転生して型月版・沖田総司になったけど、労咳を克服したら明神弥彦の母になっていた件 〜るろ剣世界で最強のママやってます〜   作:だいたい大丈夫

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十本刀『災剣』廻円と、藤田時尾の激突。
互いに傷を負わせながら、二人は少しずつ相手の本性を知っていく。
そして円は、必殺技を繰り出す。



災剣と殺戮の天使

「いっくよーーーー!!!!」

 

返事なんて待たず、二振りの短剣を引き絞って地を蹴った。

 

狙うのは黒い忍び装束の女――藤田時尾。

 

斎藤一にも興味はあったけれど、今はこっちだ。

私の首を落としかけた刃が、正面から斬り合ったらどこまで届くのか。

確かめるまでは、宇水さんにだって譲りたくない。

 

踏み込みざま、右の刃を喉へ走らせる。

 

時尾さんの短刀が下から跳ね上がった。

ぶつかる寸前に左を返し、脇腹へ滑り込ませる。防がれる。なら右。右を弾かれるより先に左を引き、空いた腹へ蹴りを放つ。

 

刃と刃が噛み合い、火花が顔の前で弾けた。

 

一本に対して二本。

 

一つを受ければ、もう一つが届く。一線を塞いでも、次の刃が別の角度から入る。二振りを選んだときから、ずっとそうやって殺してきた。

 

なのに、届かない。

 

右を受けた短刀が、そのまま私の手首を撫でた。左で肩口を狙えば、身を引くかわりに腕を差し出してくる。刃は確かに忍び装束を裂いた。それなのに、肉を断った感触が浅い。

 

硬いものを擦る音。

 

忍び装束の下に、鎖帷子まで着込んでいるらしい。

 

避けきれない刃だけを帷子に任せ、その一瞬に私を斬る。

 

気づいたときには、二の腕が裂けていた。

 

次は脇腹。

 

さらに太腿。

 

どれも深くはない。けれど、私が二度斬り込む間に一度は必ず返ってくる。しかも、その一度が、いつも私の意識から外れたところにある。

 

「あ……ははは………はははははは!!!」

 

楽しい。

楽しい、楽しい!

 

沖田さん以来だ。女を相手に、こんなに次の一手が待ち遠しくなるのは。

 

もっと見たい。どこまで受けられるのか。どこまで私を傷つけられるのか。何をすれば、その澄ました顔を崩せるのか。

 

右手の短剣を、頭上へ高く放り投げた。

 

つられて見上げたところを斬る。見なくても、落ちてくる刃に一瞬でも気を割けば、その隙へ潜り込む。

 

けれど、時尾さんの金色の目は、私の顔から少しも動かなかった。

 

ああ、乗ってくれないんだ。

嬉しい。

 

時尾さんの短刀が間合いを塞ごうと伸びた。その手首を残った短剣の腹で外へ払い、肩が触れそうなところまで一気に潜り込む。

 

ここなら、短刀一本よりも拳も肘も膝もある私のほうが多い。

 

顔へ拳を振る。避けた先へ短剣を返す。刃を止められれば肘を落とし、肘を外されれば足を踏みつける。

 

ガキ、ガキン、と短い金属音が続いた。

 

横から、空気を貫くような一撃が視界へ飛び込んでくる。

 

斎藤一の突き。

 

あれを受けてみたいという考えが一瞬だけ頭を過ぎったけれど、その切っ先は私へ届く前に宇水さんのティンベーへ噛みついた。

 

衝突した二人が、互いの間合いを奪い合っている。斎藤一の袖にも、宇水さんの肩にも血が滲んでいた。

 

そっちも楽しそう。

 

でも、よそ見をしている暇はない。

 

目の前を横切った短刀へ左手を添え、外へ流す。金色の目が私の刃を追った。

 

今。

 

短剣の手組みを捨て、全身で地面を押した。

 

時尾さんの顔が、急に近くなる。

 

額を鼻柱へ叩き込んだ。

顔の真ん中から血が溢れた。これでようやく、あの静かな顔を――。

 

「ふふふ…………やったわねぇ!!!!」

 

笑っていた。

 

壊れた鼻から血を流したまま、一歩も退かず、むしろ私の襟を引き寄せてくる。

 

え、と思ったときには、時尾さんの額が目の前にあった。

 

ドカッ、と顔の中心で何かが砕けた。

 

景色が白く弾け、足が二歩、勝手に後ろへ滑る。鼻から流れ込んだ血が唇を濡らした。

 

痛い。

すごく痛い。

 

それなのに、頬が緩む。

 

私が壊したのと同じところを、きっちり壊し返してくれた。

いいなあ、この人。

もっと滅茶苦茶にしてみたい。

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

 

距離を取ったところで、まず自分の身体を確かめた。

 

刀傷が五箇所。鼻骨は粉砕。

腕と太腿の傷だけ、焼けるような痛みが奥へ広がり始めている。

 

これは毒だ。

 

曲がった鼻を息を止めて元の位置へ押し戻す。

 

また骨が鳴った。涙で時尾さんの輪郭が滲んだけれど、瞬きを繰り返せばすぐに戻る。

 

血と一緒に毒を押し出す。完全には抜けないだろうけれど、身体が動く間だけ保てばいい。

 

帯を引き裂き、腕と太腿をきつく縛った。

 

布を使ったぶんだけ、もともと多くもなかった肌の覆いがさらに減る。

 

まあ、どうでもいい。

今さら恥ずかしがって時尾さんから目を離すほうが、よほどもったいない。

 

「時尾、大丈夫か?」

 

斎藤の声が飛んだ。

 

「問題ありません」

 

血に濡れた口元が、まだ笑っている。

なんだ。ただの同類か。

 

少し安心したところへ、宇水さんが槍を引きながら声を寄越した。

 

「なかなかボロボロじゃないか、円」

 

「宇水さんは? 血が出てますけど」

 

「かすり傷だ」

 

 

 

 

 

 

「かすり傷の俺とは違って、だいぶ殴られたようだが?」

 

斎藤の言葉に、時尾さんは鼻から落ちる血を指先で拭った。

 

「問題ありません。……ふふ……久しぶりに昂ぶってきましたよ……。こういう相手がいるから……人を殺すのが楽しくって楽しくって……自分が抑えられなくなってしまいますから……罪深いことです……ふふふふふ……」

 

金色の目が細くなる。

 

振り乱れた白い髪に血が飛び、黒い装束の上にも赤い染みがいくつも広がっていた。

控えめに言って、殺戮の天使みたいだった。

 

――いや、違う。

同類じゃない。

 

私は抵抗する相手を追い詰めて嬲り殺しにすると発情しちゃうだけだ。

 

この人はたぶん、「殺す」というところが、最初から純粋に好きなんだ。

 

うわ。

怖い! 可愛い!!

 

「いや〜。困った困った……!」

 

右手を軽く引く。

 

指に絡めた鋼糸が張り、さっき頭上へ投げた短剣が闇の中から回転しながら戻ってきた。柄の輪へ指を通し、二振りをもう一度構える。

 

「殺して穴だらけにしてあげたくなっちゃうなぁ……!」

 

「相手の女も同類のようだな。暗殺の時にはなかった殺気がダダ漏れだ」

 

宇水さんには、同じに聞こえるらしい。

全然違うのに。

 

でも、わざわざ説明している時間も惜しい。本人に直接、確かめてみたほうが早い。

 

「お姉さん!! 組み敷いて滅多刺しにしてよがらせて!! 気持ちよく絶頂させてあげるよ!!!!」

 

「あらあら……!!! じゃあ貴女も穴だらけにして、そこから内臓引きずり出して床の間に飾って差し上げます!!!!」

 

やっぱり可愛い。

たまらず、また正面から飛び込んだ。

 

「ふっ!!」

 

短い吐息。

口元から何かが光った。

 

顔を逸らすのと、頬へ鋭い痛みが走るのはほとんど同時だった。

 

「痛ぁい!! 頬っぺたに刺さった! 目に刺さるよりマシだけど!!」

 

含み針を息で押し出したのだろう。

本当に、身体のどこから何が出てくるのか分からない。

 

だったら全部、近くで見てみたい。

 

さらに踏み込み、鳩尾へ膝を突き上げた。

肉を押し潰す感触が腿へ返る。

 

「くはっ……!」

 

時尾さんの口から血が散った。

 

それでも笑っている。

怖い。可愛い。もっと。

 

右の短剣を首筋へ滑らせる。

あと少しで白い皮膚へ刃が沈む――その直前、手首を掴まれた。

 

細い指からは想像もつかない力だった。骨が軋み、刃が止まる。

 

同時に、腹へ冷たいものが潜り込んだ。

遅れて熱が弾ける。

短刀が深々と突き刺さっていた。

 

「……なっ!? 刃が捻れない……!? 筋肉……!?」

 

この瞬間を待っていた。

避ければ追われる。受ければ離される。だから、刺させるしかない。

 

腹の筋肉を締め上げ、食い込んだ刃を挟み込む。もう引けない。捻って内臓を抉ることもできない。

 

これなら逃げられない。

 

左の短剣を手放し、鋼糸へ預ける。空いた拳を、時尾さんの身体へ触れるほど近く添えた。

 

踵から膝、腰、背、肩、拳まで。全身で生んだ力を、逃がさず一点へ押し込む。

 

「そうよ!! 狙いはこの零距離!! 喰らいな!! 必殺の――『破神』!!!」

 

拳を振るうほどの距離さえない。

だからこそ、全部届く。

 

触れた一点から、寸勁と崩拳を重ねた力を解き放った。

轟音が弾ける。

 

「くぼおおおおはあああ!!!?」

 

時尾さんの身体が折れ、足が地面から浮いた。

 

もらった。

まともに入れば、肉も骨もまとめて貫いて終わる。残念だけれど、これで――。

 

破裂音が響いた。

 

「痛っあ~~い!!!」

 

肩を衝撃が貫き、拳の軸が横へずれた。

 

撃たれた。

火薬の匂いが鼻血の匂いへ混じる。

 

時尾さんの手には、いつ抜いたのかも分からない小さな短銃が握られていた。

 

『破神』を受ける、その瞬間に撃ったんだ。

 

銃弾で私の肩を跳ねさせ、撃った反動と自分の身体を捻る動きを重ねて、力の通り道から急所を外した。

 

生きている。

私の『破神』を、あの距離で受けたのに。

 

肩の穴から血が溢れているのも忘れて、笑ってしまった。

 

「…………楽しいね」

 

「……ええ」

 

時尾さんも立ち上がろうとしている。

まだやれる。

 

次はどうやって防ぐのだろう。

なら、もう一つの奥の手も見せたい。あの短銃をいつ抜いたのかも、今度こそ見逃したくない。

どちらが先に動けなくなるか、身体の端から一つずつ確かめていきたい。

 

「退くぞ、円」

 

聞き間違いかと思った。

こんなに楽しいのに?今からなのに?

 

ようやくお互いの手の内が少し分かって、これから奥の手まで使って、時尾さんと愛の殺し合いができるところなのに?

 

「まだやれます!!」

 

「任務は果たした」

 

そこで初めて、周りが静かになっていることに気づいた。

もう悲鳴も、足音も、刀を構える息遣いも聞こえない。

 

倒れた時尾さんの向こうにも、斎藤一の背後にも、地面を埋めるように人が転がっている。さっきまで残っていた者も、誰一人として起き上がらない。

 

五十人、全員。

 

時尾さんと遊んでいる間に、宇水さんが残りを片づけたらしい。

肩や脇腹に増えた傷は、斎藤を塞ぎながら、あの人たちまで相手にしていたからか。

 

宇水さん、凄い。

そして任務が終わったのなら、ここで死ぬまで遊ぶ理由はないらしい。

 

分かるけれど、納得したくない。

 

「わかりました……。仕方ないですね」

 

肩の穴へ指を差し入れ、肉に食い込んだ鉛弾を摘まみ出した。

熱い血が一気に溢れる。止血のつぼを押さえながら、立ち上がった時尾さんへ声を張った。

 

「時尾さん!! またやろうね!! 次は裸にしてあげるよ!!!」

 

「私は貞淑な妻なので、人前で肌を晒すのはごめん被ります。代わりに貴女をそうして差し上げます」

 

やっぱり、次があるらしい。

それなら今日は我慢してあげよう。

 

「楽しみ~! それでは、御免あそばせ!!」

 

名残惜しくて、何度も振り返りたくなる。

でも、次はきっと、今日よりもっと楽しい。

 

次こそどちらかが動かなくなるまで、時尾さんの中に隠してあるものを全部引きずり出してあげよう。




ここまで読んでくださりありがとうございます。
今回は円VS時尾を中心に描きました。
二人の戦闘や『破神』、そして互いの狂気について感想をいただけると嬉しいです。

実はリストラがある十本刀!!だれが落ちる?

  • 鎌足
  • 蝙也
  • 夷腕坊
  • 方治
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