さて、今回のお話では彼が遂にガッツリとメインシナリオの展開に巻き込まれます。
ここまではほとんど遠回しにかほんの一幕ぐらいでしか関わっていませんでしたが……
本番はここからです。
ついでにプロローグのすぐ後ぐらいの頃についても少しだけ触れます。
よくよく考えれば、何故あれから傭兵に至れたのか……
それが全て語られるのは果たしていつになることやら。
というわけで本編をどうぞ
「はぁぁぁぁ………」
「くふふ、アルちゃん?そんなにため息吐いてたら幸運が逃げちゃうよ?」
「今の私に逃げられるだけの幸運が残ってたならこんなことにはなってないのよぉ〜………」
柴関ラーメンのカウンター席に座る四人のゲヘナ生。
サンドクローと別れた後に依頼を受けに行ったはいいものの、達成した途端に依頼主が雲隠れして依頼料が支払われずに困窮していた便利屋68である。
ここ最近の裏社会ではこういった雲隠れが時折起きており、一人の例外を除いて被害にあった傭兵や下請けの雇われ達はよく泣きを見せられてしまう事態となっていた。
なおその例外は雲隠れした元依頼人を一人残らず追い詰めた挙句、ブラックマーケット付近にある鉄橋に身ぐるみ全部剥ぎ取って吊るし上げたりとかをしているため、少なくとも彼に対してそれをやらかす馬鹿は今はほぼいないだろう。
「うぅ……まさか証拠を一切残さず逃げられるなんて……
サンドクローに聞かれたら笑いものにされるわ……」
「ははは!あの坊主はそんなことで笑いもんにはしないさ!」
頭を抱えてそんな弱音を漏らすアルに対し、厨房で注文の柴関ラーメンを作っていた店主「柴大将」は軽く笑いながら彼女にそう言葉をかけていた。
「……あれ?もしかして大将、サンドクロー君と知り合い?」
「あぁ!たまにだがここまで食べに来てくれてるぜ?
ほら、そこに坊主のサインがあるだろ?」
柴大将が指差した方向を見ると、そこにはアルたちが前見た物よりも遥かに立派な書体で描かれた彼のサイン色紙が飾られていた。
「いやぁ、まさかあの時の生き倒れてた子供がこんなになるなんてなぁ〜。
時が経つのは早いもんだ!」
「……まって、行き倒れ?
あのサンドクローが行き倒れてたの?」
何気なく口にした大将の言葉に反応したのはカヨコであり、普段からは想像できない思わずと言わんばかりの勢いで大将へと聞き返していた。
「ん?あぁ、まぁな?
まだ坊主がアビドスに来たばかりの頃にオレの屋台の近くで倒れてたんだ。
聞けば碌に飯を食べることもできずに彷徨ってたって話でな?
とりあえず金は出世払いってことで腹一杯にラーメンを食べさせてやったんだよ!」
「……あ、あの人にも……そんな時期があったんですね?
初めて……知りました」
ハルカが意外そうに言葉を返す中、カヨコだけはその言葉の違和感に気がついていた。
(どういうこと……?
サンドクローはアビドス出身って話だったけど……
来たばかり、ってことは元々はほかの自治区にいたってこと?)
それは彼の出自にまつわるもの。
基本的にサンドクローはアビドス出身の傭兵として知られており、その最初の目撃例があったのもアビドスであるというのは裏でも表でも周知の事実だ。
それ以前に関する情報などは一切なく、彼自身もアビドスで傭兵を始める以前のことは一切話さない。
故にサンドクローの出身地はアビドスであるというのが世間での共通認識だった。
しかし、大将の言葉によるとそうでもないらしい。
一体どういうことかとカヨコが問いかけようとした……
その時だった。
――ガラガラガラ
「……随分と懐かしい話をしているな、大将?」
「お、噂をすれば何とやらだな!
らっしゃい坊主!今日はどうする?」
「今日は塩で頼む。
ちょっとばっかし仕事で消化不良気味だったんでな」
「あいよ!塩ラーメン一丁!」
どこか不機嫌そうな顔で戸を開け、先程まで話題のタネにされていたサンドクロー本人が来店してきた。
「へぇ……貴方でもそんなことがあるのね」
「ここに来たばかりの頃は一文無しどころか身寄りもなしだったからな。
行く当ても行くべき道もわからずに数日さまよった末に大将が俺を拾い上げたってとこだ」
「それでよく生き残れてたね。
だけど、どうしてそこから傭兵になったの?」
「ん?あぁそれはな……」
「はい、塩ラーメン一丁!」
サンドクローが口を開こうとしたとき、柴大将がコトリと音をたてて彼の前へとラーメンを配膳した。
便利屋の四人の前にもすでにラーメンが配膳されており、全員分揃った時点で一斉に合唱して食べ始めた。
「ズルズル……ふぅ、相変わらず美味いな」
「はは、ありがとよ坊主!最近はなかなかこれなかったみたいだが……
やっぱりあれか?ここ最近仕事が増えたのか?」
「まぁ、例の会長がいなくなってからキヴォトス中の治安も悪くなって連邦生徒会の方からの仕事も相当増えたからな。
裏はなんだかんだおとなしいんだが……」
「おとなしいっていうか……多分だけど、今貴方を下手に雇ったら連邦生徒会に目を付けられやすくなるって思ってるんじゃないかしら?」
「かもな。
今んところシャーレのアイツが来てからだいぶ落ち着いては来たが、あの頃はとにかく連邦生徒会から雪崩れるように仕事が舞い込んでいたからな。
おかげで稼げはしたが……さすがにそろそろ休暇でも取ろうかね」
「……傭兵に休暇なんてあるの?」
突然のサンドクローの休暇という言葉に便利屋達はギョッとし、彼女達の疑問を代弁するようにカヨコが彼に質問を投げかけた。
「別に俺だって年がら年中依頼をこなすだけの生活をしてるわけじゃない。
偶に一〜二週間ぐらいバカンスがてら休暇で体を休めちゃいる。
お前たちも余裕ができだしたらそれぐらいはしたほうが良いぞ?
働きっぱなしってのは仕事のコンディションにもかかわるからな」
「それは………ちょっと意外だったわね。
貴方ほどのアウトローでも休むときは休んでるのね」
サンドクローの言葉にアルは少し考えに耽けた。
彼女にとってサンドクローという男はまさに自分の目指すアウトローの形の一つを体現している存在。
全てがそうだとは言わないが、彼女なりに彼の行動ややり方には多少なりとも影響を受けてリスペクトもしている。
しかしそんな彼にもアウトローらしいのかよくわからない一面があった。
常にどんな依頼をもこなしてみせる凄腕の傭兵というイメージがアルの中では強かったが、その常にという部分に誤解があったらしい。
「陸八魔、お前がこれからも裏社会を渡っていくつもりならこれだけは言っておこう。
目的の為に闇雲に走り回ったところで、それだけじゃぁうまくはいかんさ。
だが、冷静になって考え直すかどこかで止まって休める場所を持っていれば自ずとその解決の糸口も落ち着いて見れるようになる」
まさにここみたいにな、と薄く笑みを浮かべながらサンドクローはまた麺を啜る。
その言葉にアルは一瞬否定の言葉が出そうになったが……
彼の言うとおりに一度落ち着いて考え直してみると、意外なことに今までの考え方のほうがあまりよろしくないやり方じゃないのかと気がついた。
「そう……そうなのね……!
本物のアウトローにはそれだけの余裕も必要ってことよね……!」
「ん?……まぁ、そういうことじゃないか?」
アルの興奮したような声にサンドクローは何か認識のすれ違いを感じたが……
まぁそこまで気にすることでもないと判断してラーメンを食べることに専念しようとした。
そう、専念しようとしていた
――ヒュゥゥゥゥゥゥ…………
「……ッ!?全員伏せろぉッ!!!」
突然小さく聞こえてきた異音に反応し、サンドクローは声を上げると同時に横に置いていたダスターコートを広げ、すぐ近くにいたアルとハルカにかぶせつつ覆いかぶさるように地面に伏せた。
瞬間……
――ドゴォォォォォォンッッッ!!!!
爆発と共に店が崩壊し、便利屋68と柴大将……そしてサンドクローは振り注ぐ瓦礫の中に巻き込まれた。
いかがでしたか?
原作と違い、アルが「こんな店いらないわよ!」発言をせずハルカが店を爆破することもありませんでした。
まぁそれでも結局吹き飛ぶことになるんですけど(白目)
果たして、店を吹き飛ばした犯人達は無事で済むのか……
というわけで、また次の話をお楽しみに