その後のことはあまり覚えていない。確か雪の家の人が沢山来て、どうにかなったんだよね。まだ耳の奥でパトカーや大人の人の声が、さわいでいる。あのまま私は気を失ってしまってママが急いで迎えに来てくれたんだ。きっとパパに怒られたよね。何もできなかったし、迷惑をかけてしまって申し訳ないな。などと思っていると「ギィ」とドアが開いた。ママが
「幸、無事でよかった。私が行ったときには気を失っていたからとっても心配したけれど、よかったわ。そうそう雪君は今朝、早々に引越していったわよ。雪君のお母様が他界してしまったらしく、雪君だけおばあ様のところへ行くんですって。」
と説明してくれた。よく見るとママのあちこちにあざがある。きっとパパに殴られたのだろう。それはさておき雪、引っ越してしまったんだ。もう会えないんだ。ちゃんとバイバイもできていないし。たしかおばあちゃんは、北海道という遠いところに住んでいるんだっけ。ここは、香川県なんだって。あの時雪があんな状態だったのはお母さんが死んじゃったからなんだろう。悲しいな。何回か見たことあるけど美人で優しそうな人だったな。天国から雪のことを見守っていてね。ママが
「ご飯食べよっか。」
と言うまでお腹がすいていることも気がつかなかった。
階段のところまで行くと、『ドカドカ」と足音が聞こえてきた。怒鳴られる。
「おい、お前なんであんなことをしたんだ。何もできないくせに迷惑をかけるな。」
パパだ。私は思わず、
「だって…」
といってしまった。しまったと思って口をふさいだが手遅れだった。
「だって?口ごたえするな。」
『ドン』強い衝撃を受けた。気づくと落下していた。階段から蹴り飛ばされて、落ちてしまったようだ。
「幸!」
ママの声が遠く聞こえる。『ドスッ』。鈍い音と共に背中に猛烈な痛みが走った。あぁ、また殴られる。ママが
「なんてことするの。」
「文句あんのか。」
「文句しか無いわよ。あなたが働かないから私はずっと働いて、なのに、あなたはそのお金をギャンブルにつぎ込んで、借金作ってきて‥」
「お前…誰のおかげで就職できたと思っているんだ。」
などと、討論をくりかえしていた。突然、ママが驚くような発言をした。
「もうあなたとは終わりです。離婚します。」
といい奥から、何やらごそごそと紙をとり出し、ペンと共に手渡した。その紙はあと名前だけ記入すればよい離婚届であった。
「サインしてちょうだい。」
ママが言った。パパは、
「サインくらい、いくらでもしてやる。」
と言い、乱暴にペンと紙を受けとり、名前を記入した。私はただそのやりとりを『ぼけー』としながら、見ていることしかできなかった。ママが離婚届とペンを持って降りてきた。パパは「ドカドカ」と自分の部屋に入っていった。ママは、
「貴重品だけ持って外に出るわよ。」
と言ってバッグに物をつめはじめた。背中はいたかったけれど今しかチャンスはないと思い言われた通りにした。荷物を持って下へ降りると、ママはもう準備を終えて待っていた。ママがこれからどうするのかを簡単に教えてくれた。まず市役所に行って離婚届を出して電車と飛行機に乗っておばあちゃんの家に行く。そして、落ち着くまでそこで生活をするといっていた。
一時間後。無事、離婚届を市役所に提出して電車に乗りこめた。✕✕空港で飛行機に乗って△△空港まで行っておばあちゃんの家に行くんだって。あと数分で✕✕空港につく。もうパパ(元)に殴られることもないんだ。もうあの家に帰ることもないんだ。そう思うと涙が込み上げてきた。すぐに溢れ出して泣いてしまった。
気づくとおばあちゃんの家で寝ていた。きっと泣き寝入りしてしまったのだろう。『ガラガラ』と扉が開いてママが入ってきた。
「もうすぐお夕飯だよ。食べられそう?。」
とママが私に聞いたので、
「うん。いっぱい食べられるよ。もうお腹ペコペコ。」
と答えた。ママはそれを聞くと少しおどろき
「そんな風に言うのって雪君と会った日ぐらいだったわね。まあ、よかったわ。」
といった。
「雪君って誰?私そんな子と会ったことあったの?」
私がきょとんとしていると、ママは
「まさか、雪君忘れちゃったの?」
とあわてはじめた。