現在、欧州のレースファンでアーモンドアイの名前を知らない人はいない。日本からやってきた彼女は、レースの本場ともいえる欧州でその名を刻んでいた。
日本のメイクデビューから始動し、ここまで負けなしの8連勝。さらにはG1級レースを6連勝、世代限定戦ではないG1を2連勝するなど、目覚ましいでは済まない活躍をしている。エクリプスステークスとキングジョージ6世&クイーンエリザベスステークスの勝利は、ファンの記憶に新しい。
戦った相手が弱いわけではない。混合戦で出走したシニア級のウマ娘は、いずれもG1を制したことがある猛者ばかり。届かないにしても好走するウマ娘ばかりだった。
そんなウマ娘を相手にしても、アーモンドアイの強さは抜けていた。エクリプスステークスを2バ身差、キングジョージを1と半バ身差、どちらも完勝に近い内容で制している。
混合戦に限らず、世代限定戦になるとさらに強さが際立つ。マイルの1000ギニーを5バ身差で圧勝、中距離のオークスになると、雨のエプソムで大差逃げ切り勝ちを収めるという凄まじい偉業を打ち立てる。
世代に敵なし、上を相手にしてもトップ層でなければ話にならない。そう思わせるだけの強さを発揮している。それもあってか、欧州レース界で上半期の主役はアーモンドアイで決まりとする声が大きかった。
「間違いなく上半期を彩った主役だよ。もう欧州最強と呼んでもおかしくない!」
「いやいや、さすがにコンストリブルやプライベートベーリングと戦ってない。最強と断じるには早いぞ」
「だとしても、現時点においての欧州最強はアーモンドアイね。彼女の強さは、間違いなく頂点足るわ」
主役足る活躍に、主役として申し分ない輝きを放つウマ娘。アーモンドアイは欧州の頂点に立つのに相応しいと、そう評される。
ウマ娘のレース機関が出したレーティングは、オークスの129。世代限定戦でこれだけのレーティングを叩き出すのは異常という声が多い。それほどの強さを発揮したという証明でもある。
今後彼女がどういった活躍をするのか? どのレースに照準を定めるのか? 気になっていたレースファンの耳に入ってきたのは、トレーナーである高村からの次走について。
「マイルのジャック・ル・マロワ賞に出走します。疲労の影響もないので、レースには問題ありません」
キングジョージからジャック・ル・マロワ賞へ。これによりアーモンドアイのローテが、キングジョージ→ジャック・ル・マロワ賞→セントレジャーステークスという、見たことがないローテへと変貌する。近年1つの距離に専念する傾向が多いレース界に、真っ向から喧嘩を売りに行くようだ。
それだけではない。高村トレーナーは、その先のレースについても言及した。
「セントレジャーステークスの後は凱旋門賞に出走する予定です」
報道陣はざわついた。セントレジャーステークスから凱旋門賞のローテは、ジンクスと呼ばれるものがあったから*1。
かつてある三冠ウマ娘が出走した。強さは圧倒的で、凱旋門賞まで無敗。ダービーステークスとセントレジャーステークスを勝っているからスタミナに不安はない。勝利は確実視されていた。
しかしそのウマ娘はレース前に体調を崩す。あまりにも突然の出来事に陣営も困惑し、どうにか出走したものの2着敗戦。引退レースとなった次のレースでも、生涯最低着順の4着に沈んだ。
とある三冠ウマ娘の敗北を皮切りに、セントレジャーステークスの勝ちウマ娘が凱旋門賞に挑むことは少なくなった。何度か挑戦するウマ娘はいたものの、いずれも敗戦している。理由は様々あれど、一番多いのは環境の違いだった。
結果として、セントレジャーステークスの勝ちウマ娘は凱旋門賞に向かうべきではない、という風潮が生まれる。1つの距離に専念する傾向も相まって、挑戦するウマ娘はますますいなくなった。
そんな中現れたのがアーモンドアイ。セントレジャーのジンクスに真っ向から立ち向かったのである。
いや、立ち向かうとかではない。
「セントレジャーの勝ちウマ娘は活躍できない、というジンクスがあります。そのことについてはご存じでしょうか?」
「勿論知っています。歴史についてはしっかり調べていますから」
「では、どうして出走を?」
「決まっているでしょ」
いつもと変わらない、堂々とした佇まいで。揺らぐことのない信念を基に、彼女は宣言した。
「わたしは走って勝つだけですから。よくないジンクスとか前例がないとか、わたしにとっては関係ない。走れるレースに出走して、わたしが勝つ。ただそれだけですから!」
「っ」
自分には関係がないのだと。過去がどうだったとか、未来がどうなろうが知ったことではない。今走るレースに全力を注いで、勝利する。自分はそのことしか頭にないと語っていた。
強い。報道陣の頭にはその言葉がよぎった。単純で明快な一言。強いウマ娘とは、彼女のことを指すのだと思わされた。
圧倒的な自信を覗かせた独占インタビュー。その1週間後に行われたジャック・ル・マロワ賞では。
《強い! これは強いアーモンドアイ! 欧州のマイラーをまとめて一蹴アーモンドアイ! アイルランドの1000ギニーを制した同世代のウマ娘を完封する! アーモンドアイがジャック・ル・マロワ賞を制しました!》
《クラシック級がワンツーフィニッシュ、だけど。1着と2着の差は6バ身あるからね。いやはや、これで次はセントレジャーステークスなんだろう? 全部の距離に出走するつもりかい、彼女》
《これでG1を7連勝! 無敗記録を継続しますアーモンドアイ! この無敗記録はどこまで続くのか、期待で胸が高鳴ります!》
同世代のウマ娘を完封して6バ身差の圧勝を飾る。2着のウマ娘はアイルランドの1000ギニーを制し、ここまでG1を3連勝と絶好調だった。そんなウマ娘を相手にして、アーモンドアイは6バ身差で下したのである。
「やっぱりアーモンドアイだわ! 長距離ではどれくらい強いのかしら!」
「長距離でも強いに決まってる! 彼女のレースは1つたりとも見逃せないぞ!」
「コンストリブルは凱旋門賞に出走予定なんだろう? 対決が今から楽しみで仕方ないよ!」
期待が高まる。彼女ならば凱旋門賞のジンクスを超えてくれると、破ってくれると信じさせる強さがある。挑む相手は欧州最強だが、それでも勝てるんじゃないかと思わせる輝きを放っている。セントレジャーステークスも始まっていないのに、ファンはすでに制覇した後の凱旋門賞へと目を向けていた。
欧州の話題はアーモンドアイ一色。彼女の躍進はどこまで続くのか、ファンはドキドキを抑えきれずに、レースの続報を待っていた。
欧州がアーモンドアイ一色。日本では、ラッキーライラックが話題を独占していた。
桜花賞とオークスのダブルティアラ。内容も桜花賞7バ身にオークス大差勝ちと、同世代を圧勝。シニアとの混合戦には出ていないものの、上半期の話題を独占していた。
クラシック三冠は接戦も接戦。皐月賞もダービーもライバル達の熱い激突が繰り広げられる中、ティアラは圧倒的な強さでラッキーライラックの勝利。同世代相手なら、ティアラのラッキーライラックの方が強いんじゃないか? と言われるほどの強さを発揮していた。所詮たらればでしかないが、それだけの強さを発揮していると言える。
「そない評価をされて嬉しい限りやわぁ。これからも頑張らせてもらいます」
ラッキーライラックもその言葉に満足げだった。
とにもかくにも、この世代はティアラ路線が総じて強い。いや、ティアラ路線が強いというよりは、ティアラ路線の上位2人の強さがバグっている。アーモンドアイは別格としても、ラッキーライラックも十二分に強い。クラシック級で話題になるのが、現在クラシック二冠のブラストワンピースぐらいだった。
ブラストワンピースも強い。ホープフルステークスを勝った後、皐月賞と日本ダービーを圧倒。クラシック三冠の顔役として顔を覗かせ、クラシック級ながら宝塚記念にも出走した。
結果はというと。
《差し切った差し切った! サトノダイヤモンドが中団から差し切った! やはり強いサトノダイヤモンド1着! 2着は二冠ウマ娘ブラストワンピース! 惜しくも1バ身差に敗れました!》
サトノダイヤモンドの2着。サトノダイヤモンドが無敗の三冠ウマ娘であり、周りは全員シニア級ということを考えるとかなりよくやっている。こちらも、今後が楽しみなウマ娘の1人だ。
とはいえ、だ。こうなると際立つのがアーモンドアイの存在。同じクラシック級ながらシニア級を倒し、今も無敗を貫く彼女の存在がどうしても目に入る。活躍している地域が欧州のため、新聞や雑誌には載らないが、ネットの記事では常にアーモンドアイが上位を独占していた。
「なーなーララ! アイは凄いなー!」
「……ほんまやねぇ。さすがはアイさんて感じやわ。向こうでも暴れまわっとるみたいで」
(いや暴れまわりすぎやろ!? なんっっでシニア級相手に完勝してんねん! どんなウマ娘に育てとるんや高村トレーナーは!)
思うことがないわけではない。が、友人の活躍は素直に嬉しい。ブラストワンピースもラッキーライラックも、アーモンドアイの活躍を祝福していた。それはそれとして練習の量は増やしていた。彼女達もまたウマ娘なのだ。
新世代の活躍が目覚ましいトゥインクル・シリーズ。代表ともいえる存在はアーモンドアイだが、下にいる2人もまた1つの世代の代表と呼んでいい活躍を残している。
「アーモンドアイさんは日本に戻るご予定は?」
「今のところは」
「いつかは帰ります! ララ、ラッキーライラックさんとも走りたいし、ブラスト、じゃなくてブラストワンピースさんとも戦いたいので!」
「……そういうことです。いずれは日本に戻る日が来るかな、と」
彼女達が戦う日が来るのか。戦うとして、その舞台はどこになるのか? ファンは彼女達の活躍と一緒に、未来の展望に期待を抱いていた。
この世代バケモンすぎる。なんでこうなったんですか?