さて、アビドス編が始まりますが……
ここで一つ、注意点というか留意しておいてほしいことがあります。
というのも普通の作品だったら主人公枠のキャラって全面的にアビドスを助ける方向で動くんですが……
彼はその普通には当てはまりません。
そのことを念頭に置いていただけたら楽しめるかと思います。
というわけで、本編をどうぞ
1-1.砂塵の舞う地
……最近の依頼で骨をやってしまって以降、しばらくまともに稼げていない。
金自体はそれなりに蓄えちゃあいるが、保険だとか保証だとかがない俺にとってはたとえ100万程度の金があってもあっという間に消し飛ぶ泡銭。
マトモな病院にかかれない以上、俺が怪我すると腕は確かな闇医者に頼むしかないのだが……いかんせん金をたっぷりと持っていかれる。
おかげで直近の依頼で稼いだ金が全部消し飛んでしまった。
……まぁ、ライフルで撃たれておいてその程度で済んでる以上は文句を言えない。
貫通はまぁコートとハットのおかげで防げるが、鉛玉がぶち当たった衝撃ばかりはどうにもできん。
数日ぶりにいつもの役所に訪れると、今日はやけに静かな様子だった。
というかあまり人がいない。
受付の連中以外、同業者とかが全く居ないんだが……
「実は、つい昨日起きたカイテンジャーの捕縛任務で皆さんダウンしてしまいまして………」
「またアイツらか……その様子だと逃げられたか?」
「はい……。
矯正局への移送中に脱走されてしまい、懲りずに兵器を作ろうとそこら中で暴れているみたいです」
「兵器っていうと……あのデカいロボットか」
俺は受付の奴との会話のなかで、とある犯罪者集団とそいつらの作った兵器のことを頭に思い浮かべていた。
キヴォトスでも指折りの犯罪者集団「カイテンジャー」
名前や構成員の格好は寿司をモチーフにした、いわゆる特撮戦隊のヒーローなのだが……その実態は真逆。
強盗から窃盗、空き巣に器物破損とやりたい放題で犯罪を起こす連中だ。
特に奴らは金と資材を多く集めており、それらを用いて特撮のお約束みたいな存在……
人型のスーパーロボット、アイツらの場合は「KAITEN FX MK.0」とかいうハリボテ兵器を製造することに費やしている。
まぁバカでかい上にそれなりにしぶとくはあるんだが、装甲が予算の都合なのか軽装甲……というか多分文字通りの紙装甲故に、そこらの一般傭兵たちでも準備して挑めば余裕で勝てる相手だ。
が、流石に何の対策もなくライフルやらサブマシンガンやらのみで挑んだところで歯が立つかといえばそうでもないために、恐らく緊急で行かせたかして相当苦戦させてしまったらしい。
「……まぁ見かけたらとりあえずシバいておく。
捕まえたところでなんだかんだ逃げられそうだがな」
「そうなんですよねぇ……はぁ………」
頭の痛そうな様子で机に伏し、受付はうめき声をあげていた。
俺も何回かアイツらとは戦った………というより一方的に喧嘩を売られたのだが、その度にしばき倒しては縛り上げて吊るし上げている。
ただアイツら自身も相当しぶといために、今まで一度も矯正局に送られたことが無い。
おかげで役所でもかなり頭を悩ましてるらしいが………
まぁ俺には関係ない話なのでそれは置いておくとしよう。
「……で、あのエセ戦隊以外で仕事はあるのか?」
「あっ、それでしたら指名が入ってましたよ」
俺の質問に受付はそう答え、見覚えのある封筒をこちらに差し出してきた。
「……またシャーレか。
これで今月何回目の依頼だ?」
「えーっと………今月だけで四回目ですね。
流石に今回はデリバリーではないと思うのですが………」
連邦捜査部S.C.H.A.L.E
あの先生とかいうやつがトップを張っている………まぁ連邦生徒会の小間使いみたいな立ち位置の組織だ。
活動内容は一応生徒たちへの支援及びキヴォトスの問題解決とはなっているものの、これまでの依頼で何度もデリバリー代わりに使われた際に聞いた話だと連邦生徒会の奴らの書類を代行で捌いてやることぐらいしかやることがないらしい。
因みにデリバリーについては専門の業者を呼べとは言ったのだが………
どうにも頼んだ業者があまりにも酷かったらしく、以来信頼性の面で俺に頼るようになったのだそうだ。
………そういえばキヴォトスのデリバリーチェーンだが、最近質の低下を嘆く声が得意先の護衛対象であった飲食店から聞こえてたのを今更ながら思い出した。
中にはバイクを使って速達を命にしている連中もいるのだが、商品の無事が保証されてない故に酷い状態で運ばれてくることがあったらしい。
実際にその写真を見たが、どんな運び方したらそうなるかもわからないほどにぐちゃぐちゃになっていたピザ等、あまりにも悲惨であった。
連中は速さばかり気にしているようだが、アレではバイクもロクな扱いを受けてないだろうなとしか感じられん。
いつか見かけたらシバいてやろうか。
まぁそれはさておき、そんなこんなで俺はしょっちゅう昼メシを買いに行かされていたのだが………
どうやら、今回は別の物をデリバリーさせられるらしい。
「………輸送任務か。
対象は支援物資として弾薬と一部生理用品、標準規格のドローン用のスペアパーツに保存食ってところか」
「また珍しいタイプの依頼ですね。
普通なら宅配とかでも充分そうですが………配達先が宅配の難しい辺境とかですかね?」
「かもな。
配達先は……………………あぁ、なるほどな」
書類に書かれた輸送物資の目録に目を通しつつ、一番下に記された輸送先を確認した。
瞬間、俺は奴がわざわざこの仕事をこっちに振ってきたのかを察した。
「……アビドス高等学校、か」
「アビドス?そういえば……サンドクローさんは元々はあの辺で活動していらっしゃったとお聞きしますが……?」
「まぁ……そうだな。
つっても当時は俺もまだ未熟な頃だったが……」
そう受付に答えつつ、俺は右の目蓋へと手を這わせる。
あそこは俺にとっては始まりの地であるとともに、色々と因縁の深い場所でもある。
今でもたまに足を運ぶが……その目的はただ一つだけ。
「……そういうことなら引き受けるとしよう。
一応聞いとくが、依頼にあるこの品は?」
「こちらの方で預かってます。
よろしければすぐにでもご用意いたしましょうか?」
「……2時間後にまた来る。
それまでに用意を頼む」
「かしこまりました。では、お気をつけて……」
ひとまず、俺もそれなりに準備が必要だろう。
輸送を考えるならリアカー辺りでも用意して引っ張っていくんだが……
それに加えて、いくらか武装と弾薬を揃えたほうがいいだろう。
「……そうか」
右目蓋の傷に触れながら、俺は言葉を漏らした。
奴らとはそれなりに長い付き合いだが……
アイツらに手を差し伸べる奴が本当にいるなんてな。
「……アンタの理想論も、あながち捨てたもんじゃなかったな」
気づけば脳に浮かぶ、かつてのアビドス生の一人にそんな言葉をかけていた。
理想論なんぞカス程に役に立たないと思っていたが……そんな妄想に手を貸すバカが居たせいだろうか?
「変わっちまったな……ここは」
何も変わらないのは己だけか。
進んだレールからは、もう戻ることはできない。
俺にできることは、ただ愚直に自分の道を進むだけだった
いかがでしたか?
周りの環境が変われども、変わらないものとは往々にしてあるものです。
彼の場合のソレは……
というわけで、また次の話をお楽しみに