転生して型月版・沖田総司になったけど、労咳を克服したら明神弥彦の母になっていた件 〜るろ剣世界で最強のママやってます〜 作:だいたい大丈夫
奥義伝授を願うはずが、薫は比古の実力を知るなり別のことを考え始める。
そして比古は、今の剣心たちが置かれている状況を知ることになる。
剣心のお師匠様かぁ。
どんな人なのかしら。
山奥へ入ってから、ずっとそればかり考えていた。
剣心に飛天御剣流を教えた人なのだから、やっぱり剣心に似ているのかもしれない。小柄で細身で、普段は穏やかだけれど、刀を抜いたら手がつけられない人。
……小さい剣心が二人並んで、「おろ?」と同時に首を傾げているところしか浮かばないわね。
それはちょっと可愛いけれど、師匠という感じがしないわ。
もっと年上で、白い髭を生やしたお爺さんかしら。山奥の庵に住んでいる剣の達人なのだから、杖をついて歩いているのに、いざ刀を持たせると目にも留まらない速さで――。
そこまで考えて、前を歩く剣心の背中を見た。
剣心がお彦に負けたあと、奥義を教わるために自分から訪ねようとした相手だ。
腕前だけは間違いない。剣心より強い可能性だってある。
剣心より強い人。
欲しいわ。
そんな人を京都の山奥で一人にしておくなんて、あまりにもったいないもの。
兵器工廠の門前に立ってもらえば、それだけで盗みに入ろうなんて考える人はいなくなるわね。実働部隊の稽古を任せれば、剣心の仕事も減らせる。警備主任と剣術指導役の兼任でもいいかしら。剣心の師匠なら、役職はもう一段上にしたほうが機嫌よく働いてくれるかもしれないわ。
まずは会って、好きなものを聞いて、それから――。
「薫、何を一人で怖い顔して考え込んでるんだ?」
弥彦が横から覗き込んできた。
失礼ね。怖い顔なんてしていないわ。優秀な人材をどう迎えるか、真剣に考えていただけよ。
「ああ、弥彦。その剣心のお師匠さんを、なんとか『神』の幹部に引き入れられないかなと思ってね」
「やめるでござるよ!? というか、二人ともなぜ拙者についてきているでござるか!?」
剣心が勢いよく振り返った。顔が真っ青になっている。
まだ何もしていないのに、どうしてそんな顔をするのかしら。
無理やり連れて帰るなんて一言も言っていないわ。
お仕事の内容を説明して、相応のお給金を提示して、本人に選んでもらうだけよ。
断られたら条件を上げて、もう一度よく考えてもらえばいい。
「水臭いぜ剣心!! 俺だって飛天御剣流の奥義とやらを会得して――ぐえっ!?」
襟首を掴み、こちらへ引き戻した。
やっぱりついてきて正解だったわね。危うく、うちの一番門下生を目の前で奪われるところだった。
「弥彦は、うちの神谷活心流を修める約束でしょ? 浮気は許しません」
「なんだと!! どの口が活人剣を語ってやがる……いてててててて!! 首が締まる!!」
聞き捨てならない言葉が続きそうだったので、掴んだ襟を捻り上げた。
「え?? あれ? 聞こえなーい!!」
「ふざけるなよなーーー!!」
ふざけてなんかいないわよ。
剣心の師匠を『神』へ迎えることと、弥彦が神谷活心流を裏切ることは全然違うもの。
師匠として、弟子が道を踏み外す前に止めるのは当然でしょう?
だいたい、奥義という言葉を聞いただけで目を輝かせるなんて早すぎるわ。
神谷活心流にだって奥義くらいある。まだ教えていないだけよ。
「やれやれ……騒々しい連中が来たものだな」
頭の上から低い声が降ってきた。
白い外套が、深い緑の間から現れた。
大きい。
思わず弥彦から手を離してしまった。
背が高いだけではない。肩も腕も、剣心とは比べものにならないほど太い。純白の外套まで身体を大きく見せていて、山道いっぱいを一人で歩いてくるように見えた。
嘘でしょう?
これが剣心のお師匠様なの?
同じ流派なのに、どうして剣心はあんなに小さく仕上がったのかしら。
「師匠……!」
「……お前か、バカ弟子」
本当に師匠だった。
しかも、剣心の顔を見るなりバカ弟子ときた。剣心がここまで露骨に頭の上がらない相手を見るのは初めてだわ。
これはますます欲しい。
この人が『神』の会議に座っていれば、観柳も雷十太さんも余計な口論をしなくなるんじゃないかしら。何も言わずに立っているだけでも効果がありそうだもの。
けれど、見た目だけで採用を決めるわけにはいかないわ。まずは長く働ける人なのか確かめないと。
「すいません。今、おいくつですか?」
「おろ?」
剣心が妙な声を出した。
何よ、その反応。年齢は大事でしょう?
見た目は若いけれど、剣心へ飛天御剣流を教えたのはずっと昔のはずだ。身体が丈夫なのは分かるとしても、あと何年ほど前線へ立てるのかは聞いておかなければならない。
白い外套の男――比古清十郎は、私をじっと見下ろした。
聞こえなかったのかしら。
もう一度尋ねようと口を開きかけたところで、ようやく答えが返ってきた。
「………四十三だ。お前は誰だ?」
四十三歳。若いわ。
あの身体なら、実働部隊でもまだまだ働ける。剣術指導なら、そのあともずっと任せられるじゃない。
嬉しくなって、声まで弾んだ。
「はい! 私、剣心の妻(予定)の薫と申します!」
言った。言ってしまった。
途端に頬が熱くなりそうになったけれど、ここで俯いたら駄目よ。これは剣心のお師匠様への正式なご挨拶なのだから。妻予定というのも嘘ではないわ。まだ剣心がはっきり頷いていないだけで、みんなだってそうなると思っているもの。
比古さんが片眉を上げた。
「…………ほう。お前……人斬りを辞めて、後妻を貰ったのか。その挨拶か? ………まあ、歓迎しよう」
歓迎。よかった。認めてもらえたわ。
剣心の師匠なら、父親に挨拶するようなものよね。思っていたよりずっと早く話が進んでしまったけれど、きちんと受け答えしなくちゃ。ここで「よろしくお願いします、お義父様」は馴れ馴れしいかしら。
「いいや師匠!! それは違くて……! まだ祝言も挙げておらんし、拙者はそんなつもりでは……!」
そこまで否定しなくてもいいじゃない。
妻ではなく妻予定と言ったのよ。まだ祝言を挙げていないことくらい、私だって分かっているわ。それなのに「そんなつもりでは」まで言う必要がある?
剣心の横顔を睨みたくなったけれど、今はお師匠様の前だ。私は『神』の首領で、神谷活心流の師範代。恋の一つや二つで取り乱してはいけない。
……あとで覚えていなさいよ、剣心。
弥彦が口を半開きにして、私と剣心を交互に見ていた。
何よ。
いつもの私なら、こんなことを口にしただけで恥ずかしくなるとでも思っているのかしら。
その通りだけれど、今は違うの。剣心の妻として認めてもらえるかもしれない大事な場面で、赤くなって倒れてなんかいられないわ。
「そこの娘はバカ弟子の後妻として……。お前は何者だ? 坊主」
「坊主じゃねえ!! 俺は東京府士族、明神弥彦! この薫のやっている道場……神谷活心流の一番門下生だ!!」
あら、集英組のことは言わないのね。
どうしてかしら。別に恥じることではないでしょう?
集英組の人たちは確かに言葉も顔も怖いけれど、困ったときには助けてくれる。なにより弥彦がいつか率いることになる大切な組織だ。私との関係だけを話して、そちらを隠すほうがおかしいわ。
「そして、関東最大級の極道『集英組』の跡取り息子よ」
弥彦の頬が引きつった。
「………ああ、そうだよ! そんでもって、そっちの薫は軍産複合体『神』の首領(ドン)さんだ!!」
言い返すように私の肩書きまで明かしてしまった。
もちろん構わないわ。どうせ、このあと私から話すつもりだったもの。
でも、どうしてそんな投げやりな言い方をするのよ。
『神』の首領であることは、もっと誇らしく紹介してくれてもいいんじゃないかしら。
比古さんの目が弥彦から私へ移り、それから剣心へ戻った。
さっきまでとは見方が違う。
剣心の頭から足元までを眺め、頬の十字傷でも確かめるように、また顔へ視線を戻す。
「……………お前、人斬りをやめてから、さらに業の深い外道への道に進んだのか?」
なんですって?
剣心は言い返さない。私たちの誰もいない木々の間を見つめたまま、口まで閉ざしてしまった。
どうして黙っているのよ。
違うでしょう?
外道なんかじゃないって、そう言えばいいじゃない。
人斬りをしていた頃の剣心を、私は知らない。けれど、今の剣心なら知っている。誰かが困っていれば放っておけなくて、頼まれてもいないのに危ないところへ飛び込んで、自分ばかり傷だらけになって帰ってくる人だ。
その剣心を、話も聞かずに外道扱いするなんて許せないわ。
「ひどいです!! 師匠さん、剣心はそんな道に堕ちてなどいません!!」
今度こそ剣心を庇って前へ出た。
比古さんの視線が私へ落ちる。近くで見上げると本当に大きい。腕を伸ばされただけで、頭を掴まれそうだわ。
それでも退く気はなかった。
剣心が自分で言わないなら、私が言う。
この人は何も知らないのよ。剣心がどれだけ役に立っているかも、みんなのためにどれだけ働いているかも。
「剣心は、絶対の正義の味方として働いているのです! 我が組織が誇る阿片の流通と、最新式機関砲の営業役として、非常に優秀な働きをしてくれているんですよ!!」
言い切ってから、剣心を見た。
ほら、違うなら今よ。
剣心は目を閉じ、なぜか顔を伏せてしまった。
どうしてよ。
阿片は、痛くて苦しんでいる人を楽にするためのものじゃない。
機関砲だって、相手がこちらへ逆らえないと分かれば撃たずに済む。剣心が人を斬る必要もなくなるのよ。
それのどこがいけないのかしら。
人を斬らずに話をまとめて帰ってくるたび、私はちゃんと剣心を褒めている。
剣心はいつも困った顔をするけれど、人を殺さずに済んだのだから、内心では安心しているはずだわ。
弥彦が額を押さえて、空を見上げた。
弥彦まで何なのよ。
私一人だけが、当たり前のことを言っているみたいじゃない。
「…………。死の商人すら裸足で逃げ出すほどの転身ぶりだな。お前のような男に飛天御剣流を教えたのは、俺の人生最大の過ちだったかもしれん」
どうして、そうなるの?
剣心は人を殺していない。それどころか、剣心がいるから誰も抵抗しなくなって、無駄な怪我まで減っているのよ。
死の商人と一緒にしないでほしいわ。私たちは死を売っているのではない。死ななくて済むように、逆らっても無駄だと先に教えてあげているだけだもの。
「師匠……! 俺は今日、その誤りを正すためにも、奥義を教わりたく参ったのでござる……!」
誤りを正す?何の誤りよ。
なぜか私まで否定されたような気がして、また胸がちくりとした。
でも、今はそんなことを気にしている場合ではないわね。
剣心はお彦に負けた。次も助かるとは限らない。志々雄と戦えば、もっとひどい傷を負うかもしれない。
嫌よ。剣心が死ぬなんて、絶対に嫌。
奥義を覚えれば勝てるのなら、何が何でも教えてもらわなくちゃ。
「……………これまでの話を聞いて、俺が教えると思うのか?」
「………………いいえ」
「なんでですか!? 意味がわかりません!」
思わず声が出た。
剣心まで、どうしてそんな素直に諦めるのよ。
この人に教えてもらうために、ここまで来たんでしょう?
お彦に負けて、今のままでは勝てないと分かったから、嫌で嫌で仕方がない師匠へ頭を下げに来たんでしょう?
それなのに、私たちの肩書きを聞いたくらいで断るなんて、そちらのほうが意味不明だわ。
「わからないのかよ、薫!!」
「うん! だって私たちは人を殺さずに支配する『正義』なのよ? 何も間違っていないじゃない!」
本当に、何がおかしいのか分からない。
殺してしまったら、その人は二度とやり直せないわ。生かしたまま逆らえなくして、二度と悪いことをしないよう見ていてあげるほうが優しいでしょう?
こちらに勝てないと分かれば、戦おうとも思わなくなる。戦わなければ、剣心も斬らなくて済む。私も誰かが傷つくところを見なくて済む。
何も悪くないわ。誰も死なない。
それが一番じゃない。
比古さんは、私の目をじっと見ていた。
そんなに見つめても、嘘なんて出てこないわよ。
私は本当に正しいと思っているもの。
やがて肩が下がり、長い息が聞こえた。
「…………お嬢さん。俺が言うのも何だが……。お前、『世のため人のため』という言葉の……本当の意味を知っているか?」
もちろん知っているわ。
知っているから、ここまでやってきたのよ。
それなのに、どうしてこの人は、こんなに疲れた顔で私を見ているのかしら。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
今回は比古清十郎との初対面と、薫の「正義」について描きました。
比古から見た神谷陣営や、薫の考え方について感想をいただけると嬉しいです。
実はリストラがある十本刀!!だれが落ちる?
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鎌足
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蝙也
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夷腕坊
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方治