があるのだ。今なら決して目の前の相手にも引けは取らないと
「見てもらえば、わかるでござる。拙者の剣気は――」
最速の抜刀。この一撃を放てば、お彦も実力を認めるはずだ。
「そう…………」
微かな呟きが通り抜けた気がした。
――ヒュン。
風が吹いたのか、それとも幻聴か。
剣心が抜刀術を放とうと、親指で鍔を弾いた、その瞬間のことである。
「え?」
剣心の首筋には、既に冷たい金属の感触があった。視界の端に映るのは、逆刃刀。
それが、頸動脈の真上に当てられている。
「な……!!!」
見えなかった。動いた瞬間すら、身のこなしすら捉えることができなかった。
「構えて」「鍔を弾く」というプロセスを踏んでいる間に、お彦は「移動して」「剣を当てる」という結果を終わらせていたのだ。反応すら許されない、絶対的な速度の差がある。
「これが、今の私と剣心の力の差。そして、志々雄もこれと似たような力量だと思っていいわ。……お義母さんが、自分より弱い男に己の運命を賭けたりするもんか」
もしこれがお彦ではなく敵であったなら、今頃剣心の首は庭石の上に転がっていただろう。
全身の脱力感に襲われながら、ゆっくりと構えを解き、深く息を吐き出す。己の慢心がいかに愚かなものであったかを理解したのだ。
「…………わかったでござる。拙者の慢心でござった」
完全に矜持を打ち砕かれ、項垂れながら敗北を認める。
お彦は満足すると、いつの間にか手にしていた一枚の紙切れを剣心へと差し出す。
「あなたの師匠の居場所は、ここに書いてあるわ。翁に調べてもらったの」
「行ってくるでござる」
「ええ。お願いします。……私たちの家族を取り戻すために」
そう、舞台に上がるためには役者は至高でなければならない。敵もまた‥‥。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
今回は京都決戦前の作戦会議と、剣心が奥義習得へ向かう流れを描きました。
お彦の判断や、薫の正義観、剣心との実力差について感想をいただけると嬉しいです。
第ニ回キャラクター人気投票(コメントもぜひ感想欄に)
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明神琴(沖田総司)
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明神弥彦
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緋村剣心
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心網列(太郎)
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