その瞳に勝利を   作:カニ漁船

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もう第二の古郷感ある。


またまた欧州へ

 激闘だったチッピングノートンステークスから数日後。飛行機に乗って欧州へ戻ることに。またヴェニュスパーク達のところでお世話になる予定だ。

 

「うぅ……ドバイ……ドバイ……」

「あ、諦めようよアイちゃん。またトレーナーさんにこっぴどく叱られるよ?」

「うっ、そ、それは嫌ね」

「滅多に怒らない、というか怒ることがないトレーナー君が、ねぇ。よっぽど腹に据えかねたのだろう」

 

 フランスに到着した後も、名残惜しそうにドバイのレースを口にしている。残念だけど出走させるつもりは微塵もない。今回に関しては無茶だから。

 

(チッピングノートンステークスで消耗が激しいのに、ドバイのレースはね。飛行機の時間はともかくとして、調整の時間が満足に取れないはずだから)

「諦めてね、アイ。いくらなんでもドバイのレースはダメだよ」

「わ、分かってるわよぅ」

 

 しょんぼりしているアイ。僕が悪いことしたわけじゃないんだけど、罪悪感のようなものが湧いてくる。

 

(でも、ここで甘やかしてもなぁ。結果的にダメになるかもだし、ここは心を鬼にしないと)

 

 しかし、しかしだ。ちょっとは代わりになるものを用意するのがいいんじゃないだろうか? アイのやる気やモチベーションを上げるためにも、代替案を出すのが筋というものじゃないか?

 うん、そうしよう。これは甘やかしとかじゃない。アイのやる気を絶好調に維持するためのものだ。

 

「だけどアイ。代わりにミーティアのみんなでレース」

「本当かしらトレーナー!?」

 

 代替案として、ミーティアのみんなで模擬レースをしよう、と提案する前にアイに遮られた。一瞬の間にアイの顔がドアップで映る。近いね君。

 興奮気味に詰め寄ってくるアイの顔を手で押さえつつ、嘘ではないことを教える。

 

「本当だよ。さすがに今日明日の話じゃないけど、次のレースを走る前にみんなで模擬レースをしようか」

「えぇ、えぇ! 楽しみに待っているわトレーナー! それじゃあみんな、張り切っていくわよ!」

「あっという間に復活したね。アイ君らしいと言えばらしいが」

 

 嘘じゃないことが分かったアイは、すぐに元気を取り戻した。さっきまで一番後ろをとぼとぼ歩いていたのに、気づいたらみんなの先頭に立っているぐらいにはウキウキしている。何とも早いことだ。

 

 アイに提案した、ミーティアメンバー全員との模擬レース。全員が一緒の距離を走って、1着を競い合うことになるだろう。ここで問題となるのは、他メンバーの反応だ。

 今考えついたことだし、他メンバーの了承を取らなくてもいいのか? なんて疑問が当然出てくる。なんせ、アイの機嫌のためにほぼ無許可で決定したわけだからね。普通だったら非難の2つや3つぐらいは飛んでくるだろう。

 

 だけど、みんなは。

 

「ほうほう、今のアイさんとの勝負ですか。それは楽しみですねッッ!」

 

 超やる気満々のバクシンオーを筆頭に。

 

「アイ君の成長スピードは我々の想像をはるかに超えている。ここいらで1つ、自分の力で実験するのもいいだろう! いやはや、なかなかどうして楽しみだ!」

 

 こちらもやる気に溢れているタキオン。

 

「すでに私の5バ身差をできなくさせるほどの強さ……楽しみですわね? 精々、抗ってくださいな」

 

 周りの空気が歪んでいるように見えるジェンティル。

 

「まずはアイさんのデータから洗い出しましょうか。他のメンバーもいますし、今夜は忙しくなりそうです」

 

 すでに準備を整えようとしているタルマエ。

 

「アイちゃんだけじゃなくて、バクシンオーさん達とも併走……! とってもワッショイですね!」

 

 ワッショイは分からないけどこれまたやる気十分なキタサン。

 

「……勝つ!」

 

 すでに勝つためのイメージを膨らませていそうなドゥラ。十人十色の反応を見せているけど、全員がやる気に満ち溢れていると言っても過言じゃない。つまるところ、急遽決めたとしてもなんの問題もないわけだ。

 ちなみにイクイとヤン子は見学。当たり前だけどデビュー前だからね。さすがに一緒に走らせるわけにはいかない。

 

「うわ~、ウチのチームってメンバーオールでワールドクラスっしょ? 見学OKにしたらお金取れそ~」

「大変貴重な学びの機会です。余すことなく観察しましょう、ヤングさん」

「トーゼンっしょ。メンバー全員のガチ目なレース見るオポチュニティはほとんどないし」

 

 距離に関しては……長距離でいいだろう。アイは今後長距離路線を見据えて走るつもりだし。プライベートベーリングを相手に据えているから、ステイヤーズミリオンの挑戦は当然だ。

 

(場所はいつものトレーニング場所でいいね。断られたらその時だ)

 

 ホテルに向かいながら計画を立てる。今ここで、ミーティアメンバーによる模擬レースが決定した。何気に全員での模擬レースは初かもしれないね、うん。

 

 

 

 

 

 

 トレーナーの発案で決まった、メンバー全員での模擬レース。距離は長距離で、トレーニング場の芝コースを利用してやっているわ。

 

 やっている、のだけれどっ!

 

(やっぱり強いわね、バクシンオーさん達は! 本当に、自分がまだまだだって思い知らされる!)

 

 相手が相手だけに一筋縄じゃいかない。全員がとんでもないプレッシャーを放ちながら走っている。ヴェガスクライさんやコンストリブルさん以上の圧、思わず屈してしまいそうな圧ね。メンタルを鍛えていなかったら危なかったわ。

 

 先頭を走っているのはバクシンオーさんとキタさん。2人がペースメーカーとして走っている。

 

「バクシンバクシンバクシーーーンッッ! 模範的な委員長のペースは乱れませんよーッ!」

「ワッショイワッショーーーイッ! お祭り娘の祭りの始まりですよーッ!」

 

 ペースはあまりにも絶妙。競り合っているように見えてるけど、お互いに牽制し合っている。スタミナ切れなんて期待する方が無駄な走り。絶対に落ちることはないって断言できる。

 そもそも、キタさんはステイヤー。ミーティアのメンバーで誰よりもスタミナ豊富でタフな彼女が落ちるなんて、絶対にありえない!

 

(逃げの2人だけじゃないわ。私より前の位置で勝負する3人……こっちも気が抜けない)

 

 ジェンティルさんにタキオンさん、タルマエさん。特にタルマエさんは、キタさんを徹底的にマークしている。絶妙な位置取りで、キタさんの集中力を乱せる最良の位置をキープ。スタミナを削ろうとしているわ。

 タキオンさんはしきりに首を振って周りの状況を俯瞰。その時その時で適切な位置を取って、いつでも抜け出せるように警戒している。一瞬でも気を抜いたら終わりね、アレは。

 ジェンティルさんはただ走っているだけ。なんのアクションも起こしていないのが却って不気味ね。何か考えているんでしょうけど……今は警戒する必要はないかしら。

 

 私は中団、差しの位置。そして、わたしよりも後ろで走っているのがドゥラさん。

 

「……」

 

 虎視眈々と、息を潜めて機会を窺っている。最後の最後に全てを捲るために、餌に飛びつかないでグッと堪えている。

 わたしもできる限りのことはやっているわ。タルマエさんみたいに攪乱しようとしたり、進路妨害を取られない位置取りで狭めたり。手を尽くしてドゥラさんの集中力を削ろうとしている。

 

(全く無意味、ってわけじゃないんでしょうけど……それでも効いてないわね。だとすれば!)

「自分の走りに集中するわ! 勝つのはこのアーモンドアイよ!」

 

 削れないと悟ったわたしは、すぐさま先行集団につけようとペースを上げる。

 

 その時だった。

 

「吠えますわねぇ、アイさん。随分な大言壮語を口にしているようで」

「ぐっ!?」

 

 ジェンティルさんが、わたしの隣を陣取ってきた。挑発するような表情で、わたしを睨みつけてっ。

 

「証明しなさい──貴方のそれが、蛮勇ではないことをッッ!!」

 

 凄まじい踏み込み。轟音を響かせて、のけ反ってしまいそうになる風圧を感じた。

 当然、実際に受けたわけじゃない。所詮はわたしの幻覚に過ぎないわ。

 

 けれどっ。

 

(そう感じるほどの威圧感! このパワーこそが、貴婦人と呼ばれたジェンティルさんの走り!)

 

 再認識したわ。ジェンティルさんはとっても強いウマ娘だって。わたしが挑むべき目標は、とてもとても高いところにいるって。

 

 ジェンティルさんだけじゃない。他のみんなだってそう。

 

「さぁさぁ、そろそろキツくなってくる頃合のラストスパートッ! ですが委員長は負けませんッ! 模範的な学級委員長はペースも模範的、長距離すらも走り切れますッッ!」

 

 揺らがないメンタルを持つバクシンオーさん。

 

「ここからがお祭り娘の本領発揮ッ! さぁさぁ、皆々様ご照覧あれ!」

 

 豊富なスタミナでこっちをすり潰してくるキタさん。

 

「どれほど威勢が良くても、少しずつペースは落ちていますよ? このままなら、私が差し切るかもしれませんね」

 

 緻密な計算で作戦を立てるタルマエさん。

 

「それは君も同じじゃないかな? もっとも、私は違うが、ねっ!!」

 

 瞬間移動したかのようなスピードを誇るタキオンさん。

 

「舞台は整った。後は……私が勝利するだけだッ!」

 

 凄まじい切れ味を誇る末脚でワープしてくるドゥラさん。

 

 全員が全員、自分の得意な武器で攻め立てる。模擬レースなのに、本番さながらの気迫で勝利を目指している。みんながオンリーワンの武器を磨いて、世界最強へと押し上げるだけの武器に仕上げている。

 そこにあるのは自信。得意分野なら誰にも負けないっていう、絶対に揺らぐことのない自信。だからこそ、ミーティアのみんなは強い。

 

(本当に)

 

 本当に、本当に!

 

(最高の環境ね! このチームだからこそ、わたしはずっと高みを目指して進むことができる!)

「蛮勇じゃないわ、ジェンティルさん。だって」

 

 倒し甲斐がある人達だわ!

 

「勝つのはアイ! アーモンドアイだもの!」

「ッ! えぇ、えぇ! それでこそですわ! さぁ、抗ってごらんなさいな!」

「そちらに意識を割いてていいんですか? 私は容赦なく攻め立てますけど」

「やってみなさい。私が全て粉砕して差し上げましょうッッ!!」

 

 正直な話、わたしが勝つにはまだまだ足りないわ。この人達には全然及んでない、目標までまだあまりにも遠い。

 でも、それが諦める理由になるのかしら? 実力が足りないからって、勝つことを目指さない理由になる?

 

(いいえ、ならないわ! 勝つまで挑めばいいんだもの!)

 

 自分の実力が足りないと理解しても、わたしは挑むわ! だって、勝てる可能性は僅かでもあるんだもの! なら、その可能性に全てを賭けるのが当たり前でしょう!

 

「勝つのはアイよ!」

 

 残り200m。わたしが最初に領域を切った。

 

 後方から上がってくるドゥラさんの末脚なんて関係ない。タキオンさんの領域とか関係ない。

 タルマエさんの策なんて考える必要はない。ジェンティルさんの圧なんて気にする必要はない。

 バクシンオーさんのバクシンにも臆さない。キタさんにすり潰されたスタミナなんて考えない。

 

 全てはそう、勝つために!

 

「やぁぁぁあああ!!」

 

 全ての力を、出し切る!!

 

 

 で、肝心のレース結果はというと。

 

「……勝ったのはキタサンだね。おめでとう」

「わ、わっしょ~……い……」

「ゔゔゔぅ゙ぅ゙ぅ゙~……っ!」

 

 ボロ負けよボロ負け! 最下位に沈んだわよ! また負けたわ……!

 

「ま、さすがに気合だけでどうにかなるほど甘くはないということだ。我々もね」

「とはいえ、結構ギリギリでしたけどね……まだ見積もりが甘かったみたいですね。次はもっと攻めますか」

「あらあら、魔王様はお怖いこと」

「負けた……っ!」

 

 悔しいから再戦、したいけど。さすがに止めておきましょう。またトレーナーを怒らせるのは嫌だわ。

 

 それにしても、わたしの現在地点が確認できたわね。

 

(まだまだ足りないわ! もっともっと頑張らないと!)

「こうしちゃいられないわ! さっそくトレーニングをするわよ!」

「模擬レースの後だから軽めにね」

 

 トレーナーから一応の警告を貰って、さっそくトレーニング! 今以上に強くなるわよー!

 

「今の時点で、1着のキタサンに6バ身差……将来が恐ろしいですね」

「我々も団子状態だったとはいえ、だ。団子状態に持ち込む時点で大概おかしいねぇ」

「ハーッハッハッハ! 将来が楽しみで何よりですッ!」

「アイちゃん頑張ってー!」

 

 後ろからなにか言われてたみたいだけど、まぁ気にしなくていいわね!




なんだこいつ(恐怖)
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