バクシンオーさんの特別指導、ひたすらにバクシンし続けることにも慣れてきたわね。
「まだまだいけますか、アイさんッ! 委員長は当然のようにまだまだいけますよッ!」
「心配は無用よ、バクシンオーさん! アイだって負けてないんだからっ!」
「おぉッ! これは良いバクシン、委員長も張り切りますよ~! バクシンバクシーーンッッ!!」
オーストラリアの街並みを駆け抜ける。日本だと冬だけど、オーストラリアだと夏なのよね。だから結構暑いわ。
(でも、まだまだいける! わたしはまだ走れる!)
「ペースアップしましょう、バクシンオーさん! バクシーーン!」
「アイさんのやる気が伝わってきますッ! 応援の意味を込めてバクシーーンッ!」
けど、わたし達には関係ない。走るのには支障ない気温だもの、手を緩める理由なんてないわ。
レースだって控えている。新しい強敵、世界最強女王のヴェガスクライさんとの勝負……凄くウズウズするわ。戦うその時が楽しみで仕方ないもの。
まぁ、気合いを入れすぎたせいか。
「ではアイさん、ここでいったん休憩を入れましょうッ! 適切な休憩ができるのも立派な委員長の証、休むことも大事です」
「わ、分かったわ」
「アイさんもお疲れの様子ですからね。少し休憩して、戻ってきた道をバクシンしましょうッ!」
バクシンオーさんに遠回しに気を遣われちゃったけど。わたしが張り切りすぎているのが分かって、ちょっと走ったところで休憩を入れられちゃったわ。
普段の言動からは想像もつかないんだけど、バクシンオーさんってかなりIQが高いのよね。それに、気配り上手でもある。
(わたし達のことをよく見ている、というか。しっかり注意しているのが分かるわ)
走りながらでも分かっているのか、ペースが乱れたらそれとなく指摘してくれる。今の休憩だってそう。わたしのペースが乱れて、体力を無駄に消耗しようとしていたから、バクシンオーさんは休憩することを提案した。
前までのわたしだったら、それよりももっと走りましょう、って言ってたかもしれない。
(でも、バクシンオーさんのタイミングが間違ってたことないのよね。不思議だわ)
「やや? どうされましたか、アイさん。私の顔をジッと見て」
「う~ん……バクシンオーさんってやっぱり凄いなって、改めて思ってたところよ」
「ちょわぁっ!? き、急に褒めても何も出ませんよ! ですが、ありがとうございますッ! これからも理想的な学級委員長として精進しますよ~ッ! バクシンバクシーーンッ!」
改めて感じる、バクシンオーさんの凄さ。ミーティア最強は伊達ではない、ということね。でも、その最強の座はいつかアイが戴くわ!
っと、その前にやらなきゃいけないことがたくさんね。ヴェガスクライさんにもしっかり勝たないと。先を見据えすぎて、次の対戦を疎かにするのはいけないわ。
今のわたしはステータスで劣っている。これはトレーナーが教えてくれたこと。トレーナーが見たヴェガスクライさんのステータスとわたしのステータス、劣っているのは当然ながらわたしの方。
(こればっかりは仕方ないわ。向こうの方が長く走っているんだもの)
むしろ勝負になるだけでも凄い方、ってトレーナーは言ってたわね。ま、勝負になるだけじゃ満足できないんだけど。
わたしはステータスの面で劣っている。その差を埋めるために、トレーナーはいろいろと手を尽くしてくれている……と、思うのだけど。
(最近の特別指導はバクシンオーさんばかり。タルマエさんとかジェンティルさんの機会はめっきりと減った)
トレーナーは特にメニュー内容を変えたりしなかった。変えたのは、特別指導の相手をバクシンオーさん中心にするようになったことぐらい、かしら。
どうしてバクシンオーさんばかりにしたのか。その理由についてトレーナーは語らなかった。
(でも、なんとなく分かるわ。バクシンオーさんの指導はひたすらにバクシンすること……これが、勝利に繋がる鍵になっている)
何がどう繋がるのかは分からない。けれど、トレーナーが理由もなく変えるはずがない。バクシンオーさんの指導が、わたしの勝利に繋がるはずよ。
じゃあ、実際どんな風に繋がるのかしら? バクシンオーさんの指導はバクシンすること、なんだけど……。
「どうされましたか? アイさん。今度は悩んでいるご様子ですが」
「……いや、トレーナーがどうしてバクシンオーさんの特別指導を増やしたのか、ちょっと気になったのよ。なんの意味もなく変えるはずがないもの」
考えても答えは出ない。なにか理由があるはずなんだけど、とても負けた気分になるわ! 勝ち負けとかじゃないんだけど、でも負けた気分になる!
悩んでいるわたしの耳に、バクシンオーさんの笑い声が聞こえてきた。
「ハーッハッハッハ! なんだ、そんなことでしたかッ!」
そんなこと、ということは。バクシンオーさんには分かるってこと!?
な、なんてこと。バクシンオーさんには分かるなんて……これは明確に負けだわ! わたしが、アイが負けるなんて!
「トレーナーさんがメニューを変えたのですから、意味は必ずありますッ!」
「えぇ。それは分かるわ。バクシンオーさんにはその意味が分かるのかしら?」
「勿論分かりますともッ! 意味があるということがッ!」
「……その内容は?」
バクシンオーさんは高笑いをするだけだった。おっと、これは分かっていない可能性があるわね? アイは負けてないってことね!
それにしても、一体なんでなのかしら? なんでトレーナーは、バクシンオーさんとの特別指導を増やしたのかしら。
疑問が尽きないわたしに、笑うのを止めたバクシンオーさんの声が届く。
「ですが、なんとなく想像はつきますッ! アイさんッ! レースの極限状態において、最も重要なものとはなにか分かりますかッ!」
「極限状態って、スタミナとかなにもない状態のこと? だったら……勝負根性じゃないかしら?」
「はいッ! それもまた大事なことですねッ! スタミナが底を尽きそうになっても、バクシンし続ける心はとても大事ですからッ!」
笑みを浮かべるバクシンオーさんがわたしに問いかけてきたのは、何も残ってない場面で何が大事なのか。スタミナも尽きて、頭を使う気力も残っていない時、レースの極限状態で何が大事なのか。
最後に残るものと言えば根性ね。絶対に負けてやらないという根性が大事……っ!
(そっか、そういうことね、そういうことなのね、トレーナー!)
根性、と聞いてようやく気付けた。どうしてトレーナーがバクシンオーさんの特別指導を増やしたのか、その理由を!
「……ふふ」
「答えは出たみたいですね、アイさん」
わたしの様子を感じ取って、満足そうに笑うバクシンオーさん。えぇ、答えは見つかったわ。
「こうしちゃいられないわ! 早速バクシンするわよ! バクシンバクシーーンっ!」
「ちょわっ!? 委員長の先を行くとはやりますねッ! しかーし! ここで負けないのが模範的な学級委員長ッ! 負けずにバクシンバクシーーンッッ!!」
答えが見つかったから、もっとバクシンしていくわよ! 勝負に勝つためにバクシンバクシーン!
でも。
「さすがに限度は弁えてね。レースに疲れを残すつもり?」
「ハァ……ハァ……ご、ごめん、なさい……っ」
「ば、ばくし~ん……」
「まだレースまで日はあるけど、アイの場合直前でも同じことしそうだからね。今の内にしっかり反省して。それじゃあ、シャワー室まで運んであげるから、しっかりとシャワーを浴びること。いい?」
「は、は~い……」
引き際はしっかりと見極めないといけないわね、うん。トレーナーを怒らせるのは嫌だし、レースが近いもの。疲れを残して、本番に影響が出ましたなんて最悪だわ。悔いしか残らない。
「明日のトレーニングは少し強度を下げようか。今日無理した分、明日で帳尻を合わせよう。体力的には大丈夫かもしれないけど、今後のことを考えて」
「……ふぅ。分かったわ。さすがに今回の件に関してはなにも言えない。トレーナーの言う通り、明日は強度を下げましょう」
「分かってくれたようでなによりだよ」
万全の態勢を整える必要がある。万全じゃないと、ヴェガスクライさんには勝てないから。そのためには、この場はトレーナーの言う通りにした方がいい。わたしは、トレーナーの判断を信じているもの。
なんにせよ、まずはシャワーね。早く体を冷やさないと
「それじゃあ失礼するよ、アイ」
「ひゃあっ!? とと、トレーナー、こ、これって……」
なんて思っていたら、急にトレーナーがわたしを抱きかかえてきて。そそ、それにこれって……お、お姫様抱っこというやつじゃないかしら!? 漫画でしか見たことないのに!
さすがに恥ずかしい。顔から火が出そうだわっ!
「と、とれーなー、さすがに」
「申し訳ないけど我慢して。できる限り人目につかないようにするから」
「い、いえ、そうじゃなくて」
結局トレーナーに聞き入れてもらえることはなく。お姫様抱っこでシャワー室まで連行された。その後はドゥラさんと一緒に浴びていたのだけど。
「アイ、どうも集中していないようだが。それほど疲労が溜まっているのか?」
「うえっ!? そそそ、そんなことないわ! わたしは元気いっぱいよ!」
「そうか。ならいいが」
あんまり集中できなかったわね。冷たいシャワーを浴びても全くと言ってほど熱が冷めなかったし。あぁいうことされたのって初めてだから、なんとなく恥ずかしいわっ。
と、とにかく! 明日もまた頑張るわよ!
バクシンはいいぞ!