元凡人による悪への道のり~裏ボス枠になるために~ 作:悪なれず
昔のネタを改編とリメイクしたものです。
最初だから全体的に控えめで。頭を空っぽにして読めるお話にしたいですね。
失踪しても許して。
普通。
平凡。
安定。
あり触れた背景。
よく言えば堅実。悪く言えば退屈。そんな人生だ。
家に帰って風呂に入る。
スーパーで買った割引の惣菜をつつきながら動画を流す。
歯を磨いて布団にもぐり、適当にSNSを眺めていれば、日付が変わっている。
普通に働いて、普通に食事をして、普通に寝る。繰り返す毎日に不満はなかった。
少しだけ変わっている点は、正義のヒーローより悪役の方が好きな事くらいか。
……物心つく頃から、正義の味方より悪役が好きだった。
正義は正しくなきゃいけない。
でも悪は違う。
悪として自由に振る舞ってもいい。正しくなくてもいい。
世界中が敵になっても、好きに笑って、好きに狂ってもいい。
正義の味方の反対にいる組織のボス。
熱血主人公よりも裏社会を牛耳る黒幕。
世界を救うヒーローじゃなくて世界を動かす支配者。
最後の最後まで正体に気付かれなかった奴とか好きだな。
最終的に悪は倒されて終わる。わかり切った結末だ。
そんなラストでも、信念を貫いた彼らの狂気はとても鮮やかで美しい。
ヒーローが勝つ瞬間より、最後に笑って倒される悪役に憧れさえ抱いた。そう言う連中を探す時間の方が長かった。
だからと言って、今の現代社会で悪になるつもりは毛頭なかった。あくまでただの一般人。それが俺の肩書。
普通という恵まれた環境を棒に振る程、俺は狂っちゃいない。犯罪とほぼ無縁の人生を甘んじて受け入れてきた。
少なくとも、俺が生きている間、悪という名の狂気に身を染めることはないだろう。……そう思っていた。その時までは。
――雨が降っていた。だから、傘を差して帰ることにした。
階段で足を滑らせた。
咄嗟に腕を伸ばす。手すりを掴み損ねた。
体が宙に浮いた。やばい。
視界がぐるりと反転する。強い衝撃が走るも、痛みはなかった。
死ぬかな、これ。ちゃちな悪役みてぇな死に方だな。
悪い人生じゃなかったか。もうちょいマシな死に方が良かったけど。
――いいか、別に。どうせ俺の人生、そう大したもんじゃないんだし。
でも、一度くらい、世界の物語を掻き乱す黒幕とか。
ラスボスの後の裏ボスとか。
全クリ後に「嘘だろ」って言われる隠しボスとか。
……そう言うのやってみたかったよな。
――意識が浮上する。重い瞼を開く。
――クソ寒い。
ざあざあと降りしきる雨音。
濡れたアスファルトの冷たい感触。
べったりと肌に張り付いた衣類。
それらの事象が、自分の体温を下げている要因を、否が応でも教えてくれた。
鉛のように纏わりついた重さを引き摺って立ち上がる。
何が起きたか、体の状態がどうなっているか。今はどうでもいい。早く逃げなくてはいけない。知らないはずの記憶と生存本能が警戒を鳴らしている。
――クソが。あの汚い紫色のドブネズミども。よくも人間様に手を出しやがったな。暗黙の了解ってのを知らねぇのか。ふざけやがって。ニャースに甚振られろ。もしくはその辺にいるチンピラの手持ちにでもやられちまえ。潰し合え。
ずたずたの体に刻まれた噛み傷に雨が染みる。
涙と鼻水、雨粒で歪む視界のまま脇目も振らず拠点に直行する。誰が捨てたかもわからないテントの中へと倒れ込むように入り、失いつつある気力を振り絞って、寒さで悴んだ手で濡れた衣類を脱ぎ捨てる。
襤褸で身体を拭って脱いだ衣類の場所に放り投げた。それから、擦り切れた予備の服を身に着けて、掻き集めた別の襤褸を被って毛布代わりにする。
寒い、痛い。いや熱い。わからない。よし、いい、取りあえず落ち着け。ああ布が足りねぇ。良い奴は全部二束三文で売っぱらっちまったらしい。ぎゅうぎゅうに巻き付けて少しでも暖をとる。
ここにいる今の俺は誰だ? 知らない。名前なんてない。もしかしたらあったのかもしれないけど、もう長い間呼ばれてない。覚えてない。
ここはどこだ? 多分、タマムシシティ。表の連中が良くタマムシデパートのことを喋ってるのを聞いた。
なんでこうなってる? 多分どっかからやってきた新入りのコラッタ共に襲われた。
……え、コラッタ? ポケモン? ゲームだろ? アニメだろ? 現実にいないぞ。
……いや待て、違う。もしかして。
――俺がきたのか?
これはあれだ、ネット小説でよく見る奴。転生。いや憑依か?
大丈夫だ、その辺はちゃんと予習済みだ。完ぺきではないけど。もしくはまだ死んでない俺が見てる夢。
少しだけ頭が回ってきた。
今の俺は取りあえず子供だ。それは覚えている。記憶にある。名前はない。家はこのボロテント。隙間風を凌げる程度には補修されている。
よし、よし。取りあえず俺が……前の俺がどうなったのかを思い出そう。今ここにいるって事は死んだんだな? じゃなきゃ死にかけの子供になってたりしてない。
そんでもって、今の大元は前世の俺だ。これも間違いない。子供がこんなに冷静に思考できるかよ。別世界の大人が子供に憑依して冷静なのもおかしいけど。現実逃避してるんだよ。痛みでおかしくなりそうだ。
最低限のことはわかった。
この子供の断片的な記憶から、現状分かっている事を纏めよう。現実逃避も兼ねて。
まずは俺だ。凡人。多分、階段から落ちて死んだ。死んだことにする。死に方もつまらない。
次はこのガキ。孤児。ホームレス。ゴミ漁りをして生計を立てている。集めたごみは売れそうなのを買取屋に持って行って金銭に変えてる。
年齢はわからない。十に届いてない程度か? 成人はしてない。絶対。よく生きてこれたな。
最後にこの世界。ポケモン。タマムシシティだからカントー地方。以上。
記憶の抜けがひど過ぎる。もっと頑張れよ。
「……あたまいたい」
自然と口から言葉が漏れる。絞り出したようなガサガサのかすれた声は、それでも子供特有の舌足らずな喋り方だった。
冷静になれているつもりだけど、この寒さと痛みがまだ俺を現実から逃がしてくれる。思考を続ける余地を与えてくれる。
なんだよポケモン世界って。怖すぎだろ。人間からしたら化け物共が蔓延ってるような場所だぞ。凡人だっつってんだろ。
……このガキって実は死んでたりしてないか? 元の記憶はあるけど、どうにも生きてる感じがしないな。まあ死んだような人生みたいだけど。
……あ、いや。寧ろ死んでてくれないか?
今更「実は生きてましたー。でへへー」みたいに出てこられても俺が困る。
大丈夫、安心してほしい。お前の死は無駄にしない。俺が最後まできっちり使い切る。
どうするかって? 折角手に入れられそうな第二の人生だぞ? そりゃ一週目に出来なかった事をやりたいだろう。
つまり悪役。黒幕。裏ボス。隠しボス。
やりたいだろ? 出来なかったんだからさ。
しかもこのガキ、こんだけクソみたいな人生を歩んでるんだぞ。境遇も最高じゃないか。そっちの方が最終戦で映える。
だから死んでいてくれ。頼む。生き返らないでくれ。お前の死体で新しい悪役が生まれるかもしれないんだ。俺を最高に狂わせてくれ。気持ちよくなりたいんだ。
どうせこの先、生きててもお前じゃ上手く行かねぇよ。とられる側からとる側に回らせてやるから。お前は天国にでも行って次の新しい人生を歩んでくれ。
あ、俺が使ってた体には入るなよ? つまんねぇ人生になるから。
「けほっ」
不味い。ふらふらしてきた。逃げ続けた現実が肩を掴んで引き戻してくる。そりゃそうだよな、死にかけてたし。噛み傷からの感染症が怖い。でも薬なんてない。病院にも行けない。
熱が出た時の対処法なんて薬飲んでおかゆ食べてぐっすり寝るしか覚えてないぞ。あとポカリ。どれもねぇよ。気合で治すしかない。
意識したらどんどん酷くなってきた。頭痛がする。身体中が痛みで悲鳴を上げている。薄っすら血の滲んだ傷跡が染みる。眩暈で視界が歪む。震えが止まらない。
ふざけんな、冗談じゃねぇ。こちとら階段と路地裏で二回死んでるんだぞ。三回も死んでたまるか。
最後の気力を振り絞って、片っ端から使えそうな布を掻き集めてそれに包まる。本格的に気合で治すしかない。折角都合のいい世界に来たんだ。何がなんでも生きてやるぞ。
……頼むから夢なら覚めないでくれよ。
意識が途切れる間際、そんな事を願った。
こんな感じの世界観です。今回はシリアスと説明が多めになってしまいましたね。次はもっとコメディ要素強くするんで許してください。
主人公(前世):凡人。
憑依先の子供:かわいそうな子供。環境の悪さとコラッタの襲撃も相まって死んでしまった。しかも亡骸は憑依されると言う。来世は幸福な世界が確約されている。
コラッタ:よその町から来たコラッタ。ゴミ漁りをしている子供が邪魔だったので狙いをつけて襲い掛かってきた。ルール違反。
感想、誤字脱字の報告、お待ちしております。あ、同日に二話目も投稿します。
ちょっとアンケート機能が使いたいので付き合ってください。あなたにとってのカントー地方は?(本編に影響はありません、多分。気楽にお答えください)
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赤緑、FRGL
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ピカブイ