エクリプスステークスを勝ったアイ。シニア級相手でも関係ない、2バ身差の快勝を収める大金星だ。大金星に関しては世間の評価だけど、クラシック級での制覇だから間違ってはいないか。
これでアイは無敗記録を継続。デビューから7連勝だ。内、G1を5勝……うん。
(冷静にメイクデビューと未勝利以外は全部G1か。初めてだよこんなローテ組んだの)
行けると思ったしやれると思ったから組んだけど、冷静に見返すと大概おかしいローテしてるね。ジュニア級G1を2つ走ってるのもそうだし、G1以外で経験を積む必要はないみたいなローテだ。そんなつもりはないんだけど、結果的にそうなってしまった。
本来ならもっと段階を刻むもの。メイクデビューを勝ったらオープンレースや条件戦、格上挑戦で重賞を走ったりする子が大体だ。ミーティアのみんなもG2やG3を走ったことはある。
けど、アイはずっとG1だ。未勝利戦を条件戦にカウントできなくもないけども。
(……別にいいか。ルールに抵触しているわけじゃないし。結果的にそうなっただけなんだから)
「問題もあるわけじゃないしね。さて、新聞記事をラミネート加工しないと」
最後は考えるのを止めた。問題ないから大丈夫。多分、おそらく、きっと。
その後もアイは破竹の勢いで突き進む。エクリプスステークスの勝利からそれほど経っていない月末、キングジョージの日が来た。
前走のこともあってか、アイは当然のような1番人気に輝いている。結果を残してきた猛者がいても、アイが勝つと支持されているのだ。
「アイちゃんここでも1番人気だね! 頑張れアイちゃ~ん!」
「アスコットのコースはアメイジングだねやっぱ。世界中どこ探しても、こんなコースはないよ」
「欧州はそんなレース場ばっかりだからねぇ」
天候は晴れ、バ場の状態は良バ場。走るのに申し分なく、アスコットのコースを考えたら最高の状態だろう。雨で重いバ場にでもなったら地獄だし。
やはりというか、周りのウマ娘はみんなアイに注目している。睨みつけて、いかにも意識していますみたいな態度を取っていた。
「あらあら、随分と敵視されていますわねぇ? ですが」
「崩れませんよアイさんは。あの程度で崩れるほど柔じゃありません」
「えぇッ! なんせタルマエさんの特別指導を受けていますからねッ! そして私のバクシントレーニングもしていますから効果は二乗ッ! まさしく無敵ですッ!」
「バクシンオーさんにまで言われたら私もう終わりなんですけど!? 誰か、誰か私の擁護をしてくれる人ー!」
タルマエの悲痛な叫びを受け流しつつ、今回出走するウマ娘のステータスを確認していく。
参考程度に、出走するシニア級ウマ娘は大体こんな感じだ。
スピード:UG9 1298
スタミナ:UG4 1246
パワー :UG2 1227
根性 :SS+ 1159
賢さ :UG7 1274
平均がこれ。多少の増減はあるけど、大体これがシニア級の指標になる。アプリシナリオの強敵レベルの相手がゴロゴロいるわけだ。
それを踏まえた上で、アイのステータスはというと。
アーモンドアイ
適性:芝A ダートC
距離:短A マA 中A 長A
脚質:逃げG 先行A 差しA 追い込みD
スピード:UE1 1415
スタミナ:SS+ 1182
パワー :UG9 1294
根性 :S+ 1079
賢さ :UG7 1276
やろうと思えば勝てる段階まで来ている。クラシックの1月から7月までで、とんでもない成長を遂げたものだ。これでまだまだ成長途中なのが恐ろしい。
スキルに関してもより取り見取り。ミーティアのみんなが教えているし、ほとんどの子が先行脚質だからアイ自身に活かしやすい。無駄になるスキルがほとんどないわけだ。
その結果、アイの成長はクラシック級の中でも常軌を逸している。
スピード:C+ 524
スタミナ:C 439
パワー :C 498
根性 :C+ 514
賢さ :C 453
クラシック級の平均がこれ。トップ層はもう少しだけ跳ね上がる。これでもアプリの強敵レベルはあるんだけど、アイとは、うん。言うのはアレだけど比べ物にならない。
シニア級を相手にしてもそん色ない実力。エクリプスステークスの勝利はまぐれでも何でもない。同じ土俵の舞台で勝っただけだ。
「これから先の躍進が期待できる新星。アイの評価はすでに盤石になりつつある」
「後は、現ヨーロッパのトップ層とバトるだけ。特にコンストリブルさんとかね?」
「うん。アイも相当に意識しているからね。日本のラッキーライラックにも目を向けているし、いつかは日本のレースに戻らないと」
「そうなると、レース選びに苦労するね。なにせアイ君は中央の出走経歴がメイクデビューしかないのだから」
「その時で考えるよ」
今回のキングジョージも勝つ。そのつもりできた。僕もアイも。
そんなキングジョージは、ゆったりとしたペースで流れた。アイは終始先行集団に混ざっていて、出走者13人の内3番手から4番手の好位置につけている。
状況はというと──盤石の一言に尽きる。
《アーモンドアイ崩れない、アーモンドアイ崩れない! 外に膨らんだ一瞬の隙を見逃さない! あっという間に抜け出したアーモンドアイ、外から並ぶがじわじわとアーモンドアイが突き放す!》
特筆して語ることはないというか、当たり前のことを当たり前にやっているというか。強いて言うなら、差しウマ娘のような切れ味の末脚を先行の位置で発揮している、ぐらいか。それでも十分えぐいんだけど。
「さらに鋭くなった。だが、アイのことを考えればまだまだイケる。もっと先を目指さなければならない」
「ドゥラさん相変わらず厳しいっ。も、もうちょっと褒めてあげても」
「当人が厳しくすることを望んでいる……まぁ、彼女の成長が嬉しいのは事実だ」
末脚を重点的に教えているドゥラとしては、アイの成長が嬉しいようだ。さっきから耳と尻尾が犬みたいにブンブン動いている。喜びが隠し切れていないし、気づいたキタサンも微笑ましそうに笑っている。
話を戻すと、普通は後方ウマ娘が発揮するような末脚を先行の位置で発揮している。前で走っていた方がそりゃ強いし、後ろの子達は追いつくことができないだろう。アイ以上の末脚を発揮するしかない。
そうなると、求められるのは末脚の持続だ。アイよりも長い末脚を使えれば勝利は見えてくる。アスコットの直線、というよりは欧州の直線は長い傾向にあるし、なくもないだろう。
だけど、その弱点すら潰してくるのがアイだ。
「ほうほう、前よりもずっと長く維持できているねぇ! これはこれは、次の研究発表の場が楽しみでならない!」
「身体を徹底的に鍛え上げましたもの。私が鍛えているのよ? これくらいはこなしてもらわないと困りますわ」
「スピードを出せる土台を整えた、スピードに耐えるだけの身体に鍛え上げた、より長く使える末脚になった……ということですか」
「そういうことさイクイくぅん! いやはや、これから先も成長するのが楽しみでならないよ!」
アイの末脚の持続時間は伸びている。まだまだ落ちないし、アスコットで差をキープしながら走れているのがその証明。むしろ引き離しているし。
《さぁアーモンドアイが突き放していく! アーモンドアイの加速が止まらない止まらない! 周りのウマ娘は追いつけないぞ、その差が2バ身に開いた!》
《同じタイミングでスタートしたのにこれはキツいね。だけどアスコットの直線はまだ続いている、残り200mもあるよ!》
《逃げていたウマ娘の姿はすでに後ろへ! 先頭を走るのは日本のアーモンドアイだ!》
じわりじわりと。その差が少しずつ開いていく。陰りの見えない末脚に、後ろを走るウマ娘達の絶望は想像に難くない。
落ちてこないなら、自分達がさらに上げるしかない。けれども、上げようと思って上げられるものじゃない。そこには必ず限界があって、勝負なのだからその限界を攻めているはずだ。
限界を攻めてなお──アイには追いつけない。自分達よりも経験が浅い、クラシック級のウマ娘相手に追いつけない。折れることはないにしても、絶望はするだろう。
その後アイは抜かされることなく駆け抜けた。1と半バ身差の勝利、盤石の強さを発揮してのキングジョージ優勝だ。
《勝ったのはアーモンドアイ! プリンスオブウェールズを勝ったウマ娘の猛追を振り切って、見事に輝いたキングジョージ6世&クイーンエリザベスステークス制覇! 信じられるでしょうか? 彼女はまだクラシック級のウマ娘なのです!》
《貫禄がもはやシニア級と変わらないよ。強さもそうだし、ゲームメイクが圧倒的だ!》
《このまま駆け抜けることができるのか? 次走は未定、ですがセントレジャーステークスには出走を表明しています! もはや三冠は秒読みか? ここからライバルが台頭してくるのか! 非常に楽しみなウマ娘です!》
実況も解説も大興奮。観客も大声こそ上げないものの、アイの強さに感動している人が多い印象だね。
「『ここにコンストリブルがいないことが残念でならないな。この勝負をさらに彩ってくれたに違いない』」
「『ケガだから仕方ないわ。でも、ここで走っている以上いずれは激突する……その時を待てばいいの』」
「『アーモンドアイVSコンストリブル。もはや敵になりそうなのがコンストリブルしかいないな』」
そして、強さを発揮したからこそ望まれるコンストリブルとの勝負。いつもなら特に気にしないんだけど、アイ自身が望んでいるから目を背けるつもりは微塵もない。
(模擬レースの敗戦から成長した。コンストリブルも、少しずつ感覚を取り戻して調子を上げてきているらしい)
おそらくだけど、決戦は凱旋門賞。アイはセントレジャーに出るから、コンストリブルの復帰レースに合わせることは出来ない。8月開催でもない限り、間隔的に厳しくなるから。
「セントレジャーからの凱旋門賞自体、どっちも勝ったウマ娘がいないほど過酷なローテだしね。戦う舞台は凱旋門賞になる、か」
「正確には同一年制覇、だがね。ま~順当に行けば凱旋門賞で当たるだろう」
「リベンジを果たそうねアイちゃーん!」
8月にはレースに出るか。出るとしてもどのレースに出走するか。考えることは山積みだ。
でも、今はアイの勝利を喜ぶ。無事に勝って、こちらに手を振っている彼女に手を振り返す。
「勝ったわ、トレーナー!」
「うん、おめでとう。この調子で次も勝とうか」
「勿論!」
これで8連勝のG1を6連勝。着実に勝利を重ねている。次のレースも頑張らないとね。
あらやだ化け物。