その瞳に勝利を   作:カニ漁船

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まずは練習計画とか今後のレースプランとか。


やるべきことと今後の指標

 チームのトレーニングが終わって、みんなが寮に帰った後の部室で1人考える。今後の計画について。

 

「……ひとまず、現状について整理しないと始まらないか」

 

 ノートを取り出す。タイトルは【チーム・ミーティアの成長記録】。みんなのステータスを記録したノートだ。

 

 開くのはアイのページ。書かれている数値こそが、アイの現在地点だ。

 

 

アーモンドアイ

 

適性:芝A ダートD

距離:短D マA 中A 長C

脚質:逃げG 先行A 差しA 追い込みD

 

スピード:E 225

スタミナ:F+ 183

パワー :F+ 191

根性  :F+ 169

賢さ  :E 201

 

 

 まだデビュー前だからこんなものだろう。今もグングン伸びているし、なんなら他の子達に比べたらとんでもないくらいに突出している。

 

(今が丁度育成開始の時期だし、初期のステータスでこれだからね。優秀なんてレベルじゃない)

 

 とはいえ、とはいえだ。これから相手にするメンバーのことを考えたら、トレーニングはかなり効率化しないと厳しい。それが現実である。

 

 違うページを開く。開いたのはバクシンオーのページ。僕が一番最初に育てたウマ娘で、最速最強と呼ばれるサクラバクシンオーのステータスだ。

 

 

サクラバクシンオー

 

適性:芝A ダートA

距離:短S マA 中A 長A

脚質:逃げA 先行A 差しF 追い込みG

 

スピード:LG8 2045

スタミナ:UD8 1581

パワー :UA7 1877

根性  :UC1 1617

賢さ  :UC2 1625

 

 

 頭も抱えたくなるよ。最低でもこのバクシンオーが相手になる上に、対戦相手は全員これくらいのステータスをしているんだから。

 

(適性も全員オールAがデフォみたいなもの。アイもいずれはそうなるとはいえ、キツいものがあるな)

 

 アイが納得するかはともかくとして、バクシンオー達に勝つなら得意じゃない距離に出走する手なんてものがあった。アプリのバクシンオーは長距離が絶望的に苦手だったし、他のメンバーだって適性Gのレースが存在していた。

 そのレースにアイをぶつければ、さほど苦労せずに勝つことは出来たはず。適性が低いレースに出走するとかステータスが落ちるから、勝つことは容易になっていたはずだ。

 

 だけど、バクシンオー達はそうはいかない。全員がどの距離でもどのバ場だろうと走れる都合上、苦手な距離やコースというものが存在しないんだ。どこだろうと走れる、どんな状況だろうと構わず全力を出せる。

 つまり、弱点になる距離とバ場が存在しないわけだ。これなんて無理ゲー?

 

(それでいてステータスもバカみたいに高い。全員がチャンミ最上位レベルのステータスだし、スキルも豊富。賢さがあればスキルの切りどころも間違えないし、運ゲーに持ち込むことすらできない)

「やっぱりキツいな。改めて考えても」

 

 適性はオールA、ステータスは最高峰、スキル不発による運ゲーも不可能。こんな相手に、アイは挑まなければならない。1人どころか6人もだ。

 

 適性に関してはこの際無視していい。どうせアイもオールAにする予定だし、なにより本人も乗り気だから。

 

(適性を上げる方法は、適性A以上のウマ娘とひたすらにトレーニングを重ねること……そう考えると、僕のチームは適性を上げるには最高の環境だ)

 

 ステータスに関しても、まぁいいだろう。すでに環境が整っているし、メンバー間の仲も良い。仲が良いということはつまり、友情トレーニングが行えるということ。デビュー開始時点で友情トレーニングができるのは結構な無法だ。

 それに、トゥインクル・シリーズを走り終えたウマ娘達のステータスの上昇はかなり緩やかになる。緩やかになっても伸びることはあるとはいえ、アイの方が圧倒的に伸びが大きい。3年間駆け抜ければ、きっと追いつくことができる……はずだ。

 

 いや、はずじゃないな。追いつかせる。

 

(アイにミーティアのメンバーに勝たせると誓った。なら、僕は絶対に勝たせなければならない。ちょっと心苦しいけど、勝つことがアイの願いならば)

「僕は勝たせる。それだけだ」

 

 そのために、まずはトレーニングメニューを考えないとね。アイに合ったメニューを。

 

「さて、取り掛かるとするか。今後の練習計画表の作成を」

「いけませんよ~高村トレーナー?」

 

 作ろう。そう思った矢先、僕じゃない誰かの声が聞こえた。僕以外誰もいなかったはずの部屋から、僕以外の声が。

 その声には凄く聞き覚えがあった。アプリでシナリオのチュートリアルをしていたり、ショップに入った時に聞こえる声。緑の帽子を被って、ウマ娘疑惑のある理事長秘書。

 

「今何時だと思ってるんですか~? 仕事は明日にして、今日はもう帰ってくださいね~?」

 

 駿川たづなさん。ユーザーから緑の悪魔だの散々な言われようをされている人が、いかにも私怒ってますみたいな顔で仁王立ちしていた。

 冷や汗が止まらない。全身の毛が総毛立つというのは、こういう感覚を言うのだろう。恐怖で足が震えて止まらない。

 

 と、とにかく言い訳を。

 

「いえ、その、これは違うんですたづなさん。今帰ろうとしていたところで」

「さっさと帰りなさい! もう22時になろうとしているんですよ! というか、なんでこの時間まで残ってるんですか!!」

「ハイ」

 

 言い訳をする前に帰れと言われた。はい、大人しく帰ります。これ以上怒らせたくはないので。

 

 急いで支度を済ませて部屋を退出する。これ以上たづなさんの機嫌を損ねる前に。

 というか気づかなかったけど。

 

(いつの間にかこんな時間になってたのか……ごめんなさい守衛さん)

 

 たづなさんにはまた明日謝罪しないと。さすがにこの時間まで残るのはやりすぎた。考え事しすぎるのもよくないな。

 練習計画表の作成は帰った後にでもすればいいだろう。

 

「頑張ろう。アイのために」

 

 支度を済ませて急いで帰る。少しでも早く仕事をする時間を捻出するために。

 

 

 

 

 

 

 次の日。部室にアイだけを呼び出し、徹夜で完成させた練習計画表を渡す。

 じっくりと計画表に目を通すアイに、これからのことを伝える。意図と、トレーニング以外のことも。

 

「というわけでアイ。これが今後の練習計画だ。時々手を加えながら、まずはこの通りにトレーニングしていこう」

「分かったわ。とはいっても、量自体はそれほどでもないわね?」

「まぁね。無茶をする段階でもないし、じっくりきっちり育つことを目標にしているから」

 

 ぶっちゃけ量自体は普通だ。今言ったように、無茶をしてケガをしたら元も子もないから。アイ自身の体質の問題もあるし。

 

「練習については頃合いを見て更新する予定。それはあくまで現段階のメニューだからね。それでも結構ギリギリを攻めてるけど」

「……確かに、他のジュニア級の子達に比べれば多いわね。バクシンオーさん達のメニューを間近で見てたから感覚が麻痺してたわ」

「まぁ、バクシンオー達のはシニア級のメニューだしね。それと比べたらさすがに少ないよ」

 

 さらに、練習についてはさらにひと手間加えるつもりだ。とても心強いひと手間を。

 

「ん? ねぇトレーナー、この特別指導ってなにかしら? どういうトレーニングなの?」

「あぁ、それがアイの練習計画の肝になる部分でね。簡単に言えば……ミーティアメンバーとの個別レッスンだよ。バクシンオー達がマンツーマンで君を鍛える練習だ」

 

 アイの表情が驚いたものになる。確かに、予想だにしなかったものだろうね。今までしてこなかったことだし。

 

「アイも知っての通り、バクシンオー達は得意距離のエキスパートだ。そんな彼女達の教えは、アイにとって必ず力になる」

「……それに、わたしが勝つためにはよく知らないといけない。彼女達の強さを」

「分かってるみたいだね。相手に勝つためには、相手のことをよく知らないといけない。だからこそ、この特別指導なんだ」

 

 これは相手が誰だろうと一緒のことだ。相手のことをよく知らなければ、勝負において不利になる。情報戦で後手を踏まされるし、どうしたって不利になる場面が出てくる。

 この特別指導はそれを少しでも埋めるためのもの。マンツーマンで指導をする相手のことを理解し、強みと弱みを知るための練習。さらには、彼女達の強さに触れることで、アイ自身の成長を促すためのものだ。

 

 そもそもこの特別指導を受けてくれるのか? なんて問題があるかもしれないが、それに関しては問題ない。

 

(彼女達は間違いなく二つ返事で了承する。だって、強い相手は大歓迎の子達だから)

 

 自分達が強くなることに余念がない、強い相手と戦うことに喜びを見出しているんだから……こうして言葉にすると、どこかの戦闘民族みたいだな、うん。

 なんにせよ、断ることはまずない。だからまぁ安心していいだろう。

 

「この特別指導こそが、アイの成長の肝になる。バクシンオー達の強さに触れて、君の成長を倍以上に促進させる」

「……わたしのこと、よく分かってるじゃないっ」

「当然だよ。君のトレーナーだからね」

 

 アイは極度の負けず嫌いだ。自分が劣っている部分に直面すれば、その劣っている部分を埋めるために頑張るだろう。

 この特別指導はそれも利用する。アイには足りない部分を直視してもらって、全てを自分の糧にしてもらう。全てはそう、バクシンオー達に勝つために。

 

 アイは笑っている。面白いとか楽しいとかよりも、やってやるみたいな、そんな感じの笑みだ。これから先のことを考えて、絶対にやり遂げてやるという強い意志を感じる。

 

 で、ここまでが練習のこと。お次は、それ以外のことだ。

 

「っと、これが練習についてのことだ。次はトゥインクル・シリーズでのレース選びになるんだけど」

「あ、そうね。うっかり忘れちゃいそうになってたわ」

 

 特にレース選び。アイがどんなレースを走るか? という問題について。

 現状特に決まっていなかったけど、この練習計画を作っているうちに決めた。アイにとって何が一番大事で、どのレースが一番成長できるのか。最短経路でミーティアメンバーに勝つために、アイはどんなレースを走ればいいのか。

 

 それは──海外だ。

 

「アイは海外を中心に走ろうと考えてるよ。勿論、アイが日本のレースをどうしても走りたいってなったら話は別だけど」

「ふーん。その理由はなにかしら? トレーナー」

「G1の数だ。後は、日本よりも早く強いシニア級の相手と対戦ができる。これが主な理由」

 

 クラシック級のウマ娘とシニア級のウマ娘が戦えるのは早くても夏。これに関しては日本も海外も変わらない。

 ただ、海外はG1の数が日本よりも圧倒的に多い。日本は宝塚記念しかG1がないけれど、海外……欧州に限定すれば、キングジョージにエクリプスステークス、インターナショナルステークスと多岐に渡る。

 G1を走るウマ娘はどの子も強敵。その道のエキスパートが走ってくる。G2やG3が劣っているわけじゃないんだけど、G1の方が強いウマ娘が集まりやすい。

 強いウマ娘が集まるとどうなるか? その答えもシンプル。

 

「G1の強敵と戦い続ければ、君はより早く洗練されていく。場数を踏むにしてもG1以上に相応しい舞台はないし、どのレースよりも磨かれる」

 

 得られるレースの経験値が多い。強い相手が集まるんだからそりゃそうだ。場数を踏むにしても、G1以上に最適な舞台はない。僕はそう判断した。

 だからこそ、アイは海外で走ることを目標にする。本人が嫌って言ったらその時はその時だ。日本でも特に強いウマ娘が集まるようなレースに出走するだけ。そのレースを選定するだけなんだから、別に手間でも何でもない。

 

 目的を聞いたアイは、さらに笑みを深めていた。不敵な笑み、挑戦するのが楽しくて堪らないといった様子だ。

 

「……面白いじゃない、トレーナー」

「それは良かったよ。勿論、僕は君が勝てるように調整し続ける。君が、ずっと勝ち続けられるようにね」

「いいわ。本当に、貴方がトレーナーでよかった」

 

 練習計画表を持って、踵を返して扉に手をかけるアイ。その目には期待が満ち溢れている。

 

「こうしちゃいられないわ! さっそくトレーニングに向かうわよトレーナー!」

「うん。授業があるから、ほどほどにね」

「分かってるわよ。授業には影響でない程度にやるつもり!」

 

 これから先の未来に、強くなる未来に向けて、期待している目だ。今すぐにでも身体を動かしたいみたいで、早く早くと催促している。

 朝練の時間はそれほど取れないけど、いいか。しっかり見張っておかないと、今のアイは始業ギリギリまでやるだろうし。

 

「それじゃあ行こうか、アイ。さっそくトレーニング開始だ」

「えぇ! よ~し、頑張るわよ!」

「本番は放課後だから程々に……じゃないね。できる限り全力でやろうか」

「当然よ!」

 

 しっかり見張っておかないと、だね。

 

 

 アイのトレーニング計画とレースプランは決まった。後は……彼女の目標を叶えるだけだ。

 さぁトレーニングしよう、とした時。

 

「え~っと、ミーティアの部室はここかな? 失礼しま~す」

 

 知らないウマ娘が入ってきた。サングラスをかけた、派手な子。当然面識はない。

 

 出鼻をくじかれた気分だけど、アイに視線で先に行くよう促す。どうも、目的は僕っぽいから。

 横目にアイが部屋を退出していくのを見ながら、当たり障りのない会話を。

 

「初めまして。確かにここがミーティアの部室だけど、君は?」

「お、ってことは、あなたが高村トレーナーですか!」

 

 サングラスの彼女はジロジロとこちらを見ている。品定め、みたいな感じはしない。初対面の相手に向ける興味のような、嫌な気持ちを感じないもの。

 

「……めっちゃ失礼なこと言いますけど、確かに死んだ目をしていますね。こりゃ初見は確かにビビるな~」

「よく言われるよ。別に気にしてないから、君も気にしなくていいよ。いつも言われてるし」

「普通はもっとキレてもいいと思いますけどね~、っとと、そうじゃなかった」

 

 ジロジロ見るのを止めて、彼女は姿勢を正す。楽し気な笑みを浮かべていた。

 

「アタシはフォーエバーヤング。世界一のトレーナーである高村トレーナーに、ちょっとお願いしたいことがあるんですよね」

「……世界一のトレーナーについては触れないけど、フォーエバーヤングは僕にどうしてほしいの?」

 

 姿勢を正したまま、綺麗なお辞儀をする彼女、フォーエバーヤング。

 

「アタシの今後のために、ミーティアを近くで観察させてくれませんか? もち、アタシに協力できることは何でもするんで!」

「いいよ」

「うわ、マジ? やったー! 世界一のチームを間近で観察できるサイコーの展開きたこれ! いつから大丈夫ですか!?」

「別に今日からでも。好きな時にきていいよ」

「高村トレーナー太っ腹! マジ感謝!」

 

 彼女の目的はミーティアの観察、らしい。別に断る理由もないのでOK。フォーエバーヤングは凄い嬉しそうに、両手を挙げて喜んでいた。

 

 愉快な仲間が1人増えた、のかな? チーム入りではなさそうだけど。なんにせよいいか。




だってさぁ、仕方ないじゃん! サポカのストーリーみる限りヤン子絶対このチームに興味持つじゃん! 俺は悪くねぇ俺は悪くねぇ!
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