「ショックが強かったんでしょうね。暫くしたら、思い出すかもしれないし。まずご飯食べましょう。」
おばあちゃんの家で食べるご飯はおいしかった。おじいちゃんは、死んじゃっておばあちゃんは一人暮らしだったから幸が来てくれて本当に嬉しい、といってくれた。
六歳になって小学校に入学した。学校は遠かったけれど、沢山の友達ができて毎日楽しかった。
そうして一年、また一年と幸せな日々を過ごした。
そして十年後、私は高校生になった。おばあちゃんが勉強を見てくれたおかげで、トップ校に入学することができた。仲の良い友達もできた。おこづかいは中学校までだったので、バイトも頑張ってお金を稼いだ。
ある日、いつものようにバイトをしていると集団で男女が買い物に来た。同じクラスの子たちだ。会計をしていると、一人の男が私の名札を見て驚いた顔をした。けれど、私はそこまで気にとめなかった。たしか、近藤 雪っていう人だったと思う。
家に帰ったら急に雪の行動が気になったのでお母さんに聞いてみた。
「お母さん、うちのクラスの近藤 雪って子知ってる?」
お母さんは驚いたかと思うと
「やっと雪君のことを思い出し始めたの?あなたは、五歳のときに雪君と沢山遊んでいたのよ。途中でお母様が他界してしまってこちらへ引っ越していらして、あなたはショックが強くて忘れてしまっていたわ。でも思い出してきてよかった。」
と話してくれた。すっと風が吹くように、記憶が断片的に頭に浮かんできた。一人の男の子が風船を渡してくれている。この子は誰なんだろう。
数日後、私が、一人図書室に残ってテスト勉強をしていると近藤君が入ってきた。近藤君は私に気がつくと、嬉しそうに小走りで近づいてきた。
「幸だよね?」
急に自分の名前を呼ばれて驚いた。
「はい。夢野 幸です。どうかしましたか?」
と返事をしてしまった。
「別の名字だったことは?」
更に質問された。
「あります。」
「どんな?」
「白石です。」
と答えた。すると、
「やっぱり幸じゃん。俺のこと覚えている?雪だよ」
「いえ…母から少し聞いた程度ですが…昔、遊んで頂いてたようですね。」
「覚えていないのか〜昔はね、雪ちゃんって呼んでくれていて可愛かったな〜今は苗字の上に敬語。距離置かれて寂しいな」
と勝手に話し始めてしまった。早く次の問題を解きたいのに…
すっ。まただ。風が吹くように記憶が戻ってきた。小さな男の子に同じくらいの女の子がいる。
きっと、昔の私だろう。男の子に対して、「パパがね…」と話している。男の子は頷きながら話を聞いていた。
ここは何処なのだろう?