本題に入りましょう。気づいたらドロワバクシン天井してました。
凱旋門賞が終わって数日。アメリカへと飛び立つ日がやってきた。
長くお世話になったフランスも、しばらくの間はお別れ。少なくとも、4月以降にならないと帰ってこれないだろう。モンジューやヴェニュスパークともお別れだ。
まぁ、そのせいで。
「『私もアメリカに行きますぅぅぅ!』」
「『ダメだ。レースに出走するわけでもなければ、我がチームから出走するウマ娘がいるわけでもない。アメリカに行く意味がない』」
「『そんなぁ!? い、今から誰か出走してください! そしたら私もアメリカに』」
「『例え今から出走者が出たとしても、その子を高村トレーナーに預けるだけだ。どの道お前はフランスに残ることになる』」
ヴェニュスパークが凄い駄々こねてたけど。最終的には戻ってくると言っているのに、自分も着いていくと言って聞かなかった。モンジューや向こうのトレーナーの呆れ果てた表情が目に入る。
「ほほほ。お留守番は任せましたわよ? 可愛いお姫様」
「……ジェンティル。相手が日本語分からないのをいいことに挑発するような真似は止めてね」
「これは失礼」
最終的に、モンジュー達に説き伏せられたヴェニュスパークを横目に、僕達は飛行機へ乗り込む。また長いフライトの始まりだ。
で、乗っている間何をするかというと。
「それじゃあみんなでキューまるを見るわよ! みんなはどれが見たいかしら?」
「あたしは8作目の映画! 一番好きだもん!」
「フライトの時間を考えれば、結構な本数が見れると思います。私達で厳選しましょう」
「もう確定なんだねぇキューまるを見るのは」
「仕方ないですよタキオンさん。キタちゃんとイクイちゃんが大喜びで選んでますし」
キューまるの上映会だ。キタサンとイクイが嬉々として選び、バクシンオーとドゥラがポップコーンを用意し、ヤン子は微笑まし気に見守っている。タキオンやタルマエ、ジェンティルと一緒に、保護者みたいに見守っていた。
時間を潰せるのなら問題ない。退屈するよりは良いし、何よりキューまるは面白い。みんなのメンタル的にも良い影響を及ぼしてくれるはずだ。凄いな、キューまる。
上映会が始まる前。バクシンオーが僕の隣を陣取りつつ。
「そういえばトレーナーさんッ! 向こうではどなたにお世話になるのでしょうか?」
アメリカで合流予定のチームについて尋ねてきた。短期間とはいえ、お世話になるチームはあるから。というより、僕自身が事前に言ってある。お世話になる予定のチームがあると。
期間はそんなにない。ないんだけど、せっかくアメリカに行くわけだからね。様子を見ておきたい、ってのがある。
「アメリカのウマ娘で、僕がVRウマレーターで指導している子がいるのは覚えてるよね?」
「はいッ! 賢い学級委員長はしっかりと憶えていますともッ!」
「その子のチームにお世話になる予定だよ。アイやイクイ、特にヤン子にとっても良い刺激になる子だから。短い間とはいえね」
かつてのヴェニュスパークのように、VRウマレーターで指導している子がいる。その子もまた才能に溢れている子で、間違いなくみんなにとってプラスに働いてくれるはずだ。
「ダートの頂点を獲れる子だからね。欧州の怪物に比肩するレベルだよ」
「ほうほう、それは楽しみですねッ! 私の委員長魂が燃えてきましたよ~ッ!」
「燃えるものなの? それ」
向こうに着いた時を楽しみにしながら、僕らはキューまるの上映会を楽しんだ。というか、本当に種類が豊富だなキューまる。これを網羅しているアイの情熱はとんでもないって、改めて認識できたよ。
◇
アメリカに着いてすぐ。お世話になる予定のトレーナーがこちらに駆け寄ってきた。
「HEY、ヒジリ! 『久しぶりね~!』」
「『お久しぶりです。変わらず元気なようで何よりです』」
「も~、『相変わらず固いわねあなたは。私とあなたの仲なんだから、もっと気楽にいきましょう?』」
「『すみません。癖になっているもので』」
女性のトレーナーが笑顔で抱き着いてきた。この人は誰にでもこうなので特に気にしていない。前回会った時もそうだったし、挨拶みたいなものと思えば恥ずかしさもない。抱き返しはしないけど。
初めて会うバクシンオー達は驚いていた。初見だと確かに驚くかもしれないね。
「す、すごいスタイル……これが、アメリカン!」
「ジェンティル君みたいなスタイルだねぇ。それに抱き着かれているのに、全くと言っていいほど反応しないねトレーナー君は」
「まぁトレーナーさんってそういう人ですし」
「『あなた達がヒジリが担当している子達ね? みんなとっても可愛いわ~!』」
驚いているみんなをよそに、彼女はみんなに抱き着く。というかタルマエはどういう意味だろうか。
空港にあまり長居はできないので、すぐに移動。道中であの子について聞いてみる。身体があまり強くない子だから心配だ。
「『フライングルートは元気にしていますか? VRを介して交流はしていますけど、現実は分からなくて』」
僕の言葉に対し、返ってきたのはとびっきりの笑顔。嬉しくて仕方がない、といったオーラをこれでもかと出している。うん、杞憂だったみたいだね。
「『も~う、すっごく元気よ! 脚の不安も全く問題なし! 今日もあなた達に会えるのを凄く楽しみにしているんだから!』」
「『それは良かったです。そうだ、新しいトレーニングメニューのことなんですけど』」
「『見せてもらうわ……私と大体同じ感じね。それじゃ、これでやっていきましょうか』」
適当に会話をしていると、あっという間にアメリカのトレセン学園に着いた。バスから降りたみんなは大きな伸びをしている。長距離移動の連続だったから仕方ないだろう。
「それじゃあ、今日はすぐに宿舎に向かおうか。『案内お願いできますか?』」
「『もちろんよ。それじゃあみんな着いてきて! とびっきり豪華なホテルを用意してもらったから!』」
早速ホテルに向かおう、とした矢先のこと。
「──『お久しぶりですね、ヒジリトレーナー』」
「この声は……『フライングルートだね? 久しぶり』」
「『はい、お久しぶりです』」
呼ばれて、声のした方へと向く。そこに立っていたのは、柔らかな微笑みを浮かべている鹿毛のウマ娘。僕が指導している子、フライングルートだ。
「『お会いできて光栄です。短い間ではございますが、直接のご指導、楽しみにしています』」
「『僕にできることはほとんどないけどね。君は凄い子だから』」
「『ご謙遜をなさらないでください。トレーナーと貴方がいなければ、私はデビューすらままならないウマ娘でした。今こうして、脚部不安のなくなった状態で走れるのは、間違いなくトレーナー達のおかげなのですから』」
「『丁度良かったわ。ミーティアのみなさんにあなたのこと紹介するつもりだったの。一緒に来てちょうだい、ルート』」
「『かしこまりました。すでに今日のトレーニングは終えておりますので、問題はありません。私も共に向かいましょう』」
っと、話すのもいいけど、まずはホテルか。どうもフライングルートも着いてくるみたいだし、みんなに軽く紹介しておこう。
「みんな、この子がフライングルート。飛行機でも話してた、僕がVRウマレーターで指導している子だよ」
「『ミーティアの皆様方。フライングルートと申します。皆様方のトレーナーであるヒジリトレーナーには多大なご恩がある身。微力ではありますが、私も皆様にお力添えができるよう、頑張りたいと思います』」
優雅に一礼をするフライングルート。みんなも同じように礼をするけど……うん、気づいたみたいだ。
「『ねぇ、フライングルートさん』」
「『はい、どうされましたか? アーモンドアイさん』」
「『貴方──とても強いのね』」
フライングルートの才能に。全員が見ただけで気づいた。アイやジェンティルみたいな強者大歓迎の子は、それはもう凄く良い笑顔を浮かべている。
当の本人はというと、微笑むだけだ。否定も肯定もしない、ただ悠然とした立ち居振る舞いで、笑顔を浮かべるだけ。
その所作を見て、アイ達はさらに確信した。フライングルートは強いと。
「『やっぱり、あなたの育てる子達は優秀ね。なにもしてないのに、走りすらも見てないのに。ルートの才能に気づいている』」
「『ウマ娘なら、本能で分かるかもしれませんけどね』」
「『違いないわ』」
ま、今フライングルートの才能は関係がない。すぐにホテルへと移動しよう。
案内されたホテルはというと、フランスに負けず劣らず。とんでもなくでかい。
「『ここの最上階があなた達の部屋よ。ミーティアなんだからVIP待遇じゃないとね!』」
「わ~! 凄いねイクイちゃん! ドゥラさん!」
「あぁ。最近では見るようになったから麻痺してきているが、やはり圧倒されるな」
「こ、ここに泊まっても大丈夫なのでしょうか?」
「フランスも同じくらいでしたでしょう? 堂々としていればいいのよ」
ホテルに入り、カギを受け取ってエレベーターへ。すぐさま自分達の部屋に移動してもらう。
その前に。
「今日は長距離移動で疲れただろうし、夕食の時間まで好きに過ごしてね。ゆっくり体を休めて、明日のトレーニングに備えよう」
この後の予定についてしっかりと共有しておく。元気の良い返事を聞いた後、僕も自分の部屋で仕事をする
「トレーナーさんもゆっくり休んでくださいねッ! くれぐれもお仕事などなさらないようにお願いしますッ!」
……どうしてバクシンオーには筒抜けなんだろうなぁ、僕のやろうとしていること。
「当然、私トレーナーさんは深い絆で結ばれていますのでッ! 考えていることを読むなど造作もありませんよッ! なにせ私、学級委員長なのでッ! ハーッハッハッハッ!」
「学級委員長関係あるのかい、それ?」
「特別トレーナーが分かりやすいだけでしょう。こと仕事に関しては」
今さらっと心を読まれた気がするけど多分気のせい。きっと気のせい。後ジェンティル、凄く否定しづらいことをどうもありがとう。実際みんなに筒抜けなんだろうなぁ。
無事にアメリカに着いた僕ら。BCスプリントの調整を頑張るとしよう。
◇
余談だけど、後日のトレーニングでフライングルートと一緒に走ったりした。みんな興味を持っていたみたいだし、フライングルートもミーティアのみんなとトレーニングしたかったらしく、お互いにWin-Winの条件で走ることができた。
当然、デビュー前のフライングルートはなす術もなくやられていたけれど。バクシンオー達は口を揃える。
「いやはや、将来が楽しみな強さですねッ! イクイさんと一緒ですッ!」
「彼女の将来が非常に楽しみだ! 私の実験に、大いに役立ってくれるだろう!」
「果たして彼女がなにを成すのか、楽しみですわね。ほほほ……」
「確かに強いですね。イクイちゃんに通じるものがあります」
「で、でもでも~……! あたしはイクイちゃんの方が強いって思います!」
「今の時点でもあの強さ。確実に頂点に立つだろうな」
フライングルートの強さを称賛していた。イクイの時と同じように。
デビュー前ということで、イクイとヤン子とも一緒にトレーニング。あの3人はすぐに仲良くなった。
「『アタシもさ、こっちのレースにキョーミありありなんだよね~』」
「『まぁ。それはとても喜ばしいことです。ヤングさんのようなお強い方が来てくだされば、アメリカのレースはさらに盛り上がることでしょう』」
「『ダートのコツ、教えていただけないでしょうか? ミーティアのみなさんにはない視点が、あるかもしれませんので』」
微笑ましいね。
だってさ、仕方ないじゃん。私イベントの中ではドロワはTOP3に入るぐらい好きなんですよ。あの衣装のバクシンを前にしたらさ、引くしかないじゃん。2話ぐらい前に撤退とか言ったけど我慢できなかったんだよ。