元凡人による悪への道のり~裏ボス枠になるために~ 作:悪なれず
なんかえらい読まれてるなと思ったら、一瞬だけルーキーか何かのランキングに載ってたんですよね。それだけ色々な人の目に留まってくれたんですね。嬉しい。
ポケモンバトル楽しい。
高い知性。強い忍耐力。無表情。我が家のマンキーに対する追及は早々に諦めた。もう俺のモンだって認識だけでいいわ。
代わりに、図書館でマンキーの覚えそうな技を調べ上げ、指示を聞くように調整し、早速とばかりに戦わせてみた。
タマムシで戦うと俺の噂が一気に広がりそうだから、ヤマブキをひとつ超えた別の場所付近で相手をしてくれる野良トレーナーと戦うよう心掛けている。流石に全戦全勝とまでは行かないが、これがまあ強い。
あっちに避けて。
こっちに避けて。
わざと受けてカウンター狙って。
爪先を踏んで嫌がらせして。
そんな感じの指示をしっかりと守って、且つ本人の意思で的確なタイミングで補助してくれる。
強い……強くない?
トレーナーとして未熟だから助かるわ。逆にトレーナーとして未熟だから上手く動かせないの悔しい。負けるのも多分それが原因。
ゴーストタイプみたいな相性問題とか、レベル差とか、後はやっぱトレーナーとしての経験の差みたいな。
ピジョンのつばさでうつが飛んできてマンキーが吹っ飛ばされた時は悲鳴を上げそうになった。勝ったけど。なんで?
なんか受け身とったと思ったら相手に飛び掛かって、そのまま組み付いて首を絞めて失神させてた。なんだその謎の動きは。
賞金とかは向こうがさり気なく提案してくれるなら貰ってる。逆に負けて払う事もある。
本当はトレーナーカードを提示したりするんだけど、面倒だからみんな形だけなんだよね。やらない奴の方が多い。
提示させようとしてくる奴もいる。委員長タイプ。そういう時は落とした振りとか忘れてきた振りとか……まあ、なんとか誤魔化せてる。
しばらくそこに立ち寄らないのが一番だ。
で、ポケモンバトルを始めたいい影響もあって、それがうちのヒスイゾロア。
ボールの中からマンキーの奮闘を眺めているからか、拠点に戻ると自主的に訓練を催促するようになった。切り株とか拾ってきた丸太に攻撃するしか出来ないんだけどね。
マジで驚いたんだけど、あいつじんつうりき使えるんだわ。多分。丸太の樹皮がパンって弾けてた。
いや、曖昧なんだけどね。確か原種も含めてねんりきとかサイコキネシスを覚えなかったよなぁって。まあ俺じんつうりき生で見たの初めてだから本当にそうなのかわからないけど。
ちなみに悪い影響は負けた時に賞金を払うこと。身分証が遠のく。でも最初に約束して負けた癖に金払わないのって普通に怪しいからね。必要経費として割り切るしかない。俺からすると大金だけど、向こうからしたら割と良心的な値段だ。時給くらい。
あとマンキーの戦い方が若干異質な時があるから、極稀にそれで相手がごねる事もある。
相手ポケモンの関節を外すなんて想像つかないでしょ? 俺もだよ。しかも試合後はきっちりはめ込んで治してるし。こわい。
……んー……ちょっと賭博場行ってみるか?
前にタマムシとかクチバで結構な頻度でやってるのを聞いたことがある。あとヤマブキ。ただヤマブキはそっち方面でも高級趣向だから俺だと入れないんじゃないかな。
選手として参加できれば、表でのポケモンバトルより経験を詰めそうだ。少なくともマンキーの異常性は薄れるだろう。頭おかしい方が人気がでそうだし。スポンサーとかついたら一気に稼げるかも。
そこまで上手い話があるかどうかは別として。多分、裏稼業のスポンサーなんて碌な奴じゃないぜ。
問題は対戦相手のポケモンもマンキー並みにおかしいのがいるかもしれないってことだよ。ポケモンに限らずトレーナーの方でも。
性能的な意味って言うか、性癖とかそっち方面で。血まみれのポケモンが好きなんだ……とか言われたらどうするよ?
……まあ、いいか。ちょっと覗いてみよう。取りあえずクチバに行ってみよう。班長に聞けばわかるかな?
――深夜。潮のにおい漂うクチバ。
班長に連れられて以降ここに来るのは久しぶりだけど、取りあえず夜間まで隅っこで待機してた。黄昏時を過ぎてタマムシからここまで移動するのは危ないよ流石に。ていうか道のり長くない? 足痛いんだけど。班長の車で来た時はもっと早かったのに。めっちゃ疲れた。
ちなみに班長はいなかった。四六時中いる訳じゃないからね、あの人も。どっかで人のポケモン強奪してんのかな? 普通にやってそうだな。
なんで遅い時間まで待機してるのかって? 裏市場行けば情報が集まると思ったから。クチバを選んだのは立地の問題。懐かしいわぁ。ここで買った泥炭は今も小さい台座に飾ってる。自分の金で買ったって思うと宝物な気がしない?
さて情報収集のお時間。
冷やかしながら店の人と会話しつつ賭博場の事を聞いてみる。どうやら倉庫やコンテナ内でやることが多いらしい。そりゃまあ人目の多い場所でやる訳ないよな。
あ、おっちゃん、そのオボンの実ちょうだい。二つね。
――あ。
「売人さん久しぶり」
「ん?……ああ、お前……あぁ! あの時の子供か! 久しぶりだなぁ」
ふらふらしてたらいつぞや班長に詰められてた件の売人さんを見つけた。俺の運命のポケモンを連れてきた人だね。そのために多大な犠牲を出した人。
「今回もあのロケット団に付いてきたのか?」
「いないよ、今日は一人」
「おいおい。こんな遅い時間に出歩くなよ。ロケット団に入ってるからって危ないぞ」
「俺ロケット団じゃないよ」
「え、違うのか。てっきり下っ端か何かだと思ってた」
口の利き方に気をつけろよ。俺が命の恩人である事を理解してるのか。
「売人さんは何してんのさ」
「ん、ああ。前にやらかしただろ? それでまあ、元凶を見つけたし、殆どはそいつに払って貰うんだけど、俺も少しだけ借金がな。利子はないし無理な取り立てもされないから、ゆっくりでも返せるんだけどさ。で、いつの間にかカントーの担当にされてた。地元戻っても誰もいないからこれ幸いって感じだな」
ほーん。あの惨状を作って置いてまだ許して貰えるだけマシじゃないかな。
ていうか元凶って何よ。誰かに小細工されたって事? どこの世界にも足引っ張る奴はいるんだなぁ。
「売人さん、賭博場知らない?」
「ん? 賭け事するのお前。子供なのに。あとそう言う話はもうちょい声落として話せ」
「あ、そう? じゃあそうする。……参加しようかなって思ってて」
「……お前が? 普通に表でポケモンバトルすればいいじゃないか」
「こんな場所にいるんだから訳ありなんだよ」
「あぁ、まあ、そうだよな。……お前には恩があるし。そうだな、一緒に行ってやる。大人の一人でもつけた方がいいだろ」
マジ? 助かるわ。いざとなったらマンキーに腕へし折らせるから変なこと考えないでね?
「確か今回は……あ、ちょっと待った」
意気揚々と出る心構えをしていると、売人がちょっと待てと呼びかけてきた。なによ。そそくさと小走りで何処かへ向かうと、少ししてから最初と同じように同じく小走りで戻ってきた。
「これ被っとけ。一応、身バレ防止でな」
回答無用で袋を被せられる。ちょっとチクチクする。
「なにこれ」
「ズダ袋。目の所を丸く切ってある。通気性も悪くないだろ?」
まあ、貰っておくか。
そんな訳で、今度こそ売人先導のもと目的地に向かう。一応周りも警戒しておこう。
仄暗いランタンと星明りを頼りに売人について行くと、等間隔に置かれたコンテナがぽつぽつと姿を現す。コンテナの前には人影が薄っすらと見えた。中から音がする。
「この中?」
「ああ、規模が小さいとこうやって幾つもコンテナを借りてやるんだよ。朝になればクレーンか何かで別の場所に片付けちまうんだ。そしたら証拠も残らないだろ?」
悪知恵が働いてるのね。
「規模が大きい時は?」
「倉庫だな。あと悪趣味な金持ちに見せたいときは貨物船とかクルーズ船でやることもある」
どこの世界にもそう言う層は一定以上いるんだな。
「ああ、ここだな。ここにしよう。……よし、ほら入るぞ」
恐らく見張りであろう男に何か話しかけた後、売人が俺を手招きで呼び寄せるので近づく。この見張りモヒカンだな。世紀末みたい。俺のこと見ながらにこぉ……と微笑みかけてくる。子供泣きそうな顔してる。
少しだけ開かれた重たい扉から体を滑り込ませて中に入る。中は外よりも明るかった。
天井にはどこからかコードを引っ張ってきた電球がコンテナ内を煌々と照らしている。四隅に小型の扇風機が取り付けられているけど、人が密集している所為でむわりとした暑苦しさを感じた。
観客であろう連中は奥や両端の壁際を陣取っていて、中央には今から戦うであろうポケモン達が向かい合っていた。マクノシタとサンド。あれくらい広さを取れればギリギリ技が当たらないかもしれない。
「タイミングがいいな。ちょうどはじまる」
入り口を陣取るのはマナー違反らしい。売人が「ちょいとごめんよ」と言いながら俺の手をとり、見やすい位置へと連れて行ってくれる。
「ここは……まあ、賭博ポケモンの入門編ってところだな。掛け金は少ないけど楽しむだけならこれくらいがちょうどいい。もうちょい大きいコンテナだったりすると過激になるし掛け金も増える。やるか? 奢ってやるぞ?」
「奢って」
「分かった、どっちに掛ける?」
「サンドじゃない方」
ただより高い物はないと言うが、ただで奢ってくれるなら食いつくべきだろう。どっちも進化前だけどマクノシタの方がやれそう感がある。近場の男に金を渡す売人を横目に……一万円!? 正気かこいつ! いや、周りもそこまで驚いてないな。これくらいが普通なのか。だからってお前……借金持ちだぞ? もっとお金大事にしなよ。
「ほら、お前の分だ。俺はサンドに掛けた」
戻ってきて早々にAと書かれた紙切れを渡される。スタンプが押してある。サンドに賭けたのは当てつけか? まあいいけど。
で、バトルの結果は……マクノシタだった。
掻い摘んで説明すると、最初はサンドが砂を掛けて目潰ししながら優位に立ち回っていたのだが、マクノシタが渾身の張り手をかましたらぐったりしてしまった。
そこに追撃と言わんばかりのふみつけで完全にノックダウン。ラッキーパンチの結果、勝者はマクノシタ。
勝った金は分け合った結果七千五百円の臨時収入になった。流石に全額貰うのは気が引ける。
周りも大きく騒ぐほどじゃないけど意外と盛り上がっていた。勝った選手は褒め称えて、負けたであろう選手を笑って慰めてるの見て人情味を感じた。雰囲気を楽しむ場所だなここは。
「……参加してみるか?」
お札を見て内心ニチャついていたら売人に問われた。
いいんか、マジで。俺のマンキーが戦ったら悪い意味で目立つけど。いやお世辞とかじゃなくて冷え冷えになるんじゃない?
「出れるなら出たい」
「了解。ちょっと聞いてみる」
気軽な口調でその場からいなくなった売人は、先程と同じ男に話しかけて身振り手振りで俺を指さしながら交渉している。で、男の方もニヤッと笑いながらオッケーとジェスチャー。やったぜ。
「ほら、行ってきな」
あいよ。のそのそ出ると周りが一瞬だけざわつく。なんかヤジ飛んできたな。「ママのおっぱいでも吸ってろ」って? ママいねぇよ。
対戦相手も出てきた。船乗りかな? ガッシリした体格の男だ。
「おいおい、マジでお前が対戦相手かよ。手加減してやろうか?」
「いいの? 嬉しいよ。手加減して負けたらそっちも言い訳になると思うから、やってくれる?」
「だっはっはっ! 威勢の良いガキだな! なら大人の威厳を見せてやらないとな!」
……ノリで返したときはヤバいと思ったけど、相手の器量がデカくて助かった。海の男は心も海なんだな。周りのヤジもちょい強くなったな。子供だから敢えて盛り上げてくれてるんだろうか?
「ま、やるだけやろうや。よろしくな坊主」
「おじさんもよろしくね」
熱い握手。お互い距離をとる。向こうが出してきたのは……ワンリキー。小さいけどムキムキだな。
対して此方が出すのは当然ながらマンキー。ぺたりと座り込んだ状態からのそのそと立ち上がった。うーん、威厳が足りない。わかっちゃいたけど小さいなマンキー。見ろよあの船乗りの表情。にやにやと小馬鹿にしている。なんかワンリキーもそんな感じでマンキーのこと見下してるわ。
あ、でも観客がちょっとだけざわついたな。馬鹿にされても怒り狂ってないマンキーを見て違和感持った奴がいるかも。
「――両者準備は良いな?」
「おう」
「いいよ」
「――はじめっ!」
「やれワンリキー!」
審判の掛け声が終わると同時に船乗りが指示を出した。ワンリキーがタックルの要領で組み付こうとするも、マンキー、最低限の動きでそれを華麗に回避。
「マンキー、嫌がらせ。すぐ攻撃して」
砂を掛けて目潰し。相手ががひるんだ。ローキックの要領で蹴りを叩き込む。
「おいおい、効いてねぇぞガキんちょ! やり返せワンリキー!」
「避けて」
ワンリキー、ほぼ無傷。すぐさま反撃の拳を振り抜いて来るも、スレスレで避けてくれた。ポケモンもトレーナーも俺より上だなぁ、あれ。場慣れ感ある。
「目潰し、組み付き。失神狙い」
ぶんぶん腕を振り回して攻撃してくるワンリキーの全てをいなし、マンキーが隙を見てワンリキーの目を引っ掻いた。続けて脛に蹴り。
上下の攻撃にひるんだワンリキーを好機と見て後ろに回り込み、細長い脚をワンリキーの胴体に巻き付けて固定、腕全体を前に回して首を締め上げる。
――おっしゃやれ! 始末しろ! 息の根を止めろ!
「うぉマジか。振り払えワンリキー!」
船乗りの命令を遂行しようと藻掻くワンリキーだが、藻掻けば藻掻くほど首の締まりは強くなっていく。その内動きを止め、カクンと糸が切れた様に倒れ込んだ。マンキーがすぐさま離れて距離をとる。
「……ワンリキー、戦闘不能! 勝者、マンキー!」
レフェリーの判断によりマンキーの勝利が告げられると、最初こそ観客からはどよめきが広がっていたが、徐々に拍手へと変わっていく。決して大きくはないが、それでも祝福してくれるのはわかった。
「いやぁ参った。まさかこんな小僧に負けるとはなぁ」
船乗りがそう言いながら近づいてくる。
「手を抜いてくれたんでしょ? 本当はゴーリキーとか進化系持ってるんでしょ?」
「あ? まあここでそんなデカいポケモン使えないからな」
ほら見ろ。腰のベルトにボール何個かあるし。
どうせゴーリキーとかカイリキーみたいなバケモンが控えてたんだ。最初に見た試合でも未進化ポケモンしか使ってなかったし。大きすぎるとコンテナぶっ壊すかもしれないから禁止されているんだろう。
「いや、お前のマンキーが強いのは本当だぞ。なんだそいつ。試合中、一回もぶちぎれてねぇ。本当にマンキーか?」
「マンキーだよ。野生産。まあこれも個性かなって」
「そんなもんかねぇ……ま、おめでとさん。新鮮な気持ちになれたわ。駄賃をやるよ」
ビスケット貰った。
ばいばいと手を振って観客席に戻ると、名前も知らない大人たちからよくやったと褒めて貰えた。
……やべぇ、承認欲求が満たされる……ッ!
これが観客込みで勝った時の気持ちか。堪らねぇぜ。
「いやぁ、まさか勝てるとは思ってなかったな。おめでとう。ほら、勝った賞金とお前の取り分」
すっと現れた売人からお褒めの言葉とお賃金を貰った。三万円も貰えた。ぱねぇ。
「俺に賭けた?」
「まあな。悩んだけど、どうせなら未来ある若者に賭けた方が面白そうだろ? 負けた分も取り返せたし。まだやるか?」
「今日はいいや」
人に見られながら戦った所為か、いつもより疲れた気がする。……いや、ズダ袋の所為で息が苦しいんじゃないか? 一応、最後まで被っておくけど。
一部の観客たちに見送られながらコンテナを出ると、夜の寒さがスッと身に染みた。
「なんか食ってくか。おでんとか」
「奢って」
「いいぞ。有望な選手に唾をつけておくのは悪くないからな。その代わり小銭稼ぎさせてくれよ?」
やったぜ。染み染みの大根が食いたい。あとズダ袋は持って帰って捨てた。
あったけぇタイプの初心者入門裏賭博。海外のちょい僻地に行ったら、路上で当然のように賭け事やっててビックリしましたね。警察のサイレンの音がしたら全力で逃げてたけど。
おでんは基本的にどの具材も好きです。大根はトップ上位、練り物が慣れ親しんだ味って感じですかね。牛筋はあんまり食べないけど、偶に食べると美味しい。
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