一人自信なさげに、少女は立たずんでいた。
目に大粒の涙をためて。
少女の名前は幸。今年五歳になる子だ。
「どうしたの?」
気が付くと目の前に一人の男の子がいた。
幸は泣きながら、
「もらった風船が木に引っかかってしまったの。ママはお仕事でいないからとってもらうことができないの。」
と説明した。それを聞いた男の子は、
「じゃあ、ぼくがとってあげるよ」。
と言って木に登っていったかと思うと、手に風船をにぎっておりてきた。
「はい、どうぞ」
「ありがとう。私、幸。あなたの名前は?」
幸は聞いてみた。
「ぼくは、雪だよ。よろしくね。」
幸は、自分のことを大切に思ってくれる人がいるのだということを実感でき、うれしくなって、
「ねえ雪、私はもう帰らないといけないけれど明日も会える?」
「もちろん」
雪はこたえた。その返事を聞いて幸は笑顔で
「じゃあ、明日の十時にここでね。」
といってスキップで帰っていった。
それからは毎日のように幸と雪は遊ぶようになった。毎朝十時に合い十一時に別れ、十三時から十七時まで遊ぶその繰り返し。幸はよくしゃべる子で色々なことを雪に話した。父が自分勝手で逆らうと何されるかわかったものではない。ということから、母は家にいることができない位のブラック企業に勤めていて、父にやめるなといわれている。など家庭崩壊していること。けれど雪とあってから毎日が楽しいということまで話していた。
ところがある日、幸がいつも通り約束の場所へ行くと、雪はまだ来ていなかった。
十分後、こんなに雪が遅れるのは今までにない。家に戻ろうか迷っていると、遠くからどこかの使用人らしい人が走ってきた。
「幸様でございますね。雪おぼっちゃまからの使いです。本日、急に奥様の様態が悪化してしまい危険な状況でして、本日会えないそうです。」
たしか雪が前、母上は体が弱くてねたきりなんだ、って言っていたような気がする。幸は「わかった。雪のママ早くよくなるといいね。雪に会えなくて残念。と伝えておいてね。」
と雪の家の使用人に伝え、家に帰った。
けれど一時間位たつとまた外に出てきた。
父親に「出ていけ。お前の顔なんか見たくない。」と怒鳴られたからだ。幸は最初の方は泣いていたが気を取り直して散歩に行った。初めて雪と会ったところまで行くと、また風船を配っていた。幸は風船をもらってどこに行こうかとふり向くと雪がいた。今にも川に飛び込もうとしている。走った。走り続けた。雪を止めるために。
「雪、雪、雪」
いくら呼んでも返事は返ってこない。魂が抜けているみたいだ。目に大粒の涙をためて。 今十一月の冷たい川の底に広がる別の世界に飛び込もうとしている。