元凡人による悪への道のり~裏ボス枠になるために~ 作:悪なれず
なるべく平和な回を目指しました。
『グレンタウンで大規模火災、屋敷が炎上。住民に避難勧告。
カツラ氏らによる尽力もあり負傷者ナシ――」
サカキさんとの出会いから少し経つ。学生達の夏休みも、予定通りなら既に終わりを告げている時期だ。
グレンタウンにある、例のポケモン屋敷が火災に見舞われたと言う事件は、瞬く間に報じられた。
新聞の見出しやニュースのワイドショーも、連日この内容を報じていたものの、数日すれば途端に鎮火され、今ではネットの片隅で実しやかに囁かれる程度にまで鳴りを潜めている。
『グレンタウンからなんか飛び出したくね』みたいな書き込みがちらっと視界に入る程度で、『嘘乙』『ズバットやろ』『おはポッポ』『頭サイホーン』だとか、そんなふざけたやり取りが確認できた。
あまりにも早すぎる沈静化の要因が、間違いなくロケット団の隠蔽工作であることは想像できた。
あれだけ大規模に色々やらかしてるんだ、隠蔽のためにテレビやメディアに金をばら撒いて繋がりを作っていてもおかしくはない。ていうかテレビが主流だから絶対手を出してる。
掲示板に携わっているかどうかは知らない。
ロケット団がこれにまで手を出していたら面白いけど、それはそれとして、悪の組織がJ民みたいなことしてたらなんか嫌だな。……もし仮に、サカキ様がレスバしてたら、ちょっと笑いを堪え切れる自信がない。
そして、グレンタウン……というより、研究場所のポケモン屋敷から飛び出したのはミュウツーなんだろうけど、結局原作通り最後はハナダの洞窟に逃げ込むんだろうか。ミュウツーの所在を把握しきれていなければ、ちょろっと情報を流して恩を売るのもアリかもしれない。
「――オトギリさん、勤勉なのは大変よろしいですが、女子二人を放って没頭するのは如何なものかと思いますよ」
新聞の切り抜きから胡散臭いオカルト誌まで幅広く雑多に情報収集をしていると、むすっとした表情のエリカに声を掛けられた。
――なんと現在、エリカ宅である。
切っ掛けは、彼女の父であり俺のパトロンことエノキさん。
向こうが多忙な事もあってめっきり会える頻度が減っており、数日前に定時報告と称して喫茶店で会ったら随分と喜ばれた。
「すまない、妻と娘の目を誤魔化すのが大変でね。中々どうして時間が取れないんだ。
早く大手を振って会いたいものだよ」
とは彼の談。……なんか、こう、やだな。
いやまあ、秘密裏にパトロンになって貰ってるから、表沙汰にできない関係ではあるんだけど。台詞だけ聞くと誤解されそう。
ともあれ、多忙な理由は仕事もあるけれど、グレンタウンの事件以降、活発になったロケット団の行動も関係しているようだ。
大方、グレン関連で忙しなく動き回っているのだろうが、筋モンが我が物顔で闊歩してたら、一般市民からすればそりゃ恐怖の対象である。
一部のスクールでは夏休みの延期までされていると言う。社会に影響を与え過ぎだろう。
お陰で俺が住処にしているタマムシ在住のごろつきどもがピリついてしょうがない。
ちなみにミュウツーの居場所をまだ把握してないのではと予想したのはこれが要因だ。もしかしたら、実は場所は既に分かっていて、戦力増強のために団員を集めている段階なのかもしれないが。部外者の俺にはわからないことだらけだ。
……脇道に逸れた。エノキさんの話に戻るとしよう。
それは、彼との定時報告という名のお茶会が終わる頃だった。
「今度うちに遊びに来るといい。きっとエリカも喜んでくれる。友人がいるなら一緒に連れてくるといい。
……そこで今までのやり取りを少し深めに整理しよう。その時までに必要な書類を纏めておく。あと僕のコレクションも是非見てもらいたい」
以上である。これがエリカの屋敷に遊びに来る発端だ。こちらとしても、まあ裏賭博やごろつきで色々と稼げていたので、スロットで金を溶かすくらいなら大人しく御呼ばれしようと言う考えに至った。そのまま厚かましくも晩御飯まで居座ってご同伴させて貰えたらなという魂胆だ。
この人、俺のファンを称してるから、多分それくらいはやってくれる。
――さて、時間軸を現在に。エリカのお茶会に戻そう。
「ハシバミさんもそう思いませんか?」
「え、あー……うん……どうだろ……?」
タジタジだな。
ハシバミの仕事を手伝うついでに、厚意でしばらく彼女のマンションに泊めて貰っていたのだが、事前にエノキさんに会いに行く日程が決まっていた俺は、当日タマムシに帰ろうとしていた。
そうしたら、コスメがどうのこうので、ハシバミも行きたいらしく、じゃあ一緒に行くかと外出。ちょっとした用事を終わらせた彼女をなんとくエリカ宅に連れて行くことにした。
エリカと同じ十前後の少年少女という、完璧な布陣だ。あわよくばハシバミにエリカの相手を押し付けたい。結果は御覧の有様だが。もうちょっと頑張れよお前。……いや、お嬢様の距離の詰め方がえぐいのか。貰ったお紅茶で軽く喉を潤す。
こいつ和装なのに、部屋は洋風なんだよ。詐欺だろこんなの。
お茶請けはお饅頭じゃなくて高そうなケーキだし、家も和風屋敷じゃなくて、西洋のお屋敷みたいな感じだった。
まあ、前に大会で顔合わせした時も、送迎してたのはメイドさんだったから、なんとなくわかってはいたけど。一応、畳の部屋もあるらしく、後で茶道や華道を一緒にやろうと誘われた。やらない。
キャッキャしてる若いのにグイグイ来られると疲れるよね。外見だけなら俺も十前後なので二人と大差ないのだが。寧ろ俺が年下まである。
ハシバミと言う名の身代わりがどれだけ長持ちしてくれるかが重要だ。俺のHPの3分の1の耐久性は欲しい。
エリカVSハシバミ&またしても何も知らないダークライ。ファイっ!
『帰っていいですか?』
駄目です。唐突に生みだされた妄想のダークライを掴んで引き留める。
「不穏な空気を感じますね……」
何故分かった。
「あの、さ。二人はいつから知り合いになったの?」
内容自体はあり触れたものだが、切っ掛けとしては妥当だろう。初っ端からエリカの空気に飲み込まれていた陰キャによる勇気の発言だ。
「いつからでしょうか……? きっと今よりずっと昔、幼少期に出会ったのでしょう」
「記憶の捏造やめてね。タマムシ大学で昼寝してたのを見た時だから、半年も経ってないよ」
懐かしい。オーキド博士との出会いもその時だ。原作キャラと出会った事でテンションがプチ上がりした。現オコリザル、過去マンキーの異常性もその時に検査して貰ったのだ。懸念されていた問題も、今じゃほぼメリットな訳だが。ぶっちゃけ、割引で買った寿司パックが美味しかった記憶が大半を占めている。
「ハシバミさんはいつ頃からお知り合いに?」
「えーっと……仕事でとちった時に助けてもらってから、かな。ここまで長い付き合いになるとは思わなかったけど」
「時間だけならエリカより長く過ごしたよね。今だと偶に泊めてもらう事もあるし」
「あら、羨ましい。けれども、過ごした時間が全てではありませんわ。私、オトギリさんやハシバミさんとも、もっと友好を深めたいんですのよ?」
これは……食虫植物……ッ!
狙ってやってるなら計算高く、天然なら凄まじいコミュニケーション能力だ。これは陽キャですわ。うちのファッション系陰キャ地雷のハシバミじゃ手も足も出ない。ここは一緒にいると破滅してくれる系女子として自爆特攻させるしかない。
俺は闇の衣を纏っているから大丈夫だ、いざとなったらこいつを見捨てて逃げられる。
「――やあ、失礼。大丈夫かい?」
「どうぞ」
コンコンとドアが叩かれてから一拍。エリカの許可が出されると、ノブが捻られて現れたのは、現当主でありエリカの父であり、そして俺のパトロンことエノキさん。趣味はポケモンバトルの試合観戦。相変わらずお髭がダンディである。
「うちのエリカが迷惑を掛けていないかな?」
「あ、大丈夫です。ありがとうございます」
「結構グイグイ来るよね。はしゃいでる感ある」
「オトギリさん?」
事実やろがい。
「楽しそうで良かったよ。オトギリ君、少し付き合ってくれないか」
「いいよ」
「どうして考える間もなく返事をするのですか?」
優先順位の違いかな。
ハシバミに目配せでこの場を任せる旨を伝える。なお通じていない模様。
あれだけ仕事で絆を育んだのに、俺たちはツーカーの仲にはなれなかったらしい。残念。
「それじゃあ、エリカ。キミの友人を借りていくよ」
「後で返してくださいね? ハシバミさん、お手玉をしませんか?」
「え、あ、うん。教えてくれる?」
別に友達じゃないんだけどね。
出て行こうとするエノキさんについて行く。扉を閉める間際、ハシバミの唖然とした表情が脳裏を過ぎった。
俺とママさんばかり相手してないで、同世代の娘と交流を経て社交性を育てておけ。不安なら代わりにイマジナリーダークライも置いて行くから。妄想だから俺にしか見えないけど。
「……すまないね」
先導するエノキさんの後をのろのろついて行っていると、ふと彼は謝罪の言葉を口にした。
「こんな家系だから、畏まった関係が主でね。本人も外では一線を越えて振る舞う事が常だから、特別親しい友人もいないんだ。キミ達のように明け透けに語れる存在は有り難いよ」
つまりコミュ強な訳じゃなくて、嬉しくて距離感をミスってるだけか。あとで思い返して悶えそう。
俺が年相応に思春期の青少年じゃなかった事を喜べよ。勘違いからの告白で気まずい空気にならないで済むから。
『ごめんなさい、オトギリさん。私、そのようなつもりはなかったんです』
妄想の中で振られた場面想像したら吐きそうになった。なんで俺がダメージを受けなきゃいけないんだ。
「本人の性格的に簡単に作れそうだけど」
「どうしても家柄を誇示する子たちが多くてね。自然と躱せる術を身につけているけど、だからといってそれが好きな訳じゃないからね。正義感が強くて、優しくて、可愛らしくて。僕には勿体ないくらい、よくできた娘だよ」
あんまり家族の話しないからアレだけど、ちゃんと人の親してんのね、この人。
ポケモンバトルに関連するオタクっていう印象が強すぎてイメージ湧かなかった。
「ここだよ、オトギリ君。どうぞ、入ってくれたまえ」
当主手ずからドアを開けてくれたので、喜んで部屋に入る。ほぼ間を置くことなく、すぐに椅子が差し出された。
「少し待っていてくれ。纏めた書類を持ってくるから」
勧められた木製フレームと革張りで作られた椅子は、実にいい座り心地だった。机の引き出しや本棚を漁り出すエノキさんを余所に、部屋を見渡す。
仕事用の重々しい木製机と、複数の本棚。その他の置かれた家具や調度品の印象から、分かりやすいまでにレトロな『書斎』といった印象を抱いた。漂うインク混じりにおいが、なんとも言えない味わいを醸し出している。
「失礼、待たせたね。これを見て欲しい」
ぽんと出されたのは書類を眺める。
えー、なになに……。
――要するに、俺のバトルテント(仮)計画の大まかな概要だった。
それを、エノキさんが知る限りの内容をざっと纏めたものだ。
抑えられそうな土地や必要な出費、それに伴う障害、メリット、デメリット、この人経緯でパトロンになった富裕層からの援助金なんかもグラフになってる。めっちゃ読みやすい。
「ポケモン協会どうする?」
「伝手を作るだけなら出来なくはない。それ以上は難しい。最初に言った通り、こちらも色々と柵があってね。派手に動くと色々と口出しされるんだ。オトギリ君、キミの負担が大きいのは理解しているが、匿名で、少しだけ。このスタンスは崩せそうにない」
分家とか派閥とかそんなのか。
「今更だけど、表向きは健全な施設にするつもりなのに、それでも駄目なの?」
「それが逆に面倒でね。ボクが最初から関わってる事を知ると、邪魔をしてくるところが幾つかある。
流石に趣味のポケモンバトルの試合を観るくらいなら何もされないけど、小規模を過ぎると途端に関わろうとしてくるんだ」
嫁さんと娘さんに悪い事してるのバレたくないだけかと思ったけど、それだけじゃないのか。
足の引っ張り合いは、裏も表も一緒だな。
最悪ママさんに聞いてみよう。あの人はデータベースにアクセスできる伝手があるから、ポケモン協会に関連する伝手も絶対ある。
「ボクとしてはロケット団の方が心配なんだけれど」
「あ、そっちは大丈夫。伝手って訳じゃないけど、向こうのお偉いさんに話は通してるから。結果さえ出せれば後ろ盾になってくれるみたいだよ」
「いつの間にそんな……大丈夫かい?」
わかんね。
正道じゃなくて裏道使ってやろうとしてる時点で割と危ない橋渡ってんのよね。
でも表じゃなくて裏からのし上がりたいから、多少の危険は付き物かなって。
つまりロマンをとっているのだ。いざとなったときに、そっちの方が物語的に映えると思ってるから、この道を選んでる訳で。
悪役をやるにもスパイスが必要なのである。
「これどうする? 捨てる? 俺が持っとく?」
「お互いに不利になりそうな情報が記載されている書類は燃やそう。問題のなさそうなものは、欲しいなら上げるよ。キミが我が家に携わる血筋なら、もっと簡単に交流できるんだが……。
……エリカと婚約関係を結んで貰おうにも、血筋の関係や、実績がないからね」
自分の娘を推しに捧げようとしてないか、この人。
さっきまでの善良な親としての面は何処に行ったんだエノキさん。
「もっと本人の意思を尊重すべきだと思うけど」
「そうかい? キミのような子がエリカに仕込んでくれるなら、ボクみたいに出来が悪いのじゃなくて、優秀な子が生まれると思うよ? 優秀な血筋を残すのは義務だからね。みんな喜んでくれるさ。……まあ、このままだと、通例通り、他の家から種を出して貰う事になりそうだけどね」
うおぉ……すげぇぞわぞわする。
言ってること闇深くない? 人間で個体値厳選しようとしてるの? そんな一昔の貴族みたいな血統主義の選民思考ある?
この人、初対面の頃はちょっと悪いことに憧れる、劣等感に塗れたいいとこのお坊ちゃんな印象だったけど、ちゃんと上流階級特有のイヤなあれに染まってんじゃん。こわぁ。あと子供にする話題にしては大分アダルト。エッチな意味じゃなくて。
「わかった、この話はやめよう。はい、やめやめ!」
「あ、あぁ。そうだね……?」
困惑するのやめろ。
やっぱ俺みたいな住所不定ホームレスと金持ちは相容れない存在なんだな。
「そう言えばコレクションがどうのこうの言ってなかったっけ」
「――あぁ! そうだった! 聞いてくれ、前に別地方のトレーナーが試合に出ていてね? 珍しいポケモンを使っていたんだ。その時の試合を録画してあって、きっといい学びになると思うから、一緒に見ないかい?」
「いいね、見よう見よう」
「それじゃあ、少し待って……いや、シアタールームに行こう。映画館みたいにポップコーンも用意させるよ」
先程まであった闇深当主の人格は消え去り、るんるん気分で支度を始めるエノキさんを微笑ましく眺める。
これだよ、これ。エノキさんはこれでいいんだよ。
俺が裏賭博の道に引き摺り込んで悪い遊びを教えたけど、本来はただの推し活おじさんであり、情熱を注ぐ先が違うだけの、俺と同じオタクなのである。ナカーマ。
「楽しそうだね?」
「キミとの時間は中々とれないからね。あの子たちには悪いけど、しばらくはボクが独占させてもらうよ」
言い方に気を遣って貰いたい。
「あら、それはいけませんわ」
お、お前は……ッ。
「約束は守っていただきませんと、お父様」
エリカ! 何故ここに!? まさか自力で脱出を? ハシバミとイマジナリーダークライを置いてきたのに!
どういうことだ、ダークライ!
『無理です』
そうか、無理か。まあ妄想の産物だしな。そりゃ無理だよな。今やってるのも一人芝居だし。本物のダークライがこんな流暢で丁寧な口調な訳がない。
『さよなら、オトギリさん』
じゃあな。
消えゆく妄想のダークライと別れを告げている間にも、父と娘の応戦は絶えず続けられている。
こっちが先だった、今回は譲りなさい、等々。なんと醜く低俗な争いだろうか。
「……止めなくていいの?」
エリカに連れられて部屋を出たであろうハシバミが、二人のやり取りから抜け出してこちらに近寄り、そんな事を聞いて来る。
あんまり耳元で囁かないでくれ、変な気分になるから。体が子供だから同世代の女の子にドキドキしちゃう。
「しょぼい規模の親子喧嘩くらいさせてやればいいよ」
「そういうもん……?」
ああいうガス抜きも必要だと思うよ。知らんけど。
正直、この場面で『私のために争わないで!』みたいに突っ込んでいくの普通に恥ずかしい。俺にだって羞恥心と言うモノがある。
「お手玉どうだった?」
「え、あ、うん。二個まで出来るようになったよ。にゃん、にゃん、ニャースの小判が~……って感じで」
随分あざとい童歌だな。……こいつに歌わせてAMSR録音させたら売れないかな。
見た目は年相応だが、とにかく声が良い。ウィスパーボイス……耳元で囁かれると脳みそが蕩けそうな声音と言うべきか。
一定の需要はあると思う。売れるはずだ。違法の運び屋するよりかは安全性も高いし。ママさんに相談してみようかな。
「いつまで続くと思う?」
「そのうち終わるでしょ。暇だからエリカに教わったお手玉がどんな感じだったか見せてよ」
「……いいよ。さっき何個か貰ったから実演してあげる。ほらこれ、可愛いでしょ?」
はにかみながら貰ったお手玉を見せつけてくるハシバミに、なんとも言えない保護欲が湧いてくる。
お前、もしかして俺の娘なのか……?
「だから、オトギリ君はボクと録画した試合を観るんだ、分かってくれ、エリカ」
「分かりません。オトギリさんは私たちと毬で遊ぶんです」
「お客人の前ではしたなくてよ。私が決めるわ」
会話に知らん人が入って来たぞ。誰だこの人。
☆☆☆
長い黒髪。やや垂れ下がった目。堅く聞こえる声音。ゆったりとしたドレス。
エノキさんの妻。エリカの母。『アセビ』と。
そう名乗る女性の鶴の一声は、エノキさんとエリカのしょうもない親子喧嘩を一瞬で鎮圧するほどの圧があった。……エリカがちょくちょく見せる圧はこの人からの遺伝かな。
そんな奥様のアセビさんによる介入の結果、何故か5人で映画鑑賞をすることとなった。場所はエノキさんが言っていた例のシアタールーム。
見せられたのはウツボットが巨大化して町を襲うかというよくわからん内容の映画。
その後見せられたのはコイキングに謎の薬が打ち込まれて肉食魚になって人間を襲う映画。
おまけとばかりにゴーストタイプを変な掃除機で吸い込んで捕獲する映画。
……いや、面白かったよ? 面白かったけど、こう……ラインナップから漂うB級映画臭。
映画鑑賞の提案を持ち出したアセビさんは……顔は殆ど動いてなかったけど、誰よりも熱心に食い入るように見ていた気がする。お目々キラキラ。
俺とハシバミも、まあそれなりに楽しめた。シアタールームなんて贅沢な場所で見ないし。
最後にエノキさんとエリカは無表情だった。何度も付き合わされたんだろうなと思う。大人しく付き合ってるのを見るに、家族仲は良いのだろう。……無表情だけど。
まさか何度も同じ内容を見せられているのか?
そこそこ楽しめた後の流れは順序良く。
飯食っていけ。風呂入っていけ。泊まっていけ。
「――で、今ここにいるって訳」
「誰と話してんの?」
「オトギリさんの番ですよ」
今に至るまでの情報を整理していただけだ。ダークライはもういない、死んだ。
ちなみに今は宛がわれた客室に三人集まって花札をしている。ベッドの上で。コイコイ! 点数的に俺がドベだ。はじめてやっているはずのハシバミにすら負けている。
おかしいな、こんなはずじゃないのに。……奥の手を使おう。
「ババ抜きしようぜ、引き分けで良いから」
「いいですよ。準備しますね」
「負けてる人が言うのおかしいよね?」
こら、余計な事を言うんじゃない。
さり気なくハシバミの頬を抓んで軽く引っ張りながら、ぱぱぱっと花札を片付けてから部屋を出て行くエリカの背中を見送る。使用人じゃなくて本人が手ずから持ってくるのか。
「ふぁなひへ」
触り心地が良くてむにむにしてたら、呆れた視線と共に抗議が飛んでくる。所在無げな手で自分の頬を触ってみる。潤いが足りない。
「どうよ。エリカは」
「んー……すごく良い子、だと思う」
だろうね。
距離感がおかしいだけで、根っこマジで良いとこのお優しいお嬢さんだ。
あのテンションも、後になれば落ち着き、やがて羞恥心に苛まれるのだろう。……成長したらエリカも上流階級の思想に染まり、腹黒く成長するんだろうか。ぶぶ漬け出されたり時計の話し持ち出されたらいやだな。
「友達には?」
「……ちょっとだけ、なりたくないかな。まだ」
ああん? なんで?……あ。
「嫉妬だな?」
「……」
図星だな?
「……だって」
何か言いたい事でもあるのか、気まずそうに視線を逸らしながら、青いメッシュが入った髪を指で弄りはじめる。
「……だって、ずるい」
ぱくぱくと。口を開いたり、閉じたり。戸惑いを見せつつ、やがて彼女は微かに緊張で震わせた喉から、絞り出すようにその言葉を吐き出した。
――色々と持ってるエリカが羨ましい。でも性格は良いし自分のこと気にかけてくれるから嫌いになれない。自分と数少ない友好関係を築いている、弟分の俺があっちに靡いて放って行かれるのが嫌だ。
以上、それっぽい理由をうだうだ聞かされた。
ぱっと見クールだけど、中身の方は対人関係が最低値なだけだからな。真面な知り合いも、ママさんと、半年も付き合いのない俺だけだ。
割と執着するタイプなのかね。子供特有の依存心と独占欲といったところか。
縄張り意識と警戒心が強くて困っちゃうね。
「もっと気楽に行きなよ。役に立ちそうなら最低限の関係を残しておく。駄目そうなら少しずつ距離をとる。それでいいじゃない」
「打算的だね」
ごちゃごちゃ考えるくらいなら、シンプルな方がいい。
「わたしは?」
「なにが」
「わたしとも距離をとる?」
「内緒」
「ケチ」
懐にいる限りは距離を取らない。去って行くならそれは別に。
少なくとも、ママさんが仲介人としてしっかりと仕事をしてくれる間は、向こうの仕事に支障が出ないように俺も気にかけておく。
「ケチケチケチケチケーチ」
「そんな鳴き声のポケモンいたっけかな」
「違うってば」
あー、いつもより固い口調だったけど、気怠さの残るダウナーな感じが戻ってきた気がする。
「ハッシーの声が好みだから、飽きるまでは一緒にいてあげるよ」
「……馬鹿じゃないの」
「晩御飯の天ぷら美味しかったよね」
「なんで話題変えるの?」
照れてるみたいだから雰囲気変えようと思って……。あと天ぷらが美味しかったから話題を共有したかった。
「――お待たせしました」
髪の毛先をくるくるとさせているハシバミをぼんやりと眺めていると、態々自分で玩具を取りに行っていたエリカが戻ってきた。その後は、木箱を抱えた使用人が二人ほど入ってくると、手に持った荷物を置いてさっさと出て行ってしまった。
「……え、何これは」
「どれを持ってくるか悩んでしまいまして……。取りあえず、みんなで楽しめそうな物を持ってきました」
まさか夜更かしするさせるつもりか? 成長期なんだから寝かせろ。
「ハシバミさんはどれがいいですか?」
「じゃあ……これ」
「では、それを崩れないように箱から出しましょうか」
「わたしやるよ」
「あら、ありがとうございます。お願いできますか?」
エリカはまだテンション高めだが、ハシバミの方は、最初の時よりもずっと自然に振る舞えているように見えた。幾分か気が晴れたのだろうか。即席メンタルクリニックが役に立ったようだ。
……どれ、小娘どもの遊びに付き合ってやるとしよう。前世での徹夜は数知れず。俺の実力を見せてやろう。
――なお、一番最初に寝落ちした模様。
朝日が眩しかった。
・エノキさん
一番最初のパトロン。大会でオトギリを見てから色々と調べた結果、ファンになってしまった。良い人だけど思想はそれ相応。推しと一緒に見たかった試合映像を見れなくて残念に思ってる。
・アセビさん
エノキさんの奥様。B級映画を呼び込む能力がある。実はシアタールームを一番使ってるのはこの人。偶にクソ映画を流して家族を巻き込む。あまりにもつまらない場合は体調を崩して寝込む。
・エリカ
名誉陽キャボッチ。仲良くしてくれる同世代はいるけど、明確に友達になってくれる同世代はまだいない。距離感がバグっている。友達と同じ部屋で寝ようと思ったけど、アセビさんに諭されて諦めた。
・ハシバミ
一緒にいたら破滅しそうなダウナー系パンクファッション地雷陰キャ女子。仲の良い知人はピースするだけで事足りる人数。懐に入ってきた相手に対する執着心がやや強め。エリカに対する感情は複雑だが、友人になる未来は遠くない。
・オトギリ
周囲を翻弄する魔性の屑。無駄によく見ているため、なんとなく相手の事を察する事が出来る。エリカは友達じゃない。
・手持ち達
今回出番はなかったけど、一応いた。出された食事が美味しくて満足。大人しくしてた。
・イマジナリーダークライ
その場のノリと勢いで生みだされた妄想の産物。今回限りの特別ゲスト。
久しぶりに登場キャラの紹介コーナーやると楽しい。早く下積み時代を終わらせてカントー地方に根付かせたいですね。
バトルテント関連のイベントが進んだら、キングクリムゾンで時間を飛ばすかも。
読了ありがとうございました。
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