転生して型月版・沖田総司になったけど、労咳を克服したら明神弥彦の母になっていた件 〜るろ剣世界で最強のママやってます〜 作:だいたい大丈夫
三日後、私は神戸で人を殺していた。
五十人。
しかも、斎藤一がわたしたち(志々雄一派)を討つために選りすぐった精鋭だと聞いていたから、始める前はそれなりに期待していた。
実際、そこらの警官や兵隊よりはずっといい。
一太刀で倒れない。片腕を斬られても向かってくる。
仲間が目の前で血を噴いても、腰を抜かさず踏みとどまる。
けれど、どの人も最後は同じだった。
刃が届かないと悟った瞬間に目を見開き、息を詰め、間に合いもしない剣を戻そうとする。
その顔を眺めるのも最初のうちは楽しかったけれど、四十人も続けばさすがに飽きる。
「うわあああ!!!!」
泥を蹴散らして、三人が固まったまま斬りかかってきた。
声は勇ましいのに、剣先は少し震えている。
自分たちがあと何人残っているのか、もう数えたのだろう。
右の短剣をくるりと回し、先頭の刀を外へ弾く。その腕を左の刃で裂きながら身体を沈め、後ろから迫った二人目の膝を踵で払った。
折り重なる二人。その隙間から、三人目の切っ先が真っ直ぐ伸びてくる。
ようやく少しだけ、いいところを狙ってきた。
頬を傾けると、耳元を刃の風が抜けた。
あと指一本ぶん近ければ、髪くらいは持っていけたかもしれないのに。
残念。
そのまま懐へ潜り込み、脇腹へ短剣を滑り込ませた。肉を裂く感触を確かめてから刃を捻る。引き抜いた途端、熱い血が手の甲を濡らした。
男の口が何かを言おうと動いたけれど、声になるより先に身体が崩れる。
「やれやれ……神戸まで出張ってきたのに、ここまでの雑魚とはな……」
少し離れたところで、宇水さんの槍が唸った。
穂先を避けた男の側頭部へ、間を置かず鉄球がめり込む。首が嫌な向きへ折れ、泥の上へ転がった。
あちらも退屈しているらしい。見えない目で、よくもまあ、あれほど正確に急所ばかり潰せるものだ。
「まあまあ、良いじゃないですか。普通の警察や軍人と比べたら、遥かに骨がありますよ?」
私と目が合った一人が、露骨に視線を逸らした。
ああいう人は、追いかけたくなる。
「確かに……。だが、沖田の奴め。いささか理不尽ではないか?」
宇水さんのティンベーへ刀が叩きつけられた。
刃が盾の丸みに沿って滑ったところへ槍が伸び、男の胸を貫く。
筋が通っていないようで、あの人の中ではきっと綺麗に通っているのだろう。
私にはよく分からない。
「あはは、私も到着早々耳に挟みましたよ。『なんで勝手に行動して、さっさと奴らを潰してこないのよ!!』って……。命令違反で怒られるならまだしも、命令を守ったのに違反してないことで怒られても、こっちとしては困っちゃいますよね〜」
「気が利かんということか……。いち早く京都へ集合しろと言うからには、裏に何かあるのだろうが……」
話している間にも、残った者たちは私を囲もうと動いていた。
正面に三人。左に二人。背後に一人。
足運びは悪くない。互いの刃がぶつからず、一斉に私へ届く間隔も取れている。
四十人を使って、ようやく私の動き方を少し覚えたらしい。
その努力が無駄になる瞬間を想像すると、また少し楽しくなった。
正面の三人へ駆けた。
逃げるか、左右へ抜けると思っていたのだろう。
真ん中の男の肩が揺れ、三人の間に一瞬迷いが生まれる。
それで十分だ。
左右から刃が届くより早く地を蹴り、真ん中の男の肩へ片足を乗せる。ぎょっとした顔が真下にあった。
「♪〜。あっと、ホイット!!」
肩を踏み台に、囲みの外へ跳ぶ。
空中で左の短剣を逆手に持ち替えた。
着地と同時に振り向き、追ってきた一人の喉へ刃を走らせる。
鮮血が舞った。
喉を押さえて崩れ落ちる姿を見て、残る五人の足が止まる。
せっかく皆で考えたのに、もうおしまいらしい。
「しかし……あの破軍の二人のかわりに入ったと聞いていたが……。なかなかのものだな、円。女だてらに大した腕だ」
「どーも。あの沖田さんには遠く及びませんけどね……」
「あれはもはや、女の枠には収まらん怪物だ」
それには私も笑ってしまった。
沖田さんを同じ物差しに乗せたら、男も女も仲良く端から零れ落ちる。
私だって今はまだ、あの人が抜いた刃の前に立ってみたいとは思えない。
けれど、ずっとそうかは分からない。
そういう「分からない」があるから、十本刀に入ったのはなかなか正解だった。
始まってから、まだ十五分ほど。
五十人いたはずなのに、立っているのはもう十人だけになっていた。
少し急ぎすぎたかもしれない。
残りは一人ずつ、今度こそゆっくり――。
そう考えて二振りの短剣を回したとき、背中の皮膚が粟立った。
何かを見たわけでも、聞いたわけでもない。
ただ、死ぬ、と身体だけが先に悟った。
考えるより早く右腕を跳ね上げ、逆手に握った短剣を頭上へ突き上げる。
甲高い金属音が闇を裂いた。
刃と刃が噛み合い、手首から肩まで衝撃が突き抜ける。
ほんの少し反応が遅れていたら、首と胴は今ごろ別々になっていた。
一歩退き、息を吸う。
胸の奥で、心臓がうるさいほど跳ねていた。
怖かったからではない。
さっきまで眠りかけていたものが、いきなり全部起きたみたいだった。
「むう………完璧に延髄を捉えたと思ったのですが……」
すぐ後ろに立っていた女が、深追いもせず短刀を引いた。
いつからそこにいたのだろう。
足音も、息遣いも、殺気もなかった。刃が触れる寸前まで、本当に何も。
頬が勝手に緩んでいく。
「いやいや! すごい一撃でしたよ! 私じゃなきゃ今頃きれいさっぱり首が飛んでました。……あ、宇水さんなら今の奇襲、察知できましたか?」
「ああ。この女は音が少ないが、動けば空気の揺らぎで分かる」
「さすが」と口にしかけて、やめた。
次も宇水さんには分かって、私には分からないのだとしたら、そのほうが面白い。
もう一度狙ってくれたら、今度も受けられるだろうか。
試してほしい。
「皆さんはお下がりなさい。まだ、手当てをすれば助かる者もいるでしょう」
生き残った者たちはすぐには動かなかった。
背を向ければ斬られると思っているのだろう。
もちろん、ついさっきまではそのつもりだった。
でも、もうどちらでもいい。目の前にもっと面白い人がいるのに、わざわざ逃げる人を追い回す気にはなれなかった。
「あれれれ? 暗殺者が正面から正々堂々とお出ましですか? 私たち二人を相手に?」
「……心得がないわけではありませんの」
そう言って、着物の上着を鮮やかな手際で脱ぎ捨てた。
下に隠されていたのは、漆黒の忍び装束だった。袖も裾も身体へ沿い、どこにも刃の動きを邪魔するものがない。
姿を消して首を刎ねるだけではなく、姿を晒して斬り合うこともできるらしい。
さっきより、もっと欲しくなった。
「うわー!! 御庭番衆の連中とは違って、いかにも本格的な忍者って感じですね! 露出も高くないし、なんだか面白そう!」
「………あの連中がおかしいのです」
この人、そんな顔でそこは気にしていたのか。
死ぬ前に、もう少しくらい話してみたい。
でも話しているだけでは、さっきの一撃をもう一度見せてもらえない。
なら、仕方がない。
「じゃあ、遠慮なくあなたから殺してあげますよ!」
足裏から音を消し、呼吸を沈める。
情報で見た。藤田時尾。短刀は下がったまま。それでも切っ先は、こちらの喉へ真っ直ぐ通じているように見えた。
地を蹴ろうと重心を前へ移した、その瞬間。
横合いから突き出された刀が闇を貫いた。
先ほどとは正反対だった。
隠す気のない殺気が肌へ突き刺さり、空気そのものが細く鋭く絞られる。
狙われた宇水さんがティンベーを滑り込ませた。
突きの軌道を外へ逸らされた男は舌打ちとともに刀を引き、泥の上を滑るように間合いを取った。
「…………チッ!」
「あなた、少し殺気が漏れてましたわよ」
「お前より、それを抑えるのは難しい」
あなた、か。
それだけで、二人の距離が分かった気がした。
「……新選組三番隊組長、斎藤一……か」
宇水さんの声で、男の名を知る。
これが斎藤一。
着物の下の身体は細く見える。
なのに、宇水さんの盾を打った一突きは、そばで見ていた私の腕まで痺れそう。
夫婦なのに、まるで違う。
どちらもいい。
今のほうがずっと身体が軽い。
「なるほど……! あの強い旦那さんも一緒にいたから、これほど手強いわけですね! では……せっかくですし、二対二ということで……!! この十本刀、『災剣』の円と『盲剣』の宇水が、あなたたちのお相手をしましょう!!」
「勝手に名乗るな……。余計な情報を与えることになるだろうが」
「いいじゃないですか!! 全員ここで殺してしまえば、秘密も情報も残らないんですから!」
それでも宇水さんは不満らしく、ティンベーの陰で槍を引きながら口を閉ざしている。
何がいけなかったのだろう。
異名だけでは、たしかに少し不親切だったかもしれない。
「……あ、そうそう。私も本名は『廻円(まわり・まどか)』ですって、ちゃんと名乗ったほうがよかったですか?」
尋ねてみたけれど、返事はなかった。
聞こえないはずはないのに。
もう一度確認しようかと思ったところで、斎藤一が低く構えた。
その隣では、時尾さんの姿がまた闇へ溶けかけている。
どちらから殺そう。
選べるのが惜しくて、いっそ二人同時に来てほしいと思った。
願いが通じたらしい。
斎藤一の足が泥を弾く。同時に時尾さんが視界から消え、宇水さんの槍が風を裂いた。
今度は、簡単に終わってくれませんように。
笑いながら、三つの刃が交わる真ん中へ飛び込んだ。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
今回は円と宇水、そして斎藤・時尾の遭遇を描きました。
廻円のキャラクターや、最後の対戦カードについて感想をいただけると嬉しいです。
第ニ回キャラクター人気投票(コメントもぜひ感想欄に)
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明神琴(沖田総司)
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明神弥彦
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緋村剣心
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神谷薫
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相楽左之助
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河上彦斎(お彦)
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三条燕
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高荷恵
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四乃森蒼紫
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心網列(太郎)
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志々雄真実
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瀬田宗次郎
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武田観柳
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宇佐美新平
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水野和親
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巻町操
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斎藤一
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斎藤時尾