元凡人による悪への道のり~裏ボス枠になるために~ 作:悪なれず
基本的にイベントがなければ文字数が少なくなる傾向がありますね。
SVのデータ全部消えてた。どうして……。やり直してみると楽しい。
デパ地下の試食品コーナーでただ飯するの楽しい。
金を掛けずに飯が食えるって素晴らしいな。
あんまやると店員に目をつけられるから二、三個くらいでやめておく。
すまない、今は割引中のインスタント食品の方が大事なんだ。節制しないと身分証で大手振って表を歩けない。裏市場で買った木の実だけで過ごすのはちょっときつい。
ちなみにタマムシデパートである。
前までは入った瞬間や入ろうとする前から止められてたけど、ちゃんとした服着て銭湯で身を清めれば普通に入店可能になった。寧ろ店員と顔を合わせれば「いらっしゃいませー」と歓迎さえしてくれる始末。
やっぱ身嗜みを整えるって大事なんだな。偶の水浴びだけじゃ限度があったんだわ。髪の毛も伸ばしまくってざんばらだと擬人化したモンジャラみたいだし。
ちなみに今までは自分で切ってた。出来損ないの○子ちゃんみたいだったわ。
多分ここの奴らは俺があの小汚いガキだって気付いてすらいないよ。
さて、買うものは決まっていて、ポケモンフードだ。
お前トレーナーじゃないのに買えるの? と言われそうだが、まあ普通に買える。なんならモンスターボールも買える。
でもトレーナーカードがない状態でその辺のポケモンをやたら捕獲するとこっちが警察に捕まる羽目になる。でも誰が何捕まえたとか具体的にわかんないだろう。多分これも「ちゃんと決めとかないと団体がうっさいから……」みたいな理由なんだろうな。
まあ買わないけどね、モンボ。落ちてるやつでいい。
あとトレーナーカードがあれば割引が効く。俺は持ってない。
――で、今の悩みはここ。ヒスイゾロアが言う事を聞いてくれない。
前にコンテナでちょろまかして拠点に連れ帰り、早速とばかりにボールから出したところ、こちらを見てぶるぶると震えるばかりで一向に懐いてくれない。太眉可愛いね。言うこと聞けよお前。
おかしいな、別に変な事はしてないはずだけど。
連れ帰った当日に無理やり水浴びさせたくらいだ。
しょうがねぇだろ臭いんだから。血と汚物に塗れてたんだぞ。たらいに張った水が一瞬で染まるくらいの汚れだった。
しばらく公園の水飲み場を独占する羽目になった。人がいない深夜で良かったよ。
その後は拠点にある物で飯を食わせてボールに戻した。
逃げられると困るし。
仕事中も基本的にボールに入れたまま内ポケットに入れてる。
見られると困るし。
寝てる時だって肌身離さず手元に置いている。
盗られると困るし。
……基本的にボールに閉じ込めたままだな。
いやでも、ヒスイゾロアなんて激レア種だったらそうなるのも仕方ないと思わないか? 絶滅種だぞ?
もしかしたら実はこっそり生きてるみたいな落ちかもしれないけど、少なくともこの街で見せびらかしたら絶対にただじゃ済まない。
こいつがイリュージョンで他のポケモンにでも化けてくれたら多少は問題も減るんだが。言うこと聞かないからそれも出来ない。
低レベルのコイキング以下だなお前。ちょっとそこで「はねる」使ってみろよ、おん?
……捨てちまうか?
鞄の底漁ったらあったとか言って班長に渡す選択肢が出てきた。
悪役の手持ちとして唯一性が損なわれるけど、使えない手持ち抱え込んでも意味がない。言うこと聞かないんじゃレアポケも宝の持ち腐れだ。
しかも下手したらボールぶっ壊して逃げ出すかもしれない。
アニメかゲームにそんな描写があった気が……。台詞だったか?
こういうのって最新作で記憶が上書きされて行くから古い順にぼやけるんだよ。
死んだ同士仲良くできると思ったんだけどなぁ……。
生まれて間もないから感情の整理が上手く行ってないんだろうか? 怖がってるのは何も知らないから?
実際、食欲はちゃんとある。
びびりながらも一心不乱に貪った後は少しだけ気が抜けた様に安堵している。生存本能は働いているはずだ。無駄飯ぐらいの極潰し状態である。
うーん……。
ぶん殴って言うこと聞かせるか? やだなそれ。
暴力を否定するつもりはないけど、今の俺がやったらただの子供の癇癪になりそう。やるにもタイミングが大事だろう。
取りあえず俺を慣れさせてみるか?……やってみるか。噛まれたらぶん投げよう。死なないでしょ。
ボールを開くとヒスイゾロアが姿を現す。
きょろきょろと辺りを見渡し、それから、震えた様子でその場に縮こまった。
「――触らせろ」
『!?』
団子状になったヒスイゾロアとの距離を一気に詰めたらテントの隅に逃げられた。やっぱ駄目か。
……こいつ途中で餌がなくなったから今日は中途半端にしか食べてないんだよな。だからタマムシデパートに行ったわけだし。餌で釣るか。
テントの入り口を塞ぐように座り、リュックから今日買ったポケモンフードの袋を取り出して開封。この時点でヒスイゾロアが鼻をヒクつかせて興味を示したのを確認できた。
一粒出して顔の辺りに投げる。こちらを警戒するように緩慢な動きで餌を食べた。少し待ってからまた投げる。それも食べた。
今度は、餌を投げる時、試しに少しだけこちら側に近い距離に投げてみた。グイッと精一杯首を伸ばして食べた。もう少しこちら側に投げる。起き上がって食べた。
少なくとも餌の前では恐怖心も薄れるらしい。三大欲求には勝てないようだ。
投げる。食べる。少し近くに投げる。それも食べた。
俺に近づいている事に気が付いたヒスイゾロアは時々足を止めて躊躇しつつ、それでも食欲には勝てないのか、投げられた餌を食べるために近づく。少しずつ距離を縮めてくる。
それは何回も繰り返した結果、ヒスイゾロアとの距離はとうとう触れられる程にまで近づいた。
――餌を、手に一粒載せた。
意気揚々と餌を食べていたヒスイゾロアの動きが止まる。掌の一粒と俺の顔を交互に見てくる。
太眉も相まってしょんぼりとした顔立ちに見えるその瞳には、確かな困惑を感じ取れた
俺は何も言わない。促すこともしない。ただじっと掌に載せた餌を見せつけるだけだ。
『ひぃん』
なんだそのべしょべしょした情けない鳴き声は。
ヒスイゾロアの葛藤は短かった。なんてことないように掌の一粒を食べ、剰え餌のあった場所を舐め回している。しかも俺の手を前足で軽く叩く仕草すら見せ始めた。
こいつ、一回でも距離詰めたら調子に乗るタイプだな? 自分の好きな事になると饒舌になるオタク気質。
それにしても、人間に対する恨み辛みがないのは違和感あるな。
あの環境で生き残ったにしろ、もしくは生まれたにしろ、そう言う悪感情持ってるのが普通だと思うけど。
……いや、逆に、生まれたばかりでそこまでの感情を理解してないのか?
それならまあ、ありえなくはないか。
人間だって生まれてすぐに殺意の波動に目覚めてる訳じゃないし。
なんにしろ、これだけ出来れば上等だろう。ここから少しずつ俺の言う事を聞かせる。多少なりとも使える様にするのが目安だ。
大丈夫だ。俺は上手くやれてる。少しずつでも進めれば問題ない。
どんな結果であれ、最後に俺が笑えていればハッピーエンドだ。
一番大事なのはそれだろ?
主人公:金銭によるバフで最低限の身なりが整われ、ある程度社会に受け入れつつある。やってることはみみっちい。
ヒスイゾロア:かわいい。太眉のしょんぼり眉毛と面白い鳴き声がチャームポイント。調子にのるタイプ。生まれたばかりだから危機感や警戒が薄め。