元凡人による悪への道のり~裏ボス枠になるために~ 作:悪なれず
長くなったので前編と後編で分けて投稿したいと思います。
のんびり、休み休み読んでいただければ幸いです。
あとポケモンチャンピオンズ楽しい。一日に二回くらいしか戦わないけど。
「なるほど、確かに、出資者が増えればその分早く計画が進むね。良い考えだと思うよ」
適当な暇を見つけてエノキさんと合流。向こうは友人との会食と言う名目だ。喫茶店ご飯奢って貰った。美味しい。
彼以外のパトロンを増やすことを視野に入れていると言う話を通しておく。大抵のことはこちらの判断でやれるが、念のためお伺いはしておこうかと。
候補者はママさんに一任しているが、今はまだ少し忙しいため、時間が取れ次第、本格的に話を進めてくれるそうだ。アドバイスだとか諸々もその時にしてくれるとのこと。ちなみにママさんの存在は知らせていない。矢鱈滅多ら知り合いを説明するの怖いし。
「そうだ、オトギリ君。実は僕からもキミを誘いたい場所があって」
他に報告する事あるかなぁ、等と考えていると、エノキさんが何やら気恥ずかし気な表情でそんな事を口にする。やめろよ、おっさんとのラブなんて誰も望んでないんだから。
「近々クチバに泊まるクルーズ客船で、富裕層向けに表に出せない非合法なポケモンバトルが開催される海上パーティがあってね。……どうかな。勿論、金銭面は私が出すから問題ないよ」
同じ趣味の仲間を見つけたから、勇気を出して頑張ってお誘いした感じかな。
分野は違えど同じオタク仲間だ。俺は悪役。お前は非日常。そこになんの違いもありゃしねぇだろうが! 是非とも応えてあげたい。
「いつから?」
「来週から数日だよ。僕はちょっと、この時期は仕事や集まりの都合で最後の日にしか見られないけれど、キミが望むなら初日から見られるように手続きしておくよ」
なんか変わったな、この人。良い意味で。
元々、ポケモンバトルに対する熱意はそれなりにあったけど、今はこう……欲望に素直になった気がする。
と言うか、行動が早くないか。どこでそんな伝手を拾ったんだ。これが前向きになったオタクのパワーか。強い。
取りあえず、ご厚意に甘える事にしよう。
金持ちの食事とか出てくるかな。ワイン飲めないから葡萄ジュース出してほしい。
☆☆☆
――エノキさんに教えられたイベントが開催される二日前くらいに、遅刻しないようにとクチバシティに来た。寝泊まりはポケセン。使わない理由がない。
クルーズ客船に乗れるようになる日まで、休暇代わりにマンキーを鍛えたり、誰にも見られない場所で童心に帰ってヒスイゾロアとおいかけっこをしたり……兎に角、ゆっくり休んだ。
どう過ごしても、日付は変わる。
訪れた当日の夜。夕飯を食べ、数日分の着替えを詰めたリュックを背負い、護衛代わりのマンキーを引き連れてエノキさんが口にしていたクルーズ客船に向かった。
夜間。潮のにおいが鼻腔を擽るクチバシティの港。
港周囲は、以前、裏賭博で足を運んだ時よりも整備されている気がした。良い感じに明るいと言うべきか、足元だけが見えやすいと言うべきか。
港を奥へと進んで行くと、ドンと大きな船が海上に浮かんでいた。タラップを使って乗船する来客者たちを、漏れ出る明かりがほんのりと照らし出している。
スーツやドレスを着こんだ富裕層に混じってタラップを進む。
マンキーが一瞬だけ躊躇していたように見えたが、渋々と言った感じで着いてきた。こいつまだ船が駄目なのか。ひっこめる訳には行かない。護衛として付いて来てもらわないと。
一般的な格好は場違いなようで、マンキーの存在も相まって、何人かには不思議そうな顔をされたものの、呼び止められたりすることはなかった。まあ肩にペラップ載せてる人とかいるし。
思っていたよりも幅の狭い通路を抜けると、打って変わって広すぎると言っても過言ではないアトリウムが、視界一杯に広がった。
吹き抜けの階段、ツルツルした大理石の床、シャンデリア――。
キラキラと煌めく空間は、まるでゲームやアニメ、漫画の世界に来たような気分だ。……ポケモンってゲームが原作だし、アニメも漫画もやってたな。
壮大な光景に圧迫されながらも、大人たちの列に続いて歩を進める。
行進はゆったりとしているが、決して遅くはない。視界の端では静かに談笑しながらこの場から去って行く乗船者たちの姿が見て取れた。
品のある彼らに混ざって行動していると、まるで自分が富裕層になったような気分になる。のそのそと後ろをついて来るマンキーも、そうだと同意している。知らんけど。お前なんか顔色悪くない?
いつの間にか列が進んで先が見えてきている。早かったな。列の横に顔を出して前方を確認する。えー……タキシードを着たウェイターがいる。あの人が受付とか案内人かな。さて、富裕層の使う豪華客船の部屋ってのはどんな感じなのかな。凄く気になる。楽しみだ。
――翌日、微かな揺れに目を覚ました。
軋むパイプベッドから起き上がり、しょぼしょぼした目をぼんやりと彷徨わせる。揺れの正体は船そのものだったようだ。風か、波か……その辺りだろう。
あの後、案内された部屋で寝泊まりして、そのまま朝になったようだ。
ユニットバス、ビルトインクローゼット、アンテナ付きテレビ、それを支えるテーブル、パイプ椅子、パイプベッド、鍵付きサイドテーブル、在り来たりなランプ、デジタル時計……。
最初に部屋を見た時の感想は『こんなもんか』の一言に尽きる。おひとり様専用のビジネスホテルが浮かんだ。
いや、別にこれが悪い訳じゃなくて、富裕層を招くクルーズ客船の部屋がこれなのはだいぶ違和感がある。パイプ椅子とパイプベッドってお前……。
とは言え、すべすべしたシーツの触り心地や、パリッとした折り目を見るに、部屋を綺麗にしようとしている努力は見て取れた。ぶっちゃけ、風呂トイレがある時点でテント暮らしよりも上等だ。まだホームレス生活脱却できてないからね、俺。
洗顔等の身支度を整え、自前の荷物を詰め込んだリュックを背負って部屋を出る。貴重品を部屋に置いておく勇気はない。部屋にカメラが仕込まれてるかもしれないと言う不安で、ヒスイゾロアもボールから出していない。
いつか『ま、まさかそいつは……っ!』みたいなシチュエーションやりたいよね。
アホな事を考えつつも部屋を出る。案内された部屋の外は妙に薄暗い雰囲気があった。
偶然、別室から出てくる同じ船の同乗者が視界に入る。なんだかクルーズ客船には少々似つかわしくない感じがした。顔とか雰囲気が明らかに堅気じゃないんだよね。
スキンヘッズとか、山男みたいな奴とか。一般トレーナーを仄暗くした感じ。
とは言え、向こうからしたら一人で出歩いている俺も異端だろう。軽く会釈をして食堂に向かう。
料理はとっくに用意されていて、所謂バイキング形式だった。数種類のパン、ソーセージや目玉焼き、各種ジャム、その他諸々。思っていたより普通な洋風。隅っこにポケモンフードや木の実まである。
自分の分を盛り、デカめの餌皿にポケモンフードを山のように盛る。
クロスの掛けられたテーブルに料理を置き、ポケモンフードの入った容器を床に置く。まずはマンキー。それから、テーブルクロスの内側にヒスイゾロアを出す。
最近俺の意志を汲み取るようになったこいつは、能力で姿を隠しているに違いない。傍から見ればマンキーがアホみたいに食っている絵面だ。
「――おいおい、なんでここにいるんだよ……」
もそもそバターを塗ったトーストを齧っていたら、後ろから声が掛けられた。
「……あ、俺を捨てて仕事をとった売人」
「人聞きの悪いことを言うな」
ギルドで絡まれる新人イベントかと思えば、なんとここ数日連絡さえ取っていなかった件の売人が、どこか呆気にとられた様子で俺を見下ろしていた。
「座るぞ」
返事を聞く間もなく向かい側に座られる。食パン一枚とコーヒーだけだと? 気取りやがって。もっと食え。
「で、なんでいるんだ?」
「知り合いに誘われて」
「だからってお前……幾ら金に困ってるからって、こんな所にまで来る必要はないだろ。流石に今のお前じゃ選手として参加するにはきついぞ」
「選手じゃないけど」
「……は? いや、ここの区域は試合関係者のために用意された場所だぞ」
は?
――藻掻き足掻くトレーナー達を肴に酒を嗜みたい。
明確な支配人はいない。ふと思いついた誰かが声を掛けて有志を募り、各々が匿名で自発的に出資する事で成り立っている裏の催し。
誰が幾ら出したとかそんな事を敢えて語らず、自己顕示欲と承認欲求のためだけに金をばら撒く行為。
非常に低い頻度で、極々稀に開催される、趣味趣向の悪い金持ちたちの娯楽だった。
観る側ではなく、選手として参加する方法は主に二つ。主催者側が匿名の招待状を送るか、参加したい本人が、自分達で伝手やコネを作って売り込むか。
方法が方法なだけに、無名は勿論、多少名の知れたトレーナーもいるそうだ。
「一応、主催側……と言うか、観客側として参加するなら、それはそれで招待状があるんだが……持ってるか?」
「何もないね」
「逆になんでここに来られたんだ?」
招待状ナシ。コネや伝手と言うと……エノキさんになる。ここの招待は彼からのお誘いだ。
うーむ、裏切りか、はたまた双方の連絡ミスか……。帰る事が出来たら詰め寄る必要がありそうだ。
後者ならお互いに気をつけようねで済むが、前者なら何れ報いを受けてもらう羽目になる。
参加するならそれに関する招待状が必須な訳で。でも俺はどっちも持ってなくて、それでここまでこれたのは、売人の言う通りやっぱりおかしいのよね。
「あるとしたら、勘違いだな。お前のマンキーは、知ってる奴は知ってるレベルだから、もしそれを見せびらかしてたら、招待状を確認する間もなくこっちに参加させられたのかもしれない」
護衛としてボールから出して連れ歩いてたわ。今も飯食わせるために出してるし。
なるほど、だから俺は見る側じゃなくて参加する側の部屋に案内されたのか。案内した奴とんでもないポカやらかしてんな。クビ切られそう。
「……まあ、お前が本当に観る側で参加してたなら、向こうのミスではあるんだが……どっちかの招待状すら持ってないしなぁ」
どうしてこんな事になってしまったんだ。ただちょっと非合法な賭け事に参加して金持ちの食い物を楽しみたかっただけなのに。俺の何が悪いと言うのか。
「あー……主催だとか観客だとかは無理だが、選手としてなら俺から口利きしてやれるぞ。
メリットは選手として参加すれば幾らかの金が貰えるってことと、少なくとも、即バレして海にドボンって展開はなくなる。
デメリットは、一度この路線で登録したら、少なくとも、今回の間は観る側に混ざるのが難しいことだな。それとここの区域から基本的に出られない」
「選手になるわ。……なんで口利きできるのさ」
「こっちにいる連中に臨時で管理を任された。誰もやりたがらねぇから俺にお鉢が回っちまった」
貧乏くじを引かされたのかもしれないけど、凄い出世してるな、こいつ。とてもポカをやらかして商品を駄目にした男と同一人物とは思えない。まあ、失敗したのは同僚に足引っ張られた結果らしいけど。
「匿名で良いか? と言うか、匿名にしておけ。子供が参加するのだけでも前代未聞なのに、下手に名前が知られると動きづらくなるからな」
「名無しの権兵衛でいいよ。ていうか降ろせないの? 俺のこと」
「規定上、お前みたいに無断で入ってくる奴は、見つけ次第、目隠しと拘束具のセットで何もない部屋に閉じ込めて、終わるまで眠らせておくんだ。起きる頃には記憶処理を施されて、船でのことは覚えちゃいない」
急に怪しい技術出てきたな。
「……ちなみに、どうやって?」
「専門の訓練を受けたポケモンにやらせるんだよ。頭の中を少し書き換えて、ここで見聞きしたことをぼんやりと忘れてもらう程度だ。完全には消せないからな。……偶にミスってイカレちまうし」
最後の台詞が怖いんだが。ちょっとこいつの闇が垣間見えるな。
「まあ、参加は夜だ。それまでゆっくり休んでくれ」
当初の予定とは外れるが、ここは選手として参加してやろうと思う。
金持ち連中に俺の実力を見せつけ、カントー版バトルテントのパトロンとして出資して貰おうじゃないか。マンキーいれば余裕でしょ。
――悲報、オトギリ選手、まさかの一回戦にて予選敗退。
夜。トーナメント戦。無駄に広い大部屋で複数同時のバトルロイヤル。手持ちの選出は一体。鉄製の棒四本を支柱に、ぐるっと鉄線で囲んだ大き目の簡易的なリングは、特殊な電磁波によって選手とポケモンをリング外に逃げられないように工夫されていた。
俺は意気揚々とマンキーを選出――したのだが、試合が始まるや否や、参加者の内ひとりが場に出したゴーリキーによってぶん投げられたマンキーは、電撃の流れる鉄線に巻き込まれ、あっさり戦闘不能に。ギミックが危なすぎる。
何が怖いって、勝者がひとりになるまでは俺もリング内に閉じ込められることだ。お陰でマンキーをボールに戻してから、他の連中が戦っている中、ただ只管に逃げ惑う事しかできなかった。ZAロワイヤルよりも性質が悪いのでは……?
「ほんとさぁ、困るんだよね、こういうの。頭陀袋を用意する暇があるなら、ルールの説明してくんないと」
で、俺は売人にクレームをつけている。
見ろよ、この憐れなマンキーの姿を。無表情だけど俯いていじけてるじゃないか。ヒスイゾロアもボールの中から心配そうに見ている事だろう。知らんけど。
ちなみに試合中、俺は前みたく売人によって頭陀袋を被せられた。なんで持ってんの? 常備してんの? 身バレ防止らしいけど、本当に意味があるのかこれは。
「悪かった、いやマジで。俺もこの行事に参加するのは初めてで、そこまで詳細な内容は知らなかったんだ。
でも良かったじゃないか。少なくとも、この後は特に何もしなくて済むぞ。終わったら金を受け取ってバイバイだ。デスマッチじゃないから死ぬ事もないし」
まあ、確かに、死ななければ安いと言う言葉はあるが。けれども期待くらいはすると思う。
大型イベントで引かせて貰える無料十連ガチャに対して『目玉キャラが出るかも』と言う期待を抱かずにはいられないのである。それがとても低い確率だったとしてもだ。悲しい性だなぁ。
「半分くらい八百長試合みたいなもんなんだよ。金持ち連中が目を付けた本命のトレーナーが、出来るだけ勝ちやすいように組んである。
このあと似たようなやり方で何戦かやって、数を絞って、最終日に残った奴らがメインイベントとして見世物にさせられるのさ。
あっちの共有スペースに置いてあるモニターで試合を見れるから、見に行くのも良いと思うぞ」
「今もやってる?」
「録画されてるからいつでも見られるぞ。誰が何を見るのか揉めてるかもしれないけどな。夜更かしするなよ、負けても終わりじゃなくて敗者復活戦があるから」
「え」
――衝撃発言の真意を知る機会はすぐに訪れた。
初日で選別を終わらせたかったらしい運営側の思惑もあり、最初に負けて以降、俺は日付が変わるのも含めて五回くらい戦わされた。死ぬほどしんどかった。死んでしまう。
同士討ち、瀕死ポケモンを盾にする行動、倒れたポケモンに紛れ込んでの不意打ち、電撃バリアに突っ込ませてからの自滅狙い――。
最初の試合でワンパンKOされた事で、現段階の強さをある程度認識した我が家のマンキーは、真正面からやり合うよりも、漁夫の利を狙って確実な勝利をもぎ取る選択肢をとったようだ。
後半になるにつれて他の選手たちもマンキーを多少は警戒していたのだが、やはり大型や進化系の方に思考が割かれるため、その隙を突いて勝ち星を獲得。
そうやってコソコソ戦っていたら、敗者復活戦を全勝。そのまま見事に最終試合へと参加する権利を手に入れてしまった。うちのサルのポテンシャルが高すぎる。
聞くところによれば、観客からの評判は悪くないそうだ。
勿論、自分がパトロンとして出資していたトレーナーが、俺のような名もなきモブに負ける事には、多少思う事もあるだろう。
ただ、そもそもな話、このイベントは利益度外視で楽しむことが重要。心にゆとりがない奴は呼ばれないのである。実際はどうなのか知らないけど。
で、選別が終わった翌日から最終日まで、全ての選手にお声が掛かる事はない。
勝った奴は最高のパフォーマンスで挑むためにゆっくり休め。負けた奴は大人しくしてろ。バトルも禁止。危ないことはするな。そう言う事らしい。
やれることがないため、基本的には部屋に籠ってゴロゴロして過ごしていた。
売人に聞いたら部屋にカメラを仕掛ける事はないと言われたので、念のため能力を使わせた状態でヒスイゾロアをボールから出し、適当に構ってやる。
だってボールから出さないと抗議してくるし……。反抗期突入か?
仮にカメラが仕込まれていたとしても、能力を使っていれば機械越しなら空間が陽炎のように歪むだけで、本人の姿は映し出されないはずだ。
違和感はあるかもしれないが、必要以上に問いただしてくることはないだろう。
ああ、そうそう。最終日の試合に参加する選手にはちょっとした特典もあった。
バイキング形式の食事以外に、個別の料理が提供されるのだ。分厚いステーキとかロブスターみたいなデカいエビとかそんなん。こいつらポケモンか? それとも現地の家畜なのか?
貧乏舌なためよくわからなかったが、凄く美味しかったのを覚えている。いつか自分の金で腹いっぱい食いたい物である。
――さて。
時間が経ち、最後の夜。
最終日に行われる試合は、メインイベントなだけあって少し毛色が違った。
舞台は船の中心部にある隠し部屋。部屋の大きさは、事前に売人に教えてもらったところ、高さは五、六メートルくらい。広さは二十五メートル前後。電撃のようなギミックはない。純粋なぶつかり合い。天井の四隅に監視カメラ。
勝ち上がっただけあって、同室にいる対戦相手も強者っぽさがある。
例えばほら、ゴーリキーの横で座り込んでる半裸の格闘家が色んな意味で目につく。寒そう。風邪引くから服着た方がいいよ。
……あのコンビって、初戦で俺のマンキーをぶん投げた奴じゃないか?
風邪引け。海に落ちろ。ペッ。
まあ、個人的な恨みは横に置いておこう。
ハッサム、ウツボット、ゲンガー、ウインディ……殆どが最終進化したポケモンばかりだ。今のマンキーでは太刀打ちできない。
そして何より、一際ヤバそうなのは、間違いなく壁際でじっと立っているあのポケモンだろう。
ごつごつとした暗い緑色の肌。刺々しい背びれ。太い尻尾。腹部をくり抜いたような青紫色の菱形模様。
バンギラスである。
やべぇよ、六百族が来ちまったよ。厨ポケ使って勝ちに来るのやめろよマジで。
どうすんだこれ、大丈夫か。リタイア? 出来ない。原則として認められないと言われた。調子に乗って勝ちに行ったことを後悔している。
『――間もなく試合が始まります。各選手はお互いに距離をとってください。確認次第、カウントダウンを行います』
スピーカー越しの指示を聞いたポケモントレーナー達が、各々の手持ちと共に決めた位置につくと、然して間を置くことなく、宣言通りにカウントダウンの声が響きはじめる。
不味い、何の対策も出来ていないのにはじまってしまう。
ええと、ウインディを援護してあの二匹を相手させて、でもバンギラスが怖いからハッサムとゴーリキーを誘導して、ゲンガーはバンギラスで睨ませて――
『――二、一。スタート』
――もうどうにでもな~れ。
後編は同日の21時頃に投稿します。