その瞳に勝利を   作:カニ漁船

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クラシック級上がる前に日本の様子でもね。


幕間 その頃日本のジュニア級

 アーモンドアイが欧州で活躍している頃。日本のジュニア級ではあるウマ娘が注目を集めていた。

 

 

 晴れ空が広がる阪神レース場。絶好の良バ場で開催されたジュニア級のG1レース、阪神ジュベナイルフィリーズ。

 

「いけー、頑張れー!」

「最後の直線だぞー!」

「頑張ってー!」

 

 レースはいよいよ大詰め。最後の直線に入り、各々末脚を解き放とうとしている段階。前を走っている逃げウマ娘は追いつかれまいと、必死に粘っていた。

 一生懸命にゴール板を目指す。誰よりも早く到達するために全力で脚を回す。彼女達の熱は会場中に伝播し、大きな盛り上がりを起こしていた。

 

 最終局面。飛び出してきたのは。

 

《ここで外からラッキーライラック、ラッキーライラックが飛んできた! 第4コーナーを過ぎて最後の直線、ここでラッキーライラックが外から襲い掛かる! 逃げウマ娘をあっという間に捕まえて、並んだ並んだラッキーライラック!》

 

 中団に控えていたラッキーライラックだ。凄まじい切れ味の末脚を解放し、前を走っていたウマ娘達を全員撫で切る勢いで走っている。

 

「む~り~!」

「さぁ、いきましょか」

 

 凛と、前だけを見据えてラッキーライラックは駆ける。気づけば逃げウマ娘を躱し、先頭に躍り出た。

 後はもうラッキーライラックの舞台だ。2番手以下をグングン引き離していき、残り200のハロン棒を過ぎる頃には2バ身から3バ身の差がつこうとしている。

 

《ラッキーライラックが躱して先頭に立つ、ラッキーライラックが先頭だ! これは圧倒的、圧巻の走りでターフを駆けるラッキーライラック! 2番手以下をグングン引き離す! 追いつけるウマ娘はいない、どんどん離れていくぞ!》

「うおおおぉぉぉ! ラッキーライラックきたぁぁぁ!」

「ま、負けないでー! まだ距離はあるよー!」

「突き抜けろラッキーライラックー!」

 

 その後差が縮まることはなかった。鋭い末脚を発揮したラッキーライラックの脚色が衰えることはなく、ひたすらに後続を突き放しての圧勝劇を披露。1番人気の期待に応えるように、阪神ジュベナイルフィリーズを制した。

 

《ラッキーライラックが勝ちました! 阪神ジュベナイルフィリーズを制したのはラッキーライラックだ! 見事ジュニア級女王の冠を勝ち取ったのはラッキーライラック!》

 

 終わってみれば、2着に5バ身差をつける快勝。他とは違う、隔絶とした強さを見せつけての勝利。ラッキーライラックのファンは大盛り上がりで祝福の言葉を贈っていた。

 

 声援に対し、ラッキーライラックは優雅にお辞儀をする。1つ深呼吸をした後、改めて観客へと視線を向けた。

 

「ご声援、ありがとうございます。ウチのレース、堪能してもらえたでしょうか?」

 

 その言葉に、観客は声援で応えた。凄かった、圧倒的だった、完璧なレース運びだったと絶賛している。

 満足げに言葉を噛みしめるラッキーライラック。その時ふとある方へ視線を向けると。

 

「ララー! 凄かったよララー!」

「はしゃぐな、みっともない」

「まぁまぁ、良いじゃないかオル。トレーナーさんも嬉しいんだよ」

 

 ラッキーライラックのトレーナーである朝霞が、観客に混じって声援を飛ばしていた。誰よりもはしゃいでおり、ぴょんぴょんと飛び跳ねている。

 その様にオルフェーヴルは呆れ、ドリームジャーニーは微笑ましそうに眺めている。他のメンバーはラッキーライラックを口々に褒めていた。

 

(なにしとんねんトレーナーさん! うちの勝利喜ぶんはええけど、周りにも目ぇ向けぇや!)

 

 突然目に入ったトレーナーの姿に心の中でツッコミを入れる。少しだけ恥ずかしさのようなものを覚えた。

 

 ラッキーライラックは仕切り直すように1つ咳払いを入れ、観客へ鋭い視線を向けた。

 

「私はラッキーライラック。以後、お見知りおきを。いずれレースの花形となるウマ娘の名前ですから」

 

 鋭い視線は一瞬のこと。次の瞬間には優雅な笑みを浮かべ、観客を魅了するかのような佇まいを見せる。思わずドキッ、とするファンもいた。

 

 ただ、観客は興味を注がれる。一体どうして、レース後にラッキーライラックはこちらを振り向いたのか? そして、観客席へと問いかけるように言葉を投げかけているのか? 当然の疑問が湧く。

 答えは、すぐに明らかになった。

 

「ここで1つ、私の目標について宣言させていただきます」

 

 目標。今後のレースについて、ラッキーライラックは観客の前で宣言しようとしていたのだ。

 今しがたジュニア級の女王を戴冠したウマ娘の目標。気にならないはずがない。観客は声を聞き逃すまいと、皆一様に黙り込む。

 誰かの喉を鳴らす音が聞こえる静寂の中、ラッキーライラックは口を開いた。

 

「私、ラッキーライラックは──トリプルティアラを戴きます。金色の輝きを放つティアラを皆様にお見せすることを誓いましょう」

 

 トリプルティアラを取ると宣言し。

 

「──憧れを超えて」

 

 チラリとオルフェーヴルを一瞥した。オルフェーヴルもラッキーライラックに視線を向けており、2人の視線が交錯する。

 ラッキーライラックはすぐに視線を外してしまったが、宣言を聞いたオルフェーヴルは。

 

「面白い」

 

 笑った。笑みを浮かべ、上機嫌に笑う。ラッキーライラックから遠回しな宣戦布告を受けて、笑わずにはいられなかった。

 

「余を超える、か。王を超えるなどという妄言、その無礼を許そう。だが、生半可な強さでは超えられぬ……精々励むがよい」

「おやおや、オルが上機嫌で何よりだよ」

 

 宣言を終えた後の会場は大盛り上がりだった。トリプルティアラを取る宣言、盛り上がらないはずがない。ラッキーライラックの強さを讃え、彼女ならばトリプルティアラを取れると確信するファンもいるほど。

 会場の反応に満足げに頷いたラッキーライラックはターフを後にする。その背中は、自信に溢れていた。

 

 

 この宣言もあり、日本では今ラッキーライラックが大注目されている。クラシック路線に進む子達よりもよっぽどだ。

 これまでの全てのレースが大楽勝であることからティアラ路線の大本命として紹介され、なによりあのクラシック三冠ウマ娘であるオルフェーヴルから直々に指導されているウマ娘。注目を浴びないはずがない。

 また、トレーナーもトレーナーで辣腕を振るう朝霞トレーナーだ。オルフェーヴルを代表とし、菊花賞制覇にグランプリ三連覇のドリームジャーニーにクラシック二冠のサウンズオブアース、宝塚記念覇者のダンツフレームにG1を3勝のマチカネタンホイザ、ダート戦国時代のいぶし銀ワンダーアキュートと、数々の名ウマ娘を輩出している。

 

 注目されないはずがなかった。注目されているトレーナーの、今年デビューした注目株。それがオルフェーヴルが目をかけているとなると、話題性もばっちりだからである。

 話題性があるということは、記事にする会社も増える。記事が増えれば、一般人が目にする機会も必然的に増える。その結果として、ラッキーライラックの知名度はうなぎ上りだった。

 

「見て見て! ララのこと、またまた記事になってるよ!」

 

 手にたくさんの新聞を持って、ラッキーライラックに嬉しそうに報告する朝霞トレーナーの姿。担当が注目されて嬉しいようで、目を輝かせていた。

 そんなトレーナーに対し、ラッキーライラックは微笑む。

 

「注目されてて嬉しいわぁ。うちの努力が認められてるようで、ホンマに嬉しいでトレーナーさん」

 

 優雅という言葉がぴったりと似合うような所作。興奮気味に喜んでいるトレーナーとは対称的に、ラッキーライラックは余裕然としていた。

 

 担当の様子を見て、朝霞も慌てて引き締まった表情に切り替える。

 

「で、でも! まだまだここからだよララ! ティアラへの挑戦はもう始まってるんだから!」

「おぉ、これが切り替え上手ってやつですかな? アキュートさんや」

「そうねぇ、微笑ましいねぇ。特に喜んでいるのが隠し切れていないところとか」

「溢れるパッションが抑えきれないんだね、アモーレ! そんなところも可愛らしいよ!」

 

 なお、微妙に笑顔が隠し切れておらず、担当からは微笑ましい視線を向けられていた。微妙に顔が赤くなる朝霞である。

 

「と、とにかく! 気づいたら桜花賞なんてあっという間なんだから! 気を抜かずに、これからも頑張っていくよ!」

「今更取り繕っても無駄であろう」

「そう邪険にするものではないよオル。愛らしいじゃないか」

「オルフェにジャーニーうるさい!」

 

 チームの微笑ましいやり取りを見ても、ラッキーライラックの態度は変わらない。たおやかに、可憐に微笑むだけだ。

 

 だが、その内心では。

 

(いよっしゃぁぁぁ! 見たかボケコラぁ! アイさんだけやのうてうちもやるんじゃ記者共ぉ!)

 

 割と、というか結構はっちゃけていた。顔に出さないのが凄いくらいに。

 

 実はラッキーライラック、ここに至るまでに結構言われていたのである。

 

(ティアラ路線の有望株は欧州へ、日本よりも海外のレースに目を向けた方がええやろう……やとぉ? シバいたろかホンマに!)

 

 ミーティア期待の新デビューウマ娘、アーモンドアイ。メイクデビューを大差で圧勝した彼女は欧州へと旅立ってしまった。日本へ戻ってくる予定は未定、下手したら戻ってこない可能性がある。

 そんなものだから、記者陣はこぞって海外のレース記事を作成しようとしていたのだ。日本よりも海外に注力しようとしていたのである。

 

 当然、ラッキーライラックは憤る。自分達が蔑ろにされ、アーモンドアイにばかり注目を集める記者達に対し、怒りを募らせた。

 

(ホンマのホンマに我慢の限界やったわ。アイさん+その他みたいな扱いされんの!)

 

 自分に注目を向けられないことではなく、自分の実力を軽視されていることが。走る前からアーモンドアイ以下の烙印を押されていることが我慢ならなかったのだ。

 

 とはいえ、記者の言葉にも一理あるのは事実。アーモンドアイはそれだけ話題性がばっちりだからだ。

 

(アホみたいに強い世界最強チーム、ミーティアのウマ娘。しかもレースの強さも圧倒的。そら注目集めますわ)

 

 注目を集めるというか集める要素しかないウマ娘。記者の目を惹くのも必然だと考えている。ラッキーライラックも自分が同じ立場なら、同じようにするだろうと考えるほどにだ。

 

 だが、それとこれとは話が別である。

 

(やからって……アイさん+その他みたいな扱いされて我慢できるかいボケがぁ! うちをバカにするんもええ加減にせぇよアホンダラ!)

 

 添え物みたいな扱いされたら怒りたくもなる。見返したくもなるだろう。例えどれだけ輝く相手がいたとしても、である。

 

 そのため、ラッキーライラックは努力を重ねた。記者を見返す気持ちを2割ほど乗せて練習に励んだ。

 結果として、ラッキーライラックは世代の顔役として名を上げることになる。クラシック路線に進む予定のウマ娘すらも押しのけて、ラッキーライラックこそがジュニア級の代表とする声が多い。

 

 鼻高々だ。自分の実力が認められているのだから、ラッキーライラックも嬉しくて仕方がない。

 

(えぇ気味やわぁ。注目してへんかった子がここまでの花形になるなんて、想像もつかんかったやろなぁ)

 

 それを表に出すことは決してないが。何事にも体裁、というか隠したいなにかはあるのである。

 

 ラッキーライラックは油断しない。

 

(……言うても、アイさんがおらんからな。空き巣みたいな扱いされる可能性も0やない)

 

 自らがレースの主役となるために、黄金の花形になるために努力を怠らない。

 

(やから、これからのレースも全部勝たなあかん。勝てへんかったら、またアイさんの添え物扱いや。そんなん、絶対に許せへん!)

「トレーナーさん、これからもどうかよろしゅう。トレーナーさんの手腕、頼りにしてますえ」

「え? あ、うん、任せて! ララがびっくりしちゃうようなトレーニングメニュー作っちゃうから!」

 

 日本にラッキーライラックあり。海外のウマ娘にも負けないような輝きを放つ。そして自分こそが、レースの花形として君臨する。そう誓うラッキーライラックだった。




ちなみにブーちゃんはホープフルステークスを勝ってます。
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