元凡人による悪への道のり~裏ボス枠になるために~   作:悪なれず

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どうやらこの小説がルーキーのランキングに載ったようです。
仕組みはよくわかりませんが、沢山の方が読んでくれたと言うことでなのでしょう。
嬉しいです。感無量です。涙と鼻水で前が見えません。ずびび。


13

 吾輩は無戸籍のホームレス孤児である。

 

 一時的に相棒として手を組んだハッシーことハシバミの配送業に付き合い、数え切れぬ冒険をした。

 

 ディグダの穴を通る機会があれば、行って彼らに石を当ててしまい怒らせ追いかけられ。

 トキワの森を通る機会があれば、ビードルを踏んづけてしまいスピアーの群れに追いかけられ。

 いわやまトンネルに行く機会があれば、擬態したイシツブテに座ってしまい追いかけられ。

 

 そうして数々の困難を友と乗り越えた果てに手にしたもの……そう、自分と言う存在の証明。

 

「――おめでとう、オトギリちゃん」

 

 お昼過ぎ。

 

 例の洒落たバーに来訪して早々、満面の笑みを浮かべたママさんの大きな掌から手渡してくれるもの。

 汗ばんだ手でそれをそっと抓み、痛い程に熱くなった頭と目でしっかりと視界に収めるのは『トレーナーカード』だ。

 そしてそこに刻まれた『オトギリ』という名前。死んだ目をした子供の横にそっと添えられたその名前こそ、自分と言う存在が生誕した瞬間でもあった。やったぜ。

 

 

「よく集めきったわねぇ」

 

 まあね。後出しで色々と条件を付けたら、値段も時間も当初の倍以上になっちまった。そのお陰ですごく大変だった。

 

 班長からお仕事を沢山もらって、売人には多めに試合に出して貰って、ハシバミには危険度の高い仕事を受けて貰った。

 あいつすげぇわ。俺のこと抱えながらポケモンから逃げ切れるんだもん。その後普通に怒られたけど。

 でもお前、俺よりやらかして俺が助けた場面あったし、お賃金も沢山もらったから、とんとんだよね。半年以上何もしないで暮らせるって言ってたし。

 

 勿論、ポケモン達にもそれ相応の苦労を掛けた。特にマンキー。もうあの生ぬるい環境でこいつに勝てる未進化ポケモンはいないね。はたき落とす覚えたからゴーストタイプも潰せるし。ゴミ技だから回数が必要だけど。ふんどのこぶし覚えてくれませんか?

 

「ママさん、もっと俺の名前呼んで」

「あらあら……ふふ、いいわよ、オトギリちゃん」

 

 あぁ~。存在が確立していくんじゃあ~。

 

 名前を呼ばれる度に、じわじわと自分が世界に広がっていく気がする。嬉しい反面、逃げ道を塞がれているようで、少しだけぞわぞわとした感覚が背中を伝う。

 

 苦節半年前後。寒い時期に憑依した所為で、何もかもが足りないこともあって何度も死にかけた。

 寒い日は縮こまって熱を抱え込み、ヒスイゾロアが慣れてからはひっついて暖を取るように過ごした。

 マンキーにも、捕まえてからしばらくした後、暖房代わりとして活躍して貰った。ちょっと怖かったけど。勝手にボールから出てくるんだよね、このサル。

 あの日々からだいぶ前に進んでいる。

 

 ちなみに相棒(仮)はいない。さっきママさんから数日前から家に籠ってるって説明された。

 俺も班長から仕事受けてたりした所為で、一週間くらい会ってなくて近状を全く知らなかった。

 

「俺が何かやらかしたら名前消せるの?」

「ええ、そこは大丈夫よ。ちゃんと言われた通り、貴方に何かがあったら、登録されたデータベースから名前が消されて追跡不可能になるはずだわ。お高い値段を払ったんだから、それくらいはやって貰わないと」

 

 ポケモン世界って割と無法地帯だから、少し何かやらかしたくらいでどうこうなる事はないと思うけど。

 ごろつきとか暴走族とかさ、あんなのでもトレーナーカード持ってんだから。生まれで全部持ってるってずるくない?

 

「ハッシー大丈夫かな」

「そうねぇ……。オトギリちゃん、どうせならお見舞いに行ってみる?」

「風邪?」

「うーん……ちょっと体調を崩してるのよ。移る物じゃないから大丈夫」

 

 あ(察し)

 

 まあ女の子だもんね。そう言う日もあるよね。

 これ俺が行って大丈夫か? ママさんの方がいいんじゃない?

 生物学的には男だけど、ママさんは字面も言動も女寄りだし。

 

「そろそろ良くなってる頃合いだと思うし。それに、貴方に会えたら嬉しがると思うわよ?」

 

 そっかぁ。ママさんが言うなら行くわ。何かと世話になってるし。

 

「もし行くなら、ついでにあの子に荷物を届けてくれるかしら」

「いいよ」

「ありがと。少し待っててね」

 

 断る理由はない。

 どこか楽し気なママさんから紙袋を受け取って中身を覗く。

 すっぽりと収められた正方形の箱の上に、白いビニール袋に入れられた物がちらほら。

 受け取った紙袋が、少しひんやりしているような気がする。

 

「お見舞いの品。ハッシーには私から連絡しておくから。あと……はい、予備の鍵。エントランスインターホンと、ハッシーのお部屋のやつ」

 

 ふぁっ!? 予備の鍵渡すのはいかんでしょ!

 

「あら、大丈夫よ。オトギリちゃん、ある程度の線引きはしてるでしょ?」

 

 まあ流石にママさんの信頼裏切ることはしないけど。今日は俺にとって目出度い日だからそう言う考えもないし。

 

 さて、出かけよう。移動シーンはばっさりカット。

 記憶を頼りにハシバミの住んでいるマンションへと向かい、警備員に挨拶してから予備の鍵を機械に差し込んで自動ドアを開く。エレベーターに乗り込んで三階に上がり、そのままハシバミの借りている部屋の前まで辿り着いた。

 ここまで道中でのイベントは一切なしである。……これインターホン鳴らして出迎えさせた方がいいのかな。人に寄っちゃアホみたいに辛いらしいけど。いや、一応鳴らしておこう。

 

「ハッシー入るよ」

 

 ピンポーン、と。どこか懐かしい、聞き慣れたインターホンを鳴らして呼びかける。……返事はない。

 五分くらい待ったけど反応がないから、仕方なくエントランスで使った物とは違う予備の鍵を使ったらをあっさり解錠できた。

 こいつチェーン掛けてない。危機感が足りない。俺が代わりにやって置く。

 

 何足か靴の置かれた玄関に上がる。電気がついてないから薄暗い。

 目の前には一直線に続く通路。大人二人がすれ違える程度の横幅。左右に扉が一つずつ。最奥に曇りガラスのドア一枚。

 

「ハッシーどこー」

「こっちー」

 

 名前を読んだら奥から声が聞こえた。靴を脱いで通路に上がり、曇りガラスのドアを開く。

 

「いらっしゃい」

 

 真っ先に目についたのは長いソファー。その上には、頭をこちらに向けて寝転がっているハシバミがいた。ソファーの向かい側に大型のテレビ。間に挟まるように小さな丸テーブル。

 

「暗い」

「暗い方が落ち着くんだ。我慢して」

 

 文句を言うと、ハシバミが寝そべったままそんな事を言ってきた。まあ招かざる客だからどうこう言う気はないが。

 でも流石にキャミと短パンは良くないと思うの。お腹冷やすから、前に見せてくれたピカチュウのパジャマ着なよ。

 

「これ、ママさんに渡すように言われたやつ」

「ん、ありがとう。ちょっとこっち持ってきて」

 

 警戒心を持って欲しいよね。

 言われた通り紙袋を渡すと、一旦近くの丸テーブルに置いてから中身を取り出した。

 

「……あ、ナッツある。チョコも。嬉しい。こっちは……」

 

 物色で忙しいハシバミを余所に、部屋全体を見渡す。

 

 ソファー、テレビ、丸テーブル。フローリングの床。あっちはリビングが見えるキッチン。……物が少なくて殺風景だけど良い部屋だな。

 

「良い部屋だね」

「ママに紹介して貰ったんだ」

「俺のテントより住み心地良さそう」

「比較対象おかしくない?」

 

 僻んでるんだよ。

 

「どうせだから少しゆっくりして行きなよ。今からお茶入れてくるから。そのソファー座って待ってて」

「お構いなく」

 

 定型通りの文句を口にしてソファーに座る。ハシバミは箱だけ持ってキッチンに戻って行った。ケーキか何かの生ものなんだろうね。

 おぉ……いい座り心地だ。座れるし寝られるって、良い家具だなソファー。俺も欲しい。あの拠点に置くとこないけど。現物支給で貰ったキャンプチェアで我慢しよう。

 

「飲み物持ってきたよ」

 

 ことりと丸テーブルに湯呑が置かれる。……うーん?

 

「なにこれ」

「塩昆布茶」

 

 渋い。そしてこの西洋風の部屋ではあまりにも不釣り合い。

 お茶請けはママさんがビニール袋に入れてくれてた奴で……え、なにそれ。甘納豆?

 全体的にお婆ちゃんみたいなチョイスしてんな。

 

……あ、でも美味いわ。甘いのとしょっぱいの交互に口に入れると結構合う。

 やべぇよ、お爺ちゃんになっちまうよ。

 

「トレーナーカード貰ったんだってね」

「貰った。オトギリになった。名前呼んでもいいよ」

「はじめまして、オトギリくん」

「ふひひ」

 

 なんか照れる。

 

「……折角だからアンタのこと教えてよ」

 

 プロポーズかな。

 

「例えば」

「んー……どこで生まれたとか、どこに住んでるのかとか、好きな食べ物とか……趣味とか? なんでもいいよ、仕事仲間のことを知りたいってだけだから。嫌ならいいけどね」

 

 お見合い……?

 

 出会ってそんなに経ってないけど、この小娘のお陰で早い段階で、しかもかなり良い身分証が手に入ったから、自分の事を語るくらいなら別に良いか。話せること殆どないけど。

 

「どこで生まれたかは知らない。

気が付いたらタマムシの路地裏にいた。

住んでる場所はタマムシ。隅っこの空き地みたいな場所でテント張って暮らしてる。

真面に食える物なら別に何でもいいよ。

趣味……デパ地下の食品コーナーでつまみ食いする事」

「重いんだけど」

 

 聞いてきたのお前だぞ。ジト目で見てくるのやめろ。

 

「ちゃんと食べれてる?」

「下請けの仕事貰ってからはそれなりに色々できるようになったよ。お風呂も入れる。ハッシーにくっ付いて貰える仕事の金が多いから、今ならもっと良いの食える」

「……前までどんなもの食べてたのか聞くのが怖いんだけど」

「個人的に一番衝撃的だったのは、俺のことを殺そうとしてきたコラッタ達かな。路地裏で死にかけてたから焼いて食べた。不味かった」

「ねえ重いってば」

 

 まあ、殺そうとしたと言うか、殺されたんだけど。懐かしいな。あれ以降、コラッタを口にすることはなくなったが、今でも俺にとっては怨敵である。見つけ次第威嚇して追い払っている。

 

「ハッシーはどんなんよ?」

「少なくとも、アンタほど波乱万丈ではないと思う」

 

 俺の異例中の異例だから気にしなくていいと思う。

 

「普通に暮らしてたら、お父さんとお母さんが失踪して、親戚をたらい回しにされて、最終的に今のママに拾って貰った。昔は自分で仕事を探してたけど、ママが危ないからやめさないって。今はママが仲介したのをやってる。親戚に聞かされたけど、仕方なく産んだんだってさ、わたしのこと」

「親族ガチャ全般的にクソだけど、ママガチャは大当たりじゃん」

「なにママガチャって」

 

 この手のスラングって結構先の話だから、今の時代だとまだ通じないのかな。

 

「このあと用事ある? ないならもう少し付き合って欲しいな」

「知り合いにトレーナーカード自慢しに行くくらい。何話せばいい?」

「適当にだらだら話してくれればいいよ。そう言う気分だから」

 

 なんか今日やたら素直だなこいつ。いつものクール感なくなってる。

 透明度が上がったと言うか、このまま『一緒に死んで?』みたいなお誘いがきそう。

 せめてラスボスとして死なせてくれ。

 

「じゃあ、はじめて仕事貰った時の話でも――」

 

 

 

 

☆☆☆

 

「ママに貰ったケーキ食べない? そろそろおやつの時間だしさ」

 

 お互いに、ぽつぽつと思いついた話題で話している最中、不意にハシバミがそんな事を言った。

 そう言えば一個だけデカい箱があった。豆とかチョコを食った所為で、割と満腹中枢が落ち着ているんだけど。

 

「俺とって来ようか」

「いいよ、大丈夫。座って待ってて。お茶のお代わりいる?」

「じゃあくれ」

 

 ケーキなんていつぶりだろ。

 この体になってからお徳用のお菓子を皆でシェアしてたから、ケーキみたいな小洒落た洋菓子食ってないわ。買う気もなかった。

 ポテチとか、煎餅とか。あとあのあれ、美味しい棒。

 

「はい、紅茶とケーキ。まだあるからお代わりしても大丈夫だよ」

 

 小さなトレイの上に置かれた、チョコケーキの乗った皿と紅茶の入ったマグカップを受け取って丸テーブルに置く。

 このケーキ、横に添えてあるチョコ板に『ハッピーバースデイオトギリ』って書いてる。おしゃれー。

 

「……リアクション薄くない?」

 

 まあ、流石に気付くよね。

 見た目は子供だけど中に入ってるの成人男性だし。サプライズで喜ぶ精神年齢でもないからなぁ。

 

「……余計なお世話だった?」

 

 あー、やめて。不安そうな顔しないで。病人(仮)にそんな顔されると罪悪感湧いてくる。

 

「あんまり表に出てないだけですごく嬉しい。ここに来てから祝って貰った事ないから」

 

 穴だらけだけど、憑依元の記憶も少しくらいはあるのよ、俺。

 そのひとつにケーキ関連の記憶がある。

 いつの話か、この子供がケーキ屋の外から、店内に並んであるケーキをショーウィンドウ越しに見てたことがある。

 家族連れがそれを楽しそうに買うんだけど、こっちはきったねぇ格好で漁ったゴミを引き摺って帰る途中なんだよ。

 

――惨めだった。

 

 この子供が何を感じていたのかは知らない。

 けれど、俺じゃない俺の記憶を見た俺は、寂しさと悔しさを綯い交ぜしたような、或いは、ぽっかりと胸に穴が空いたような。どことなく矛盾した感覚を覚えていたような気がする。

 俺もいい加減、この体に愛着が湧いてきているのだ。お気に入りが不当な扱いを受けてたら嫌だろ?

 

「嬉しいよ。本当に」

 

 だから、感謝しているのは本当だ。嘘じゃない。

 

「ほんと嬉しい。ありがとう。ママさんにも言っておいて」

 

 参ったな。

 子供の頃って、どうやって嬉しいの気持ちを伝えてたっけ。思い出せない。

 大人になると、純粋な気持ちで感謝する機会って減るんだよね。下心の方が多くなると言うか。

 

「……そっか。もしまた祝う事があったら、今度はもっと喜んでよ。わたしもママも、そっちの方が嬉しいから」

 

 そうする。出来たらやる。

 

「あ、これ持ち帰りできる?」

「しんみりした空気壊さないで」

 

 ごめんて。

 でもシリアスを長続きさせても仕方ないかなと思ったんだ。良かれと思って。

 

「……マンキーにもあげたいの?」

「うん」

「じゃあ、ここで食べさせなよ。他にも色々な味があるけど、どうする?」

「任せる」

「お代わりいる?」

「いる」

 

 お代わりは俺の分じゃなくてヒスイゾロアの分だけど。流石にこの空気なら一緒に食べたい。食わせないと拗ねるから。

 

 頑張って幻影で隠れてくれ。頼む。ばれそうになったら……頑張れ、なんとかしろ。

 

 

……4月1日。誕生日。次もあるといいな。

 

 フォークに刺したケーキを口に運んで。何となく、そう思った。

 

 

 




祝。主人公、ネームドキャラになる。偶にはこんなしんみりしたお話も良いよねっていう。勢いで書いたけど楽しかった。
こういう地道な積み重ねが、将来的に曇らせとかヤンデレとかに繋がると思うんです。
重くなれ重くなれ……。

本当は4月1日の当日に投稿したかったんですけどね……。なんでこの日にしたかって?
何かがはじまる日って感じがしません? あとエイプリルフールだから。
弟切草を考えるなら初夏くらいがいいんですけどね。

ちなみにオトギリ君はこの世界に来て半年くらいなのは感覚です。知らんけど。割と適当に考えた。

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