転生して型月版・沖田総司になったけど、労咳を克服したら明神弥彦の母になっていた件 〜るろ剣世界で最強のママやってます〜   作:だいたい大丈夫

95 / 100
張から十本刀の情報を聞き出すお彦たち。
しかし、その証言から浮かび上がってきたのは、原作とは大きく姿を変えた現在の十本刀だった。
そして、まだ知られていなかった新たな強敵の存在が明らかになる。


知らない十本刀

「あいつ、本当に志々雄を裏切る気なのか?」

 

「それが生き残る条件だもの。少なくとも、今はね」

 

もちろん、今日から忠実な味方になるとは思っていない。涙と鼻水を垂らして命乞いした直後に、澄んだ目で忠誠を誓われても、こちらだってどんな顔をすればよいのか困るわ。

 

ただ、張の忠義は信用できなくても、あの臆病さなら信用できる。

逃げれば時尾さんたちに捕まり、志々雄さんのもとへ戻れば裏切り者として斬られる。

前へ進んでも怖い女、後ろへ戻っても怖い男。私なら、その場へ座り込んで朝まで泣くところね。

 

幸い、張にはこちらで働く道を残してある。命が惜しい間くらいは、きちんと役に立ってもらいましょう。もし妙な気を起こしたら、また時尾さんと二人きりにしてあげればよいのだし。

 

「それにしても、まだ一刻も経っていないぞ……」

 

水野。長く苦しんだ男ほど正直になるなら、尋問役なんていらないわ。

懐中時計に張を見張らせておけば済むもの。

知りたいのはさっきと今で答えが変わるかどうかよ。

せっかく時を測るのが好きなのだから、張の話が膨らむまでの早さも一緒に測ってもらいましょう。

 

「今すぐ何もかも信じてよいのか? 生き残るためなら、嘘を混ぜるかもしれないぞ」

 

ええ、混ぜるでしょうね。

だから斎藤さんに、同じところを何度でも聞いてもらうのよ。

自分の腕前を語る時には話が膨らみ、怖い相手の名が出れば急に縮む。きれいな自白など待つより、その伸び縮みを見た方が早いわ。

嘘をつくなら、せめて見破りやすい嘘にしてちょうだいね。

 

「ふん。時尾に責められて口を割らない男がいるとも思えんが、それにしても早すぎるな。まだ奴の人の形は残っているのか?」

 

「失礼ね。手足も指も、最初と同じ数だけ残っているわよ」

 

「時尾さんの場合は、解体が前提の尋問なのね……」

 

操ちゃん、本人が聞いているわよ。時尾さんは否定しなかったけれど、肯定したとも限らない。あとで二人きりになって確かめる勇気があるなら、私も止めはしないわ。

 

「筆頭は尋問があまり得意ではないからな。加里がいれば、男の罪人など瞬く間に口を割ったものだが」

 

「どうして? そんなに恐ろしい拷問をするの?」

 

「見たことはないが、加里の鞭で打たれると、男どもは皆、恍惚の表情を浮かべて喜んで何でも喋り出すらしい」

 

それは拷問ではなく、ご褒美を餌にした取り引きではないのかしら。

苦痛を嫌がる相手へ苦痛を与えるより、欲しがるものを見せて喋らせる方が後始末は楽そうだけれど、男の罪人にしか使えないのが惜しいわね。

 

「その、加里ってのは美人なのか?」

 

そこなのね。

 

「朝比奈加里か。そうだな。前髪で両目が隠れてはいるが、かなりの別嬪だ」

 

「それはな、太郎。男の哀しい性というやつなんだよ」

 

「はあ……? よく分からんが……」

 

列、分からないままでいなさい。その方があなたにも周りにも安全よ。

牢の中から、張がまた男を呼んだ。放っておけば喉まで傷めそうね。

 

その鞭が本当にそれほど効くのかは気になるけれど、今は張の証言の方が先だ。せっかく自分から話すと言ったのだから、気が変わる前に志々雄さんの秘密を買い取らなくちゃ。

 

「はいはい、そのくらいにして。せっかく話す気になったのだから、冷めないうちに聞きましょうか」

 

「ほら。男の人だけがよいそうよ。早く入ってあげなさい」

 

最初に張が呼んだのは左之助なのだから、先頭は決まっている。

 

本人には不服そうな顔をされたけれど、私たちを化け物を見るように眺めていた分くらいは、張の泣きつく相手を務めてもらいましょう。

 

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

男たちの顔を見た張は、柱へ縛られたまま身を乗り出した。

 

縄が胸へ食い込むのも構わず、左之助たちへ少しでも近づこうとしている。涙と鼻水で顔はぐしゃぐしゃ、せっかく巻き直した脇腹の包帯まで身体をよじったせいで少しずれていた。

 

「た、頼む!! 頼むから、話を聞くんは男の人だけにしてくれええええええええっ!!」

 

失礼ね。あんなに丁寧に手当てをしてあげたのに。

 

左之助は、すぐには何も言わなかった。張の姿が想像より無事だったのか、それとも無事なまま泣き崩れている方が怖かったのか。どちらでもよいわ。ここで余計な同情を挟まず、張に喋らせてくれるなら役目は果たしている。

 

話を聞くのは男だけ。女は黙っている。張の願いは、これで十分に叶えているでしょ。

 

女を外へ出せとは言われていないし、質問するなとも言われていない。取り引きの条件は、勝手に広げてあげないこと。あとから聞いていないと言われても、聞かなかった方が悪いわ。

 

男なら誰でもよいと泣きついたくせに、斎藤さんが問い手になると、張の勢いは急に鈍った。

 

「まあいい。まずは十本刀についてだ」

 

「つい先日、神戸の地で、警察と軍から選りすぐった精鋭五十名が壊滅させられた。俺と時尾も手傷を負っている。『盲剣』の宇水、そして『災剣』の円。この二人が十本刀の中でどの位置にいるのか、話してもらおうか」

 

斎藤さんと時尾さんまで加えて止められなかった二人。

原作にいない円も厄介だけれど、宇水まで私の知っている強さではなくなっている。

 

五十という数だけで済ませてはいけない。一人で十人を倒せる者を五十人集めても、二人を止められなかったということだ。

普通の兵を何百人足しても、同じ死体の山が高くなるだけでしょうね。

 

私が知っている原作は、もう先の出来事を教えてくれる筋書きではないようね。

 

名前と技を照らし合わせるための古い帳面くらいに考えた方がよいわ。

宇水という名前が同じでも、現在の実力まで同じとは限らない。

円に至っては帳面に名前さえない。

 

「はへえ……。あんたら、宇水さんと円ちゃんを相手にして生き残ったんかいな……」

 

少なくとも、宇水と円の強さを大きく見せるための法螺ではなさそうね。

斎藤さんと時尾さんが二人と戦って生き残った事実に驚いている。張がどこまで戦いを見ていたのかは、あとで確かめる必要があるけれど。

 

災剣の円は、神戸の一件を聞いてから、ずっと気になっていた名前だ。

私の知る原作に、そんな十本刀はいない。

 

私やお義母さんがこの時代にいるのだから、原作と違う出来事が起きるのは当然よ。

とはいえ、こちらが動かした覚えのない場所から、知らない強者が現れるのは気味が悪い。

 

こちらだけが原作の外から人を増やし、力を得ているのなら話は簡単だった。

相手の陣営にも同じことが起きているなら、志々雄側にも埋め合わせが生まれていることになる。そんな律儀な均衡など、誰にも頼んでいないわ。

 

「まずは宇水さんや」

 

「元は幕府に雇われとった、公儀隠密の凄腕剣客でな。ある時、志々雄様と立ち合うて、あっという間に両目を斬られた。光を失うてからは志々雄様への復讐だけを糧に修行を重ね、剣術究極の型っちゅう『心眼』を開いたんや。今では二番手を争うとる化け物やで」

 

「二番手だと? 一番手じゃねえのかよ」

 

確かに二番手という言い方なら、その上がいる。こちらが宇水一人の対処を考えている間にも、張の基準ではさらに強い者が残っているのよね。

 

「一番上は『閃剣』、沖田の姐さんに決まっとるやろが」

 

「……ああ。なら仕方ねえな」

 

左之助の納得が早い。

 

「せやけど、宇水さんを甘う見たらあかんで。沖田の姐さん直々に、地獄のしばき合いを叩き込まれとる。何度斬られても、血が止まったらまた立たされる鍛錬や。今じゃ、あの宗次郎にすら引けを取らん」

 

「宗次郎って、東京で会った瀬田宗次郎のことか!」

 

宗次郎の名なら左之助にも通じた。

 

「なんや、鳥頭は宗次郎を知っとるんか。いつでもへらへら笑うとる小僧なら、間違いなくそいつや」

 

原作の宇水も十本刀の上位だった。けれど、斎藤さん一人に敗れている。

今では宗次郎と競るところまで来ている。

 

斎藤さんと時尾さんを相手に生き残り、円と二人で五十人を屠ったという話とも噛み合う。

 

困るわね。原作の勝敗を頼りに人を当てれば、こちらが死にかねない。

 

宇水の心眼は、耳で相手の呼吸や筋肉の動きを拾う技だったはずだ。

 

宗次郎の速さに追いつけるというなら、聞いてから反応するだけでは足りない。

 

お義母さんとの鍛錬で、相手が動き出す前の呼吸まで読むようになったのかもしれない。斎藤さんの牙突を知っているというだけでも面倒なのに、本人まで強くなっているなんて、対戦相手を考える側の身にもなってほしいわ。

 

「宗次郎も二番手候補なの?」

 

黙っている約束は、質問をしない約束ではない。

張は私の声を聞いただけで言葉を詰まらせたけれど、それも今は使わせてもらう。

 

「そ、そや。宇水さん、宗次郎、それから円ちゃん。三人とも実力は伯仲しとる。誰が勝ってもおかしゅうない」

 

「ふふふ……そうですか」

 

時尾さんが笑うと、張の肩が縄の中で跳ねた。

 

「円ちゃんは、元々、素手で戦うどこぞの流派の道場主の娘やったらしい。強すぎたせいで跡継ぎから追い出されそうになったところを、門弟全員返り討ちや。駆けつけた警察隊まで一人で壊滅させて、裏へ潜ったっちゅう筋金入りでな」

 

「ほんま、女っちゅうのは恐ろしい生き物やで! 十本刀にも女が三人もおるんやぞ! やってられるかっちゅうねん!」

 

女全体への恨み言にまで話が広がった。

でも、肝心なのはそこではない。張は今、十本刀の女を三人と数えた。

愚痴に付き合う値打ちは、それだけで十分にあるわ。

 

「あら。女を侮らないでほしいわね。我ら時守も、十二人のうち五人が女よ」

 

そこは勝たなくてもよいところだと思うけれど。

ただ原作との食い違いを聞き返さずに確かめられた。

 

「うちの神も、女の方が腕の立つ化け物揃いだしな……」

 

水野、その言い方だと自分のところの女まで化け物扱いよ。

 

「そ、それに円ちゃんは、十本刀へ入る時も、当時の十本刀やった『破軍』の二人を素手で叩き殺して、その座を奪い取っとるんや」

 

瀬田宗次郎。魚沼宇水。悠久山安慈。佐渡島方治。本条鎌足。沢下条張。夷腕坊。刈羽蝙也。そこへ破軍の才槌と不二を加えて十人。

 

破軍の二人が円に殺されたなら、空席は二つ。円とお義母さんが入れば、十本刀はまた十人になる。

 

それでは女は円とお義母さんの二人だけだ。鎌足は女形であって、男なのだから数には入らない。けれど張は、女が三人いると言った。

 

誰かがもう一人消え、その席へ原作にいなかった女が座っている。

十本刀という名前だけを律儀に守って、中身はまた変わってしまったらしい。

 

消えたのが誰か分かれば、新しく入った女の役目も絞れる。十本刀は強い者を十人並べただけの集まりではない。方治は頭、安慈は砕く力、蝙也は空からの攻撃。

原作どおりの役割まで残っているなら、三人目の女は欠けた穴を埋める能力を持っているはずだ。

 

 

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

 

「では、次の質問よ」

 

「あんたより弱い十本刀は誰?」

 

全員の名を聞けば、張も何を探られているか警戒する。

でも、自分より弱い者を聞かれれば、黙ってはいられないでしょうね。

剣客へ謙虚さを期待するより、見栄を利用する方が確実だもの。

 

ほら、食いついた。誰が強いかでは言葉を選んでいた男が、自分より下を語る段になると、止める間もなく胸を張る。

 

「はっ! そんなもん決まっとるがな。この張様が十本刀最強の――」

 

燕ちゃんの短銃から、撃鉄の乾いた音がした。

さっきまで膨らんでいた張の見栄が、それだけで萎む。

私が一人ずつ名を聞くより、よほど早いわ。

 

「ひぃぃっ!? わいより弱いんは、方治と夷腕坊や! 大鎌を振り回す鎌足っちゅう奴は、まあわいと互角! 安慈は正面からやり合うたらわいより上や! あと、もう一人の女は……正直、なんとも言えんのや!」

 

残るのは、蝙也の席ね。

 

蝙也の役目は、地上の敵が届かない場所から攻めることだった。

弓なら空を飛ばなくても同じことができる。

むしろ、本人が空へ姿を晒さずに済むぶん、入れ替わった相手の方が厄介かもしれない。

 

「おや。情報の出し惜しみですか?」

 

「指を三本、根元から切り落とす形でいかがでしょう」

 

「ちゃう!!! ちゃうんや!!! あの女は弓使いやさかい、正面から刀を交えるような奴やないんや!!!!」

 

「へえ、弓使いか。我が時守の櫂と、どちらが上か競わせてみたいものね」

 

「櫂とまともに張り合える弓使いが、この世にそう何人もいるとは思えんが」

 

「そういう次元の話やないんや!」

 

張が怖がっているのは、弓使いの強さではないわね。その強さを説明できず、時尾さんに出し惜しみと受け取られることの方が、今は差し迫っているわ。

 

「あいつは理屈が通らんのや! 分厚い土壁や岩陰の向こうへ隠れとる奴が、なぜか普通に見えとる! どこへ逃げても、矢が先に待っとるんやぞ!」

 

「ああん? それは宇水とかいう奴の『心眼』と同じ類のもんじゃねえのか?」

 

宇水の心眼と同じなら、こちらにも既に斎藤さんが持ち帰った情報がある。

 

「ちゃうんや!! 宇水さんはほんまに目が見えへんから、耳で聞いとる! せやけど、あの女は目が見えるくせに、いつでも両目を閉じたまま笑っとるんや!!」

 

「櫂も、物陰にいる敵なら曲射で頭上から射抜けますが……」

 

「俺なら、銃弾を壁に跳ねさせて背後から撃ち抜くだけだな」

 

「あんさんらも大概におかしいがな……!! そうやない。あの女は、自分へ撃たれた銃弾を、正面から放った矢で真っ二つに撃ち落とすんやぞ!!!」

 

待ちなさい。矢は銃弾より遅い。撃たれてから迎え撃つのではなく、引き金が落ちる前に弾道を読んでいる。しかも壁の向こうにいる相手の銃口と指まで。

 

蝙也なら、空へ出てきたところを狙えばよかった。今度の女は姿を見せる必要さえない。燕ちゃんの得意な不意撃ちまで、先に狙われる側へ回ってしまう。

 

目を閉じているという話も気になる。見えているものを見ないために閉じているのか、最初から目など使っていないのか。

 

宇水のように音を拾うなら、銃声が鳴る前の弾道までは分からない。

地面の震え、空気の動き、人の気配――どれであっても、壁を挟んだ狙撃手の指先まで読むには足りないわね。

 

遮蔽物が役に立たないなら、距離を詰めるまで誰かが狙われ続ける。煙で視界を奪う方法も、本人が目を閉じているなら望みは薄い。

 

同時に別方向から撃つか、矢を放つより先に射程の外から面で潰すか。

戦闘へ入る前に聞けたのは助かるわ。聞いたから対処できるとは、まだ言えないけれど。

 

「へえ……」

 

燕ちゃんは、弥彦ちゃんに射撃を褒められた時と同じ顔で笑っていた。

 

やめなさい。その顔を、人を殺す相談にまで使うのは。あとで弥彦ちゃんから、燕ちゃんは何をそんなに喜んでいたのかと聞かれても、私には答えられないわよ。

 

「では、立候補します」

 

「私、その弓使いの女の相手にしてください。正面から撃っても矢で落とすのでしょう? でしたら、落とせなくなるまで撃ちます。最後はちゃんと脳天を撃ち抜いて殺しますので」

 

止めるべきなのは、張ではなく燕ちゃんの方かもしれない。

 

「いいわね。うちの櫂も向かわせるわ」

 

「壁越しに見つける者と、見えないところへ射る者。二人で仲良く射殺してきてね」

 

「はい。ふふふふふ」

 

うちの側室候補が今日も元気いっぱいで何よりだわ。

 

弥彦ちゃんには、絶対にこの場を見せられないけれど。

 

 

 

 

◇◇

 

 

 

 

斎藤さんの煙草が、ちょうど吸い終わる長さになっていた。

 

「雑魚の品定めはここまでだ」

 

今の話が雑魚の品定めなら、本番など聞きたくないのだけれど。

 

「これからが本番だぞ、張。志々雄真実が企む『京都破壊計画』の全容について、包み隠さず話してもらおうか」

 

面倒ね。ようやく拷問をせずに済んだと思ったのに、本当に聞くべきものはここかららしい。

 

「……それを聞いたら、あんたら……ほんまに後戻りできんようになるで……」




ここまで読んでくださりありがとうございます。
今回は張から現在の十本刀について聞き出す情報収集回でした。
強化された宇水や円、そして新たな弓使いについて感想をいただけると嬉しいです。

実はリストラがある十本刀!!だれが落ちる?

  • 鎌足
  • 蝙也
  • 夷腕坊
  • 方治
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。