元凡人による悪への道のり~裏ボス枠になるために~   作:悪なれず

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ピカブイを買いました。中古で。色違いポッポが出ました。

ちなみに私の初めての色違いは、エメラルドのジグザグマか、もしくはダイヤモンドのビッパのどちらかです。
忘れました。

あ、今回はイトクリ君の回です。
それに伴って以前のイトクリ君の口調を少し調整しました。


33

 

――うっっす! ほっっっそ!!

 

 銭湯の脱衣所で上半身を曝け出したイトクリを見た感想である。

 あばら骨が浮き出てやがる。肌もビックリするくらい白い。手入れをサボっている所為で髪が長い。爪の形が悪い。

 

 再会した時から妙に痩せぎすだなとは思っていたが、改めてこう見ると、清々しさすら感じるレベルの薄細さだ。これぞ不健康男児。そんなんじゃ売れねぇぞ。

 

「ぁ、あんまり見られると、その、こ、困る……」

「なんかごめん」

 

 じろじろ見ていたら、両手で自分の身体を抱くようにしながら視線を逸らされた。即座に謝罪。気まずくなる前に手持ち二匹を引き連れて浴場へと乗り込む。

 オコリザルはそのまま堂々と。ゾロアークは幻影で見えないようにさせている。姿隠しの幻影って呼ぶと魔法の名前みたいでかっこいい。ちちんぷいぷい。ビビデバビデブー。アバダケダブラ。

 

 手早く汚れを落とし、一足先に湯船へと浸かる。

 ゾロアークは慣れた様子で大人しくオコリザルに洗われているらしい。

 これ人がいないからいいけど、オコリザルは周りからどう認識されてるんだ。パントマイムしてるように見られてんのかな。

 

「お、お待たせ……」

 

 しばらくぼけーっと湯煙を眺めていると、いつの間にか身体を洗い終えていたらしいイトクリが、おずおずと言った様子で話しかけてきた。長髪を纏め、身体の前面をタオルで隠している。

 

「ううん、今きたとこ」

「は?」

 

 台詞を間違えた。

 なんとも言えない表情をしたイトクリが、おずおずと湯船に浸かる。そして静かに俺の真横まで移動してきた。

 

 もう少し離れておくれ。風呂場でその距離感は友達でもやらんのよ。友達ですらないし。

 

 ワタシ、雇用主。アナタ、従業員。アンダースタン?

 ズッ友? ワロス。

 

 関係性の齟齬を胸中で擦り合わせつつ、今回行われるのは裸の付き合いという名の定期報告である。何度か裏賭博を開催したからね。定期報告と言いつつ初めてだが。

 

 日中、外をぶらついてたら偶々顔を合わせたから、ついつい銭湯に誘っちゃったよ。前世での現代ならこれだけでもセクハラ扱いされるんだろうなぁ。

 

 ちょっとゾロアーク関連で現実逃避を兼ねた催しなのは否定できない。自覚のない大型種を育てるのって大変なんやなって。

 

「じゃあ意見のある方は挙手してください」

「はい」

 

 早い。

 

「イトクリ君、どうぞ」

「支出と収入が、釣り合ってません」

 

 だろうね。

 子供の国(仮)なだけあって、やってくるのは大した金銭を持ってないガキどもがメインだ。試合の内容もしょぼい。景品の内容をちまちま変えて客を繋ぎとめている現状である。

 有難いことに、酒やタバコはイトクリが個人の伝手で安く仕入れてくれるためなんとかなるのだが、じゃあそれでどうにかなるのかというと……ねぇ? 子供が箱とか瓶で渡されても困るでしょ。

 

 だもんで、最近はばら売りで景品として出している。その場で一本、或いはワンショット。そっちの方が特別感が出ることに気が付いた。

 ちなみに箱や瓶で交換した方が若干お得ではある。

 

「酒とタバコがねぇ。意外とあれだわ」

「殆どは、い、一回経験したら満足する」

 

 所詮は悪ぶっているだけの小童ども。子供舌に大人の嗜好品は早かった。

 一番交換されるの何だと思う? 俺がデパートや業務スーパーで買ったお菓子。

 それをジュースで一杯やりながら試合でヤジを飛ばすのが通であった。酒とタバコにハマる奴もいるんだけどねぇ……高学年くらいがそんな感じ。

 

「葉っぱとか粉でも売る? 伝手ない?」

「伝手、伝手はある。でも、あんまりおすすめはしない」

「なんでさ」

「酒とタバコは、さ、最悪背伸びしてるって理由で、見逃される。あれは、じ、自販機でも買えるから。クスリまで行くと、出所を探られる」

 

 こいつなんで俺よりもアウトローなの?

 え、やめてよ。俺の悪事がままごとみたいじゃん。

 

「伝手ってなに?」

「……秘密、に。してくれるなら教える」

 

 握手しようぜ。俺たちズッ友だろ? やや強引に手を取ってがっしりと掴む。

……ちょっと恥ずかしそうにニギニギするのやめろ。

 

「ブラックマーケット、みたいながある」

「夜中のクチバで偶にやってるやつ?」

 

 あそこで買った泥炭と爪は今もどこかに置いてある。どこにあるかは覚えてない。

 

「タマムシにあるやつと、それがい、一緒かどうかわからないけど、そんなのがあって、伝手で教えてもらえる。俺、俺は、裏賭博で実績……何度か胴元で開いたりとか、金を上納したりだとか、そういうの積み重ねて教えて貰った」

「具体的にはどんな感じの場所よ」

 

 興味が出てきた。

 

「結構しっかり、してる。場所もコロコロ変わる。俺も場所は全部把握、して、してない。基本的に人伝で教えてもらって覚えるしかない。ロケット団にも、手を出された事はないみたい」

 

 ロケット団ですら手を出さないって普通に凄いな。ロケット団だぞ? 短縮的な行動する奴が乗り込んでもよさそうなのに。

 

「どんなモノ買ってる?」

「煙草と酒は基本的に、そこで、仕入れる。小道具も、安ければ。あとは試合に出すポケモンの、餌をまとめ買いする。餌の組み合わせは自分で、や、やる」

「賭け試合の収益で賄えんの?」

「ほ、殆どが訳あり商品だから、安く済む。期限切れだったり、盗品。問題のなさそうなのを、さ、探す。表沙汰に出来ない商品、は、売る方も相手を選ぶ。そう言うのは空気で分かる」

 

 聞いてると本当にそれっぽい場所だ。

 

「注意事項は?」

「た、他言無用は必須。客と店側で、素性を探るのも駄目。どこかの組織に属すのも禁止。あくまで、フリーの体でいること。ただし、組織のトップだけが入るのは、お、おーけー。破ったら、何かしら対処される。わかりやすいのは、記憶を消されること」

 

 記憶消すのって、ここでも使われてるんだ。こっち界隈じゃ割とメジャーなのかね?

 というか、さらっと餌の組み合わせできるみたいなこと言ってるの気になるわ。会議じゃなくて普通にあれこれ話してた方が楽しいかもしれん。

 

「このあとどうよ? 時間ある? 暇なら家にこない?」

「ぇ、ゃ、あの……お邪魔、します……へへ……」

 

 嬉しそうですねぇ。俺も嬉しいよ。

 もっと根掘り葉掘り聞いちゃろ。

 

 

 

 

 

☆☆☆☆

 

 

「え、ここ……?」

 

 

 家に連れてきた反応がこれである。

 おう、どうした。何か言いたい事でもあるのか? びびって腕組むのやめーや。

 まあ、あんだけタマムシに詳しいんだから、ここの事も知ってるわな。道中でもう既に不審そうだったし。

 

「あ、あの、ここって……」

「大丈夫大丈夫」

 

 俺自身には何の影響もなかったから。

 まごついているイトクリの腕を引っ張って連れて行く。うっす。ほっそ。

 オコリザルが真後ろを陣取っているため、逃げることすら叶わないだろう。

 

「ぁ、ぁ、まだ心の準備が」

「大丈夫大丈夫」

「ぅ、ぁ、ぇ、ひゃぁぁ……」

 

 何やら抵抗の意志を見せるイトクリを適当に宥めて無事連行。諦めて玄関で靴を脱いだ彼をちゃぶ台の前に座らせる。部屋に入れてしまえばこちらにものだ。

 イトクリが食い殺されないように、念の為ゾロアークをボールに戻してオコリザルに預けてから、来客用の茶葉と茶菓子を用意することに。エリカから貰った茶葉がかなり残っている。

 

 エリカから貰った電気ケトルで湯を沸かし

 エリカから貰った茶葉と急須で茶を作り

 エリカから貰った湯呑に茶を注ぎ

 エリカから貰った饅頭を茶請けとして出す。

 

 エリカエリカエリカエリカエリカ――。

 

 やばい。

 日常生活があまりにもエリカに侵食されてしまっている。本人不在なのにもかかわらず、常にあの小娘の名残を感じてしまう。

 これもうサイコスリラーだろ。

 

「で、えー……風呂屋でどこまで話したっけ」

「注意事項」

「あーはいはい。トップだけなら入れる理由が気になるね」

「下っ端とか部下が来ると、言い逃れをされる。トップ、なら、それがない。あ、あそこは原則上、中立みたいな場所、だから。無理に名前を使って進めると、グループ同士のいざこざになる。割に合わない」

 

……んー?

 

「護衛は?」

「ダメ」

「ポケモンは?」

「あり、だけど。見張られる」

 

 トップとして行く意味なくない? 裸一貫で行ってもなぁって感じ。

 俺が首を傾げると、イトクリが慌てて補足を入れた。

 

「メリットもあった、はず。普通に、客として入るより、信用が得られる。う、売る側が目を掛ければ、欲しい物を入荷してくれやすくなる」

 

 組織としての名前を使うな。使うなら本人が来い。身元証明させろ。そうじゃないなら一般客として来い。

 名前を出せばお前の欲しいものが次から手に入りやすくなるかもな。

 

……こういうことか?

 

「実際いた? 名前使う奴」

「何人かは、いた。名前、は、保障になる」

 

 リスク背負って得られるのは信用だけなのか。元が一般人だから、この辺はよくわからないな。

 

「纏めてるのは誰?」

「ない。あ、あそこは、全員がお互いを監視してる。誰かが何かをしたら、誰かがそれに対応する。お互いの尊重と、ぜ、善意で成り立ってる」

 

 ブラックマーケットに善意は草。

 この場合の善意は『お互い余計なことしなきゃ得をするからルールを守れ』とかそんな感じかな。

 これ普通に裏で管理してるやついるだろ。

 

「成り立ちとか知らない?」

「そ、そこまでは知らない」

 

 残念。

 

「ぁ、ぁ――でもっ! も、元々はそこまで違法性のある場所じゃなかったって聞いたことがあるから!」

 

 急にでかい声出すじゃん。ビビったわ。

 

「ゃ、ちが、驚かせるつもりなくて……ただ補足した方がいいと思ったから……」

「あー大丈夫大丈夫。気を遣わせたね」

 

 そんな泣きそうな顔されると困るわ。空気変えるか。

 

「それにしても物知りだねぇ」

「ぇぁ……昔、まだ仲間がいた頃、色々調べてた時期があって……」

「にしたって詳しいねぇ……そいや餌の調合も出来るって言ってたっけ? それも調べたの?」

「……親がブリーダーだったから」

 

 あらそうなの。

 

「親御さんに教わったんだ」

「ん、うん。餌の調合以外だと、体調管理の仕方とか、他にも色々」

「真面目だねぇ。親御さん今どうしてんの?」

「死んだ」

 

 やべ。

 

「朝起きたら二人とも首を括ってて……あ、後で警察に教えて貰ったら、借金があったみたいで。で、でも俺には心配かけたくなかったって。どんどん膨れて行って。おかしくなった母さんが父さんにポケモン用の睡眠薬を呑ませて、夜中に紐で首を絞めて殺してから――」

 

 聞いてない聞いてない聞いてない。

 そこまで求めてないから。急な自分語りで過去回想に入られても困るから。

 

「……少しだけ預かってたポケモンは全部返したけど、親戚はいないし、住んでる場所も追い出された。どうしたらいいか分からなかったから、ふらふらしてたら偶々賭け試合の現場に出くわした。どうでもいいやって気持ちで、父さんと母さんなら体調の良い方に掛けるんだろうなって思って、持ってるお金で全部賭けたら、勝ってお金が増えて……」

 

 ギャンブルに片足突っ込むの早いな。

 

「……何回も勝ってたら二人に……昔仲間だった二人に誘われた。『俺ら馬鹿でよくわかんないから、ちょっと教えてよ』って。三人でつるむようになったら、自然といつかみんなででっかい裏賭博したいなって。なんでか知らないけど俺がリーダーになったから、リーダーらしく口調も服装も変えて……酒も煙草も好きじゃないけど、そっちの方がリーダーらしいって言うからやるようになって……」

 

 未成年に酒とタバコ勧めるとか人間の屑。

 

「……色々なところに顔を売って、頑張って伝手を作った。順調だったんだ。でも、でも俺、俺たち欲張ったんだ。本当にもう少しだったんだ。あと少しだったから、魔が差した。でも、たぶん。あれはしちゃいけなかった」

「何したの」

「……子供。子供から金を奪った」

 

 俺だね、それ。

 

「それで?」

「……ケチがついた。知らない間に変な噂が広がってて、訳も分からない内に襲われて……。俺、俺見捨てたんだ。頭の中は金でいっぱいだった。仲間二人よりもそっちを選んだ。金があればやり直せると思ってた。だから、だからあのとき……」

「あのとき」

「……暗くて、痛くて。最初は必死に我慢してたけど、すぐに化けの皮が剥がれた。どうしたらいいか、わ、わからなかったから」

「……続けて」

 

 ひっ、ひっ、と。引き攣るような声がする。

 膝を抱えてがちがちと震える少年に、さてどう対応すべきかと頭を悩むも、再び口を開くように促す。

 

「……最後は助かったけど、それから全部うまくいかなくなって、仲間内でもぎくしゃくして……気が付いたら、また一人になってた……」

 

 ぽたり、ぽたりと涙を流しながら、イトクリはそれっきり口を閉じた。どうやら終わったらしい。

 

「お茶、冷めるよ。飲みな」

 

 取りあえず、喉が渇いているだろうから茶を進める。

 しゃくりあげていたイトクリは、一口だけ手を付けた。

 

「今日の予定は?」

「……ない。試合に使うポケモンの餌は、し、仕込んでおけば自動で供給される、から」

「じゃあ今日は適当にだらだら過ごそうか。賭博場の計画立てたり、ボードゲームでもしたりして。夜更かしコースになったらそのまま泊って行けばいいし」

「え、でもこのアパートって……」

「大丈夫大丈夫。いま具合悪くないっしょ?」

 

 そこまで心配せんでもええやろ。

 

 

 

☆☆☆☆

 

 

 駄目でした。

 

 

「どうよ?」

「だ、だいぶよくなった……ありがとう……」

 

 日中は特になんの問題もなかったんだけどねぇ……。

 夕方を過ぎて夜に入る手前辺りから、急にイトクリが体調不良を訴えてきた。

 いつまで経ってもよくならないため、ちょっと外の空気でも吸わせた方がいいと思って肩を貸して退室させたら、途端に顔色がマシになった。

 このアパートが悪いのか、或いは、偶々イトクリの体調が悪くなっただけなのか。

 

 理由はどうあれ、今は階段の所に座らせて休ませることに。一応、俺も横で偶に背中を摩ってやったりして様子を見ている。手持ちは室内で待機中だ。

 

「……ごめん」

「いい、いい、大丈夫。気にしてないから。急に具合悪くなるくらい誰にもでもあるって」

「そ、それも、そう、だけど。色々と急に変なこと話したの、ごめん」

 

 まあそこは踏み抜いた俺も悪い。

 それでも、せめて事前に何かしら欲しかった。俺らまだ出会ってそんな経ってないのに、あんなド直球な話ぶち込まれるとは思いもしなかった。躱せねぇよ、あれ。

 運営さん、好感度のパラメーター調整とイベントのフラグ、ミスってますよ。

 あとたぶんこいつに必要なのは心療内科とかそっち方面かと思われる。

 

「……ひとりじゃ、駄目なんだ」

 

 なんだよ、もう。またかよ。突拍子なく一人語りはじめるのやめろよ。聞くけどさぁ。

 

「……父さんと母さんがいた時は、二人の言うことを聞いてればよかった。

仲間がいた時は、二人のリーダーでいればよかった。

ひとりになったら……何も、出来なくなった」

 

 内容から察するに、役割がないと自分の維持するのが難しい指示待ち人間という奴か。

 ある種の個性だと思うので、そこまで卑下するようなこともでないだろう。個人の感想であるが。

 

「助けてくれそうな人もいたけど、結局みんな面倒ごとを嫌ってすぐに離れて行った。

あんたは……あんただけは、最後までいてくれた」

 

 ちょっと空気がじめじめしてきたな。

 大丈夫かこれ。横から謎の重圧を感じる。

 

「……頑張るよ、俺。

ポケモンの世話はするし、金が足りなかったら稼いで来る。

言われた事はなんでもやる。だから……」

「……」

「……」

 

……え、そこで無言?

 

 おいどうしてくれんだよこの空気。気まずいってレベルじゃねーぞ。

 なんとか言えよこのうすほそ。期待した目でこっち見んな。

 

 すぅー……ふぅ……ヨシ。

 

「飯を食え運動しろ健康的な肉体を作れ身なりに気を遣えお洒落を覚えろついでに化粧もできるようになれ。完璧で究極なアイドル様にならなくてもいいから客寄せのスキルを磨いてこい」

「ぅ、ぇ、ぁの……」

「なんでもやるって言っただるるるぉ!? 懐に余裕が出来るくらいに収益を上げるんだよオラァン! 次に会うのは五日後にやる賭け試合の夜だよ。ほら帰った帰った」

「ぁ、ぁ、自分で歩くから押さないで……」

 

 捲し立てるように追い返す。役割が欲しいって? 欲しけりゃくれてやるってんだよ。俺のために働け。

 

 困惑しながらも、時々こちらを確認する素振りを見せるイトクリの後姿が視界から消えた頃合いで、玄関のドアを開けて部屋に戻る。

 

――乗り切ったぜ。

 

 心の中でほっと一息ついてると、扉の内側で待機していたオコリザルと目が合った。

 

「……最近ホラー路線多いよね」

 

 エリカ、ゾロアーク、イトクリ――……立て続けにホラーばかりが起きている。

 このままでは胸焼けを起こしてしまいそうだ。もっと頻度下げてほら。

 

『ンゥっ! わっ!』

 

 玄関を上がってワンルームまで移動すると、いつの間にかボールから解放されていたゾロアークが、待ってましたと言わんばかりに身体を擦りつけてきた。

 進化の過程で消えてしまった尻尾だが、今もなお存在していたならば、きっと全力で振り回していただろう。

 

 皿の上に残った饅頭を二つ手に取り、一つはオコリザルへ手渡す。

 もそもそと無言で食べ始めるオコリザルを横目に、もう一つをだらしなく開いたゾロアークの口元へ捩じり込むと、二度三度と咀嚼してから飲み込んだ。

 

『うぇへへへへっ』

 

 こいつの安定しない笑い方も慣れてきたな……。

 

……ノリと勢いでごり押したけど、次に会うのがちょっと怖くなってきた。

 

 まあ、滅多な事にはならないだろう。

 

 たぶん、おそらく、きっと。

 

 

 

☆☆☆

 

 

――五日後。当日。夜。

 

 寝坊と言う諸事情により遅れてやってきた賭博場の空き地にて。

 

「――みんなー! 今日は来てくれてありがとう!

ボク、頑張って進行役として盛り上げるから、今夜は楽しんでいってねー♪」

 

「「いぇーい!!」」

 

 

 えぇ……?

 

 

「一試合目はこの子達!

 

伸びる前歯は伊達じゃない、いつか届くぜマントルへ!

そうなる前に削らせろ! お前の骨で微調整!

パープルカラーのキュートな毛並み、見慣れたチャームポイントが今日も輝く!

コラッタ同士の対決、ここに開幕っ! みんな応援よろしくー♪」

 

「「うぉー!!」」

 

 

 なにこれ……なに?

 

 

……なに?

 

 

 





どもりが書きづらいなと思いました。

ブラックマーケットの設定は割とガバガバです。どっかで矛盾してるかもしれません。そしたらこっそり教えてください。

イトクリ君は、明確に役割さえ与えられれば割と卒なくこなせます。
パパでも兄でも弟でも、果てにはママや姉、妹にだってなれます。天才です。

主人公に言われた後は本人なりに熟考しました。

結果、当日まで日課をこなしつつ、うすほそな体格を隠せる男女兼用の衣類を揃え、化粧を学んで顔色の悪さを誤魔化し、声の出し方を訓練し、好かれそうな笑顔と振る舞いを覚えました。初日でファンクラブが出来るくらいの人気は得たそうです。

その代わり、自発的に何かをするのは苦手です。だから落ちぶれた時は最低限の生命活動で細々と暮らしていたんですね。
暗いオーラを漂わせてるような、あからさまな訳あり人間には大体誰も関わろうとしません。

そんな世界でオトギリ君に目をつけられてしまった彼ですが、まあ悪い大人に騙されるよりマシじゃないですかね。相性もいいみたいだし。ズッ友。
ある意味運が良くて、運が悪い少年。それがイトクリ君でした。


読了ありがとうございました。

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