今回はちょっと設定の語りみたいなものも多く含んだ故にいつもより長めになっております。
まぁ多少流しながら読んでいただければ幸いです
というわけで、本編をどうぞ。
柴関が吹き飛ばされて数日が経った。
俺は頭の怪我も治しきり、大将がまた店を始められるよう色々と手配をしていた。
本人は最初もう店を畳もうかと言っていたのだが、あとから来た便利屋の励ましもあって屋台からの再出発ということで店を続ける決意をしていた。
……思えば俺にラーメンを食わせてくれた時はまだ屋台でやっていたな。
その後すぐ資金が集まってあの店を開いたらしく、その当時はまだカイザーが介入してくることも無かった。
……しかしそのカイザーだが、ここ最近はアビドス自治区の住人を立ち退かせようと行動が活発になっている。
前までは土地と建物の権利の買い取り交渉だけだったが、退去勧告まで送るようになったのはほんの一ヶ月程度前……
連邦生徒会長が失踪した直後ぐらいだったか?
タイミングもそうだが、この態度の変わりよう……
連中どうやら遂に動き始めるらしい。
そして俺が大将の屋台を手配していた時、奴らからの招待状が届いた。
「……で、アンタらとしてはこのまま付いてきて欲しいと?」
「そうしてくれると助かるんだが……」
「俺たちもアンタとドンパチするのは勘弁なんでな。
最悪金を使ってでも連れてこいっては言われてるんだが……その……な?」
突然まごついた口調になって俺にそう説得をかけるカイザーPMCのオートマタ。
……なるほど、ならお望み通りにしてやろう。
「一人頭二万だ」
「クソがッ!」「畜生めッ!」「Shit!!」「Fuck!!」
親指を下に向けたり中指を突き立てたりして罵詈雑言を吐くオートマタ達。
しかし口ではそんな態度をとっていたが、次にはその手に目から涙のようにウォッシャー液を垂らして二万を俺に差し出していた。
「……よし、良いだろう。お望み通りついて行ってやる」
「俺の……俺の二万が……」
「経費で落ちるかなぁ……?落ちねぇよなぁ……」
「クソったれぇ……血も涙もねぇ……!」
「俺の……俺の課金代がぁぁ……」
揃いも揃って情けねぇ。
無理に連れて行こうとして俺にボコられ、そのまま病院送りにされるよりかはマシだろう。
「……で?なんでテメェまでいる、黒服?」
「クックック……そんな目で見ないでください、サンドクローさん。
私と貴方の仲ではありませんか」
「初対面で実験材料にしようとしていたやつがよく言うな?
ま、アンタはその分それなりに金を落とす上客だがな」
PMC兵に連れられて来たとあるビルの一室。
ガタイのデカいロボットの隣に立つ黒いスーツの異形に対し、「今日は厄日だな……」と思いつつ俺は軽く言葉を交わしていた。
黒服。
正体も素性もよくわからない研究者気取りの怪しい男であり、それと同時に高額ながらそこそこ手応えのある依頼を持ってくる異形。
初見での第一声が俺を研究サンプルにしたいという直球な誘い文句ではあったが、今は時折アイツの依頼で軽い戦闘シミュレーションやらこっちにあまり影響を及ぼさない実験に付き合うことも多い。
まぁ本当によく分からん奴だが、取引や金の扱いについてはコイツはしっかりとしている。
もちろん、詐欺まがいの契約を結ぼうとしてくることはあるために気をつける必要はあるんだが……
「……まぁそれはいいとして、だ。
まさかアンタらがまた俺に声をかけてくるとは思わなかったぞ、カイザー理事?」
「ふん……その傲岸不遜な態度も相変わらずのようだな?」
黒服から目を離してガタイのいいロボットのほうへと視線を向けると、そのロボット……カイザー理事は傲慢そうな声色で俺にそう返してきた。
カイザー理事は俺に言葉を返すと同時に何らかの紙束を用意し、俺の目の前へと差し出すように置いた。
「お前に指名で防衛依頼を受けてもらう。
もちろんお前の我々に対する不信も考慮して、保証金もそれなりに積ませてもらおう」
「……随分と大盤振る舞いなこったな」
カイザー理事が渡してきた紙束を拾い上げ、内容を確認する。
依頼内容は施設の防衛。
場所は現在カイザーPMCが駐屯している採掘基地、その敷地内にある旧アビドス本校舎の一区画に通じる通路。
報酬は……五億?
「随分と金を出すみたいだが……
一体何を俺に守らせようとしている?」
「……それは言えん。
だが、少なくともその金を払うに値する程には重要だというのは確かだ」
「ほう……?保証金も一億……いつもの提示額からすりゃ相当だな。
まぁそんだけ俺にこの仕事をやらせたいってことなんだろうが……」
提示されたかなりの額に舌を巻きつつ、俺はさらに読み進めていく。
因みに保証金というのは簡単に言うとペナルティみたいなものであり、今のところコレを払ってまで依頼してくるのはカイザーぐらいである。
カイザーからは今までかなりの量の依頼を受けているが、ホルスと初めて殺りあった時の依頼も含めてクライアント側の契約違反が発生することがかなりあった。
俺が契約違反した時には報酬が減るか無くなるだけだが、クライアントがやらかした場合はそちら側にペナルティがつく。
まぁつまるところ、それなりの額を払い戻し無しの条件で依頼前に渡さないと俺も依頼を受けない……依頼を受ける保証を買う金ということだ。
普段なら大体カイザー相手だと百万から百五十万程度が相場なんだが……
カイザーが提示した金額は桁を一つ飛び越えて億ときた。
これは絶対何かあるなと感じて目を通していくと、カイザー側の戦力に関する項目で引っかかりを覚えた。
「……アンタらこんなに兵士が少なかったか?
俺が覚えてる限り、なんか三分の一ぐらい減ってるみたいなんだが……」
「……少々小競り合いで兵士が減ってしまってな。
他の支部から応援を呼んでいるが、現状はそれだけだ」
「ふむ?」
何か隠してやがるな。
分かりづらいうえに一瞬だが、目線がどこかにそれた気がする。
そして推定される敵対勢力の一覧を見た辺りで、俺はその答えにたどり着いた。
「アビドス高校とシャーレに手を出したのか?」
「…………」
だんまりを決め込んでいるが、それは逆に肯定とも捉えられる。
……なるほど、確かにそれならこの額も納得だ。
だが……
「おいおいカイザー理事……アンタも分かってるだろう?
アビドスにはあのホルスがいる。
それがわかってて敵対した挙句、倒せなかったからといって俺に押し付けるってのは随分とマヌケだな」
「グ………ゥゥ………」
「しかも、だ。
いくら金を積んだどころで、俺がアイツに勝てる見込みは今のところ無い。
それでも俺を雇ってアイツとぶつけたいってのはつまり、俺に死ぬか捕まってこいと言ってるのと同じことだぞ?」
「……………………」
まただんまり……か。
まぁ実際、俺は今のところアイツ………暁のホルスに勝てる保証がない。
寧ろ今のあいつでは俺も本当の本気を出すことができん。
あの時のように、俺を確実に殺さんとする殺意に染まったあの眼光………
そして、その殺意を果たさんとする冷静かつ合理を突き詰めたような無駄のない手捌きと身のこなし………
アレがない限り、俺は奴に勝てるビジョンが見えないのだ。
……しかし、それを知ってか知らずか思わぬ答えがカイザー理事からもたらされた。
「……小鳥遊ホシノについてだが、奴は攻めては来ない」
「なに……?あのホルスがか?」
どういうことだ……?
奴が攻めてこない?
いや、そんなはずはないだろう。
昔ならいざ知らず、今の奴は後輩たちを守るためならなんだってやろうとするぐらいにはアイツらに甘ちゃんになっている。
そんなホルスが来ない……?
一体、どういうことだ?
「クックック……詳細は申し上げられませんが、小鳥遊ホシノさんについては今回動くことができません。
とはいえ相手はあのシャーレに加えて、ホシノさんほどではありませんが精鋭ぞろいのアビドス高校……
更には貴方が面倒を見ているという話らしい便利屋68まで付いてるという話ではありませんか」
「シャーレはわかるが……アイツらもアビドスに付いたのか」
柴大将のお見舞いの後からは特に接触はしていなかったが、なるほど……
アイツらなりの選択がアビドスだったか。
「シャーレに先を取られたが、我々も雇用の交渉はした。
……だが、連中は信用やら義理やらがどうとかと言った挙句にこちらの提案を蹴ったのだよ。
随分と素晴らしい教育をしているみたいじゃないか?」
「言っとくが、確かに俺は便利屋の面倒は見ているが……
アイツらに依頼を強制させたりはできんぞ?
俺たち雇われにも選ぶ権利はある。
その選ぶ基準はアイツら次第、それが俺達なりの生き方だ」
「ほう?
奴らは貴様の旗下にいると思ったのだが……そうではないと?」
「俺が誰かと組むような人間に見えるか?
アイツらとはあくまで傭兵として……雇われの裏稼業として色々と教えてやっただけだ」
「……見込み違い、というわけか」
カイザー理事はため息を吐きつつ、心底面倒そうな態度を取っていた。
……アイツらはアイツらでそれなりに実力はある。
ただでさえ精鋭が集まるアビドスに加えてシャーレという未知数の相手……
そりゃまぁ頭の一つや二つは抱えるだろうな。
「……まぁいい。
小鳥遊ホシノさえいなければ貴様もそうそうやられんだろう?」
「まぁそりゃそうだが……
流石に俺でもシャーレ込みで一人で全部相手するのは無理だぞ」
「それについては問題ない。
私も我が社の最新鋭の兵器とともに奴らを捻り潰しに行くつもりだからな」
……ほう?
まさかカイザー理事自身も前線に出てくるとは……
随分と切羽詰まっているみたいだな?
「アンタが前線にねぇ……まさか、アンタの護衛までやれってのか?」
「いや、その必要はない。
貴様はただ、我々の討ち漏らしを片付けていればいい。
要は奴らに付かれてしまわんようにする保険だ」
「ずいぶんとまぁひでぇ使い方だな?
……まぁ、その判断は間違ってねぇだろうがな」
実際、何かしら金のある組織間で抗争が起きると俺を雇用しようとする奴が多くなる。
理由は単純、相手に雇われてデカい損害を食らうぐらいなら高額でも俺を雇って手元に置きたがるのだ。
実際そうすれば俺と敵対するというリスクを避けられる。
自惚れではないが、俺一人がいるかいないかだけでも状況はかなり変わる。
言ってしまえば、それなりに金さえ払えば最強格に近しい戦力を一時的に使えるのだ。
そりゃ誰だって勝つために欲しがるし、それを避けたいがために必要がなくても俺を雇おうとする奴だって出てくるわけだ。
ま、俺としちゃあ金払いが良ければそれ以外はどうでもいいんだがな。
「……流石に今回は事が事だ。
あくまで俺の対応範囲は資料で提出された範囲のみ、イレギュラーが出たらその時点で俺は撤退させてもらおう」
「あぁ、それで構わん。
……もっとも、そうそうイレギュラーなど起きんさ。
所詮は調子に乗ったガキ共とそれに与している愚かな大人だけ……奴らが攻めてきたとて、それに与するような愚か者は居ないだろう。
我々、カイザーに楯突く事がどれほどに愚行か……それを思い知らせてやる……!」
ガンッ、と机を叩きつつそう口にしたカイザー理事。
……やはり、どうにも嫌な予感が拭えんな。
まぁ、俺は俺で保険をかけておくとしよう。
「ならいい。
……とはいえ依頼自体が相当急だからな。
装備と弾薬をこっちに持ってくるよう手配したい」
「ふむ……?運び屋に武器を持ってこさせるのか?」
「正確には俺の子飼いの奴でな。
こういう急な大仕事が入った時に備えていくつかのブツを預けているのさ」
そう言いつつ、俺は通信機を取り出して信号を送る。
……まさか、この信号をアイツに送るようなことになるとはな。
ま、ちょうどいい頃合いではあったのかもしれん。
「さてはて……今回は厄日にならなきゃいいんだが」
なぜかは知らんが、カイザーからデカい仕事が舞い込むと毎回厄日になる。
今日こそはそんなことにならなきゃいいんだがな……
いかがでしたか?
まぁ今ここでこれ以上語ると重大なネタバレになりかねないので控えますが……
強いていうなれば、彼はただ依頼を受けて雇われる以外にも色々とやっているとだけ。
とまぁそんなわけで、また次の話をお楽しみに