その瞳に勝利を   作:カニ漁船

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冷静に考えてミーティアのウマ娘総じてスピードサポカなんだよな。


未来を見据えて

 アイに練習計画表を渡した日の放課後。ミーティアのトレーニングが始まる、前に。

 

「練習の前に、みんなに紹介しておくね。ミーティアに体験入部することになった」

「どもー、フォーエバーヤングです。気軽にヤン子って呼んでください」

「やや? 新しいチームのメンバーでしょうかッ!」

「違うよ。あくまで僕らを観察するのが主目的、チームに入るわけじゃないよ」

 

 フォーエバーヤングの紹介をする。少しの間かもしれないけど、一緒になるメンバーだから。

 

 フォーエバーヤング。明るくギャルっぽい高等部のウマ娘。派手なサングラスに帽子の耳飾りをつけた、派手な子だ。

 とはいっても、ただ派手なだけじゃない。ミーティアに近づいたのは、とある目的があるから。

 その目的というのが海外挑戦。彼女はいずれ、海外のレースに挑戦するつもりらしい。

 

「ミーティアって遠征を盛んにやってるっしょ? ならここに話を聞きに来るのはマスト、聞きに来ないこと自体あり得ん、みたいな感じじゃん」

「そうだねぇ。結果的に我々は海外遠征を盛んにやっているわけだし、ヤング君の言葉は間違いじゃないだろう」

「でしょ? だからアタシの将来のためにも、ミーティアを見学して見聞を広めたいってわけ!」

 

 海外遠征ならばミーティア。国内どころか海外にもその名を轟かせた僕らのチームを観察して、今後のために活かしたいというのが彼女の弁。ミーティア見学の理由だ。

 

(タキオンの言うように、僕のチーム以上に海外遠征をしているチームはない。とはいっても、直接お願いに来るのはなんというか)

「中々豪胆な子だよね、フォーエバーヤングは」

「も~、ヤン子でいいですって。堅苦しいのはナシっしょ?」

「癖みたいなものだから」

 

 聞けば彼女は他のトレーナー陣にも話を聞きに行ったことがあるらしい。それこそシンボリルドルフのトレーナーとか、チーム・ファーストの樫本理事長代理とか。よく意見交換会をしているそうだ。

 アグレッシブ、自分の夢に一直線、誰かに聞くことを躊躇わない、全てを自分の糧にする。上昇志向の強い子だ。

 

 見学については断る理由がない。むしろ数あるチームの中から選んでくれて、ちょっと嬉しい気持ちがある。目的に合致したとはいえ、ここが最適と判断してくれたのは嬉しい。

 とはいっても、練習内容を変えるつもりはないけど。

 

「それじゃ、みんないつものようにトレーニングをしようか。ドゥラはアイとの特別指導があるから、そっち中心にね」

「分かった。アイ、加減はしないぞ?」

「望むところよ! むしろ全力で来なさい!」

「加減はしてね。あまり差が開きすぎるとトレーニングにならないから」

 

 部室を出て各々ストレッチ。今日も練習が始まる。

 

 

 フォーエバーヤングにはアイのトレーニングを見学してもらうことにした。どうも特別指導、という言葉が気になっていたみたいで。

 

「それでそれで、特別指導ってのは何ですか? なんかこう、スペシャルなトレーニングだったり?」

「スペシャル、ってのは間違いじゃないかな。いわばアイだけにやるトレーニングみたいなものだし」

「どんなトレーニングなんだろ? 楽しみ~!」

「別に海外の最先端の技術を取り入れた、みたいなものじゃないけどね。ほら、早速やるみたいだよ」

 

 ドゥラとアイがとあるコースに立つ。四角形を2つ組み合わせたような特殊なコースに。

 

 お互い、真っ直ぐに見つめ合っている。

 

「アイ。今から私は君を追いかける。君が出せる限界速度ギリギリのスピードでな」

「……わたしはこのコースからはみ出さないようにする、かつドゥラメンテさんに追いつかれないようにする、でしょ?」

「その通りだ。曲がり角はキツいが……少々荒々しくいくぞ!」

 

 それも一瞬のこと。アイが不意打ち気味にスタートしたのを合図に、2人は一気に駆け出す。

 四角のコースを縦横無尽に。ドゥラがアイを追いかけ、アイはドゥラに追いつかれないように必死に逃げ回る。

 

「ッ想像以上に曲がりが、キツいっ!」

「当然だ。曲がるためには減速する必要があるが、減速すれば私に追いつかれる。減速を最小限に抑えつつ曲がるには、相当な負荷がかかるだろう」

 

 余裕がなさそうなアイに対し、ドゥラは全然余裕とばかりにアイを追いかける。これが今の2人の差、天と地ほどの差がある現状だ。

 

「だが、一瞬も緩めるな。私の加速を身につけたければ……この程度はこなせ」

「っ当ッ然! わたしは、絶対に諦めないわ!」

「その意気だ……ギアを上げるぞッ!」

 

 ひたすらに走り回る。四角(スクエア)ラン、だったかな? そう呼ばれるトレーニングで、アイにはドゥラの加速力を身につけてもらう。

 

 フォーエバーヤングはというと、興味深そうに眺めていた。時折頷きつつメモを取り、このトレーニングの意図について自分なりの考えをまとめている。

 

「凄いですね。ドリームトロフィーでもマジヤバなドゥラとこんなトレーニングできちゃうなんて」

「チームの強みだね。同じチームだからこそ、このトレーニングは実現できる」

 

 今回の特別指導の目的は、末脚のキレを身につけること。一瞬の急加速を身につけるためのトレーニングだ。

 アイの加速力は及第点、というには突出しすぎている。抜群のキレを誇る末脚があった。

 その末脚をさらに伸ばすために、ドゥラとのトレーニングを利用する。この四角(スクエア)ランで。

 

「いや~、にしてもアイは鬼ヤバ。相手が相手なのに、全然萎えてないじゃん」

「彼女は負けず嫌いだからね。だからこそこのトレーニングが成立するし……君も、同じ立場なら同じ気持ちで挑むでしょ?」

「その心は?」

「君もウマ娘だから。なにより、ずっと未来を見ている子だから」

 

 一瞬、こちらを見て驚いた表情を浮かべるフォーエバーヤング。驚いた後、彼女は笑い出した。

 

「アッハハ! ま、高村トレーナーの言う通りだね! 同じ立場なら、アタシだって燃えるよ」

「ウマ娘みんな、基本そうだからね」

 

 たまに例外がいるけど。

 

 トレーニングはアイがドゥラに捕まったら休憩を取る。休憩した後は、また同じようにコースを駆け回る。

 ドゥラがアイを追いかけ、アイが追い付かれないようにひたすら逃げる。この反復練習の繰り返し。

 

 最初こそすぐに捕まっていたアイだったけれど。

 

「すっご、今日一日だけで結構な時間粘ってるくない?」

「……これはさすがに予想外だね。今日はタイムが伸びることはないと思ってたから」

 

 少しずつ捕まるまでの時間が長くなっていた。それも、後半になるほど顕著になっていく。数値としてだけではなく、間隔としても長くなっていった。

 

「やるな、アイ。今日一日だけでも、かなり進歩している」

「当たり前よ! このまま制限時間いっぱいまで逃げ切ってやるわ!」

「……もっとも、そう易々と逃げ切らせるほど甘くはないッ!」

 

 アイの熱にあてられて、ドゥラもヒートアップする。お互いの勝負根性が発揮されて、さらに白熱した勝負が繰り広げられているね。

 

「うっは、すご。ドゥラはこれがガチじゃないってマ?」

「まだ本気じゃないよ。本気じゃないとはいえ、当初の予定よりも本気に近づいているかな?」

 

 ってなると、次のドゥラとの特別指導はさらに多く見積もった方がいいか。伸びしろ分をさらに先に想定、他の特別指導も今算出している数値よりもさらに多めに見積もっておかなきゃ。じゃないとアイのためにならない。

 すぐさまノートを取り出して値を修正。今考えうる限りの最高効率へと書き換える。

 

「ちょっと失礼……うわっ、メッチャ書き込んでる。エグっ」

「そうかな? これぐらいは普通だと思うよ」

「いやいや、こんなに書き込まれてるノート見たことないって。は~、ウマ娘もトレーナーも激ヤバだ」

 

 フォーエバーヤングにノートを見せつつ修正。切りのいいタイミングで特別指導を終えた。

 

「さて、今回の特別指導だけど……想定以上の伸びを見せているね。これなら次はさらにレベルアップしてもいいかもしれない」

「本当かしら!? ふふん、わたしを甘く見積もらない方がいいわよ?」

「甘く見積もってたつもりはないけどね。結果的にはそうかもしれないけど……ドゥラも次やる時はもう少し本気で追いかけようか」

「あぁ。後半は捕まえるまでの時間が明らかに伸びていた。これならば、3割から4割にあげてもいいだろう」

 

 終わったら後はクールダウンだ。この練習の弱点というか当たり前の副作用として、消耗が激しいっていうのがあるからね。少しでも体を休めておかないと、明日以降に響く。

 で、クールダウンになったら。

 

「さぁさぁアイ君! 楽しい楽しい実け、試飲の時間だよ~!」

「……飲んでも大丈夫なやつよね? トレーナーをよく光らせてるの見てたわよ」

「大丈夫だよ。そもそもただのプロテインなんだから光るわけがないだろう?」

「じゃあ怪しい言い方をしないでちょうだい!」

 

 タキオンが配合したプロテインが待っている。ちなみにただのプロテインだ。タキオンが独自に配合したって点以外は。

 

「へ~、アレにミーティアの強さの秘訣があったり?」

「別にないよ。普通のプロテインだし」

「ま、そりゃそうか。タキオンはドーピング嫌いって有名だし、その線はないよね」

「当然だ。白けるだろう? そんな強さ」

 

 なら怪しい言い方を止めた方がいいんじゃないだろうか。言ったところで止めないだろうけど。

 

 一日のトレーニングが終わった後、フォーエバーヤングとは改めて話し合いだ。トレーニングの意図だったり、どこから流用したものとか、似たトレーニングの効果だったり。

 

「こっちはアメリカ式のを取り入れたものでね。効果はこんな感じで」

「へ~、これは見たことないかもです。どこから仕入れたんですか?」

「向こうで知り合ったトレーナーから。ブリーダーズカップの時に、こっちのトレーニングを教える交換条件付きで教えてもらったんだ」

「うわ、まさに高村トレーナーだからこそできることじゃん。これ、アタシが貰っちゃってオケなやつ?」

「構わないよ。知識は共有すべきものだからね。向こうからも許可は取ってあるし」

 

 彼女が欲しいもの、望んでいる知識を、僕が持っている情報を彼女に渡す。恐れ多そうにしていたけれど、問題ないと僕は押し切った。事実、教えても問題ないものばかりだから。

 

「いや~、いろんな国の最先端トレーニングを知れるなんて。ミーティアにきたの、マジで英断っしょ」

「お役に立てたようなら何よりだよ」

「お役に立つ、どころじゃないですってこれ。もうマジのガチで感謝しかない的な? 足向けて眠れん領域まで来てますよ」

 

 そこまで言ってくれるなら嬉しい限りだ。こちらも提供した甲斐があるってもの。彼女の糧になってくれることを祈るだけだね。

 

「んじゃま、交換条件。アタシからも提供できるものは~っと」

 

 学生鞄をゴソゴソと漁っているフォーエバーヤング。やがて目的の物を見つけたのか、笑顔で広げ始めた。

 

「お父さんの会社の人脈。このシューズの会社とか個人的おススメで~」

「ちょ!?」

 

 思わずデカい声を出してしまったぞ。なんてものを出してくるんだこの子。というか、なんでそんなものを出せるんだこの子。結構有名なシューズメーカーの名前じゃないかそれ。

 驚いてる僕に対し、フォーエバーヤングはあっけらかんとした顔。まるで気にしてないとばかりの態度だ。

 

「大丈夫大丈夫。そもそもみ~んな高村トレーナーをリサーチしてる人ばかりだし。多いんだよ~? 高村トレーナーとの繋がりが欲しいって企業の人」

「なん……いや、考えてみれば当然か」

「世界最強チーム、ミーティアのトレーナー。レース業界に携わる人なら、絶対に欲しいコネクションだからね。そのコネクションの間を、アタシが取り持とうってわけ!」

 

 だとしても、こんなお返しはさすがに予想外だ。ただシューズメーカーとの繋がりか……。

 

(最新モデルのシューズを使えるのは悪くないんじゃないか?)

 

 悩む。果たしてフォーエバーヤングの提案を受け取っていいものか。果たして僕があげたものに見合っているのか、頭を悩ませる。

 

 悩んだ末に出した結論は。

 

「……なら、今度会ってみるよ。シューズメーカーの社長さんに」

「交渉成立! なら、日程はこっちで決めとくね!」

「それはいいけど、今後はトレーニングの協力にしてくれるとありがたいかな。さすがに今回みたいなものは何回ももらえないし」

「う~ん……高村トレーナーがそういうなら」

 

 どこか納得してなさそうなフォーエバーヤングだが、こちらの事情を考えてくれたのか最終的には納得してくれた。さすがに何回もこんなことされたら僕の身がもたない。

 

 

 そんなわけで、アイの本格的なトレーニングとフォーエバーヤングとの関係が始まった。次からは大丈夫だろう、きっと、うん。




実際ミーティアと繋がりが持てるってなったら企業がこぞって集まりそう。世界最強チームだし。
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