その瞳に勝利を   作:カニ漁船

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1000ギニーですわよ。


始まるクラシック戦

 レースが開催されるまで、たっぷりと時間があった。その時間を利用して、アイは欧州の強者たちと模擬レースを続けた。

 時にはステイヤーとの勝負を、またある時はマイラーとの勝負を。距離を問わず、ひたすらに強い相手と走り続けて自分を磨く。

 

 相手はシニア級でもトップ層の猛者。クラシック級に入ったばかりのアイでは勝つことは出来ない。

 

「ふぐぅ~……! ま、また負けたわ……! 屈辱的よこんなの!」

「現時点で全員に対し5バ身差以上つけられていないだけでも十分なんだがねぇ。それで納得するアイ君ではないか」

「当然ですわ。その程度の気概でしたら、今も私達に勝負を挑む可愛い子ではありませんもの」

 

 だけど、負けてもアイは凹まない。普通のウマ娘ならば折れてしまうような模擬レースを何度繰り返しても、アイは折れるどころかバネにして押し返す。強く押せば押した分だけ、やられた分だけアイは強くなる。

 

「さてさて、では反省会といこうじゃないか。そもそもだね、君はまだまだスタートが甘いんだよ。もう少し抑える術を持ちたまえ」

「アイちゃんスタミナついてきてるし、もっと前で走っても大丈夫だと思う! それに、末脚をキープする方法も身につけたらいいと思うよ!」

「いや、無理に変える必要はあるのか? アイの武器は一瞬の末脚。キープする方向にシフトした場合、その武器を捨てることにも繋がる。あまり好ましくない」

「……いえ、キタサンのアイディアを取り入れつつ、ドゥラさんのいうわたしの武器を磨くわ。最後まで落ちない末脚を手に入れる!」

 

 そして、ミーティアメンバーとのミーティング。バクシンオー達が自分で感じたことをアイに伝え、アイも自分の考えをみんなに伝える。お互いに意見を出し合って、より良くするためにはどうしたらいいかを討論。結果がでたら、アイが実践する。

 トライ&エラー。見直すべき点を直し、次に活かすための土台を作る。活かすためのトレーニングメニューは当然、僕が作成する。

 

(ほぼ毎週のペースで更新している。それだけ、アイはとんでもない速度で進化を遂げている)

 

 間違いなく言えることは、僕が育ててきたウマ娘の中でも、この時期の段階においては最強と言ってもいい。僕自身の積み重ねもあるとはいえ、他のメンバーと比べてもかなり早い成長速度だ。

 クラシック初戦である1000ギニーも始まってないのに、シニア級とそこそこやり合えるというのが何よりの証明。アイの強さは、もはや世代間では敵なしレベルかもしれないね。

 

(とはいっても、日本ではラッキーライラックが凄いって聞いている。レースを見たけど、確かにあの子は強い)

 

 少しだけ慢心しそうになるけど、すぐにその考えを取り消す。レースは始まるまで分からない、思わぬ伏兵に刺されてしまう可能性は十分にある。こういう慢心が、みんなに敗北をもたらしてしまう。

 

 そうならないためにも、気を付けておかないと。

 

「それじゃあアイ。今回の相手で、勝負する予定のウマ娘との模擬レースは終わり。後は1000ギニーに備えようか」

 

 みんなのミーティングが終わった後、タイミングを見計らってアイに今後の予定を伝える。

 

「出走する予定の子達の情報はまとめてある。後から追加登録する子は随時情報を仕入れておくから、ひとまず資料の子達のデータには目を通しておいてね」

「ありがとう、トレーナー。しっかりと目を通しておくわ。でもその前に」

「シャワーだね。用意はしてあるから、すぐにでも浴びに行っておいで」

「助かるわ!」

 

 座っていたアイは立ち上がり、キタサン達と一緒にシャワーを浴びに行く。彼女達を見送って、僕は一緒に練習してくれた人たちにお礼をしに行く。

 

「『本日はありがとうございました。遠方からご足労いただき、本当に感謝しています』」

「『いやいや、こちらこそかのミーティアとトレーニング出来てとても良かったです! 学びがたくさんでしたよ!』」

 

 お互いに握手を交わして、頭を下げる。いずれ戦うかもしれない相手と模擬レースをしてくれるなんて、本当にありがたい限りだ。

 

「『それにしても、高村の育てたウマ娘は凄いね。この時期でシニア級相手に戦えるの、大分おかしいよ?』」

「『頑張っていますので。まだまだ、精進あるのみです』」

「『これ以上って、君は何を求めるのさ』」

「『担当達が願うこと、全てです。彼女達の願いはできる限り叶えてあげたいので』」

 

 ……去り際に凄い目で見られたけど、まぁ気のせいだろう。多分。

 

 

 1000ギニーまでの間は基本模擬レースを中心に。普段の練習もキッチリとこなして、出来る限りのことはしておいた。

 そして迎えた本番。英国ティアラの初戦、1000ギニーの日がやってくる。

 

 

 

 

 

 

 ニューマーケットレース場。デューハーストステークス以来となるこの舞台で、アイは1000ギニーを走る。

 世代の代表格が集うこの舞台。アイの人気はというと──ダントツの1番人気。なんというか、とんでもない人気を博していた。どこの新聞でもアイが大本命、勝つのはアイって断言するとこもあったくらいだし。

 

「アイ君が大本命なのもまぁ当然か。ジュニア級G1を2勝、その2勝したレースがクラシック路線に進む猛者が集う舞台ときたものだ。揺らぐはずがない」

「アイちゃん凄い! これは応援にも熱が入るよ~!」

 

 パドックを終え、ターフでそれぞれ準備を済ませる出走者たち。その中には当然、アイの姿もある。

 

 自信満々、威風堂々。そんな言葉が似合うほどの立ち居振る舞い。勝利を確信しているかのような瞳に、気圧されている子もいるくらいだ。

 

(控室でも自信満々の発言をしてたな。わたしの勝利を信じて、だっけか)

「別に疑うことなんてないんだけどな。アイの勝利を」

 

 体調は万全、調子は絶好調。ベストコンディションでレースに臨める。後は、これまでの成果をぶつけるだけだ。

 

 

 ほどなくしてゲート入りの時間がやってきた。割り当てられた番号のゲートへと歩を進め、気合いを入れてゲートに入る。

 

《まもなく始まります、イギリス伝統の一戦1000ギニー。イギリスティアラ路線の第一戦、天候にも恵まれて良バ場の開催になります。1マイルの激闘、制するのはどのウマ娘か?》

《気になるのはやっぱり、日本から来たアーモンドアイだね。ナショナルステークスとデューハーストステークスの覇者、このレースでも1番人気だ!》

《日本の挑戦者が1番人気。これに俄然やる気を出しています現地のウマ娘達。人気でレースの勝敗は決まらない、ティアラの冠を戴くのに人気はいらない! 欲するのはただ勝利のみ!》

 

 全員がゲートに入った。静まり返ったレース場、時間の流れが遅くなったように感じる。

 1秒経ったか、それとも2秒か。どれだけの時間が経ったかは分からない。

 

《1000ギニーが今っ、スタートしました! 抜群のスタートを切ったぞアーモンドアイ、アーモンドアイが綺麗にゲートから抜け出した! 他のウマ娘も揃って綺麗なスタートを切ります!》

 

 気づけばゲートは開き。アイ達は一斉にゲートから飛び出した。1000ギニーの始まりだ。

 

 始まってすぐ、タキオンの感心したような声が聞こえてくる。

 

「ふぅン、スタートは上々だね。ようやくモノになってきたか」

 

 アイのスタートを褒めていた。他の子達からなにも言葉が出てこない辺り、タキオンと同じことを思ってるんだろうな。

 

(実際、アイの出だしは好調だ。今までで一番のスタートと言ってもいい)

 

 何人かのリズムを少しだけ狂わせた。特に、ラビット役の子達に効果大だね。ペースを握りたいのに、アイが前に出たせいでリズムを無理やり崩さざるを得ないのだから。

 

 ニューマーケットは直線コース。1000ギニーも1マイルの直線だ。

 直線ということは力のぶつかり合い。コーナリングでの位置取りとか、細かいことを考える余地がないんだ。

 速いウマ娘が勝つ。足の速さは当然として、ベストポジションを勝ち取る速さ、最短経路を勝ち取る速さも求められる。

 

「バ群が横に広がっていますね。これもニューマーケットの特徴、ですか」

「そうだね、タルマエ。わざわざ斜行する意味なんてないし、まっすぐ走れるならそれに越したことはない。最短距離を最速で駆け抜ければ、それで勝てるんだから」

 

 とはいえ、まっすぐ走るのは意外と難しい。時速60kmを超えて走っているんだからなおさらだ。

 だからこそ、出来る限り少ないロスで走ることが求められる。ある程度は仕方ないと割り切る心も大事だ。

 

 ……まぁ、アイはその妥協を許さないのだけど。

 

《アーモンドアイがまっすぐ伸びる、アーモンドアイは現在、3番手から4番手、真ん中の枠番から飛び出して、真っ直ぐ綺麗に伸びている》

《右に寄れる集団、左に寄れる集団、そしてアーモンドアイを先頭にした真ん中の集団。綺麗に3つに分かれたね。先頭は左の集団だけど、これから先どうなるかな?》

 

 多少のズレはあるものの、アイはほぼ真っ直ぐに駆け抜けていた。ニューマーケットの直線を、ヨレることなく真っ直ぐにだ。

 

「真ん中の枠番というのが幸いした。展開によっては他のウマ娘に押し出されて寄らざるを得ない場合がある。しかし、アイはスタートが良かった」

「えぇ。スタートが良かったからこそ、他のウマ娘よりも先手を取れた。先手を取れたからこそ、まっすぐ走ることに注力できる……ほほほ、素晴らしいですわね」

 

 ドゥラもジェンティルも大絶賛。事実、それだけのことをアイはやってのけている。厳しい2人でも褒めるようなことを。

 

 そして気づく。観客は今、アイの強さを肌で感じているはずだ。

 

《気づけば残り400を切ったレース、ここでアーモンドアイが仕掛けたぁ! アーモンドアイが切れ味鋭く一気に駆け出す! 後続はつられるようにアーモンドアイに。右の集団も左の集団もギアを上げた! だが、これは!》

《アーモンドアイが圧倒的だね! 彼女がじわじわと引き離しているよ!》

 

 全員がほぼ似たような場所でスパートをかけた。そこが勝負所と分かっていたのか、それともアイを逃げさせないためか。どちらにせよ、残り400m地点で全員がスピードを上げる。

 なのに、アイが徐々に後続を引き離し始めた。同じ場所でスパートをかけたはずなのに、アイだけが抜け出した。

 それが示すことは何か? 簡単だ。

 

「素晴らしいバクシン、アイさんのスピードが突出している証拠ですッ! これぞ委員長に相応しいバクシン魂ですよッ!」

「あはは、イケイケアイ~! バックシ~ン!」

「ヤン子君にも感染したみたいだねぇ」

「バクシンを感染とか言うのやめた方がいいと思いますよ、タキオンさん」

 

 アイのスピードだけ飛び抜けていることに他ならない。周りと圧倒するほどに、アイだけが飛び出してその強さを披露していた。

 

 いや、まぁ、うん。

 

(年が明けた時点で、クラシック終盤ぐらいのステータスはしてたからなぁ)

 

 なんならシニア級と言われてもちょっと納得するかもしれない数値。混乱しそうになるけど、我ながら凄い数値を叩き出したものだ。友情トレーニングって凄いな。

 見る人が見たら渇いた笑いが出てきそうなレース展開。それほどまでに飛び抜けた強さを発揮している。

 

《アーモンドアイ独走、アーモンドアイ独走! その差を2バ身3バ身と広げていく! これは強い、速い、圧倒的! アーモンドアイが欧州勢をまとめて一蹴する!》

《これは思わず笑いが零れるくらいに強いね。圧倒的だよ!》

 

 差は無情にも広がっていく。残酷に、圧倒的に差を広げていく。アイの強さの前に、他のウマ娘は後塵を拝するしかなかった。

 

「『む~り~』!」

 

 前を走るアイがどんどん離れていく。追いつこうにも追いつけない、追いすがることができない。後ろから眺めることしかできない。それほどまでにアイは強かった。

 

 結果的に、5バ身程開いたところでレースは終わる。

 

《アーモンドアイだアーモンドアイだ! 伝統の一戦を制したのはアーモンドアイだぁぁぁ! 日本のウマ娘が、イギリスのクラシックを制しました! それも圧倒的に、とんでもない速さで駆け抜けました!》

《強いね。クラシック限定のマイル戦とはいえ、5バ身差はとんでもないよ!》

《アーモンドアイはオークスステークスにも出走予定だ! さらにはティアラ三冠を狙う可能性すらもあると陣営は言っていたぞ。これは、ティアラ三冠も狙える逸材だ! アーモンドアイの次のレースが非常に楽しみです!》

 

 圧勝。そうとしか言えない走りで、アイは1000ギニーを勝利した。




マイルで5バ身差もヤバいのに桜花賞で10バ身差つけたテスコガビーは何だったんだ()
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