転生して型月版・沖田総司になったけど、労咳を克服したら明神弥彦の母になっていた件 〜るろ剣世界で最強のママやってます〜 作:だいたい大丈夫
志々雄一派、警察、神谷艦隊、そして時守。
それぞれの思惑を抱えたまま、決戦の夜が近づいていた。
十本刀が集結した夜、私は由美さんと一緒に志々雄くんの私室へ呼ばれた。
決行の刻を早めるのか、私の受け持ちを変えるのか。
それとも、皆の前では言いにくい頼みでもあるのかしら。
志々雄くんの正面へ座りながら襟を直しておいた。頼みの内容によっては、すぐ脱ぐことになるものね。
「沖田、由美。戦いが始まる前に、一つ言っておく」
「なに? 決戦前の景気づけに、昂ぶった志々雄くんが由美さんを壊れるまで抱き潰したいとか?」
「どうして、いきなりそうなるのよ!」
違うなら、ほかに何があるのかしら。
「円ちゃんと霙ちゃんも呼んで、私たち四人をまとめて相手にしたいの? 志々雄くんも案外、精が強いのね」
「私は絶対に嫌よ!」
「では、鎌足ちゃんの純情に応える気になったとか? あの子が受け身になるなら、私も横で教えてあげるわよ」
「あなたの頭には、破廉恥なことしか入っていないわけ!?」
失礼ね。明後日の戦いのことも入っているわよ。
破廉恥なことに比べれば、場所が狭いだけで。
志々雄くんは口を挟まず、煙管の灰を落とした。
二口目の煙が天井へ昇りきるまで待っても、私と由美さんのどちらにも手を伸ばさない。これは本当に色事ではないらしい。
「俺は、この戦いが終わるまで女を断つ。余計な欲を捨て、感覚を限界まで研ぎ澄ませるためにな」
格好いいわ。志々雄くんが言うと、女を抱かないという話まで天下を取る男の覚悟に聞こえる。
「だから、お前たちも男を断て」
「ちょっと待って。志々雄くんが女を断つことと、私たちが男を断つことは関係ないでしょう? むしろ空いた時間で、ほかの男を――」
「駄目だ」
では、男でなければよいのね。
霙ちゃんの部屋は、ここから廊下を三つ曲がった先だった。
私が頼めば、先ほど断ったことなど忘れて朝まで――。
「沖田。女も駄目だ」
「まだ何も言っていないじゃない!」
「顔に出ている。男も女も、お前が思いつく相手は全部だ。自分で慰めることも許さん。戦いが終わるまで、そういう行いは一切断て」
「いやあああああああっ!」
死ねと言われた方が、まだ戦って覆せる。これは敵を斬っても終わらない。
志々雄くん本人が命令を解くまで、逃げ道が一つもないじゃない。
「横暴よ! 明後日死ぬかもしれない女から、最後の楽しみまで奪うなんて!」
由美さんも畳へ両手をついて抗議した。そうよ、もっと言いなさい。元花魁の意地を見せるのよ。
「死なねえために命じてんだ。今夜は寝ろ。決戦まで余計なことを考えず働け」
「そんなの、あんまりよ。志々雄くんの人でなし! 殺生! 拷問! せめて口づけだけでも――」
志々雄くんに襟首を掴まれ、由美さんと一緒に廊下へ放り出された。
戸は内側から閉まり、錠まで掛かった。
「本当に守るつもりなの?」
由美さんは閉じた戸を睨みながら、乱れた襟を直していた。
「志々雄くんの命令だもの。破るくらいなら、相手を斬って証拠を消すわ」
「それは守ったことにならないでしょう!」
では、どうしろというのよ。戦いまで、まだ二晩もある。
◇◇
翌朝から、私は地下本拠地の廊下を歩き続けた。
端まで行っては戻り、同じ柱を曲がってまた戻る。部屋へ入れば寝床が目に入り、座れば身体の方が余計なことを思い出す。歩いている間だけは、足を前へ出すことに気を取られていられた。
八十七往復目で、見張りの兵が囁く声を拾った。
「沖田様は、先刻から何をしておられるのだ」
「馬鹿者、声を落とせ。明日の戦いを前に、我々の気が緩まぬよう自ら見回ってくださっているのだ。あの目を見ろ。油断すれば、首を刎ねられるぞ」
半分は合っている。私に近寄れば、首を刎ねる前に寝床へ引きずり込むかもしれない。志々雄くんの命令を破るくらいなら、先に斬ってしまった方が安全ね。
「ねえ、お母さん」
宗次郎が、私の進む先へ顔を出した。
いま男の顔を近くで見せるんじゃないわよ。
私が睨むと、宗次郎は笑顔のまま来た道を戻っていった。用件を聞く余裕はない。
声を掛けられただけで、全身の血が急に熱くなる。
刀の柄を握っていなければ、代わりに何を掴むか分からない。
宗次郎と入れ替わるように、武器を運んでいた兵たちが壁際へ寄った。
私が前を通るまで息まで止めている。そこまで怯えられると、こちらも期待に応えたくなるじゃない。
三人まとめて部屋へ連れ込みたいのを我慢しているのだから、せめて一人くらい首を差し出してくれてもよいのに。
この眼光を、皆は決戦へ向けた殺気だと思っている。訂正する必要はないわね。
性欲で目が血走っていると知られるより、人斬りとして恐れられる方が格好はつくもの。
「ああ、さっぱりした!」
廊下の向こうから円ちゃんが現れた。髪は汗で額に張りつき、乱れた襟を直す様子もない。
何をしてきたの、この女。
「円ちゃん。いままで、どこにいたの?」
「沖田さん。明日が初陣だって震えている若い兵がいたから、景気づけに筆下ろしをしてあげたの。泣いて喜んでくれたわ」
指が刀の鍔を押し上げた。
私がこれほど飢えている時に、自分だけ若い男を美味しくいただいてきたのね。
しかも汗までかいて。よかったわね。とてもよかったわね。
「でも、腹に子が宿ったら困るのよね。明日の戦いで殴られたら、潰れちゃうかもしれないし」
「円ちゃん」
「なあに?」
「中をきれいにして、お湯で洗ってきなさい。それから、これを飲むの」
懐から避妊薬を出して渡した。こんなこともあろうかと持ち歩いていてよかった。女の嗜みは、命より先に自分で守らなくてはならない。
「苦くない?」
「噛まずに飲めば大丈夫よ。いますぐ行きなさい」
「はあい」
円ちゃんは避妊薬を掲げ、元来た方へ戻っていった。
足取りまで軽い。
私は昨夜から廊下を何百往復もしているのに、世の中は不公平ね。
次に会った時まで腹が立っていたら、尻へ打ち込んでやろうかしら。
私が睨んでいたのは円ちゃんではない。その身体に残っている、名も知らない若い兵の気配よ。
探し出して斬ってやりたい。いいえ、斬る前に押し倒したい。駄目だわ。
それでは志々雄くんとの約束を破る。ならば剣心くんを叩き伏せたあと、薫ちゃんの目の前で床へ組み敷いて――それも明日の夜まで待たなければならない。
左之助でもいい。宗次郎でも――宗次郎は駄目ね。
早く夜になりなさい。早く戦わせなさい。身体を持て余すくらいなら、誰かの血を浴びていた方がましよ。
◇◇
決行当日、私はしゃがみこんで、抜かずに済んでいる刀の柄を握っていた。
もう足を上げる気にもならない。
頭の中へ浮かぶものを端から斬り捨てていたら、何も考えないところまで来てしまった。
「凄まじいな。感覚を研ぎ澄ませ過ぎてはおられぬか。一人だけ、すでに血煙の中へ立っている目をしている」
離れた場所で安慈が声を潜めた。
「うむ。私との立ち合いでも、あれほど己を追い込んではいなかった。あれこそ、幕末の京を震え上がらせた新選組一番隊組長の姿か」
宇水まで何を感心しているのよ。
違うわ。
いま話しかけられたら、相手が男でも女でも志々雄くんとの約束を守れる自信がないから黙っているだけよ。
「今夜の勝ちは決まったな」
宇水が断言し、安慈も深く頷いた。
「この気迫が味方にあるのは心強い。敵にとっては、修羅の怒りそのものでありましょう」
そのとおりよ。
勝たなければ禁欲が終わらない。今夜に限っては、神仏だって私を止められないわ。
◇◇
同日夕刻、京都 警視庁詰所
「動かせる五千名の配置は、これで目処が立ったな」
斎藤は最後の札を盤上へ置き、火の消えかけた煙草を灰皿へ押しつけた。
「ええ。捕らえた志々雄一派の手先によれば、決行は今夜です。神谷艦隊へは電信を送り、時守にも密使を走らせました。警官隊は大通りへ固めず、袋小路と木造家屋の密集地へ分けています。各隊には、水桶と鳶口を持たせた消防組を付けました」
時尾が受け持ちごとの名簿を斎藤へ渡した。
「橋はどうした」
「鴨川に架かる橋は、東西に一隊ずつ置きます。避難する人々を河原へ導き、流れに逆らって市中へ入る者は止めます」
「火付けの道具を持って抵抗した者は、その場で斬って構わん。捕縛を優先して、町を焼かれたら本末転倒だ」
「各隊へ伝えてあります」
「その捕虜はどうした」
「主の御許へ送られました。口の重い強情な方でしたので、手足を解体して差し上げたら、魂が軽くなって天へ昇られましたよ。喜ばしいことです」
「相変わらず手際がいいな」
「それにしても、あなた。今夜は総司も敵側にいるのでしょう」
「池田屋の前の晩を思い出すぜ。あの時も近藤さんと土方さんが、総司へ厳しく男断ちを命じていた」
「よく従いましたね」
「従ってはいなかった。屯所を抜け出そうとして三度捕まり、朝まで柱へ縛られていたからな。禁断症状で発狂しかけたまま池田屋へ突入し、浪士どもを片端から斬り伏せた。あの夜の総司には、俺も近づきたくなかった」
「今度は、志々雄が同じ命令を出しているかもしれませんね」
「あり得るな」
斎藤は新しい煙草へ火を点けた。
「今夜、あいつと当たる奴には同情するぜ」
時尾は返事をせず、斎藤の前へ刀を置いた。斎藤は煙草を咥えたまま鞘を取り、腰へ差した。
詰所の外では、五千名の警官隊が受け持ちごとに整列していた。
◇◇
大阪湾には霧が垂れ込め、沖に並んだ軍艦の輪郭を灰色に溶かしていた。
各艦は灯火を覆い、汽笛も鳴らさず、旗艦から送られる信号を待っている。
三条燕は艦橋の測距儀から顔を上げた。
「標的艦まで八千。風は南南西から。右へ零点二度、砲身を下げてください」
砲塔の歯車が回り、主砲の角度が変わった。砲手が閉鎖器を締めたのを確かめ、燕は右手を上げた。
「撃て」
砲声が霧を押し退けた。艦体が反動を受け、甲板に固定された器具が揺れる。
砲弾は海面すれすれを飛び、遠方の廃船へ突き刺さった。船腹から木片と水柱が上がり、遅れて衝撃音が届いた。
「着弾を確認。全艦、同じ諸元へ合わせろ。第二射、用意」
宇佐美の命令が伝声管と信号旗で各艦へ渡った。沖に並ぶ砲塔が同じ角度へ動き、砲口が霧の一点を向く。
「続けて、撃て」
重なった砲声が海面を震わせた。廃船の左右へ立った水柱が霧を裂き、その間で船体が二つに割れた。折れた帆柱が水へ倒れ、残骸は白波の中へ沈んだ。
燕は測距儀へ戻り、海面に残った着弾点を確かめた。
「全弾、標定内。着弾誤差は零点二度です」
「十分だ。敵が湾口へ出る前に、各艦を配置へ就かせるぞ」
宇佐美が艦長へ信号を命じると、艦橋の奥から武田観柳が現れた。
「大阪湾の封鎖については、東京の山縣閣下と川村閣下から許しを得ています。海賊船討伐の演習という名目で、今夜の商船と漁船は別の航路へ回しました。港の役人にも、湾内で見たことは口外しないよう言い含めてあります」
「多額の献金を積んだのですか」
「国を守るための心付けですよ。金額を口にすると、聞いた方まで悪人になってしまいます」
観柳は書状を開き、政府の印を二人へ見せた。
「漁を止められた者には、三日分の水揚げに上乗せして金を渡しました。新聞屋には演習の記事を明朝まで差し止めさせています。今夜、大阪湾で何が起きても、夜明けまでは私たち以外に騒ぐ者はいません」
「煉獄を止めたあとの手筈も、変わりありません。沈められるなら沈めず、航行と砲撃だけを奪う。投降した兵は捕らえ、船は曳航して神谷の造船所へ入れます。政府へは、敵艦は沈没したと報告する」
「船名も外装も変え、我々の兵装へ加える。例の計画ですね」
燕が書状を閉じ、観柳へ返した。
「ええ。甲鉄艦一隻を海へ捨てるなど、銭を燃やすより罪深い。使える物も人も、残さず拾っていただきます」
「捕らえた兵は、船の構造と積み荷を聞き出してから選別します。こちらへ付く者には働き口を与え、志々雄への忠義を捨てない者は政府へ引き渡す。それでよろしいですね」
「結構です。牢へ入れるだけの者に、飯を食わせる趣味はありません」
宇佐美は海図を畳み、艦橋の窓へ向き直った。
「ただ勝って沈めるだけじゃ、芸がねえからな」
旗艦の信号旗が上がった。霧の中で各艦の機関が唸り、艦列は湾口へ向けて動き始めた。
◇◇
古料理屋『根元』
芹は軍刀の鯉口を切り、刃を一尺だけ抜いた。
「今夜、私たちも動く。ただし、火に浮かれて本来の任務を忘れないように」
「志々雄の首と、邪魔者どもの排除だな」
「そうよ。どちらが勝つかは関係ない。時の流れを乱す者は、消す」
「承知した。仕込みは終えている」
黒鉄が両手を開くと、指の間に張られた細線が油皿の火を切り分けた。
「部瀬は東。黒鉄は西から入りなさい。私は中央へ出る。警官隊が志々雄一派とぶつかるまで、こちらから姿を見せてはいけないわ」
「混乱が始まってから、両方を狩るわけか」
「火を消す者と火を放つ者が、互いだけを見ている間にね。時守の名を残す必要もない。見た者がいれば、その者も消しなさい」
芹は刃を鞘へ納め、地下道へ続く扉を開いた。
「行くわよ」
「全ては、時のために」
声が揃い、黒装束の列が地下道へ入った。最後の一人が通り過ぎると、黒鉄が鋼線を引き、扉を内側から閉じた。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
今回は決戦直前の各陣営と、極限まで研ぎ澄まされた(?)琴を描きました。
開戦前夜の雰囲気や、それぞれの準備について感想をいただけると嬉しいです。
実はリストラがある十本刀!!だれが落ちる?
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鎌足
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蝙也
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夷腕坊
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方治