転生して型月版・沖田総司になったけど、労咳を克服したら明神弥彦の母になっていた件 〜るろ剣世界で最強のママやってます〜   作:だいたい大丈夫

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これは、平和に慣れた剣と、
戦場を知る剣の違いの物語。


斬馬刀、吼える

「お、お……沖田総司!?本物!?幕末最強の天才剣士の!?母さん、すっげー!!」

 

弥彦が目をキラキラと、それこそ夜空の星よりも眩しいくらいに輝かせて詰め寄ってくる。その鼻息の荒さは、興奮した闘牛もかくやというレベルだ。

 

「全然知らなかったぜ!なんで今まで黙ってたんだよ!すげえ、俺の母さんが歴史上の超有名人だったなんて!ヤクザの用心棒よりずっとすげえ!なあ、やってくれよ母さん!あの伝説の『三段突き』ってやつ!あの、一瞬で三本の剣筋が同時に見えるっていう、相手が絶対に避けられない幻の必殺技!!」

 

「え?ええ??」

 

愛する一人息子からのこれ以上ないほどの純粋な尊敬と称賛の眼差しを全身に浴びて、一気に頬が熱くなるのを感じる。

 

「いやだわ弥彦ったら、そんなに大声で褒められたって困っちゃうわよぉ。ただの事実なんだからぁ。えへへ、お母さんすごい?幕末最強の天才?顔もかわいくて剣も強い無敵のヒロイン?圧倒的な才能の塊?」

 

「ああ!最高だぜ母さん!だから見せてくれよ!その天才の技を!!」

 

「よーし!!」

 

私は単純な性格なので、おだてられればすぐに木に登る。

 

「可愛い息子の頼みとあらば、このお母さん、一肌脱ぐわよ!そんなに言うなら、まずは手始めにあの辺の壁を、木っ端微塵の粉々に破壊して……!」

 

「待ってください琴さん!!いや、沖田さん!!お願いですから待ってえええ!!」

 

顔面を真っ白、いや青ざめさせた薫ちゃんが、凄まじい勢いで私の右腕に飛びついてくる。

 

「壊すなら、どうかあっちの何もない空き地にしてちょうだい!うちの道場、大砲で壁を派手に抉られたばかりなのよ!これ以上壁を破壊されたら、手配してくれる大工さんの修理費が跳ね上がって、今月ウチが払う予定のみかじめ料と完全に相殺されちゃう!!いや、むしろ足が出るわ!!道場の財政が破綻する!!」

 

「おっと……そうね。つい、職業病が出ちゃったわ。ごめんね薫ちゃん、悪気はないのよ」

 

「職業病のスケールがおかしいわよ……」

 

「……というわけだから弥彦。三段突きはお家、つまり集英組の組事務所に帰ってから、我介の顔面を標的にしてたっぷり見せてあげるわ。今は……」

 

私の視線が、前庭の中央で静かに対峙している二人の男たちへと戻る。

 

「……左之助の『喧嘩』の結末を、しかと見届けなさい。あれは、ただのヤクザの小競り合いじゃない。男の過去とプライドを懸けた、本気の死合いよ」

 

「……おう」

 

弥彦も私の空気に当てられたのか、ゴクリと生唾を飲み込み、真剣な表情で前庭の中央へと視線を移す。

 

左之助が、私が極限まで研ぎ澄ませた巨大な斬馬刀の長い柄を、ギリッと音を立てて両手で握り直す。

 

その顔には、一切の迷いがない。ただ、目の前の強敵を打ち倒すという、純粋で不敵な笑みだけが浮かんでいる。

 

「ああ。……姐さんが何者だろうが、元新選組の化け物だろうが、今の俺には全く関係ねえ。俺の標的はあんた一人だ、抜刀斎」

 

「俺は、この『最強の維新志士』って呼ばれるあんたを、この手で心底ぶっ倒してみてえのよ!!!!」

 

左之助が、大きく息を吸い込む。

 

「改めて自己紹介だ。相楽左之助……またの名を、喧嘩屋斬左だ!!あんたの首、俺がもらうぜ!!」

 

ドォォォォォン!!

 

左之助が、巨大な斬馬刀を頭上に大きく振り上げ、独特の構えを取る。そのあまりの巨体の圧力と、斬馬刀の質量が空気を切り裂く音に、周囲の空気がビリビリと震える。

 

「……突き?あの大きな、まるで鉄の板みたいな刀で……突きの構え!?」

 

左之助は、腕を高く掲げ、頭上よりもさらに高い位置から、巨大な斬馬刀の剣先を真っ直ぐに緋村さんの胸元へ向けている。

 

本来、斬馬刀はその圧倒的な重さを利用して「叩き斬る」あるいは「薙ぎ払う」ための武器だ。突き技に使うなど、物理法則を無視した狂気の沙汰である。

 

しかし、その構えは、新選組が屋内戦や狭い路地で最も得意とし、敵の急所を的確に穿つ必殺の剣技「平突き」を、巨大な斬馬刀用に調整した、左之助独自の構えなのだ。

 

『左之助が集英組の裏庭で素振りをしている時に、私が「平突き」の体重移動のコツを教えちゃったのよね。あのバカでかい斬馬刀の重さを、踏み込みの爆発的な前進力に全変換する体重移動の極意。名付けて「斬馬刀・三段攻撃(仮)」教えたのは確かに私だけど、まさか本当に実戦で、しかも緋村さん相手に使うなんてね』

 

左之助の異常なまでに発達した腕の筋肉と、大地を掴む足元の踏み込みを見る。

 

『あんな規格外の怪力で、しかも私がうっかり極限まで研ぎすぎたあの斬馬刀で平突きを放ったら……一体どうなるかしら。当たれば緋村さんの上半身が丸ごと消し飛ぶし、外れても風圧で道場が半壊するかもしれないわね。……薫ちゃん、明日のお見積もり、覚悟しておいた方がいいわよ』

 

「行くぜ!! 抜刀斎ィィィ!!」

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

 

ドガァァン!!

 

音の発生源は、巨漢の左之助が踏み込んだ足元の地面だ。固く踏み固められたはずの砂利と土が、すり鉢状にえぐれて吹き飛んでいる。

 

その爆発的な踏み込みの反動を利用して、左之助の巨体が、その体格からは信じられない速度で、まさに大砲の弾丸のように前方に飛び出す。

 

そして、その勢いのまま、完全に常識外れの巨大な斬馬刀による『突き』を、緋村さんめがけて真っ直ぐに放つ。

 

「……!」

 

「風を斬る」なんていう生易しいものではない。空気を圧縮して叩き潰すような、暴力的な風圧を伴った巨大な刃が、緋村さんの顔面目掛けて一直線に迫る。

 

極限まで研ぎ澄ました刃先が、月明かりを反射してギラリと不吉な光を放つ。

 

当たれば間違いなく顔面が消し飛ぶ。頭蓋骨ごと粉砕されて、首から上がなくなる一撃だ。

 

しかし、そこは腐っても幕末最強の維新志士。

緋村さんはギリギリ紙一重のタイミングで、神速の反応を見せる。

 

スッ、と体重を右足に移動させ、真横に流れるようなステップを踏む。

巨大な斬馬刀の切っ先が、緋村さんの頬を掠めるようにして空を切った。

 

回避した。誰の目にもそう見えたはずだ。

 

「遅え!!!」

 

突きの勢いで前方へ伸び切ったはずの斬馬刀が、その恐るべき重量と、左之助の凄まじい遠心力に乗ったまま、強引に、本当に強引に右方向への『横薙ぎ』へと軌道を変える。

 

「おっと……!!」

 

緋村さんが、予想外の軌道変化に短い声を出して上体を大きく反らし、さらに後ろへと大きく飛び退く。

 

ブンッ!!

 

スパンッ! と、緋村さんの特徴的な赤い前髪が数本、刃の余波だけでハラリと斬り落とされ、宙を舞う。

 

(横薙ぎが抜けた。あんな巨大な武器を振り回せば、必ずその反動で隙ができる……! 今だ!)

 

緋村さんは、横薙ぎが通り過ぎた直後の、左之助の体勢が崩れるであろうほんの一瞬の隙を突き、一気に間合いを詰めようと前傾姿勢で鋭く踏み込む。

 

しかし。

 

「ちょっと待てよ」

 

「……『遅え』って言ったろ?」

 

左之助の両腕の筋肉が、限界を超えて異常なほどに隆起する。袖がはち切れそうだ。

 

彼は、横に振り抜かれたはずの巨大な斬馬刀の遠心力を、並外れた腕力と、私が稽古で叩き込んだ強靭な体幹の力だけで強引に殺し、そのまま刃を頭上へと持ち上げる。

 

そして、間髪入れずに、今度は上から下への『撃ち下ろし』へと、三度目の軌道変化、いや、切り返しを行ったのだ。

 

「どうりゃああああ!!!」

 

ドカーーーン!!!

 

雷でも落ちたかのような凄まじい轟音。

 

間一髪、咄嗟に飛び退いて回避した足元の地面が、斬馬刀の凄まじい破壊力によって深く、無残に斬り裂かれ、大量の土塊と砂利が上空へと巻き上がる。

 

土煙が、前庭を白く覆い隠す。

 

「……ケホッ、ゴホッ」

 

土煙の中から、左之助が姿を現す。

 

「どうだ、驚いたかよ抜刀斎。これが、そこの鬼畜な琴の姐さん直伝、俺オリジナルの『無明三段(むみょうさんだん)』だ。突き、横薙ぎ、そして撃ち下ろし。どんなに素早く躱しても、息つく暇もなく次が飛んでくる。……この三連撃に、死角はねえぜ」

 

左之助は、肩で息をしながらも、誇らしげに斬馬刀を肩に担ぐ。

 

「……なるほど」

 

もう一方の土煙の中から、緋村さんが少しだけ距離を取って、ふうっと静かに息を吐き出しながら姿を現す。

 

「あの非常識な重量の武器を、あそこまで自在に操り、連続で軌道を変えるとは。恐るべき腕力、そして強靭な体幹でござるな。少し驚いたでござるよ」

 

『ふふん!』

 

『理屈を完全に無視した、筋力バカの左之助にしか絶対にできない芸当だけど、見事にモノにしたわね! 天然理心流の「平突き」の体重移動のコツを、あんな風に連続技に昇華させるなんて、私の指導が的確すぎたってことね! お母さん、鼻が高いわ!』

 

私が一人で自画自賛していると。

 

「……ならば、今度はこちらから行くでござる!」

 

「真正面から!? 馬鹿かあんたは!」

 

「そんな細っこい刀で真正面から突っ込んできたら、俺の斬馬刀の餌食だぜ! 串刺しになっちまうぞ!!」

 

左之助が再び、大上段に斬馬刀を振りかぶり、迎撃のための強烈な『突き』を一直線に放つ。

狙いは、突進してくる緋村さんのど真ん中。

 

しかし、緋村さんは、その巨大な矛先が自らの体に触れるほんの数ミリ手前で、重力を完全に無視したかのように、軽やかに上方へと跳躍した。

 

「ほいっと!!!!」

 

左之助は、緋村さんが上に逃げることを読んでいたかのように、全く驚く素振りも見せない。

 

突きの勢いをそのまま利用して、手首を返し、下から上への『打ち上げ』へと瞬時に刃の軌道を変化させる。上空に逃げた緋村さんを、ハエ叩きのように叩き落とすための一撃だ。

 

「……ここだ」

 

しかし、緋村さんは空中で身を捻りながら、極めて冷静に呟く。

 

彼は、自らに向かって猛スピードでかち上げられてくる巨大な刃に対し、斜めに構えた逆刃刀の峰を、滑らせるようにピッタリと合わせる。

 

ギギギギギッ!! と、金属同士が激しく擦れ合う嫌な音が響く。

 

緋村さんは、斬馬刀の打ち上げの凄まじい勢いを、逆刃刀の峰で受け流して『いなし』、そのまま自身の体をさらに高く宙へと跳ね上げる。

そして、最高到達点から、上空からの落下エネルギーと、自らの体重の全てを刃に乗せて、真っ逆さまに打ち下ろす。

 

「飛天御剣流――龍槌閃(りゅうついせん)!!」

 

緋村さんの必殺の撃ち下ろしが、空気を切り裂きながら左之助の無防備な肩口へと一直線に迫る。

 

万事休すかと思われた、その瞬間。

 

「しゃらくせえ!!!!!」

 

なんと左之助は、緋村さんにいなされて上空へと空振った斬馬刀の勢いに逆らわず、むしろその強烈な遠心力に身を任せて、空中で自らの巨体を独楽のようにグルンッと反転させたのだ。

 

そして、回転の勢いをたっぷりと乗せた強烈な右足の『蹴り』を、空中で落下してくる緋村さんの腹部へ向かって、容赦なく叩き込んだのだ!

 

「ぐっ……!!」

 

緋村さんは空中で咄嗟に逆刃刀の柄で蹴りを受け止めたものの、左之助のその恐るべき脚力と衝撃を完全に殺しきれず、弾き飛ばされるようにして後方へ吹き飛び、ズザザザッ! と地面の砂利を滑るようにして着地した。

 

「へっ……」

 

左之助は着地し、ドヤ顔で鼻の頭を親指でこする。

 

「とっさに刀の柄で俺の蹴りを受け止めたか……。あの体勢から反応するなんて、やるねえ、抜刀斎。でも、今の蹴り、結構効いたんじゃないか?」

 

「さ、流石だぜ……左之助」

 

弥彦が手に汗握りながら、興奮した声で呟く。

 

「でかい口叩くだけのことはあるぜ、あいつ。あの剣心を、真正面から蹴り飛ばすなんて!すげえ戦いだな!」

 

「……でも、まだまだ甘いわね」

 

「甘いわ。左之助の動きも、緋村さんの対応も。両方とも、戦場じゃ三流よ」

 

「え?」

 

弥彦が不思議そうに私を見上げる。

 

「なんでだよ母さん!すげえ戦いじゃねえか!あのデカい刀であんな連続攻撃して、さらに空中で回転蹴りだぞ!?どこが甘いんだよ!」

 

「いい?よく聞きなさい弥彦」

 

「幕末の……『現役の人斬り』の頃の、緋村さんなら、さっきの龍槌閃、打ち下ろしなんかじゃなくて、刃を真下に向けた『龍槌閃・惨』で、左之助の脳天から、文字通り串刺しにしていたはずよ。あんな回転蹴りを放つ隙すら与えずにね」

 

「……」

 

「そもそも、最初の斬馬刀の突きの時点で、あんな風に横に躱したりしない。剣の横腹を滑らせるようにしてギリギリの間合いに潜り込み、回転技の『龍巻閃』で、一瞬にして左之助の首を刎ね飛ばしていたわ。……それくらい、あの男は速くて、躊躇いがなくて、容赦がなかったのよ」

 

緋村さんの背中を見つめる。

 

「今は『不殺』なんて甘い誓いを立てているから、相手を殺さないように手加減して、動きに鈍さが生じているのよ。だから左之助のあんな大振りの攻撃をもらっちゃうの。……まあ、平和な時代には合っているのかもしれないけどね」

 

「…………剣心って、本当はどこまで強えんだよ……」

 

そうよ。本当の緋村抜刀斎は、こんなもんじゃない。もっと恐ろしくて、美しくて、悲しい剣を振るう男だったのだから。

 

私の解説が聞こえたのか聞こえなかったのか。

 

緋村さんは、蹴りの衝撃を逃がした足元の土を軽く払い、ゆっくりと立ち上がった。

そして、ポンポンと袴についた土を払い落とす。

 

「……ふむ」

 

緋村さんは、逆刃刀を再び青眼に構え直し、静かに、本当に静かに、左之助を真っ直ぐに見据えた。

その瞳にの鋭い光が宿るのが、遠目からでもはっきりとわかった。

 

「……どうやら、あまり手加減をして、勝てる相手ではないでござるな。左之助、お主の腕力と気迫、見事でござる」

 

緋村さんの声は低く、地を這うように響く。

 

「少し、本気を出すでござる」

 

「……行くぞ」

 

緋村さんの姿が、一瞬にして掻き消える。

 

いよいよ、伝説の人斬りの、本当の戦いが始まる。




どちらが本気だと思いますか?
まだ序盤?それとも拮抗?

無明三段、ありですか?

第一回キャラクター人気投票(コメントもぜひ感想欄に)

  • 明神琴(沖田総司)
  • 河上彦斎(お彦)
  • 明神弥彦
  • 緋村剣心
  • 相楽左之助
  • 神谷薫
  • 高荷恵
  • 四乃森蒼紫
  • 志々雄真実
  • 瀬田宗次郎
  • 鵜堂刃衛
  • 宇佐美
  • 水野
  • 我介
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