その瞳に勝利を   作:カニ漁船

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今年のエイプリルフールクソほど笑いました。


女王からの挑戦状

 年の瀬が近い12月の頃。オーストラリアレース界に激震が走った。

 

「ヴェガスクライは来年の4月末に引退する。クイーンエリザベスステークスがラストランになるだろう」

 

 10月末に開催されたコックスプレートを勝利し、史上初の四連覇を成し遂げたウマ娘。39戦33勝の29連勝という記録を叩き出している、まさしく世界最強に相応しい実績を持つ。レースファンは彼女の次走を心待ちにし、何時までも走ってほしいと願っていた。

 ただ、やはり現役引退の話は出てくる。何時かは来ると思っていたが、その日が来ると悲しむのがファン心というもの。寂しい気持ちが湧いてくる。

 

 ヴェガスクライの引退報道は瞬く間に広がった……が、引退の話だけではない。

 

「だが、引退する前に我々には心残りがある。そうだろう? クライ」

「──えぇ。私は世界の頂点に立った……と、思っていた。実際、少し前までは世界一と信じて疑わなかった」

 

 琥珀色の瞳が報道陣のカメラを捉えている。困惑している彼らをよそに、ヴェガスクライは淡々と言葉を紡ぐ。

 

「だけど、イレギュラーが現れた。私に比肩する相手が、欧州に現れた。アーモンドアイ……欧州のウマ娘」

「クライ。彼女は欧州で走っているが日本のウマ娘だ。そう教えただろう?」

「そうだっけ? まぁいい。アーモンドアイの活躍は、私も耳にしている。ティアラ三冠にセントレジャーのジンクスを破った、新たなる女王」

 

 ちょっとした笑いどころもあったが、ヴェガスクライの真面目な雰囲気を前にして、笑う人はおらず。出てくる言葉に期待を抱きながら、一言一句聞き逃すまいと耳を傾ける。

 

 緊張が支配する中、ヴェガスクライはカメラに向かって。

 

「彼女に勝たなければ、私は世界一を名乗れない。そう確信した。だからこそ、私は彼女に宣戦布告をする」

 

 アーモンドアイに、挑戦状を叩きつけた。世界最強の女王と呼ばれるウマ娘が、欧州に誕生した新たなる女王に向かって戦おうと、カメラの前で言葉にしたのである。

 

 当然、会場は凄まじい盛り上がりを見せる。この情報をすぐにでも自局に発信し、ネットに飛ばす準備を整えろと指示をする。先程の緊張した空気が嘘のように、慌ただしい喧騒が支配するようになった。

 

「オーストラリアに来い、アーモンドアイ。私は分かっている……あなたもまた、私と戦いたいと思っていると」

 

 ヴェガスクライは流されない。己の言葉を、己の気持ちを正直に口にする。

 

「私は逃げも隠れもしない。早く戦いたくてうずうずしている。だからこそ、3月のランドウィックレース場──チッピングノートンステークスで待ってる」

「そういうことだ。我らが女王様はただ座して待つのみ。君達挑戦者が挑みに来るのを」

 

 傲慢に、お前らの方から戦いに来いと。女王自らの足で赴くのではなく、挑戦者であるお前らの方から戦いの舞台に来いと。挑発するように口にして、インタビューを締めくくった。

 

 このインタビューは瞬く間に世界中に広がった。ヴェガスクライの口から出てきた言葉、彼女達からの挑戦状を、記者達はありのままに記事にする。

 

【世界最強女王からの挑戦状!戦いの舞台はオーストラリアか!?】

【豪州の女王VS欧州の女王!勝った方が世界の女王へ!】

【どちらの記録が終わるのか?頂上決戦の幕開けは近い!】

 

 多少の誇張表現はいいだろうと、すでに対戦が実現するかのような書き方。どうせミーティアなら挑戦を受けるからいいだろうと、もう決まっているかのような記事を世にお出しした。

 まだミーティア側がどうするか不明、さも対戦が実現するかのような書き方はいかがなものか。そう苦言を呈する人達もいたものの。

 

「当然受けます! 元々戦うためにオーストラリアに来たんですから。当たり前です!」

「……まぁ、そういうことです。元々はクイーンエリザベスステークスの予定でしたが、変更してチッピングノートンステークスに出走しようと思います」

「マイルでも中距離でも関係ありません。勝つのはわたし、アーモンドアイただ一人ですから!」

 

 すぐさま挑戦状を受け取ったインタビューが世に出回ったことで、あっという間に沈黙することになった。なんなら戦おうとしていた事実を知り、もう余計なことは口にすまいと固く心に誓う人がいたのはここだけの話。

 

 

 いろんなことがあったが、年明けから最高の対戦カードが実現することになる。

 

豪州が誇る世界女王・29連勝中の怪物ヴェガスクライ

VS

日本から欧州に渡った欧州女王・無敗の13連勝を誇る新時代の怪物アーモンドアイ

 

 舞台はオーストラリアのランドウィックレース場。芝1600mのマイル戦、チッピングノートンステークス。この日のために有休を取得し、オーストラリアへの旅行を計画するファンが大勢いる。

 それだけ注目されているのだ。オーストラリアのレース機関も、この機を逃すなとばかりに2人の対決を猛プッシュ。様々な会場を押さえて、レース場での観戦が叶わなかった人向けに、別の会場で観戦する場所を用意している。

 2人のグッズも、この時のために多数用意するほど。多大な経済効果が見込めるとして、オーストラリアはさながらお祭りのような雰囲気になっていた。

 

「この対戦カードは見ないと損だ! 人生で最高の日になるに違いない!」

「世界を駆けるミーティアがオーストラリアに来るぞー!」

「ヴェガスクライVSアーモンドアイ。これは見るしかないわ!」

 

 決戦は3月。その日を楽しみにするレースファンだった。

 

 

 

 

 

 

 1月も中頃のこと。アイの調整は万全に進んでいる。

 

「ゔゔゔぅ゙ぅ゙ぅ゙~っ!」

「ほほほ。私の勝ちですわね」

「もう1回、もう1回よ! 今度は負けないんだから!」

「ダメよ。1回という約束でしたわよね? 約束を破るのは、淑女以前に人としてよろしくありませんわ」

 

 ……万全に進んでるように見えないけど、ちゃんと万全だ、うん。

 

 オーストラリアの練習場。ミーティアのメンバーしかいない場所で、アイとジェンティルは模擬レースをやっていた。

 結果はというと、ジェンティルの5バ身差勝ち。まだまだ勝つには相当厳しい段階だね。当然だけども。

 

「それでは、この後は特別指導の時間ですわね? バクシンオーさんがあちらで待っていますわよ」

 

 特別指導、という言葉を聞いて、アイはすぐに飛び上がった。さっきまで膝をついて、地面をガンガン殴りながら悔しがっていたのに、惚れ惚れするような飛び上がりだね。

 

「そうだったわ! こうしちゃいられない、すぐに行かないと!」

 

 行きましょうバクシンオーさん、気合十分ですねアイさんバクシンバクシーン……という言葉を最後に、アイとバクシンオーは去っていった。まぁ、バクシンオーがいるから大丈夫だろう。

 

 さて、当のジェンティルはというと。

 

「大分消耗してるね。君が決めた枷も、破られつつある。もう狙って出すことは出来なくなってきてるんじゃない?」

 

 模擬レースの一部始終を見ていた。その中で、気になったことを指摘した。

 当のジェンティルは……無言で頷く。

 

「やっぱり、分かりますのね。その通りですわ。今までは5バ身差を狙っていましたが……さすがにもう無理ね。偶然にしか出せなくなりました」

「年明け前までは、出来てたよね? それが年明け以降できなくなった」

「たった一ヶ月、その一ヶ月で凄まじい成長速度。元々キツいとは感じてはいました。ですが、こんなにもすぐできなくなるとは」

 

 半年はかからせるつもりでしたのに、と少しばかりの悔しさを吐き出すジェンティル。彼女としても予想外だったのだろう。

 

 ジェンティルはアイとの模擬レースで1つの枷をつけていた。それが現役時代もやっていた、5バ身差を狙って出すというもの。アイにもこのことを伝えた上で、ジェンティルは狙って5バ身差をつけていた。

 年を越す前までは狙って出せていた。キツいと本人は言っているものの、傍目に見ればまだ楽にこなせそうなくらいには狙えていた。

 半年かからせる、という言葉も慢心からの言葉じゃない。アイを侮っておらず、むしろアイの強さを考えてもそれくらいはかかるだろうと予測を立てていた。

 

 なのに、もう追いついた。ジェンティルの予想を上回る速度で、アイは進化を続けている。

 

「恐ろしい成長速度ですわね。こちらの予想を軽く超えてくるなんて」

「事実、ステータスにも表れているからね。彼女のステータスは、僕の予想を超える速度で上がり続けている」

 

 ノートを開き、アイのステータスが書かれたページを広げる。

 

 

アーモンドアイ

 

適性:芝A ダートA

距離:短A マA 中S 長A

脚質:逃げG 先行A 差しA 追い込みD

 

スピード:UB2 1726

スタミナ:UF1 1311

パワー :UE9 1495

根性  :UF2 1329

賢さ  :UF4 1342

 

 

 成長曲線が異常だ。これまでのノウハウに築き上げた土台、特別指導があるとはいえ、進化のスピードが常軌を逸している。なんだこの強さ。

 

(友情トレーニングを連打に加えて、アオハル爆発とかダーレーアラビアンの叡智を重ね掛けしているようなもの。とんでもない伸び方をしてる)

「我ながら、とんでもないことになってるなぁ」

「貴方がやったのでしょう? また記者にいろいろ言われるわね」

「慣れてるから別にいいよ」

 

 最終的にどうなってしまうのやら。いや、僕が担当しているんだけども。

 

 もう狙ったバ身差を引き出せなくなってきているジェンティル。普通の子なら、アイの成長速度にもっと慄くとかするんだろう。

 だけど、彼女の場合は。

 

「えぇ、えぇ。私が全力を出して戦う日もそう遠くないかもしれませんわね? その時が楽しみですわ……うふふ」

 

 むしろ闘争心を刺激されて、全力で叩き潰したいと考えるほど。というか、ミーティア全員がそんな感じだ。強い子大歓迎がポリシーだね、僕のチーム。

 

 現状、ヴェガスクライとも良い勝負ができるほどに成長しているアイ。レースまでにはもっと成長するだろうし、勝ち負けを五分にまで持っていけるだろう。

 

 

ヴェガスクライ

 

適性:芝A ダートG

距離:短A マA 中S 長G

脚質:逃げG 先行A 差しA 追い込みG

 

スピード:UA3 1832

スタミナ:UE5 1451

パワー :UD8 1585

根性  :UF1 1314

賢さ  :UG2 1322

 

 

 まだ不利な状況。だけど、成長速度を考えれば追いつける、そんな差。ここからの成長に期待だ。

 

(ただ、ヴェガスクライに勝つのだとしたら)

「今後はバクシンオーとの特別指導を増やそうかな、うん」

「あら、それが勝ちに繋がる道なのかしら?」

「そういうこと」

 

 勝つために全てを尽くす。それだけだから。

 

 

 ……成長速度と言えば。

 

(もう1人、というか2人。とんでもないんだよなぁ)

 

 視線を練習場の別の場所に向ける。視線の先にいるのは──イクイとヤン子を指導している、タキオン達の姿。

 

「ヤング先輩、ダートの走り方を教えていただければ、と」

「もちオッケーだよ。トレードとして、芝の走り方レクチャーよろ~。てかミーティアの先輩はイクイの方なんだから、ガチガチになるのはナッシングでしょ?」

「で、ですが。学園では先輩なので」

 

 お互いの得意分野を教え合い、自分の糧にしようとしている。距離もバ場も関係ない、自分のためになるものなら、率先して自分から聞きに行く。

 

 それはいい。適性は上がって損はないし、必ず将来の糧になる。

 ただ、学習するスピードがとんでもないというか。こっちもこっちでアイみたいなステータスの上昇しそうというか。

 

(すでに2人とも芝ダート走れそうになっているのは、うん)

「何を見て、ってあぁ。あの2人ですか。あの2人もまた、素晴らしい逸材ですわね」

「……そうだね。フライングルートに触発されてか、2人とも今まで以上にやる気に満ち溢れているし」

「良いことですわね」

 

 いざデビューする時がどうなるのか。どうなっちゃうんだろうな。




どうなっちゃうんだろうね(今のところ書く予定なし)
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