元凡人による悪への道のり~裏ボス枠になるために~   作:悪なれず

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少しずつこの小説が皆さんの目に触れているようで嬉しい限りです。

ストックが切れるまではほぼ毎日一話の更新が出来ると思います。

もう片手の指で数えられる程しかないけど。執筆が遅い所為で中々進まないんですよね……。


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「来ちゃった(はーと」

「え、待って。なんでわたしの家知ってるの?」

 

 開口一番の俺の台詞に、嘗て出会ったパンク系少女は、扉のチェーン越しに恐怖に慄いた表情で問うてきた。

 

「だいぶ前にヤマブキで仕事してるときに見つけたから、場所だけ覚えておいた。いい賃貸に住んでるね」

 

 六階建てのマンション。セキュリティは自動ドアとエントランスインターホン付き。すれ違うOLと警備員に笑顔で挨拶をして侵入。

 部屋の場所は、外から各階のドアが微かに見えて、偶然このパンク系少女が入って行く部屋の位置を記憶した。

 このストーキング能力が、嘗てかっぺ三人組への報復に役立ったのである。ちなみにここは三階。

 ピカチュウのパーカー付きパジャマ暖かそうで可愛いねぇ、デュフフ。俺は短パンで来たから時期も相まって屋内だと日陰になってちょっと冷えるわ。

 

 

「……どうしよう、警察呼んだ方がいいかな……」

 

 やめてくれ。頼む。まだ国家権力には勝てないんだ。お茶目などっきりなんだ。別に性的な目で見てる訳じゃないんだ。お姉さん許して。

 

「……はぁ……。それで、なんで来たの?」

「金が溜まったから相場を聞きに。話し通してくれた?」

「早くない……? まだひと月経ってないんだけど?……ちょっと待ってて」

 

 言い切って、彼女は扉を閉めて部屋に戻って行った。

 子供でも、流石に会ってそう大した交流のない男を部屋に入れない程度の思慮はあるのね。前回の醜態はなんだったんだ。……これ警察呼ばれてたらどうしよう。ちょっと冷静になってきた。

 

 えー、俺より高い手すり飛び越えるとして。……マンキーに補助して貰えればあの屋根に乗れるな。そっから低い場所に移って……この高さでも無傷で行けるか?

 

「お待た……何してんの?」

「黄昏れてた」

「手すりにぶら下がる必要なくない?」

「下の風景を見たかった」

 

 逃走ルート確保してたとは言えない。

 振り向くと、なんと件の少女は外に出て来ていた。格好も、ピカチュウファッションから以前見たパンク系ファッションに変わっている。明るいと幸薄さと美人さが際立ってよく映えるね。

 

「行こっか」

「どこに」

「んー。歩きながら話す。とりあえず来てよ」

 

 自分より少し背の高い背中を追いかける。これは……どっちだ? 罠か? 付いて行ったら美人局的な連中が現れるのか?

 身分証と言う目標に手が届きそうだったからとは言え、早い段階で此方から出向くのはあまりにも迂闊な選択だった。

 

 エレベーターと言う閉鎖空間を終えてエントランスへ。

 付かず離れずの距離を取りながら少女の背中を追いかけていると、ビジネス街のヤマブキにしては少し怪し気な裏路地が目に入った。

 

「お金ないよ」

「は?」

 

 今まさにその裏路地に入ろうとしていた少女へそう言うと、彼女は心底不思議そうな顔でこちらを見てくる。

 

「その中に仲間がいるんだな。俺が必死に稼いだ金を巻き上げようとしてるんだな?」

「してないってば。どれだけ疑心暗鬼なのさ」

「ストーキングしてたガキひとり始末するにはちょっと大げさじゃない?」

「始末って何。どんな世界観で生きてるの。仲間も友達もいないからそんなことしないってば」

 

 あまりにも悲しい告白だ。

 

「いいから行くよ。今から行くのはちょっとお洒落なBARだってば」

「未成年飲酒……」

「しないって。ほら、待たせてるんだから、いつまでも駄々こねないで」

 

 手を掴まれ、そのままずんずんと裏路地に入って行く。

 

 やがて彼女が立ち止まったのは、電灯が点いていないネオンの看板がぶら下げられた建物。ビジネス街のヤマブキにしては地味で陰鬱な場所だ。

 そんな事を考えていると、そのままCLOSEと書かれた立札を無視してドアを開けて中に連れ込まれた。

 

「ほら、怪しくないでしょ」

 

 どうだと言わんばかりの声音だった。

 しかしなるほど、見れば確かにそれっぽい。

 カウンター席。酒の並べられた棚。光っていないミラーボール。ぽつぽつと並べられたテーブル席。

 こじんまりしているが、確かにそこは酒場と言っていい場所だった。

 

「ポケモン出していい?」

「どうしたの急に。別に出しても良いと思うけど」

 

 言質とったからな。という訳でいつものマンキーである。

 ヒスイゾロアは当然無理なのでボールの中から見ていてもらう。いざとなったらこいつも使って逃げる。毎回連れて来てるのに殆ど出番ないわ。いい加減ストライキ起こしそう。

 

「マンキーって……物騒なポケモンだね。暴れさせないでよ?」

 

 大丈夫。普通のマンキーと違って怒りの沸点がほぼないから。知らんけど。

 

「ママー、いるー?」

 

 カウンターの向こう側へと少女が呼びかける。お前親おらん言うたやん。そんな疑問を余所に「はいはーい」と、野太い声で返事が返ってくる。

 

「――あら、ハッシー。いらっしゃい。どうしたの?」

 

 パパやんけ!

 

 のっしのっしと現れたのは、無駄にガタイの良い成人男性だった。めっちゃダンディ。でもピッピのエプロン可愛い。こいつは……あれだ、サワロ先生と同系統の存在だな?

 あとお前ハッシーって言うのね。覚えた。

 

「さっき電話で話したでしょ? ちょっと相談に乗って欲しくて」

「あらぁ。じゃあ貴方がハッシーのことを助けてくれた子? ありがとうねぇ。この子、たまーにやらかすのよ。今回のお仕事もまだ早いんじゃないかって不安だったんだから」

 

 マンキー……は別に警戒してる様子はないな。いや、こいつが自主的に誰かに警戒してくれるかどうかわからないけど。

 

「どうもはじめまして」

「お利口ねぇ。何か食べる? おつまみ用のチョコとナッツくらいしかないけど」

「ねぇママ。話し進まないからその辺にしてくれる?」

 

 パンク系少女、改めハッシーの言葉に、ママと呼ばれたダンディな男はあらあらと微笑ましそうに笑っている。うーん、家族。ちょい羨ましい。

 

「じゃあ、二人ともカウンター席に座ってくれる? はい、これチョコとナッツ。あと烏龍茶。そうねぇ、まずは自己紹介。ハッシーが言ってたけど、私はママって呼ばれてます。あなたも気軽に呼んでくれてもいいわよ?」

「ママぁ」

「あらまぁ。うふふ。ちなみにハッシーの本名はハシバミよ?」

 

 乗ったら凄い嬉しそうにしてくれた。これがばぶみ……? あと今度こそ本名がわかった。あのぐりぐり垂れ下がった植物が名前なのね。

 

「で、ごめんなさい。実は私、貴方の事を少しだけ知ってるの。ハッシーに聞いた日から調べてね? タマムシに住んでるのね」

 

 やべぇ。個人情報すっぱ抜かれてる。どこまでだ? どこまでやられてる?

 

「あら、安心して。そこまで大したことは知らないわ。本当にタマムシに暮らしてる事だけ。具体的な事は何も知らないの。あそこはロケット団が幅を利かせてるから、迂闊に手を出せないのよ。今のボスはやり手だし。そう言えば、クチバの裏バトルで選手として参加してるのよね? 相方はそこのマンキーちゃん。とっても強いって聞いたわ」

 

 結構知ってんなこいつ。

 マンキーもナッツを食べる手を止めてじっと見つめ始めた、俺を。あっちを見ろ。

 

「そうだね、頑張って戦って稼いできたよ。そこのハッシーからは伝手を紹介するって教えてもらったけど、ママさんがそうなのかな?」

「うふふ。そうね、半分正解。私が直接貴方のほしいものを用意してあげられる訳じゃないの。間に入って仲介するのが限界だわ」

 

 裏社会の窓口って事? かっこいい。

 

「出来る?」

「……程度に寄るわね。最近は需要が高いから値段も吊り上がってるのよ。私の口利きで少しは安くできると思うけど……クチバで手に入れないって事は、凄くちゃんとしたものが欲しいのよね?」

「まあね。金が要るって事しか知らないけど」

 

 さっきも言ったけど凄い稼いできた。目標金額は超えた。

 

「お金はとっても掛かるわ。アタシ的にお勧めなのはポケモン協会の伝手を使うこと。勿論、合法的な手段じゃないわ。けど、一度データベースに登録しちゃえば、ポケモントレーナーとしての身分は安然よ。それがデメリットって人もいると思うけど」

 

 ポケモントレーナーになったらポケセン使えるじゃん。ありだな。デメリットは……なんだろ。公的な機関に自分の名前が登録される事かな。

 

「あとは、そうねぇ。さっきの延長線になるけど、データベースに登録しないでトレーナーになる方法もあるわね。名前が登録されてる風に誤魔化す方法。これは少しだけ安いわね。深く照合されるとばれるかもしれないリスクはあるけど」

 

 どっちも悪くないね。どっちにしろ、公的機関の腐敗を感じ取れるけど。そこの伝手があるってママさん何者だよ。

 

「他には、企業の専属トレーナーになるなんてのもあるわね。ポケモン協会ほどじゃないけど、後ろ盾としては十分よ。飼われるのがデメリット」

「……幾ら掛かるかな?」

「ポケモントレーナーとしてデータに捩じ込んでもらうなら、まあ、今のご時世なら、百万はするわねぇ。口利き込みで……七十万前後かしら」

 

 えー……あ、口利き込みでも微妙に足りない。足りても全部払ったら生活費がかつかつになる。

 いやだ、ゴミ漁りしたくない。というか……

 

「ママさん、口利きしてくれるの?」

「確かに私は口利きすれば、とは言ったけど、口利きするとは言ってないわね」

「ママぁ。口利きしておくれぇ」

「あら、うふふ。どうしよっかな~」

 

 手強い。負けイベって萎えるタイプなんだけど。

 

「じゃあ、こうしましょうか。ハッシーのお仕事を手伝ってあげて? そうしたらママ、口利きでもなんでも頑張っちゃう!」

「うぇ!?」

 

 ナッツぽりぽり。烏龍茶ちびちび。

 おっさんみたいな飲み方をしていたハシバミが、吃驚した表情でママさんを見ている。

 

「なんで? ひとりで大丈夫だってばっ」

「またそんなこと言って。あなた、前もそれで野生のポケモンに追いかけられたじゃない。手持ちがいないんだからボディガードくらいは雇わないと」

「あれは……偶々だし」

「タマタマに追っかけられたの?」

「違うってば」

 

 だろうね。ちょっとしたおふざけである。

 

「ただじゃ無理だよ。俺にも生活があるし」

「それは勿論そうよ。仕事終わりにここに来てくれれば、その時は私からお小遣いを上げる。どう?」

「幾ら?」

「このくらい」

 

 のった。ママさんとハイタッチをする。いぇーい。

 でもこの小娘と仕事するならどっか削らないといけないな。クチバの頻度を減らすか? 班長は癒やしだから偶に会っておきたいし。あー、でもおでんが……。

 

「いや、わたしは却下してるんだけど」

「社会の波に流されれば楽だよ。受け入れなよ」

「ストーカーに社会云々言われたくない。警察呼ぶよ?」

 

 急に刺してくるじゃん。

 

「ママに会いたかっただけだから」

「あら嬉しい」

 

 やいのやいの騒ぐ小娘を横目に、さて、どんな仕事をやらされるのか。

 

 まあ、マンキーがいれば大丈夫だろう。いざとなったらヒスイゾロアも使ってなんとかしよう。ママさんいれば根回ししくれる気がするし。

 

……あ。

 

「ママさん、ナッツちょうだい。帰ったら食べるから」

 

 ヒスイゾロアの分である。

 ボールの中から俺らがナッツ食ってんの恨めし気に見てるんだろうなぁと言う配慮だ。

 

「いいわよぉ。ちょっと待ってね、袋に詰めてくるから」

「ねえ聞いてる? キミと組む気ないんだけど?」

 

 うるせぇな。諦めろ。お前は俺と組む運命なんだよ。あと顔が良いからあんま近づくないでくれる? 他人に近づかれると動悸が高鳴るんだよね。

 

 詰め寄ってくるやかましい小娘の顔面を鷲掴みにして距離を取り、これから先起こる出来事に、ほんの少しの期待と不安を抱いた。

 

 

 





新ヒロイン。母性溢れるダンディママ。これは流行る。サワロ先生は良いキャラでしたね。

前回の少女の名前がハシバミと言うことになりました。会話ではハッシー、地の文ではハシバミになります。そのうち直すかもしれません。

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