その瞳に勝利を   作:カニ漁船

18 / 74
ちょっとした箸休め。


1000ギニーを終えて

 1000ギニーを無事に制したアイ。インタビューでは今後のレースについて質問攻めされる。

 

「『次走はどのようにお考えでしょうか! マイル路線に進むのか、それともティアラ三冠路線に進むのか!』」

「『現状はティアラ三冠に進みます。なので、次走はオークスステークスですね』」

 

 ティアラ三冠路線、と口にしたらおぉ、とざわつかれた。王道と言えば王道の路線だけど、驚くことでもあったのだろうか?

 

 とはいえ、予定はあくまで予定。アイの言葉次第で変わる可能性は十分にある。

 

「『あくまで予定、です。別のレースに進むかもしれませんし、あくまで選択肢の1つとして、といった感じです』」

「『なるほどなるほど。しかし、アーモンドアイは盤石の強さを発揮しましたね。まさに完璧なレース運びでした!』」

 

 う~ん、完璧か。傍目にはそうかもしれないけど。

 

「『まだまだ課題の見えたレースでした。改善点はありますし、次のレースではしっかりと直しておきたいですね』」

 

 そう答えると、記者の人達は驚きの表情を、アイは分かってるじゃない、とばかりに満足げにしていた。やっぱり、アイ自身もそう思っていたみたいだね。

 

「『本人も満足するような出来ではなかったと思いますし、次のレースではさらに進化したアーモンドアイをお見せできると思います』」

「あ、『あれでまだ完璧じゃない? 一体どこまで強くなるんだ』……」

 

 慄いているけど、そもそも完璧という言葉は似合わないだろう。完璧とはある種の到達点、それ以上成長の余地がないことだ。いわば、本人の限界ともいえる場所。

 アイは完璧なんかで満足しないはずだ。そもそも彼女自身、完璧ではないと口にしているのだから。

 

「『彼女は完璧なんかで満足しません。この先も、ずっと先の未来も進化し続けます。それが、アーモンドアイというウマ娘の目指す姿ですから』」

「『分かってるじゃないトレーナー。今回のレースも反省点は多々あった、それを全部改善して、次のレースもわたしが勝つわ!』」

 

 僕の言葉に便乗するアイ。自信満々に、目を輝かせて勝利を誓う。いつもと変わらない、アイの振舞いだ。

 

 聞いていた記者の人達は呆然とした後、カメラを構えて僕らの写真を撮り始めた。さっきよりも勢いよく、だ。

 

「『これがミーティア……、とんでもない上昇志向だ!』」

「『1つの勝利で満足していない、この先も勝ち続けることを予告した! 見れるのか? かの怪物のような無敗のウマ娘!』」

「『あぁ、見れるかもしれねぇぞ! あの怪物にすら比肩するかもしれねぇんだ! 今の内に独占取材の申し込みを』」

 

 てんやわんやしているね。独占取材がどうとか言ってる人もいるし、少しでも多くの情報を引き出そうと僕達を質問攻めしている。

 1つ1つに丁寧に答える。最終的にインタビュー時間をオーバーするほどに、勝利者インタビューは白熱していた。

 

 

 レースを終え、ウイニングライブに行く前。控室でアイと打ち合わせ。

 

「う~ん、スタートは良かったけど道中はそれなりね。まっすぐ走ることに意識を割きすぎて、他がおろそかになっていたわ」

「そうだね。おかげでブレずに走れていたけれど、ベストのタイムには程遠かった」

「やっぱりそうよねぇ……意外と難しいわ、直線だけのレースって」

 

 という名の反省会だ。みんなとやる前に、控室で僕とだけやる。今までの全レースやっているので手慣れたものだ。ちなみにアイはすでにシャワーを浴びた後で、クールダウンをしっかりと済ませてある。

 

 なんでここで反省会、なんだけど。早いうちにやっておきたいというのがアイ談。自分が感じたことを忘れないうちに、僕にメモを取ってほしいらしい。それくらいお安い御用だ。

 

「神経を使うからね。スピードを出した状態でまっすぐ走るのは難しい。車とかもそうだし」

「車とウマ娘だとスピードぐらいしか似てるとこないでしょ? もう」

「人でもそうだよ。結構難しいんだ、まっすぐ走るの」

 

 雰囲気はほんわかとしている。張り詰めたものではなく、緩い感じの雑談だ。ここで気を張り詰めても仕方ないからね。

 

「とはいえ、まずは1000ギニー勝利おめでとう。本当は反省会の前に言うべきだったね」

「別にいいわよ、それくらい気にしないわ。ま、ありがとうトレーナー。次のレースも勝つわよ!」

「うん。次はオークスステークスのままでいいよね?」

「そうね。アイルランドの1000ギニーは間隔的にちょっと厳しいから、そのままオークスかしら?」

 

 反省会ついでに今後の予定についても。インタビューで答えた通り、オークスステークスに進む予定だ。

 アイルランドの1000ギニーに進む予定も一応あった。ただ、アイの言うようにレース間隔が厳しい。

 

(さすがに4日後にオークスはなぁ。中0週とかそんな次元じゃない)

 

 過去にはいたらしいけど、現代でそんなことをする子はまぁいないだろう……いないよね? さすがに。

 それに、愛1000ギニーに進む子達はマイル路線に狙いを定めている。アイは別にマイル専門、というわけではないから、特段走る理由も見当たらない。よっぽど注目する相手がいるなら話は別だけど、そういう話題も上がっていない。

 なので、オークスが次の目標だ。

 

 それにしてもオークス、オークスか。懸念点を挙げるとすれば、開催される場所か。

 アイに問題はない。ただ、オークスはレース場が凄いことで有名な、あのエプソムレース場だ。間違いなく、タフなレースになる。

 

「詳しい話は後日になるけど、あのエプソムだからね。今よりもっとスタミナをつけておかないと」

「キタサンがコロネーションカップで走ったことあるわよね? 意見を聞いてみるのもいいんじゃないかしら?」

「そうだね。キタサンの意見を聞きつつ、注意すべき点とか仕掛ける場所とか、諸々のことを決めようか」

 

 ここで話すことでもないから割愛。後は軽くレースについて触れて解散。アイのウイニングライブへと向かった。

 

 そのウイニングライブだけど、盛り上がりは万国共通。凄い熱気で日本と変わらないライブ感だった。

 

 

 

 

 

 

 さて、と。1000ギニーも終わったことだし。

 

「次はオークスステークスの対策をするわよ!」

 

 オークスの対策を練らなくちゃ。一日でも早くから取り組んでおけば、その分だけトレーニングに時間を割けるもの。やっておいて損はないわ。

 とはいっても、レース疲れとかもあるから程々にしないと。やるにしても30分だけね。

 

 トレーナーから貰った資料を広げて、オークスのレース場やバ場、直近10年の天気を確認する……改めて思うのだけれど、とんでもないわね。

 

「蹄鉄みたいなレース場、なのはいいんだけど、高低差がとんでもないわ。時計がかかるのはこれが原因って言ってたぐらいだし、スタミナを少しでも鍛えておかないと」

 

 欧州のコースは自然の地形を利用している場所が多いらしく、日本では考えられないような形のレース場がいくつもある。このエプソムレース場もその1つね。

 エプソムはそもそも1周という概念がない。左回りで、U字みたいなコース設計をしている。蹄鉄っぽくてなんだか面白い。

 

 でも、その実高低差は約40mにも及ぶ。日本の最大高低差が中山レース場の約5m。その約8倍で、ロンシャンレース場で開催される凱旋門賞の高低差が約10mだから、およそ4倍にもなる。とんでもない勾配ね、本当。

 こんな高低差だから、必然的にレースの時計はかかる。スピード決着なんてことにはならない。

 

「雨でも降ったら最悪ね。ただでさえ高低差が凄いのに、さらにスタミナを消費しちゃうわ」

 

 資料をパラパラめくりながら、どう走るかを考える。このエプソムを、どうやって攻略するか。

 

 まず最初にすべきことは、キタサンへの相談ね。キタサンはこのレース場を走ったことがあるし、なにより勝っている。経験者の声は貴重だわ。

 

「でも、キタサンは感覚派なところがあるし……いえ、大丈夫! わたしなら大丈夫よ!」

 

 大事なのは経験者の声ということ。そう、それが大事なんだから!

 

 そして次にすべきことは体験。実際にエプソムレース場で走ってみること。

 これはトレーナーが準備を済ませてくれるから大丈夫。明日にはスクーリングの予約を取ってくれるはずだから。

 

「取れなかったとしても、VRである程度の感覚は掴めるもの。リアルよりは劣るけど、やらないよりはマシよ」

 

 叶うならば複数回走りたいわね。1回で感覚を掴むことができないかもしれないから。念には念を入れておくべきだわ。

 

 ……それにしてもこの資料、トレーナーのお手製らしいけど。

 

(凄まじいくらいに完璧ね……嫉妬するくらいに!)

 

 あまりにも完璧が過ぎるわ。完璧すぎて負けたと感じてしまうくらいに!

 わたしが欲しい情報は必ず入っているし、個人的な所感やワンポイントアドバイスも欠かさず入ってる。眺めて退屈になんてならない作りだし、気づけばページをめくる手が止まらなくなるくらいには完璧な資料!

 

 悔しい、悔しいわ! わたしだって頑張ればこのくらい作れるんだから!

 

「アイはトレーナーにも負けないわ! すぐにでもこれに対抗する資料を」

 

 作ろう、とする前に。勢いよく扉を開けて誰かが入ってきた。だ、誰!?

 視線を向けると、キタサンだった。少し怒っているような表情をして、わたしを睨んで……あ、時間。

 

「作る前に就寝の時間だよアイちゃん! レースで疲れてるんだからもう寝ようね!」

「待ちなさいキタサン! まだ寝るわけには……負けるわけにはっ!」

「トレーナーさんは本職だから! アイちゃんはもっとやるべきことがあるでしょ!?」

 

 結局キタサンの拘束から抜け出すことは出来ず。キタサンに寝るまで監視されたからどうすることもできなかったわ。うん、冷静に考えるとキタサンに凄く申し訳なくなってきた。

 

「ごめんなさいキタサン。迷惑をかけちゃったわね」

「ううん、大丈夫だよ。なんせあたし、お助け大将だから!」

 

 朝一番に謝ると、気にすることはないと笑顔で言われた。うん、本当にごめんなさいキタサン。




ワンチャン愛1000ギニー走れるんじゃね?ちょっと調べたろ→2018年度の愛1000ギニーは5月27日、英オークスは6月1日→解散ッ!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。